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23.説得
「怪我は、ない?」
「はい」
「もうこれ以上は、止めて欲しい。好きになってあげられなくて、ごめん」
「どうしても……わたしじゃ、ダメですか?」
「うん。君が思ってくれているのと同じように、俺にも大好きな人がいるんだ」
ストーカー女性の目を真っ直ぐに見て、自分の気持ちをハッキリと言葉にする。
今まで好きだとアピールしてくれる人達に対して、有耶無耶な態度を取っていた智明にも、きっと今回の事態を招いた一端はある。
最初からハッキリと「無理だ」と告げていれば、女性がここまで思い詰める前に、何か解決方法はあったかもしれない。
今までずっと、圧が強めの女性にばかり好かれ続けていたから、女性に対する苦手意識は確かにあった。
だが、ケーキ屋の客だからなどと理由を付けて、強く出られなかったからというのは、単なる言い訳に過ぎない。
関わり合いになるのを避けようとし続けた結果が、今日の事態だ。
ストーカーにまで発展するほど思い込みの強い女性に、言葉だけで諦めて貰えたかはわからない。
けれど、最初から「ずっと好きな人がいる」と言葉を尽くして、何度でもハッキリきっぱりと断っていれば良かった。
「ずっと見てたから、わかってた……でも、わたし……」
「二度とトモさんの前に、姿を現すな!」
シマが背後から智明を抱き込み、追いすがろうとする女性の手を振り払って威嚇する。
ストーカー女性は再びビクリと身体を震わせて、何度目かの「ごめんなさい」を口にして、そのままふらふらと立ち去っていく。
その後ろ姿はすっかり意気消沈していて、反省も色濃く見えた。
恐らくもう、彼女がこれ以上ストーカー行為を繰り返すことはないだろう。
再び握られることがなくて良かったとホッとしながら、地面に落ちたままになっている自身の血がこびりついたナイフを拾う。
(誰にも見られない内に、回収出来て良かった。証拠がなければ、事件になることはない……よな)
ほっと息をついた智明を、シマが後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめる。
何とか智明が庇うことが出来たので良かったが、真っ直ぐに敵意を向けられるという、恐ろしい目にあったのはシマである。
そっと抱きしめてくれている手に、自身の手を添えた。
「心配かけて、ごめん」
「なんで、俺を庇ったりしたんですか!」
「シマはナイフにまでは気付いてなかっただろ? もうちょっと、上手く避けられたら格好良かったんだけど」
「そういう問題じゃありません!」
「大丈夫大丈夫。びっくりしたよなぁ」
項垂れるシマの頭をぽんぽんと宥めるように撫でて笑うと、頭上から大きく長いため息が漏れる。
それは、安心と呆れが入り交じったシマの心情を、如実に表していた。
「……すみません。俺が、煽ってみようなんて思わなければ」
「今のままじゃ埒が明かなかったし、あの様子じゃもうストーカー行為はしないだろうから、結果的に良かったんだって」
「よくありません。トモさんに、怪我させてしまうなんて……早く病院に行きましょう」
「見た目ほど深くなさそうだから平気、かすり傷だよ」
「そんなわけないでしょう。こんなに血が出てるのに……」
「最初にちょっと勢いよく出ただけだって。今はもうほら、止まり始めてるから」
「トモさん?」
名前を呼ぶ低いシマの声から、「何を隠しているんだ」と責められているのがわかって、白旗をあげる。
シマが本気で心配してくれているのがわかるからこそ、誤魔化すことは出来なかった。
また怒られてしまうかもしれないが、自分の正直な気持ちを伝えるべきだろう。
「……おおごとに、したくないんだよ」
「あの女を、庇うんですか?」
「そうじゃない。でも、何もなかったことに出来るなら、それが良い」
「優しすぎますよ」
「俺が、そうしたいだけ」
「わかりました。でも、手当はさせて下さい」
「うん、頼む。家、すぐそこだから……寄っていってくれる?」
「もちろんです」
そうして智明はシマを伴い、今度こそ帰路についたのだった。
「はい」
「もうこれ以上は、止めて欲しい。好きになってあげられなくて、ごめん」
「どうしても……わたしじゃ、ダメですか?」
「うん。君が思ってくれているのと同じように、俺にも大好きな人がいるんだ」
ストーカー女性の目を真っ直ぐに見て、自分の気持ちをハッキリと言葉にする。
今まで好きだとアピールしてくれる人達に対して、有耶無耶な態度を取っていた智明にも、きっと今回の事態を招いた一端はある。
最初からハッキリと「無理だ」と告げていれば、女性がここまで思い詰める前に、何か解決方法はあったかもしれない。
今までずっと、圧が強めの女性にばかり好かれ続けていたから、女性に対する苦手意識は確かにあった。
だが、ケーキ屋の客だからなどと理由を付けて、強く出られなかったからというのは、単なる言い訳に過ぎない。
関わり合いになるのを避けようとし続けた結果が、今日の事態だ。
ストーカーにまで発展するほど思い込みの強い女性に、言葉だけで諦めて貰えたかはわからない。
けれど、最初から「ずっと好きな人がいる」と言葉を尽くして、何度でもハッキリきっぱりと断っていれば良かった。
「ずっと見てたから、わかってた……でも、わたし……」
「二度とトモさんの前に、姿を現すな!」
シマが背後から智明を抱き込み、追いすがろうとする女性の手を振り払って威嚇する。
ストーカー女性は再びビクリと身体を震わせて、何度目かの「ごめんなさい」を口にして、そのままふらふらと立ち去っていく。
その後ろ姿はすっかり意気消沈していて、反省も色濃く見えた。
恐らくもう、彼女がこれ以上ストーカー行為を繰り返すことはないだろう。
再び握られることがなくて良かったとホッとしながら、地面に落ちたままになっている自身の血がこびりついたナイフを拾う。
(誰にも見られない内に、回収出来て良かった。証拠がなければ、事件になることはない……よな)
ほっと息をついた智明を、シマが後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめる。
何とか智明が庇うことが出来たので良かったが、真っ直ぐに敵意を向けられるという、恐ろしい目にあったのはシマである。
そっと抱きしめてくれている手に、自身の手を添えた。
「心配かけて、ごめん」
「なんで、俺を庇ったりしたんですか!」
「シマはナイフにまでは気付いてなかっただろ? もうちょっと、上手く避けられたら格好良かったんだけど」
「そういう問題じゃありません!」
「大丈夫大丈夫。びっくりしたよなぁ」
項垂れるシマの頭をぽんぽんと宥めるように撫でて笑うと、頭上から大きく長いため息が漏れる。
それは、安心と呆れが入り交じったシマの心情を、如実に表していた。
「……すみません。俺が、煽ってみようなんて思わなければ」
「今のままじゃ埒が明かなかったし、あの様子じゃもうストーカー行為はしないだろうから、結果的に良かったんだって」
「よくありません。トモさんに、怪我させてしまうなんて……早く病院に行きましょう」
「見た目ほど深くなさそうだから平気、かすり傷だよ」
「そんなわけないでしょう。こんなに血が出てるのに……」
「最初にちょっと勢いよく出ただけだって。今はもうほら、止まり始めてるから」
「トモさん?」
名前を呼ぶ低いシマの声から、「何を隠しているんだ」と責められているのがわかって、白旗をあげる。
シマが本気で心配してくれているのがわかるからこそ、誤魔化すことは出来なかった。
また怒られてしまうかもしれないが、自分の正直な気持ちを伝えるべきだろう。
「……おおごとに、したくないんだよ」
「あの女を、庇うんですか?」
「そうじゃない。でも、何もなかったことに出来るなら、それが良い」
「優しすぎますよ」
「俺が、そうしたいだけ」
「わかりました。でも、手当はさせて下さい」
「うん、頼む。家、すぐそこだから……寄っていってくれる?」
「もちろんです」
そうして智明はシマを伴い、今度こそ帰路についたのだった。
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