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第2-2章 私は魔女崇拝を否定しました
正義の聖女は貧民と打ち解けました
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最初は今日は晴れた程度の話から始まり、酒が進んでいくと段々と打ち解けていったのか最近暖かくなって過ごしやすくなった等の生活模様が聞けるようになりました。
「いい飲みっぷりだな姉ちゃん! しかし何も俺達と飲まなくたって良かったんじゃねえか?」
「町は町、村は村。飲む場所が違えばまた違った面白さがある、ってね。それとも何か、貴方は私にお城でお上品にちびちび酒を飲めって?」
「あっははは! 違いねえ! あんな格好つけて酒が楽しめるかっての!」
正義の聖女様は浮浪者達とあおるように酒を飲んでいきます。教会の教えでは禁酒は定められていませんが節度を保つよう促しています。彼女の飲む勢いは普段聖職者が口にする酒の量をはるかに超えていますね。本当は酒が飲みたかっただけでは?
私も後ろで控えているわけにもいかなかったので同席。さすがに未成年の身で飲むわけにもいかないので、彼らの目を盗んで浄化の奇蹟を施します。正直、アルコールが抜けた酒なんて不味いだけで泣けます。
で、飲めば出したくなるのはどうしようもない生理現象で。男性陣は時々中座して少し離れた場所で用を足します。そうやっていたるところで立ちションするから臭いんですよ。もうこの区画一帯が公衆便所かのようです。
「姉ちゃんたちもしたくなったらしに行ってもいいんだぜ」
「何ならオレが飲んでやろうか? がっははは!」
「んじゃあ遠慮なく」
「えっ?」
前世のわたし風に言うなら男性陣の発言は完全に下ネタに分類されます。そこで言われた女性陣が恥じらうのか怒るのか、とにかく反応を楽しみたかったのでしょう。他の浮浪者達もツボに入ったのか笑い声をあげます。
ですがルクレツィアは平然と下品な言葉を受け止めると、本当にすぐ傍の壁めがけて用を足すではありませんか! しかもしゃがみもしません。呆気にとられて危うく持っていたコップを取り落とすところでした。
「ふー、すっきりした。ん? どうしたの、そんな驚いちゃってさ」
「いや、なんつーか。女でも出来たんだなって」
「やり方さえ覚えれば楽だからね。旅の途中でもよおした時に一々衣服を捲ってしゃがんで拭いてたんじゃあ面倒でしょう?」
「そりゃそうだ!」
男性陣には大受けだったようです。私はとてもこの雰囲気に付いていけなかったのでかろうじて苦笑するのが精一杯でした。私は何をやっているんだろう、早く帰りたい、猛烈にこの場をお開きにしてほしいとまで考えてしまいます。
そんな私の内心を読み取ったのか、ルクレツィアは私の肩に手を置いて静かに顔を横に振ります。酔いが回っていて多少緩んでいましたが、その瞳の力強さはまだ鈍っていないようでした。
「ところでさ、最近教会ってどんな感じなの? この近所にも何か壁に落書きしたくなるぐらいご立派な建物がそびえてたけどさ」
「おー、あそこはわりと良くしてくれるぞ。週に一回は様子を聞きに来るし悩みも親身に聞いてくれるしな」
「たまに炊き出しもしてくれるんだ。それが温かくてありがてえんだよな」
「この前は火を起こしてお湯を配ったりしてくれてな。衛生的だか何だか知らねえが、身体を綺麗にするなんてそん時ぐらいしか頭が回らねえからよ」
「へえ、結構献身的なんだ。でもそれってあくまでその場しのぎなんじゃないの?」
「神父さんも俺達が自立出来るよう働き口を斡旋してくれる時もあるんだけどよ、限られてるんだわ」
「結局教会一つが頑張ったところでオレ達は救われねえってことだよな」
いよいよルクレツィアは本題へと踏み込むべく話題を振っていきます。警戒心を完全に解いた浮浪者達は酔っているのもあって本音を洗いざらい喋ってくれました。ルクレツィアも彼らが気分を害さないよう相槌を何度か打ちます。
「でもさ、最近怪我や病気を治しに聖女がやってくるって町では聞いたんだけど、本当なの?」
「おう、本当だよ。聖女様はこんな汚らしいオレ達にも手を差し伸べてくれるんだ」
「オレんトコのおふくろも治してくれてな。しかも治ったら一緒になって喜んでくれたんだよ」
「オレも嫁が引きずってた足を治してもらった! おかげで嫁は二言目には聖女様聖女様って言うようになっちまったよ」
彼らは聖女がいかに素晴らしかったかを熱く語りました。この場にいる方のほとんどが野良聖女の世話になっているのは驚きでした。中には野良聖女を崇拝する者もいるほどで、よほど彼らにとって救いとなっているのかが分かります。
ただ聖女への賛辞はやがて教会への不満へと変わっていきます。いつまで経っても日々を生きるだけで精一杯な彼らの生活環境が改善される気配が無いからでしょう。教会が政治もつかさどる教国ならではの傾向です。
「それにしてもよ、神父さんトコの教会とか聖女様は俺達を気にかけてくれるのによ、教会総本山は一向に改善しようとしないんだぜ」
「いい飲みっぷりだな姉ちゃん! しかし何も俺達と飲まなくたって良かったんじゃねえか?」
「町は町、村は村。飲む場所が違えばまた違った面白さがある、ってね。それとも何か、貴方は私にお城でお上品にちびちび酒を飲めって?」
「あっははは! 違いねえ! あんな格好つけて酒が楽しめるかっての!」
正義の聖女様は浮浪者達とあおるように酒を飲んでいきます。教会の教えでは禁酒は定められていませんが節度を保つよう促しています。彼女の飲む勢いは普段聖職者が口にする酒の量をはるかに超えていますね。本当は酒が飲みたかっただけでは?
私も後ろで控えているわけにもいかなかったので同席。さすがに未成年の身で飲むわけにもいかないので、彼らの目を盗んで浄化の奇蹟を施します。正直、アルコールが抜けた酒なんて不味いだけで泣けます。
で、飲めば出したくなるのはどうしようもない生理現象で。男性陣は時々中座して少し離れた場所で用を足します。そうやっていたるところで立ちションするから臭いんですよ。もうこの区画一帯が公衆便所かのようです。
「姉ちゃんたちもしたくなったらしに行ってもいいんだぜ」
「何ならオレが飲んでやろうか? がっははは!」
「んじゃあ遠慮なく」
「えっ?」
前世のわたし風に言うなら男性陣の発言は完全に下ネタに分類されます。そこで言われた女性陣が恥じらうのか怒るのか、とにかく反応を楽しみたかったのでしょう。他の浮浪者達もツボに入ったのか笑い声をあげます。
ですがルクレツィアは平然と下品な言葉を受け止めると、本当にすぐ傍の壁めがけて用を足すではありませんか! しかもしゃがみもしません。呆気にとられて危うく持っていたコップを取り落とすところでした。
「ふー、すっきりした。ん? どうしたの、そんな驚いちゃってさ」
「いや、なんつーか。女でも出来たんだなって」
「やり方さえ覚えれば楽だからね。旅の途中でもよおした時に一々衣服を捲ってしゃがんで拭いてたんじゃあ面倒でしょう?」
「そりゃそうだ!」
男性陣には大受けだったようです。私はとてもこの雰囲気に付いていけなかったのでかろうじて苦笑するのが精一杯でした。私は何をやっているんだろう、早く帰りたい、猛烈にこの場をお開きにしてほしいとまで考えてしまいます。
そんな私の内心を読み取ったのか、ルクレツィアは私の肩に手を置いて静かに顔を横に振ります。酔いが回っていて多少緩んでいましたが、その瞳の力強さはまだ鈍っていないようでした。
「ところでさ、最近教会ってどんな感じなの? この近所にも何か壁に落書きしたくなるぐらいご立派な建物がそびえてたけどさ」
「おー、あそこはわりと良くしてくれるぞ。週に一回は様子を聞きに来るし悩みも親身に聞いてくれるしな」
「たまに炊き出しもしてくれるんだ。それが温かくてありがてえんだよな」
「この前は火を起こしてお湯を配ったりしてくれてな。衛生的だか何だか知らねえが、身体を綺麗にするなんてそん時ぐらいしか頭が回らねえからよ」
「へえ、結構献身的なんだ。でもそれってあくまでその場しのぎなんじゃないの?」
「神父さんも俺達が自立出来るよう働き口を斡旋してくれる時もあるんだけどよ、限られてるんだわ」
「結局教会一つが頑張ったところでオレ達は救われねえってことだよな」
いよいよルクレツィアは本題へと踏み込むべく話題を振っていきます。警戒心を完全に解いた浮浪者達は酔っているのもあって本音を洗いざらい喋ってくれました。ルクレツィアも彼らが気分を害さないよう相槌を何度か打ちます。
「でもさ、最近怪我や病気を治しに聖女がやってくるって町では聞いたんだけど、本当なの?」
「おう、本当だよ。聖女様はこんな汚らしいオレ達にも手を差し伸べてくれるんだ」
「オレんトコのおふくろも治してくれてな。しかも治ったら一緒になって喜んでくれたんだよ」
「オレも嫁が引きずってた足を治してもらった! おかげで嫁は二言目には聖女様聖女様って言うようになっちまったよ」
彼らは聖女がいかに素晴らしかったかを熱く語りました。この場にいる方のほとんどが野良聖女の世話になっているのは驚きでした。中には野良聖女を崇拝する者もいるほどで、よほど彼らにとって救いとなっているのかが分かります。
ただ聖女への賛辞はやがて教会への不満へと変わっていきます。いつまで経っても日々を生きるだけで精一杯な彼らの生活環境が改善される気配が無いからでしょう。教会が政治もつかさどる教国ならではの傾向です。
「それにしてもよ、神父さんトコの教会とか聖女様は俺達を気にかけてくれるのによ、教会総本山は一向に改善しようとしないんだぜ」
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