ふわふわ短編集

ho-kiboshi

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白い封筒

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 それは一通の手紙から始まった。

「あれ、誰からだろう」

 差出人の名前が書かれていない。やわらかな白い色をした封筒をくるくるひっくり返しながら、モーネは何か心当たりはないかと記憶を手繰り寄せた。

「……ル、」

 ……いや、違うだろう。
 モーネはその人の名前を口にする前にかぶりをふった。
 そんなはずはない。
 彼は三年前にいなくなったのだから。
 しばらくの間、モーネはポストの前で白い封筒を見つめていた。

「でも、やっぱり、ルカだ」

 ルカは行く先を告げずにある日突然「僕は遠くへ行くよ」とだけ言って翌日には家を空にした。モーネは追いかけることも見送ることも叶わなかった。学校を卒業してすぐのことだった。

 ルカはいつも一人で決めて、いつの間にかどこかへ行ってしまう人だった。
 男友達とわいわいやっているところを何回か見たことあるが、どちらかというと一人でぽつねんと教室のすみで日向ぼっこをしている印象が強い。

 試験勉強が間に合わなくて、ちょうどいいところに居合わせたルカに勉強を教わったことがある。
 彼は得意そうに指をくるくる回して小さな風を起こす。わっ! と万歳をした瞬間、教室のカーテンがいっせいにバタバタと暴れ出した。
 夕陽をあびたカーテンが揺れている。ただそれだけなのに、二人でげらげら笑い転げていた。モーネはそれを遠い日の思い出のようになつかしく感じていた。


 はじめ彼の旅を告げられたときは、いつか帰ってくるだろうと思っていた。そう確信していた。どこかへ行ってしまっても、必ず帰ってきて授業に参加していたのだ。お土産話を聞くのが好きだった。あちらで出逢ったふしぎな生きものは身長がこれくらいで、食べるものはどんなものだとか、身振り手振りで報告してくれた。

 でも今度は違った。彼は行ってしまった。世界の隙間からするりとくぐり抜けて、モーネの手の届かない場所へ行ってしまった。
 雲の上かもしれない。地面の下かもしれない。とにかく人がそう簡単にたどり着けない場所へ、ルカはお得意の魔法を使って旅に出てしまった。

 手紙はやっぱりルカの文字だった。簡潔な挨拶と、自分は家にいる、これしか書いていなかった。

 手紙は色々なことを語っている。
 ひとつ、郵便を利用するために、彼はこちらの世界へ戻ってきていること。
 ふたつ、彼の帰還を知らせる特別な人リストにモーネが入っていること。

「直接言いに来ればいいのに」

 郵便を利用する、とはいっても封筒には切手が貼られていなかった。モーネの知らないうちに家にやってきてこっそりポストに入れたのだろう。
 モーネの心はふわふわと浮き足立った。伸ばした髪が感化されてふわりと空気を含む。静電気ではない。彼女の感情は言葉の代わりに身体表現であらわれる。

 すぐに逢いたいと思った。


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