神託など戯言です ~大聖女は人より自分を救いたい~

福留しゅん

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第3-1章 私は聖地より脱出しました

浄化の聖女は降伏を決断しました

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「敵の侵攻は何とか阻むとして、聖国国民全員を逃がす船は準備出来そう?」
「極めて厳しいかと……。たとえ船荷を人に変えて無理に詰め込んだとしても、航海中の食糧が足りません」
「陸路で教会圏の国まで逃げるには距離が遠すぎるし……。昨日の夜会でも国王には進言したけれど、やっぱり降伏した方がいいんじゃない?」
「せ……聖女様は聖地を異教徒共に明け渡すと仰るのですか?」

 昨日リッカドンナが現実的な案を国王にぶつけた際は鼻で笑われましたが、今度の貴族達の反応にはあからさまな戸惑いがありました。やはり君主や有力者を失って大義よりも命が惜しくなり始めたのでしょう。今の私はそれを罪や恥とは思いません。

「じゃあ最後の一人まで徹底抗戦して無駄死にしたいの? 勝算があるなら聞いてもいいわよ。素人のあたしには全然思いつけないから」
「ろ……籠城策は如何でしょうか? 聖域の聖女様が戻られるまで耐えれば……」
「たった一日で市街地付近まで迫られた挙句に国王を討ち取られたのに? 昨晩だってあたし達が散々追い回したのに結局寵姫達は捕まえられなかったし。きっと彼女達、唯一対抗できる奇蹟持ちのあたし達を避けるよう立ち回ってくるでしょうね」

 昨日はまだ単身で突撃しても討ち取れる自信があったから無謀を冒したのでしょう。しかし私達が彼女達に引けを取らないのだと分かった今、私達から逃げつつ戦場を縦横無尽に駆け回られたら対処しようがありません。私達の行動はラーニヤに筒抜けですから。

「降伏して相手側の譲歩を引き出すか、アウローラ様方の帰還に望みをかけるか。今すぐ決めて頂戴」
「い、今すぐですか!?」
「当たり前でしょうよ! 聖域の結界は全部破られた今、あたし達はもう崖っぷちに立たされてるのよ! 明日の太陽を拝めるかも分からないのに悠長な事言わないで!」

 リッカドンナが畳みかけるように怒鳴ると貴族達は皆目に見えて狼狽えました。もはや聖地守護を唱える者はいないのだとその様子だけで分かりました。これも見越してマジーダ達は理想を掲げて現実を見ない夢想家をその手にかけたのでしょうか?

「……分かりました。浄化の聖女様の仰る通り、人の命には代えられませんな」

 その後、煮え切らない貴族達は意見を交わしましたが有効な打開策は見いだせず、結局最後はリッカドンナの意見に賛同しました。こうして多くの資金、資材、人材を投入して奪還した聖地は再び失われることとなったのです。

「しかし浄化の聖女様。国王陛下や宰相閣下方が亡くなった今、交渉に臨める者がおりません。本来なら我々の中から代表者を選ぶべきなのでしょうが……」
「言い出したのはあたしだからあたしが交渉に行くわ」
「「「……っ!」」」
「なりません聖女様!」

 貴族がリッカドンナのお伺いを立てる有様は正直な話気に入りませんでした。リッカドンナが初めから自分が赴く気だったから良かったものを、保身のあまりに聖女に責任を押し付けようとする浅ましさには辟易します。

 案の定お付きの神官がリッカドンナを咎めましたが、折角まとまりかけてたのに余計な真似を、と嫌悪感を顔に出した貴族が少なからずいました。……ここまで教会と聖国の認識が乖離していると、どうして教会直轄領にしなかったのか疑問が湧きますね。

「聖地が失われる今、貴女様は聖都まで無事帰って頂かねばいけません!」
「交渉の席に聖女を引っ張り出すのも狙いの一つなのかもしれないわね。相応しい存在がもうあたし以外いなくなっちゃってるんだもの」
「せ……聖女様がそのように仰られるのなら、わたくし共が命を捨てる覚悟でその身をお守りいたします」
「……いえ、多分その必要は無いと思うわ」

 リッカドンナは一同から視線を逸らして窓の外を眺めました。追い込まれた私達の心境とは裏腹に空は僅かに雲がかかる程度に済んだ青色が広がっています。暖かな日差しが降り注ぐ聖地の街が広がっていますが、この景色も過去のものとなるのでしょうか?

 ■■■

 結論から言いますとリッカドンナの予想通り彼女は護衛を伴わずに獣人達との交渉に臨むことになりました。同伴者は私のみ。そして相対するのは寵姫二名。両軍の陣地の中央まで歩み寄り、会談を行いました。

『いいぜ。聖女とか呼ばれてる奴らの身柄と引き換えならな』

 そして、マジーダは決して受け入れられない条件を突き付けてきたのです。
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