ある日のひみつの森のなか

おさかな

文字の大きさ
17 / 28

事件

しおりを挟む
 たくさん持ってきていた薬を売り切り、身軽になったノエルはおつかいを終えたジノが居るはずの待ち合わせ場所に向かいます。
 医薬品店などが並ぶエリアは町の中でも比較的治安が良いので、ノエルもさほど警戒せずに歩いていました。もう何度も一人で通ったことのある場所ですから、それは珍しいことではなかったのです。


 しかしその日はいつものように何事もなく終わることはできなかったのです。

 少し狭い道を通り抜けようというとき、ノエルは後ろから不自然なほどの速足で近付いてくる気配に気付きます。しかし相手はとても素早く、気付いたときには既に撒くのは難しいほどに接近されてしまったのです。
「……っ、だれか、……っ!」
「騒ぐな!誰も居ねえよ」
 逃げようとするノエルの腕を引っ張る力はとても強く、ノエルはもがきながらも何か薬品を含ませた布地で口を塞がれそうになります。
「離せ!この……っ」
「暴れるんじゃねえ!」
 ノエルは掴まれた手の感触と微かに吸い込んでしまった薬品の香りで、嫌な記憶が蘇ります。

「おい! 何してんだお前!」
 ノエルが必死に抵抗していたそのとき、急いで戻ってきていたジノが叫びました。すぐに事態を察知したジノは低く唸り、ぎらりとしたオオカミの瞳を光らせた。ノエルを傷つけようとする者相手に、その姿はケモノそのものでした。
 ジノの姿を見た男は思わず怯み、僅かに力を緩めてしまいました。その隙を見逃さず、ノエルは男の腹を蹴り飛ばして逃げ出しました。すかさず男はノエルを捕まえようとしましたが、ノエルの素早い逃げ足とそれをさせないジノが飛び掛かり、鋭い爪で反撃します。

「クソっ、なんだてめえは」
「こっちの台詞だ。お前、次はないぞ。また俺の大切な人に手出ししてみろ、俺がお前を絶対に許さない」
 切りつけられた男の腕の傷跡は、ジノの本気の証拠です。ジノはノエルを脅かす存在に対し容赦を知りません。

 ジノに威嚇された男はすごすごと去っていきました。
「くそっ、逃げ足だけは速いな」
「いいです、追わなくて。ありがとうございます、ジノさん」
「ノエル、怪我はない?」
「ええ、怪我はないんですが……」
 ジノに心配されたノエルはようやく緊張の糸が解けて、ふらりとよろめいてジノに身体を預けます。
「……何か、薬品を嗅がされました……少しだけですが。ふらつくので、どこか宿を……たしか、あちらの方にあったはず」
「……っ!わかった、あっちだね。行こう」
 ジノはノエルの言う通りにします。小さくて軽いノエルの身体をひょいと抱き抱えて、指示された道を駆けていきます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...