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忙しいアカツキ
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それからのひよりは、日々アカツキの屋敷でのメイドの仕事をこなしつつ生活していた。
ひよりはアカツキから性的な接触ばかりされているからあまり知らなかったが、アカツキはこの獣人たちが多く暮らす街でかなり偉い人で忙しい身らしく、夜遅くに帰宅して眠り、起きるなりまた仕事に出掛けるというような日が続いていた。
「アカツキ様は、複数の町工場を取り仕切ったり、教会や孤児院などへの支援活動もされてる御方なんですよ」
もうひとりの先輩メイドの女性からそう教えてもらった。それであの工場にも立ち寄っていたし、孤児と何ら変わりのないような僕を拾うことに躊躇がなかったのか、とひよりは納得する。
「立派な御方なんですね」
「そうですよ。アカツキ様はわたしたち使用人にもお優しくて、信頼できるご主人様です」
先輩メイドのマリーは女性だし、顔はヒトに近いがうさぎのような耳がついている獣人だ。男色で人間にしか興奮しないと言っていたアカツキの姓の対象ではないのだろうとひよりは思った。
人からアカツキの話を聞くほどに、会うたびに身体を求めてくる強引な獣人の彼とはイメージが結びつかない。話に聞くアカツキはまるで欠点などない、誰に対しても優しく慈愛に満ちた聖人君子のようだった。
(そんなアカツキ様が、僕にだけはあんなことをするんだ……。僕を自分だけのモノにして、惨めなほどにイかせて、性欲をぶちまけるだけの所有物にするなんて……)
数日経った頃でさえ、あの犯された夜を思い出すとふいに身体が熱くなっていけない。
(……それに、あの日は薬を使ったふりをして、わざと僕を……)
実は媚薬など使っていなかったとバラされたときは、消えたくなるくらいに恥ずかしかった。騙されたことは腹立たしかったけれど、素直に信じて薬のせいにして乱れまくってしまったのは己の身体の淫らさが招いたことだ。
ひよりはやり場のない怒りと、あんな風にされてからしばらく触れられることのない身体に宿る熱を持て余していた……。
「ただいま、帰ったよ」
「おかえりなさいませ、アカツキ様」
その日もアカツキは疲れた顔をして帰宅した。ここ数日に比べれば遅くはなかったが、それでもいつもの夕飯の時間はとっくに過ぎている。
「お食事はどうなさいますか?」
「いただくよ、ありがとうマリー。ああでも、何か軽いものだと助かるな」
「はい。そう仰ると思いまして、今日はお野菜がメインのメニューになっておりますよ」
「気が利くな、いつもすまないね」
アカツキに褒められたマリーは満足げに笑い、ぱたぱたと食事の用意のために厨房へと姿を消した。
「……あの、お風呂も準備してありますので」
「ひより、ありがとう。ああ、なんだかひよりの顔をきちんと見るのも久しぶりな気がするね」
「……はい、たった五日程ですが」
「それでも会いたかったよ……今日は一緒にお風呂に入ろうか?」
「えっ……あ、あの……」
「……ダメか?」
ひよりは一緒にお風呂なんて何をされるかわからないし恥ずかしい、と思った。しかし、どこか疲れて甘えたような空気のアカツキの誘いを断っていいものか、そもそも僕はアカツキの言葉にノーと言ってもいい立場なのか、と悩んだ。
「……だめ、じゃないです……」
「そうか、よかった。じゃあ、食事の後にね」
悩んだ末に返した言葉で、アカツキはにこりと目を細めて笑う。そう素直に喜ばれると、それでいいかという気持ちにさせられるものだとひよりは思った。
ひよりはアカツキから性的な接触ばかりされているからあまり知らなかったが、アカツキはこの獣人たちが多く暮らす街でかなり偉い人で忙しい身らしく、夜遅くに帰宅して眠り、起きるなりまた仕事に出掛けるというような日が続いていた。
「アカツキ様は、複数の町工場を取り仕切ったり、教会や孤児院などへの支援活動もされてる御方なんですよ」
もうひとりの先輩メイドの女性からそう教えてもらった。それであの工場にも立ち寄っていたし、孤児と何ら変わりのないような僕を拾うことに躊躇がなかったのか、とひよりは納得する。
「立派な御方なんですね」
「そうですよ。アカツキ様はわたしたち使用人にもお優しくて、信頼できるご主人様です」
先輩メイドのマリーは女性だし、顔はヒトに近いがうさぎのような耳がついている獣人だ。男色で人間にしか興奮しないと言っていたアカツキの姓の対象ではないのだろうとひよりは思った。
人からアカツキの話を聞くほどに、会うたびに身体を求めてくる強引な獣人の彼とはイメージが結びつかない。話に聞くアカツキはまるで欠点などない、誰に対しても優しく慈愛に満ちた聖人君子のようだった。
(そんなアカツキ様が、僕にだけはあんなことをするんだ……。僕を自分だけのモノにして、惨めなほどにイかせて、性欲をぶちまけるだけの所有物にするなんて……)
数日経った頃でさえ、あの犯された夜を思い出すとふいに身体が熱くなっていけない。
(……それに、あの日は薬を使ったふりをして、わざと僕を……)
実は媚薬など使っていなかったとバラされたときは、消えたくなるくらいに恥ずかしかった。騙されたことは腹立たしかったけれど、素直に信じて薬のせいにして乱れまくってしまったのは己の身体の淫らさが招いたことだ。
ひよりはやり場のない怒りと、あんな風にされてからしばらく触れられることのない身体に宿る熱を持て余していた……。
「ただいま、帰ったよ」
「おかえりなさいませ、アカツキ様」
その日もアカツキは疲れた顔をして帰宅した。ここ数日に比べれば遅くはなかったが、それでもいつもの夕飯の時間はとっくに過ぎている。
「お食事はどうなさいますか?」
「いただくよ、ありがとうマリー。ああでも、何か軽いものだと助かるな」
「はい。そう仰ると思いまして、今日はお野菜がメインのメニューになっておりますよ」
「気が利くな、いつもすまないね」
アカツキに褒められたマリーは満足げに笑い、ぱたぱたと食事の用意のために厨房へと姿を消した。
「……あの、お風呂も準備してありますので」
「ひより、ありがとう。ああ、なんだかひよりの顔をきちんと見るのも久しぶりな気がするね」
「……はい、たった五日程ですが」
「それでも会いたかったよ……今日は一緒にお風呂に入ろうか?」
「えっ……あ、あの……」
「……ダメか?」
ひよりは一緒にお風呂なんて何をされるかわからないし恥ずかしい、と思った。しかし、どこか疲れて甘えたような空気のアカツキの誘いを断っていいものか、そもそも僕はアカツキの言葉にノーと言ってもいい立場なのか、と悩んだ。
「……だめ、じゃないです……」
「そうか、よかった。じゃあ、食事の後にね」
悩んだ末に返した言葉で、アカツキはにこりと目を細めて笑う。そう素直に喜ばれると、それでいいかという気持ちにさせられるものだとひよりは思った。
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