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第1-2章 私は南方王国に行きました
浄化の聖女は立ち塞がりました
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「キアラ、次会えるのはいつぐらいなんだ?」
「私達が聖都の学院に行かねばならなくなる前にもう一度はお会いしたいですね」
「……まだ一年以上もあるぞ。もっと頻繁には来れないのか?」
「でしたら次はチェーザレの方がこちらにいらっしゃって下さい。歓迎いたします」
そしていよいよ出発の時となりました。お父様はジョアッキーノはともかく王子のチェーザレとまで仲良くなった私を意外な物を見る目で瞳に映していました。まさか聖女適性値の低い小娘が王子の興味を惹くとは思っていなかったのでしょう。
「フィリッポが目覚めた際はよろしくとお伝えください。それと、事情を説明する際は先ほど打ち合わせた通りに」
「ああ、分かっているさ」
フィリッポへの治療からまだ半日も経っていませんので彼は気を失いっぱなしです。結局彼には怖い思いをさせた謝罪が出来ませんでしたね。けれどきっと次また会えると信じるとしましょう。会おうと思えば会える距離しか隔てられていませんから。
ちなみに当然フィリッポには真実を打ち明けられる筈もありません。チェーザレやコルネリア方と口裏を合わせて説明する手筈となっています。肉切り包丁を手にした私に関しても理由付け出来るよう上手く調整できたと自賛したいですね。
「それではチェーザレ、ジョアッキーノ。またお会いしましょう!」
「ああ、また会おう!」
「今度はこんな慌ただしくしたくないな!」
馬車が走りだすとチェーザレとジョアッキーノが私に向けて手を振っていました。私も馬車の窓から彼らに手を振り続けます。そんなやりとりは互いの姿が見えなくなるまで続けられました。正直、こんなに別れが寂しいと思った事は無かったのではないでしょうか。
道中でお父様は意外だと口にされたので私は適当に答えておきました。あまり期待してなかった娘が予想外に交流の幅を広げたからですか? とは言いましても結局聖女への道をひた走る妹の方が可愛いのでしょうけれど。
――そんな帰路へと旅立つ私達が止められたのは王都を出る間際でした。
「何事だ!?」
「急停車して申し訳ありません! ですが急な割り込みがあって……!」
声を荒げるお父様に対して御者が焦りと興奮交じりで回答しました。窓から前方を眺めてみると脇道から別の馬車が飛び出してこちらに立ち塞がったようです。貴族の進行を邪魔するなんてと思ったのですが、馬車に描かれた紋章を見て驚いてしまいました。
馬車の主は勢いよく扉を開けるとこちらへと大股で突き進みました。こちらの護衛もさすがの彼女には手出しも出来ずに素通りさせてしまいます。そのまま彼女はこちらの馬車の側面、私が座っている側の扉を叩きました。観念した私は仕方なく扉を開け放ちます。
「ねえアンタ、どういうつもりよ?」
彼女、浄化の聖女であるリッカドンナは軽く怒りを露わにしていました。
リッカドンナはよほど慌てて来たようで法衣が少し乱れていました。それから息も少々上がっていましたので馬車には走って乗り込んだのでしょう。私を逃がすまいとの意思が節々に見られます。
お父様やトリルビィが何か口を挟もうとしたので私は手で制しました。リッカドンナはただ私だけを見据えていましたから。
「どう、とは?」
「とぼけないで。あの宮廷音楽家よ」
わざとらしくしらを切ろうとも思いましたが、さすがに演技をする気にまではなれません。どうやらリッカドンナは私を疑っているご様子。ここはチェーザレ達と打ち合わせた通りに進めるとしましょう。
「悔しいけれどあたしにはあの子を治す程の奇蹟なんて無かったわ。最低限日常生活を送れるぐらいまでするのが精一杯だったの」
「聖女様が手を抜いていらっしゃるなんて全く思っておりません。最善を尽くされたとお聞きしています」
「なのに昼過ぎにはアイツは完全に治ってた。私以外の奴が彼を治したのよ!」
「それは幸いでした。彼の演奏は聞き惚れましたから。ますますのご活躍をお祈りいたします」
「アンタが王宮内で包丁を持って彼の所に向かったのを見たって大勢言ってるのよ」
「それは私がとある方よりご命令を受けた為です」
「はぁ? 誰よ」
何を言っているんだとばかりなリッカドンナに対し、私は白々しく言い放ちました。
「フィリッポの腕を治せる程の奇蹟を授かっていた方からです」
「私達が聖都の学院に行かねばならなくなる前にもう一度はお会いしたいですね」
「……まだ一年以上もあるぞ。もっと頻繁には来れないのか?」
「でしたら次はチェーザレの方がこちらにいらっしゃって下さい。歓迎いたします」
そしていよいよ出発の時となりました。お父様はジョアッキーノはともかく王子のチェーザレとまで仲良くなった私を意外な物を見る目で瞳に映していました。まさか聖女適性値の低い小娘が王子の興味を惹くとは思っていなかったのでしょう。
「フィリッポが目覚めた際はよろしくとお伝えください。それと、事情を説明する際は先ほど打ち合わせた通りに」
「ああ、分かっているさ」
フィリッポへの治療からまだ半日も経っていませんので彼は気を失いっぱなしです。結局彼には怖い思いをさせた謝罪が出来ませんでしたね。けれどきっと次また会えると信じるとしましょう。会おうと思えば会える距離しか隔てられていませんから。
ちなみに当然フィリッポには真実を打ち明けられる筈もありません。チェーザレやコルネリア方と口裏を合わせて説明する手筈となっています。肉切り包丁を手にした私に関しても理由付け出来るよう上手く調整できたと自賛したいですね。
「それではチェーザレ、ジョアッキーノ。またお会いしましょう!」
「ああ、また会おう!」
「今度はこんな慌ただしくしたくないな!」
馬車が走りだすとチェーザレとジョアッキーノが私に向けて手を振っていました。私も馬車の窓から彼らに手を振り続けます。そんなやりとりは互いの姿が見えなくなるまで続けられました。正直、こんなに別れが寂しいと思った事は無かったのではないでしょうか。
道中でお父様は意外だと口にされたので私は適当に答えておきました。あまり期待してなかった娘が予想外に交流の幅を広げたからですか? とは言いましても結局聖女への道をひた走る妹の方が可愛いのでしょうけれど。
――そんな帰路へと旅立つ私達が止められたのは王都を出る間際でした。
「何事だ!?」
「急停車して申し訳ありません! ですが急な割り込みがあって……!」
声を荒げるお父様に対して御者が焦りと興奮交じりで回答しました。窓から前方を眺めてみると脇道から別の馬車が飛び出してこちらに立ち塞がったようです。貴族の進行を邪魔するなんてと思ったのですが、馬車に描かれた紋章を見て驚いてしまいました。
馬車の主は勢いよく扉を開けるとこちらへと大股で突き進みました。こちらの護衛もさすがの彼女には手出しも出来ずに素通りさせてしまいます。そのまま彼女はこちらの馬車の側面、私が座っている側の扉を叩きました。観念した私は仕方なく扉を開け放ちます。
「ねえアンタ、どういうつもりよ?」
彼女、浄化の聖女であるリッカドンナは軽く怒りを露わにしていました。
リッカドンナはよほど慌てて来たようで法衣が少し乱れていました。それから息も少々上がっていましたので馬車には走って乗り込んだのでしょう。私を逃がすまいとの意思が節々に見られます。
お父様やトリルビィが何か口を挟もうとしたので私は手で制しました。リッカドンナはただ私だけを見据えていましたから。
「どう、とは?」
「とぼけないで。あの宮廷音楽家よ」
わざとらしくしらを切ろうとも思いましたが、さすがに演技をする気にまではなれません。どうやらリッカドンナは私を疑っているご様子。ここはチェーザレ達と打ち合わせた通りに進めるとしましょう。
「悔しいけれどあたしにはあの子を治す程の奇蹟なんて無かったわ。最低限日常生活を送れるぐらいまでするのが精一杯だったの」
「聖女様が手を抜いていらっしゃるなんて全く思っておりません。最善を尽くされたとお聞きしています」
「なのに昼過ぎにはアイツは完全に治ってた。私以外の奴が彼を治したのよ!」
「それは幸いでした。彼の演奏は聞き惚れましたから。ますますのご活躍をお祈りいたします」
「アンタが王宮内で包丁を持って彼の所に向かったのを見たって大勢言ってるのよ」
「それは私がとある方よりご命令を受けた為です」
「はぁ? 誰よ」
何を言っているんだとばかりなリッカドンナに対し、私は白々しく言い放ちました。
「フィリッポの腕を治せる程の奇蹟を授かっていた方からです」
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