死の境界で16人が殺し合う神前決闘

がんた

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第14話 絡む足

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静かすぎる。

風もない。

水面も揺れない。

目の前に立つ女は、動かない。

細い。

軽そうだ。

正面から押し切れる。

そう判断するのに、時間はかからなかった。

(考えるな)

馬淵真人は一歩踏み出す。

躊躇はない。

止まったら終わる。

それだけは分かっている。

地面を蹴る。

円壇の水が跳ねる。

一直線。

距離を詰める。

だが――

違和感。

女は、動かない。

避ける気配がない。

焦りもない。

「……来ますよ」

小さな声。

その瞬間、

足が、重くなる。

一瞬だけだ。

ほんの一瞬。

だが、

踏み込みが鈍る。

(何だ?)

気のせいか。

そのまま突っ込む。

拳を振り抜く。

女は半歩、ずれる。

わずかに。

最小限。

空振り。

勢いのまま、通り過ぎる。

振り向く。

女は同じ場所に立っている。

ほとんど動いていない。

呼吸も乱れていない。

(速いわけじゃない)

なのに、届かない。

もう一度。

距離を取る。

呼吸を整える。

正面突破。

それしかない。

加速。

今度は迷わない。

だが、

足首に違和感。

何かが、絡む。

視線を落とす。

水面。

波紋が、不自然に円を描いている。

その中心が、自分だ。

(……縛られてる?)

物理的なものではない。

だが、

体の動きが、わずかに鈍い。

女の背後に、

影が伸びる。

細い。

長い。

蛇の首のような影。

まだ一本。

「急ぐ人は、見落とします」

声は静かだ。

怒りも嘲りもない。

ただ事実を述べている。

馬は歯を食いしばる。

「関係ない」

地面を蹴る。

力任せに。

一瞬、影が揺れる。

拘束が緩む。

突破できる。

そう思った瞬間、

別の方向から重さが来る。

見えない。

だが、

確実に足を取られている。

直線が、曲げられる。

体勢が崩れる。

踏ん張る。

転ばない。

だが、

速度が死ぬ。

女は近づかない。

攻めない。

ただ、見ている。

観察されている。

試されている。

焦りが、胸を締め付ける。

(まだ、走れる)

もう一度踏み込む。

だが、

今度は膝が重い。

ほんの少し。

だが確実に。

まるで、

進めば進むほど、

何かが増えている。

彼女の背後の影が、

わずかに太くなる。

二本目の輪郭が、かすかに浮かぶ。

「止まれますか?」

問いかけ。

馬は答えない。

止まれない。

止まる理由がない。

だが、

体は正直だ。

呼吸が荒い。

動きが鈍い。

直線が、

成立しない。

円壇の中央で、

距離はほとんど変わっていない。

攻めているはずなのに、

削れているのは、自分のほうだ。

蛇はまだ、本気ではない。

それだけは、

はっきり分かる。

静かな水面に、

自分の姿が映る。

焦りの色が、濃い。

女は言う。

「まだ、始まったばかりです」

その言葉で、

初めて理解する。

自分は、主導権を握れていない。

走っているのに、

進んでいない。

完全に、

蛇の領域だった。
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