偽物の公爵令嬢は破滅後に本当の自分を愛されて幸せをつかむ

福留しゅん

文字の大きさ
7 / 9

転 その①

しおりを挟む
「……トーマス様はよほどお暇なのですね」
「ガラテアさんに会うために無理して時間を作ってるだけだって」

 ところが、トーマス様はアレだけ現実を見せつけてやっても懲りませんでした。

 彼は週に何回かは必ずわたくしを訪ねられ、子供達と遊んだり掃除を手伝ってくれたりしました。その間他愛のない話で盛り上がるので、いつも時間があっという間に過ぎ去っていきました。

「無理にでも連れて行く、とは仰らないのですね」
「まずガラテアさんが納得してくれるようにしなきゃいけないからね」

 トーマス様は並々ならぬ決意を抱いているようでして、別れ際やならず者共に連れて行かれる際はとても真剣な表情で「僕が必ずガラテアさんを救うから」と仰ります。不覚にもそんな彼が段々と格好いい、と思うようになってきました。

 そんな日々を過ごすうちにわたくしの胸の中で温かいものが芽生えていき、同時に息苦しさも覚えていきました。振り回される自分が辛くて、悔しくて、嫌でたまりませんでした。わたくしはただ元公爵令嬢ガラテアであれれば充分なのに。

 それが恋心なんだと自覚するのに、そう日数は要りませんでした。
 そしてそれがわたくしにとっては綿で首を絞めるような辛い日々の始まりでした。

「余計なお世話って言われそうだけれど、もうガラテアさんが犠牲になる必要はないんだ。この地域……いや、王都全体の治安を改善する法案を通したからね」
「はい?」
「近日中にガラテアさんが恐れていた『ギャング』って組織は一斉に摘発する。治安維持に当面の間正規の部隊も駐留させるし、悲しまなくて良くなるんだ」

 ある日、トーマス様は満面の笑顔でわたくしに吉報をもたらしました。わたくしは苦痛と屈辱から解放されるより、彼がとても嬉しそうだったことの方が嬉しかったです。
 トーマス様がわたくしの手を取って踊ってその喜びを表現したもので、わたくしも自然と笑いました。本当に久しぶりで、自分でも驚いてしまいましたね。

 彼の言った通り、本当に『ギャング』達は捕まりました。そして教会のある地域はとても平和になりました。昼間に子供達が外で遊んでいても攫われたりせず、女性が家にいても襲われることもなくなったのです。

 後日トーマス様にお聞きすると、寝る間も惜しんで法案を練り上げ、多くの有力者に頭を下げて根回しして、反対する権力者をどうにか懐柔して、法案が可決した途端に過労で数日寝込んでしまったそうです。

「どうしてそこまで……」
「ガラテアさんのためだ。ここが安心して過ごせるようになったら、僕を選んでくれるようになるかも、って思ったらね」
「……わたくしにそんな資格はございません」
「資格なんて関係ない。僕にはガラテアさんが必要なんだ」

 トーマス様は決意を秘めた眼差しをわたくしに向け、跪きました。

「どうかこの私と結婚してほしい。末永く愛し合い、支え合いたい」

 トーマス様の告白はとても嬉しくて、そしてとても憎かったです。

 だってそうでしょう? トーマス様はとても優しくて、励ましてくれて、大切に想ってくれて。けれどその相手はあくまで破滅した悲劇の令嬢ガラテアに対してであって、決してこのわたくしではないのだから……!

「わたしは、ガラテアじゃない……!」

 頭の中が怒りでいっぱいになって、もう守秘義務とか頭から抜け落ちていました。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は趣味が悪い

無色
恋愛
あなたとの婚約なんて毛ほどの興味もありませんでした。  私が真に慕うのは……

【短編】私悪役令嬢。死に戻りしたのに、断罪開始まであと5秒!?

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「エリーゼ・ファルギエール! 今日限りでお前との婚約を破棄する!」と嫌がらせをした記憶も、実家の公爵家が横領した事実もないのに冤罪で、悪役令嬢のように、婚約破棄、没落、そして殺されてしまうエリーゼ。 気付けば婚約破棄当日、第一王子オーウェンが入場した後に戻っていた。 嬉しさよりもなぜ断罪5秒前!? スキルを駆使して打開策を考えるも、一度目と違って初恋の相手がいることに気付く。  あーーーーーーーーーー、私の馬鹿! 気になってしょうがないから違うことを考えなきゃって、初恋の人を思い出すんじゃなかった! 気もそぞろになりつつも、断罪回避に動く。 途中でエリーゼも知らない、番狂わせが起こって──!?

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

私は婚約破棄をされ好い人と巡り会いました。

SHIN
恋愛
忙しい年末年始に現れたのはめったに顔を遭わせない男でした。 来た内容はえっ、婚約破棄ですか? 別に良いですよ。貴方のことは好きではありませんでしたし。 では手続きをしましょう。 あら、お父様。私が欲しいと言う殿方が居ますの?欲しがられるなんて良いですわね。 この話は婚約破棄を快く受け入れた王女が隣国の男に愛される話。 隣国の方はなんと『悪役令嬢をもらい受けます』のあの方と関わりがある人物だったりじゃなかったりの方です。

最近のよくある乙女ゲームの結末

叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。 ※小説家になろうにも投稿しています

【完結】悪役令嬢の本命は最初からあなたでした

花草青依
恋愛
舞踏会の夜、王太子レオポルドから一方的に婚約破棄を言い渡されたキャロライン。しかし、それは彼女の予想の範疇だった。"本命の彼"のために、キャロラインはレオポルドの恋人であるレオニーの罠すらも利用する。 ■王道の恋愛物(テンプレの中のテンプレ)です。 ■三人称視点にチャレンジしています。 ■画像は生成AI(ChatGPT)

「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ。

小鳥遊つくし
恋愛
「反省してます」と言いましたが、あれは嘘ですわ──。 聖女の転倒、貴族の断罪劇、涙を強いる舞台の中で、 完璧な“悪役令嬢”はただ微笑んだ。 「わたくしに、どのような罪がございますの?」 謝罪の言葉に魔力が宿る国で、 彼女は“嘘の反省”を語り、赦され、そして問いかける。 ――その赦し、本当に必要でしたの? 他者の期待を演じ続けた令嬢が、 “反省しない人生”を選んだとき、 世界の常識は音を立てて崩れ始める。 これは、誰にも赦されないことを恐れなかったひとりの令嬢が、 言葉と嘘で未来を変えた物語。 その仮面の奥にあった“本当の自由”が、あなたの胸にも香り立ちますように。

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

処理中です...