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第1-2章 私は南方王国に行きました

私は王子達と友達になりました

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「母さん、その話は前向きに進めてくれ。けれど……」
「権力に物を言わせては駄目、でしょう? 分かっているわよ。チェーザレがキアラ様を望むなら振り向いてもらえるように自分で努力してね」
「勿論だ。……ジョアッキーノ、一応聞くけど分かってるよな?」
「まさか僕が父さんに働きかけて婚約関係を盤石にしようと企んでる、とか言わないよな? 僕だって自分のじゃない力に頼ろうとは思わないさ」

 二人とも凄まじい意気込みを露わになさっていますが、どうしてそこまで私を望むのでしょうか? ジョアッキーノとはさっき出会ったばかりですし、チェーザレとはまだ正味二日しか会っていませんのに。

「ジョアッキーノ様。チェーザレを困らせたいだけでしたら……」
「ん? あぁ、最初はそうしてやろうとか思ってたからなんだけどさ、思った以上にキアラが気になっちゃってさ」
「はあ、それはまたどうしてです?」
「キアラは夜会とかお茶会とか出た事ある?」

 今の私は貴族令嬢ですから勿論ございます。正式な淑女として認められるのは学院を卒業した年齢頃でしょうか。同世代の貴族令嬢方ともそれなりに付き合っております。さすがに心の内側をさらけ出せるほどの方はおりませんが。

「僕ってうるさい女と生意気な女って嫌いなんだよね。でもほら、分かるだろ?」
「貴族のご令嬢方は家の力を服飾や宝飾等の見やすい形で自慢したがる、ですか」

 わたしだったらミノムシみたいだと比喩したでしょうね。

 貴族令嬢の中には「私がお願いしたらこんな素敵な物を買ってもらったの」や「こんな凄い事をしてもらったの」と、家の財力や権力を誇りたがる方もいらっしゃいます。勿論気品に富む方もいらっしゃいますが、殿方に慎ましさも無く近寄る輩はどちらかと言えば前者の方でしょう。
 ジョアッキーノの家はこの王国でも有数と申していい程の家柄。その子息が未だ婚約者もいないのですから、それは目の色を変えて擦り寄るでしょうね。これもわたしだったら玉の輿とでも評したでしょう。

「もううんざりなんだよ。近寄ってくる女は莫迦ばっかだからさ」
「では私は貴方様の御眼鏡に適ったと?」
「父さんが僕に紹介してきたって点だけでも十分期待出来たんだけどね」
「成程……そのような考えがありましたか」

 言われてみれば確かにマッテオは自分には勿体ないからと私を彼に紹介していましたね。他の貴族令嬢とは違うと仰っていただけるのは嬉しいですが、私とて他の方とさほど変わりないと思うのですがね。ジョアッキーノが幻滅しなければ良いのですが。

「それでチェーザレは……」
「あの日、キアラは俺と母さんを救ってくれた。それが全てだ」

 全て! 全てと仰いましたか!
 一体彼の中で私がどのように脚色されているかは存じる術がございませんが、知るのが大変怖ろしゅうございます。

 そのうち抱く幻想が肥大化して、現実の私との乖離を感じ取ったら?
 情熱は失望へと転じ、やがて憎悪へと墜ちていくのでは?
 かつての私が聖女から魔女へと身をやつしたように。

「チェーザレもジョアッキーノ様も、一つだけ申しておきます」
「何だよ、どうしたんだ一体?」

 なので、若きお二人には私から忠告……いえ。願いを送りましょう。

「今貴方様方の前にいる私こそが真実です。噂話、空想……今後様々な形で私が姿を現す事となるかもしれませんが、ゆめ惑わされぬように」

 私の姿を見てください。
 私の声を聴いてください。
 私を肌で感じ取ってください。

 私は偶像ではありません。
 私は貴方様方の前におりますから。

「あ……ああ、分かったよ」

 チェーザレもジョアッキーノも僅かに気圧された様子でした。失礼、無意識のうちに威圧していたかもしれませんね。それだけかつての最後に自分で納得いっていないとの証ではありますが、ね。

「ではお二人共、これから仲良くしてまいりましょう」

 私はそんなお二人に精一杯笑いかけました。
 ……今の私は自然に笑えているでしょうか? そうだと信じたいですね。
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