25 / 70
いざ入学を迎える元悪役令嬢
しおりを挟む
いよいよ学園に通い始める日がやってきた。
私は王宮勤めとはいえジョアン様やレオノール付きではない。したがって登下校の際にあの方々に同行することもない。外部の者の立ち入りを禁じている学園内であっても彼らの周りに集うのは側近やご友人であり、私の出る幕は無い。
それでも初日の今日だけは一つ確認したいことがあり、私はジョアン様が丁度学園に到着する時刻に着くよう王宮使用人寮を出発する。空は白い雲がわずかに漂うだけで天気は快晴。なのに私の心の中は暗雲が立ち込めていた。
(確か、校舎に向かう途中でイサベルとジョアン様がぶつかるのよね)
かつてレオノールだった頃、ジョアン様がぶつかった拍子に倒れかけたイサベルを抱きかかえて助けた。少し遅れて歩いていた私はその現場を目撃して、その時はまだ余裕があったから些事だと受け流したのだったか。
(それがきっかけだったと気付いた時にはもう手遅れだったのだけれど、ね)
既にジョアン様もレオノールも私が知る二人ではなくなっている。便宜上前回と呼称するが、それでも前回と同じことが起こるのかは絶対に確認しなくてはいけない。その結果次第で今後の立ち回りを大きく変えなくてはならないから。
結論から言うと、見事にかつての展開をなぞるようにソレは起こった。
物珍しそうに辺りを見渡しながら歩くカレン……いや、もうこれからは彼女が名乗るとおりイサベルと呼んでしまおう。とにかくイサベルは足元が見えておらず、敷き詰められた石畳のほんのわずかな段差につま先をひっかけてしまった。
倒れつつあったイサベルの胴体に鍛えられた腕が回った。たまたま近くにいたジョアン様が咄嗟に反応したのだ。イサベルの体重がかかってもジョアン様はびくともせず、力強く、そして頼もしく彼女を抱き起こす。
「大丈夫だったか?」
「あ……は、はいっ。ありがとうございます!」
手を離したジョアン様にイサベルは元気いっぱいに感謝を述べて頭を下げた。
レオノールだった頃はそんなイサベルに王太子に対する礼儀がなってないと憤りを覚えたものだが、カレン目線で見るとまた別の感想を抱いた。
(イサベルったら、まだ最低限の礼儀作法すら身に着けてないの!?)
レオノールとしてのイサベルの評価は平民同然の男爵令嬢風情、みたいな感じだったか。正直言おう、それすらも生温かったと声を出したい。
(イサベルったら男爵家に引き取られてから何年経ったと思ってるの?)
貴族の仲間入りが思わぬ幸運だったにせよ、転がり込んだ絶好の機会を最大限生かそうとするものではないのか? 必死になって貴族令嬢としての行儀を身体に叩き込み、教養を習得し、少しでも良い縁談に結びつけるべきだろう。
元は平民だったから、なんて言い訳に過ぎない。己を磨かずして何が貴族令嬢か。明らかな怠慢だろう。かつてのイサベルはどうだったか知らないが、今のカレンは男爵令嬢という身分を明らかに嘗めている。
もしくは……。
(そんなイサベルでいることが重要なのかもね)
男爵令嬢イサベルは垢抜けずに貴族らしくない。そんな小娘だったからこそジョアン様方そうそうたる殿方が惹かれたのかもしれない。例えが悪いが、普段の贅沢な料理に飽きた貴族が庶民の雑な食べ物に食指が伸びるみたいな感覚か。
少なくとも私からイサベルの名と立場を奪うほどしたたかだったカレンだ。天然でそんな振る舞いをするとは思えない。計算ずくでイサベルを演じているんだとしたら我が実の姉ながら相当な曲者と言わざるを得ない。
打算の上だとしたら相当なしたたかさだ。評価を改めなくてはいけないだろう。
「あ、あの。わたし、イサベルって言います。お名前を聞いてもいいですか?」
私の思考を余所にイサベルは大胆にもジョアン様のお名前を尋ねた。
本来なら身分の差を無視した有様は注意すべきだろう。なのにこの場の誰も発言しようとしなかった。関わりたくなかった私はともかく、視界に入る学園生徒は誰もが貴族の家の子息息女なのだから、一人ぐらい指摘してもいいだろうに。
あまりに予想外な事態だから咄嗟に判断出来ないのかもしれない。それともジョアン様が特に窘める様子がないから静観しているのだろうか。しかしこうした一つ一つの見逃しがイサベルの増長を招いたと考えると……と思わざるを得なかった。
私は王宮勤めとはいえジョアン様やレオノール付きではない。したがって登下校の際にあの方々に同行することもない。外部の者の立ち入りを禁じている学園内であっても彼らの周りに集うのは側近やご友人であり、私の出る幕は無い。
それでも初日の今日だけは一つ確認したいことがあり、私はジョアン様が丁度学園に到着する時刻に着くよう王宮使用人寮を出発する。空は白い雲がわずかに漂うだけで天気は快晴。なのに私の心の中は暗雲が立ち込めていた。
(確か、校舎に向かう途中でイサベルとジョアン様がぶつかるのよね)
かつてレオノールだった頃、ジョアン様がぶつかった拍子に倒れかけたイサベルを抱きかかえて助けた。少し遅れて歩いていた私はその現場を目撃して、その時はまだ余裕があったから些事だと受け流したのだったか。
(それがきっかけだったと気付いた時にはもう手遅れだったのだけれど、ね)
既にジョアン様もレオノールも私が知る二人ではなくなっている。便宜上前回と呼称するが、それでも前回と同じことが起こるのかは絶対に確認しなくてはいけない。その結果次第で今後の立ち回りを大きく変えなくてはならないから。
結論から言うと、見事にかつての展開をなぞるようにソレは起こった。
物珍しそうに辺りを見渡しながら歩くカレン……いや、もうこれからは彼女が名乗るとおりイサベルと呼んでしまおう。とにかくイサベルは足元が見えておらず、敷き詰められた石畳のほんのわずかな段差につま先をひっかけてしまった。
倒れつつあったイサベルの胴体に鍛えられた腕が回った。たまたま近くにいたジョアン様が咄嗟に反応したのだ。イサベルの体重がかかってもジョアン様はびくともせず、力強く、そして頼もしく彼女を抱き起こす。
「大丈夫だったか?」
「あ……は、はいっ。ありがとうございます!」
手を離したジョアン様にイサベルは元気いっぱいに感謝を述べて頭を下げた。
レオノールだった頃はそんなイサベルに王太子に対する礼儀がなってないと憤りを覚えたものだが、カレン目線で見るとまた別の感想を抱いた。
(イサベルったら、まだ最低限の礼儀作法すら身に着けてないの!?)
レオノールとしてのイサベルの評価は平民同然の男爵令嬢風情、みたいな感じだったか。正直言おう、それすらも生温かったと声を出したい。
(イサベルったら男爵家に引き取られてから何年経ったと思ってるの?)
貴族の仲間入りが思わぬ幸運だったにせよ、転がり込んだ絶好の機会を最大限生かそうとするものではないのか? 必死になって貴族令嬢としての行儀を身体に叩き込み、教養を習得し、少しでも良い縁談に結びつけるべきだろう。
元は平民だったから、なんて言い訳に過ぎない。己を磨かずして何が貴族令嬢か。明らかな怠慢だろう。かつてのイサベルはどうだったか知らないが、今のカレンは男爵令嬢という身分を明らかに嘗めている。
もしくは……。
(そんなイサベルでいることが重要なのかもね)
男爵令嬢イサベルは垢抜けずに貴族らしくない。そんな小娘だったからこそジョアン様方そうそうたる殿方が惹かれたのかもしれない。例えが悪いが、普段の贅沢な料理に飽きた貴族が庶民の雑な食べ物に食指が伸びるみたいな感覚か。
少なくとも私からイサベルの名と立場を奪うほどしたたかだったカレンだ。天然でそんな振る舞いをするとは思えない。計算ずくでイサベルを演じているんだとしたら我が実の姉ながら相当な曲者と言わざるを得ない。
打算の上だとしたら相当なしたたかさだ。評価を改めなくてはいけないだろう。
「あ、あの。わたし、イサベルって言います。お名前を聞いてもいいですか?」
私の思考を余所にイサベルは大胆にもジョアン様のお名前を尋ねた。
本来なら身分の差を無視した有様は注意すべきだろう。なのにこの場の誰も発言しようとしなかった。関わりたくなかった私はともかく、視界に入る学園生徒は誰もが貴族の家の子息息女なのだから、一人ぐらい指摘してもいいだろうに。
あまりに予想外な事態だから咄嗟に判断出来ないのかもしれない。それともジョアン様が特に窘める様子がないから静観しているのだろうか。しかしこうした一つ一つの見逃しがイサベルの増長を招いたと考えると……と思わざるを得なかった。
18
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がキレる時
リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき
ざまぁしてみせましょ
悪役令嬢の名にかけて!
========
※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。
あらかじめご承知おき下さい
突発で書きました。
4話完結です。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
皆様、お待ちかねの断罪の時間です!!~不遇の悪役顔令嬢の思うがままに~
古駒フミ
恋愛
毒親に取り上げられたゲーム――華やかなヒロインが『誰か』を救済していく物語。その世界に転生したのが、没落令嬢のアマリア・グラナト・ペタイゴイツァ。悪役顔の彼女には婚約者がいた。学園に通う彼の卒業をもって、婚姻となっていた――が。
婚約者の行方が知れない……どころではなかった。彼の『存在自体』が消えつつあった。
婚約者の安否を求めて、アマリアは学園に編入することになった。
ここは名門プレヤーデン学園。雁字搦めの牢獄のような学園、楽しみも何もないところと……ただ。
生徒の夢の中に現れるのが――『劇場街』。醜聞にまみれた生徒を観劇する、数少ない娯楽に溢れた場所。
奇しくもゲームの舞台となった学園、ゲームのヒロイン同様、消えつつある『誰か』の存在を救う為に奮闘していくことになる――。
「―そちらのご令嬢を罰するのは、この私よ」
――これは敗北から始まる物語。折れなかった『悪役』が舞台に返り咲いていく。
恋焦がれた『誰か』を取り戻す為に。
最近のよくある乙女ゲームの結末
叶 望
恋愛
なぜか行うことすべてが裏目に出てしまい呪われているのではないかと王妃に相談する。実はこの世界は乙女ゲームの世界だが、ヒロイン以外はその事を知らない。
※小説家になろうにも投稿しています
悪魔が泣いて逃げ出すほど不幸な私ですが、孤独な公爵様の花嫁になりました
ぜんだ 夕里
恋愛
「伴侶の記憶を食べる悪魔」に取り憑かれた公爵の元に嫁いできた男爵令嬢ビータ。婚約者は皆、記憶を奪われ逃げ出すという噂だが、彼女は平然としていた。なぜなら悪魔が彼女の記憶を食べようとした途端「まずい!ドブの味がする!」と逃げ出したから。
壮絶な過去を持つ令嬢と孤独な公爵の、少し変わった結婚生活が始まる。
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる