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14.甘味
相変わらずシマのデートは甘く完璧で、誰もが想像する理想の彼氏っぷりである。
今日は既にストーカー女性の視線はなく、見せつける必要は皆無だというのに、自然な流れで恋人同士のような触れ合いを混ぜ込んだ、おもてなしデートには隙がない。
支払の全てを智明がしているという状況だけが、唯一我に返ることの出来る瞬間である。
ともすれば、シマがスマートに支払いまで終わらせてしまいそうになっているのを止めるのに必死だった。
二人の間には金銭が発生しているという事実を確認しながら進めなければ、あっという間に勘違いしてしまう。
「トモさん、本当に甘い物好きですよね」
「甘いモンは裏切らない」
「辛いものに裏切られた事でもあるんですか?」
前回のデートで、悩みに悩んだ末に食べきれないからと諦めた、気になっていた別種のドーナツを頬張ってご満悦な智明をニコニコと眺めながら、シマが絶妙なタイミングでアイスコーヒーを差し出してくれる。
もぐもぐと咀嚼しながら「ありがと」と受け取って、口内に流し込みながら答えると、シマが可笑しそうに笑った。
「裏切られた事はないけど、甘いだろうと思って食べたらしょっぱくて、絶望した事はある」
「あるんだ!」
シマが「裏切られてるじゃないですか」と隣で大爆笑する中、智明はふとバイト先を思い出していた。
まだ休暇を貰って一週間ちょっとではあるが、あの甘くて幸せな空間と、店長の作ったケーキが恋しい。
こうやって甘い物を口にしていると、特にそう思う。
このまま作戦が上手くいって、ストーカー行為が落ちついてくれたら良いが、まだまだ見通しは立ちそうにない。
クリスマスシーズンの繁忙期までには復帰したいところだが、一週間でもう食べたくなっているというのに、智明の我慢がそこまで持つだろうか。
「……店長のケーキ、食べたいな」
「店長って?」
思わず声に出てしまった呟きを拾ったシマが、興味深そうに首を傾げた。
(そういえば、まだバイト先の事は話してなかったっけ)
シマを、かなり深いところまで巻き込んでしまっているので、今更隠すこともないだろう。
それに、話してしまった方が、気も紛れる。
「俺、ちっちゃなケーキ屋でバイトしてるんだけど……例のあの人の件で、今ちょっと休み貰ってて」
「あぁ、なるほど」
事情を察したシマが、智明より悲しそうな顔をするから、「あぁ、好きな場所を取られて辛かったんだ」と、自分の気持ちを冷静に把握できた。
だが、シマを沈ませるつもりで言葉にしたわけではなかったから、大丈夫だと笑ってみせる。
空元気でも笑えたのは、きっとシマが智明の気持ちに寄り添ってくれたからだ。
「俺、元々は常連客だったくらいそこのケーキが好きだから、結構寂しくてさ。店長のケーキ、中毒性あるんだよなぁ」
「へぇ、そんなに? 勉強がてら、俺も食べてみたいです」
「勉強……?」
「俺、今年から製菓の専門学校に通ってるんですよ。トモさんのバイト先、凄く興味あります」
その言葉でシマが智明より二つ年下であり、和志と同い年だという事が判明したのだが、それよりも今までの行動への納得感が大きくて、この時はその事実に気付かなかった。
女の子の好きそうな場所というか定番デートスポットは、「レンタル彼氏」として共有されているのかもしれないが、それにしてもシマから提案されるカフェの候補が、いつも豊富すぎるという状況への合点がいった気がする。
「だから、色んなカフェとかこういうキッチンカーとか、詳しいのか」
「この仕事やってるのも、人の話を聞くのが好きっていうのも勿論ありますけど……何より色んな場所の色んな店に行ける機会が多いんで、趣味と実益を兼ねられるからなんですよ」
「あー、納得」
「いつかトモさんのバイト先にも、行ってみたいなぁ」
「うん。店長のケーキ最高だから、シマにも食べてみて欲しい」
「デートで、行くんですからね」
勉強だと言いながら、スマートにデートに誘ってにっこりと笑うシマは、プロ彼氏の鏡である。
まんまと、その言葉に喜んでしまっている自分がいて、一緒に居る時間が長くなればなるほど、シマの完璧さに感心しきりだ。
男女問わず好かれる、白いコックコートを纏ったシマの姿が目に浮かぶようだった。
「きっとシマは、人気のイケメンパティシエになるんだろうなぁ」
「そんなに褒めても、まだひよっこですから、良い物は出せませんよ?」
そう言いながら、シマは一口サイズに包まれたマドレーヌを鞄から取り出し、ぽんと智明の手に乗せた。
一瞬何か起こったのかわからない程の自然さで、思わず受け取ってしまったが、まるで用意されていたかのようにお菓子が出現して、ガバリと顔を上げる。
今日は既にストーカー女性の視線はなく、見せつける必要は皆無だというのに、自然な流れで恋人同士のような触れ合いを混ぜ込んだ、おもてなしデートには隙がない。
支払の全てを智明がしているという状況だけが、唯一我に返ることの出来る瞬間である。
ともすれば、シマがスマートに支払いまで終わらせてしまいそうになっているのを止めるのに必死だった。
二人の間には金銭が発生しているという事実を確認しながら進めなければ、あっという間に勘違いしてしまう。
「トモさん、本当に甘い物好きですよね」
「甘いモンは裏切らない」
「辛いものに裏切られた事でもあるんですか?」
前回のデートで、悩みに悩んだ末に食べきれないからと諦めた、気になっていた別種のドーナツを頬張ってご満悦な智明をニコニコと眺めながら、シマが絶妙なタイミングでアイスコーヒーを差し出してくれる。
もぐもぐと咀嚼しながら「ありがと」と受け取って、口内に流し込みながら答えると、シマが可笑しそうに笑った。
「裏切られた事はないけど、甘いだろうと思って食べたらしょっぱくて、絶望した事はある」
「あるんだ!」
シマが「裏切られてるじゃないですか」と隣で大爆笑する中、智明はふとバイト先を思い出していた。
まだ休暇を貰って一週間ちょっとではあるが、あの甘くて幸せな空間と、店長の作ったケーキが恋しい。
こうやって甘い物を口にしていると、特にそう思う。
このまま作戦が上手くいって、ストーカー行為が落ちついてくれたら良いが、まだまだ見通しは立ちそうにない。
クリスマスシーズンの繁忙期までには復帰したいところだが、一週間でもう食べたくなっているというのに、智明の我慢がそこまで持つだろうか。
「……店長のケーキ、食べたいな」
「店長って?」
思わず声に出てしまった呟きを拾ったシマが、興味深そうに首を傾げた。
(そういえば、まだバイト先の事は話してなかったっけ)
シマを、かなり深いところまで巻き込んでしまっているので、今更隠すこともないだろう。
それに、話してしまった方が、気も紛れる。
「俺、ちっちゃなケーキ屋でバイトしてるんだけど……例のあの人の件で、今ちょっと休み貰ってて」
「あぁ、なるほど」
事情を察したシマが、智明より悲しそうな顔をするから、「あぁ、好きな場所を取られて辛かったんだ」と、自分の気持ちを冷静に把握できた。
だが、シマを沈ませるつもりで言葉にしたわけではなかったから、大丈夫だと笑ってみせる。
空元気でも笑えたのは、きっとシマが智明の気持ちに寄り添ってくれたからだ。
「俺、元々は常連客だったくらいそこのケーキが好きだから、結構寂しくてさ。店長のケーキ、中毒性あるんだよなぁ」
「へぇ、そんなに? 勉強がてら、俺も食べてみたいです」
「勉強……?」
「俺、今年から製菓の専門学校に通ってるんですよ。トモさんのバイト先、凄く興味あります」
その言葉でシマが智明より二つ年下であり、和志と同い年だという事が判明したのだが、それよりも今までの行動への納得感が大きくて、この時はその事実に気付かなかった。
女の子の好きそうな場所というか定番デートスポットは、「レンタル彼氏」として共有されているのかもしれないが、それにしてもシマから提案されるカフェの候補が、いつも豊富すぎるという状況への合点がいった気がする。
「だから、色んなカフェとかこういうキッチンカーとか、詳しいのか」
「この仕事やってるのも、人の話を聞くのが好きっていうのも勿論ありますけど……何より色んな場所の色んな店に行ける機会が多いんで、趣味と実益を兼ねられるからなんですよ」
「あー、納得」
「いつかトモさんのバイト先にも、行ってみたいなぁ」
「うん。店長のケーキ最高だから、シマにも食べてみて欲しい」
「デートで、行くんですからね」
勉強だと言いながら、スマートにデートに誘ってにっこりと笑うシマは、プロ彼氏の鏡である。
まんまと、その言葉に喜んでしまっている自分がいて、一緒に居る時間が長くなればなるほど、シマの完璧さに感心しきりだ。
男女問わず好かれる、白いコックコートを纏ったシマの姿が目に浮かぶようだった。
「きっとシマは、人気のイケメンパティシエになるんだろうなぁ」
「そんなに褒めても、まだひよっこですから、良い物は出せませんよ?」
そう言いながら、シマは一口サイズに包まれたマドレーヌを鞄から取り出し、ぽんと智明の手に乗せた。
一瞬何か起こったのかわからない程の自然さで、思わず受け取ってしまったが、まるで用意されていたかのようにお菓子が出現して、ガバリと顔を上げる。
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