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24.治療
「っ、てて……シマ、もうちょっと優しく」
「十分丁寧にやってます。やっぱり、かすり傷なんかじゃなかったじゃないですか」
「気の持ちようって言うだろ?」
「怪我は、気分では治りません!」
智明のパックリと裂けている左腕を確認して、シマは痛々しそうな視線を寄越した後、驚くほどテキパキとした動きで手早く傷口を洗浄し、止血をする。
家の救急箱には絆創膏くらいしか傷に使えそうなものがなかったのだが、シマが大きめの創傷被覆材という未知なる医療道具を取り出してきて、傷口を覆う。
「なんでそんなもの持ってるんだ?」
「包丁で怪我する事も多いので」
「なるほど……?」
喋りながらも、剥がれないように上から包帯を器用に巻いていくシマの姿に、感心する。
いくら包丁を扱う事が多いと言ったって、大体は洗って絆創膏を貼っておけば治る程度の軽微なものだろう。
処置の的確さに加えて、準備万端すぎる持ち物に多少の疑問は沸くが、普段のシマの完璧な振る舞いを見ていると、そのくらいの準備は整えていそうな気もする。
そんな智明の抱いた疑問に気付いたのか、シマが仕上げをしながら苦笑した。
「母が看護師なので、簡単な処置は小さい頃から叩き込まれてます。昔から人より少し持ち歩いている応急処置のセットも多いかもしれません。今回は、それが役に立って良かった」
「へぇ、そうなんだ。本当に助かったよ」
(そういえば、和志の母親も看護師だったから、幼い頃は随分お世話になったなぁ)
またシマと和志の共通点が見つかった事に驚きながら思い出を辿っていると、真剣な表情をしたシマと視線がかち合う。
その目がどこか懐かしくも思えて、不思議に思いながら首を傾げた。
「えっと、シマ?」
「今回は大事に至らなかったから良かったですけど、二度とああいう事はしないで下さい」
「は、はい。すみません」
表情だけでなく声まであまりに真剣で、それだけシマを心配させてしまったのだと反省する。
智明的には、シマを守れたし、ストーカー女性の事も解決できたので、万々歳な気持ちだったのだが、シマはそうではなかったらしい。
そもそもは智明の問題だったので、怪我をした事をシマが気に病む必要はないのだが、目の前で怪我をされたら気分が良くないのはわかる。
姿勢を正して謝罪すると、シマが大きくため息をついた。
「本当に、無事で良かったです」
「心配かけてごめん。後、今日までずっと付き合ってくれてありがとう」
「それってどういう意味ですか」
「いや、問題も解決したし、シマの時間をこれ以上独占するのは申し訳ないから、「レンタル彼氏」契約は、今日で終わりに……」
元々、智明が「レンタル彼氏」を頼んだ理由は、ストーカー女性対策である。
和志に似たシマが現れたのは奇跡だと思ったし、シマは買った時間以上に智明を手伝ってくれた。
友人として付き合ってくれていたのも、嘘ではないと思う。
実際、土日の見せつけるための「デート」の時以外は、報酬も頑なに受け取ってくれなかった。
依頼メッセージを残すことすら、拒否されていた位だ。
だが、単なる「レンタル」だったはずのシマに本気になってしまったのは、智明の一方的な感情であり、それを理由にこれ以上優しいシマの貴重な時間を割かせるわけにはいかない。
ストーカー女性の事がなくても、今後もお金を払えば「レンタル彼氏」として会って貰う事は出来るだろう。
だがその関係は不毛だと、智明自身がわかっている。
それなら全てが解決したこの時点で、この歪な関係をリセットしてしまうのが一番だ。
智明の受ける失恋の傷は、もう浅くはないところまで来てしまっているけれど、これ以上沼にハマっても先は見えない。
同じバイト先で働けるという奇跡も起きたのだから、これからは好きな人の為に努力するシマを応援する一ファンとして、一線を引くべきである。
(和志以外の人も、好きになれた)
それがわかっただけでも、智明にとっては大きな収穫だ。
「俺は嫌です!」
「え?」
「トモさん、このまま俺との関係を切るつもりですよね」
「だってもうこれ以上、俺にシマの時間を買う理由はないだろ?」
「「レンタル彼氏」として、会って欲しいわけじゃありません。そもそも俺、初日以外はお金なんて受け取ってもいませんし、店にも報告は入れてません!」
「な、んで……」
「ねぇ、トモさん。本当に俺の気持ち、伝わっていませんか?」
じっと智明を覗き込むシマに怯む。
(これじゃまるで、シマが俺を好きみたいに見える……そんなはず、ないのに)
勝手に高鳴ってしまう胸を無理矢理押さえて、智明は自分を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
「十分丁寧にやってます。やっぱり、かすり傷なんかじゃなかったじゃないですか」
「気の持ちようって言うだろ?」
「怪我は、気分では治りません!」
智明のパックリと裂けている左腕を確認して、シマは痛々しそうな視線を寄越した後、驚くほどテキパキとした動きで手早く傷口を洗浄し、止血をする。
家の救急箱には絆創膏くらいしか傷に使えそうなものがなかったのだが、シマが大きめの創傷被覆材という未知なる医療道具を取り出してきて、傷口を覆う。
「なんでそんなもの持ってるんだ?」
「包丁で怪我する事も多いので」
「なるほど……?」
喋りながらも、剥がれないように上から包帯を器用に巻いていくシマの姿に、感心する。
いくら包丁を扱う事が多いと言ったって、大体は洗って絆創膏を貼っておけば治る程度の軽微なものだろう。
処置の的確さに加えて、準備万端すぎる持ち物に多少の疑問は沸くが、普段のシマの完璧な振る舞いを見ていると、そのくらいの準備は整えていそうな気もする。
そんな智明の抱いた疑問に気付いたのか、シマが仕上げをしながら苦笑した。
「母が看護師なので、簡単な処置は小さい頃から叩き込まれてます。昔から人より少し持ち歩いている応急処置のセットも多いかもしれません。今回は、それが役に立って良かった」
「へぇ、そうなんだ。本当に助かったよ」
(そういえば、和志の母親も看護師だったから、幼い頃は随分お世話になったなぁ)
またシマと和志の共通点が見つかった事に驚きながら思い出を辿っていると、真剣な表情をしたシマと視線がかち合う。
その目がどこか懐かしくも思えて、不思議に思いながら首を傾げた。
「えっと、シマ?」
「今回は大事に至らなかったから良かったですけど、二度とああいう事はしないで下さい」
「は、はい。すみません」
表情だけでなく声まであまりに真剣で、それだけシマを心配させてしまったのだと反省する。
智明的には、シマを守れたし、ストーカー女性の事も解決できたので、万々歳な気持ちだったのだが、シマはそうではなかったらしい。
そもそもは智明の問題だったので、怪我をした事をシマが気に病む必要はないのだが、目の前で怪我をされたら気分が良くないのはわかる。
姿勢を正して謝罪すると、シマが大きくため息をついた。
「本当に、無事で良かったです」
「心配かけてごめん。後、今日までずっと付き合ってくれてありがとう」
「それってどういう意味ですか」
「いや、問題も解決したし、シマの時間をこれ以上独占するのは申し訳ないから、「レンタル彼氏」契約は、今日で終わりに……」
元々、智明が「レンタル彼氏」を頼んだ理由は、ストーカー女性対策である。
和志に似たシマが現れたのは奇跡だと思ったし、シマは買った時間以上に智明を手伝ってくれた。
友人として付き合ってくれていたのも、嘘ではないと思う。
実際、土日の見せつけるための「デート」の時以外は、報酬も頑なに受け取ってくれなかった。
依頼メッセージを残すことすら、拒否されていた位だ。
だが、単なる「レンタル」だったはずのシマに本気になってしまったのは、智明の一方的な感情であり、それを理由にこれ以上優しいシマの貴重な時間を割かせるわけにはいかない。
ストーカー女性の事がなくても、今後もお金を払えば「レンタル彼氏」として会って貰う事は出来るだろう。
だがその関係は不毛だと、智明自身がわかっている。
それなら全てが解決したこの時点で、この歪な関係をリセットしてしまうのが一番だ。
智明の受ける失恋の傷は、もう浅くはないところまで来てしまっているけれど、これ以上沼にハマっても先は見えない。
同じバイト先で働けるという奇跡も起きたのだから、これからは好きな人の為に努力するシマを応援する一ファンとして、一線を引くべきである。
(和志以外の人も、好きになれた)
それがわかっただけでも、智明にとっては大きな収穫だ。
「俺は嫌です!」
「え?」
「トモさん、このまま俺との関係を切るつもりですよね」
「だってもうこれ以上、俺にシマの時間を買う理由はないだろ?」
「「レンタル彼氏」として、会って欲しいわけじゃありません。そもそも俺、初日以外はお金なんて受け取ってもいませんし、店にも報告は入れてません!」
「な、んで……」
「ねぇ、トモさん。本当に俺の気持ち、伝わっていませんか?」
じっと智明を覗き込むシマに怯む。
(これじゃまるで、シマが俺を好きみたいに見える……そんなはず、ないのに)
勝手に高鳴ってしまう胸を無理矢理押さえて、智明は自分を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
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