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追い打ちする悪役令嬢に感心する元悪役令嬢

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「王太子殿下! お言葉ですがレオノール嬢は貴方に――」
「は? 嘘を言っているとでも言うつもりか? 少なくとも一人の小娘に現を抜かすお前達よりははるかに信頼するに値すると断言できるがな」
「なっ……!」

 公爵令嬢かつ王太子の婚約者であるレオノールを王太子自らが糾弾することで多少論法が強引だろうと説得力があったが、今回はレオノールの味方……というより公平だった。それではレオノールまで罪を波及させるには弱すぎる。

「そもそもフェリペ様。貴方様は根本的な思い違いをしています」
「思い違い、だと……?」
「百歩譲って私がドゥルセ様方をイサベルさんにけしかけたんだとしても、その主張が認められると本気で思っているのですか?」
「……は?」

 そして、レオノールの更なる反撃にもはやフェリペ様は動揺を隠しきれていなかった。

「フェリペ様方がいくら訴えようと、証言を揃えようと、私は主張を曲げる気はありません。話が平行線な以上は争いは裁判まで持ち込まれるのでしょうが……勝てると本気で思っているのですか?」
「それ、は……」
「その訴えは公爵家や私を選出してくださった王室の名誉の毀損にもあたります。目に余るほどの醜態を晒していないのなら黙認される、とは思わなかったのですか?」
「そんな真似が……そんな真似が許される筈がない!」
「それはフェリペ様方だけのご意見であり、この社会における常識ではありませんよ」

 フェリペ様は言葉を詰まらせた。もうレオノールへの攻め口が見つからないだろう。

 もはや擁護不可能なほどに堕ちてしまった私と異なりレオノールは無実の罪を被せられようとしている。なら、多少疑わしい程度であれば公爵家が全面的に庇うだろうとは想像に難くない。むしろ王家の沽券に関わるとされて国自体が動くかもしれない。

 宰相が何だ? 大将軍が何だ? レオノールは建国以来王室と共に国を支えてきた公爵家の娘だ。王室の後ろ盾が無くてもその権威は計り知れない。侮辱するのであれば受けて立ってやる。そう彼女は暗にこう宣言しているのだ。

「話は終わりですか? これ以上この場で続けるのは無意味ですから、どうしてもと仰るのでしたら司法の場に移るとしましょう」
「白々しい……! いいだろう、あくまで罪を認めないというのであれば――」
「駄目ですフェリペ様!」

 大勢が決したとばかりに締めくくろうとするレオノールに乗ろうとしたフェリペ様を止めたのは他でもない、イサベルだった。彼にしがみついた我が姉は涙を潤ませて上目遣いでフェリペ様を見つめる。実に庇護欲をそそられる仕草で、あざとい。

「もう、いいんです。わたし、大丈夫ですから。フェリペ様が強く言ってくださっただけで十分です。もう、わたしのために争わないでください」
「イサベル……だがレオノール嬢から謝罪されてないじゃないか」
「ドゥルセ様が謝ってくれたじゃないですか。わたしはそれで満足ですから」
「ああ、愛しのイサベルはなんて優しいんだ」

 フェリペ様は愛おしそうにイサベルを抱き締めた。イサベルもまたフェリペ様にその体を預ける。愛し合う二人は互いしか視界に映っていないかのようだ。何を見せれているんだ、と困惑する周りの反応などお構いなしだ。

「訴えは取り下げよう。イサベルの寛大な心に感謝するのだな」

 いかにも許してやった的な言い回しだが、そもそも根拠のない因縁をつけたのはフェリペ様の方だ。この有様は自作自演の例として歴史書に記されるべきだろう。案の定幾人かが彼を哀れんだ目で見つめているではないか。

 一方のイサベルはさすがと言うか幕引き時を見極めている。あれ以上深く踏み込めば侮辱、反逆の類で罪を問われるのは彼女等の方だろう。今ならぎりぎりで鼻の下を伸ばした愚か者達の喜劇だけで済まされる。

 ――尤も、レオノール当人はそれで終わりにするつもりがないようだが。

「ところでフェリペ様。先程イサベルさんと結婚すると仰っていましたが、嘘ではありませんね?」
「勿論本気だ。前例がないわけではないだろう?」
「そうですか。では私からささやかながら贈り物がございますので、どうぞお受け取り下さいませ」

 優雅に振る舞っていたレオノールは顔を上げる……途中だった。一瞬だけだがレオノールはほくそ笑んでいた。その様子は他でもない、この私がイサベルへの勝利を確信した時に浮かべていた、レオノールの言う『悪役令嬢』そのものだった。

 レオノールは手を二回叩く。するといつの間に待機していたのか、会場内に王宮近衛兵達がなだれ込んできた。国の要を守護する精鋭達だけあって全身鎧は豪奢かつ重厚な造りで、迫りくる彼らはとても威圧感があった。

 そんな彼らは来客をかき分け、イサベルを捕まえたではないか。

「イサベルさんには魅了の邪視を悪用した嫌疑がかかっています」
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