元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる

福留しゅん

文字の大きさ
68 / 70

悪役令嬢に戻った元悪役令嬢

しおりを挟む
「そのせいでわたしは偽物って疑われて首を折られかけたんだけれど?」
「ええ。目論見は見事に成功。思った以上に早く看破してくれて私も嬉しいわ」

 なんてはた迷惑な、と思っても仕方が無いだろう。そこまでイレーネの忠義を確かめたかった理由はうかがい知れないが、少なくとも私はそこまで彼女と信頼関係を結んでいなかった。これも私とレオノールの違いだろう。

 イレーネは私をしばらく見つめ、次に元レオノールを見つめ、最後にため息を漏らす。

「……混乱するしかありませんが、やはり貴女様がお嬢様なのですね」
「もうお嬢様って呼ばないでもらえる? レオノールの名は彼女に譲っちゃったんだから。今の私はカレンなんだから」
「しかし……」
「あら。折角イレーネのためにレオノールをやめたんだけれど、無駄だったかしら?」
「私のために、ですか……?」
「だってこれで私は公爵家の娘ではなくなったんだもの。それともただの小娘になった私なんてどうでも良くなった?」
「……!」

 イレーネは目元と唇を震わせ、涙をあふれさせながら元レオノールへと駆け寄った。そして愛おしそうに彼女を抱き締める。イレーネの腕に包まれた元レオノールもまたイレーネの背中に腕を回し、幸せそうに抱き返した。

 意味が分からなかった。これでは主従はおろか姉妹よりも大事なお互いと想いを確かめ合っているようではないか。それこそまるで愛し合う男女のように。女同士で? レオノールとイレーネが? 理解が追い付かない。

「カレン、なんて馬鹿な……私のために……!」
「イレーネのためだからよ。こうでもしなきゃ報われなかったでしょう? もうこれで誰にも文句は言わせないわ」
「すみませんお嬢様……。どうか一生傍にいさせてください」
「ええ、これからもずっと私を支えて頂戴」

 相手を想う言葉を送り合ってようやく置いてきぼりにされた私を思い出したようで、元レオノールがまだわずかに顔を赤く染めながらも微笑を向けてきた。

「その、何て言えばいいのかな? 祝福したいんだけれどまず説明してよ」
「そうね。『悪役令嬢』レオノールは決してイレーネの真実にはたどり着けなかったんだから知らなくて当然よ」
「イレーネの真実?」
「公爵家の闇とも言い換えてもいいわ。カレンは昔、イレーネに裏切られたでしょう?」
「……そこまで知られているんじゃあ秘密も何もあったものじゃないよ」
「どうして終盤まで『悪役令嬢』に忠義を尽くした侍女が裏切ったか。答えは簡単。イレーネもまた『攻略対象者』だから」

 それは以前レオノールがしてくれた『乙女ゲーム』の説明とかみ合わない。これまで運命に翻弄されてきたただの少女が素敵な殿方と恋に落ちるのがソレだろう。女同士の恋はまた別の『ジャンル』だそうだから、おかしな話だ。

 この矛盾を解決するには、前提条件を覆さないといけない。即ち……、

「まさか、イレーネは……」
「そう、男性よ」

 今明かされる衝撃の真実とはこのことだ。
 それでは今まで私が信じてきたレオノールとしての人生は一体何だったのか、とすら疑問を抱いてしまうほどの。

 レオノールの更なる追い打ちをまとめると、イレーネは現公爵と愛人との間の庶子らしい。しかし公爵は庶子は必要無いから生むなと愛人に命令。妥協点として庶子に子供を産ませなくすることを条件に誕生を許可したんだとか。

「普通に最低じゃないの!」
「あ、その反応とってもレオノールっぽいわ」
「……っ。茶化さないで……!」

 使用人の子として預けられたイレーネだったが、幼少期に偶然レオノールと出会って彼女に(というより私もだが)気に入られたことで公爵令嬢専属の従者となった。しかし、腹違いの兄妹とはいえ二人は男女。間違いが無いとも限らない。

 だからイレーネは『二次性徴』とやらを薬で止められた。彼女……もとい、彼が中性的な女性と間違えられるのはそのためだ。

「『乙女ゲーム』では『ヒロイン』がその呪縛から解き放つのだけれど、イレーネは私の一推し『キャラ』だったから先に攻略しちゃったってわけ」
「その表現は不快です。やめてください」
「……ええ、初めは『推しキャラ』だったからイレーネを好きになったけれど、今では自分の半身のようにかけがえのない存在だと思えるわ」

 レオノールがイレーネを見つめる表情は恋する乙女のものだった。カレンはこんな顔も出来るんだ、と漠然とした感想を抱く。互いを愛おしく見つめ、徐々に唇が近づいていく。もはや私や元の身体なんて眼中にないらしい。

「お嬢様……」
「お願いだから名前で呼んで。カレンになっちゃったけれど、今だけは……」
「……レオノール。心から愛している」

 そうして二人は幸せそうに口づけを交わした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~

古堂 素央
恋愛
【完結】 「なんでわたしを突き落とさないのよ」  学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。  階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。  しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。  ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?  悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!  黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

どちらの王妃でも問題ありません【完】

mako
恋愛
かつて、広大なオリビア大陸にはオリビア帝国が大小合わせて100余りある国々を治めていた。そこにはもちろん勇敢な皇帝が君臨し今も尚伝説として、語り継がれている。 そんな中、巨大化し過ぎた帝国は 王族の中で分別が起こり東西の王国として独立を果たす事になり、東西の争いは長く続いていた。 争いは両国にメリットもなく、次第に勢力の差もあり東国の勝利として呆気なく幕を下ろす事となった。 両国の友好的解決として、東国は西国から王妃を迎え入れる事を、条件として両国合意の元、大陸の二大勢力として存在している。 しかし王妃として迎えるとは、事実上の人質であり、お飾りの王妃として嫁ぐ事となる。 長い年月を経てその取り決めは続いてはいるが、1年の白い結婚のあと、国に戻りかつての婚約者と結婚する王女もいた。 兎にも角にも西国から嫁いだ者が東国の王妃として幸せな人生を過ごした記録は無い。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

婚約破棄された悪役令嬢ですが、英雄にも聖女にもなりません

鷹 綾
恋愛
王太子からの婚約破棄。 悪役令嬢として断罪され、処刑エンド確定―― その瞬間、エレナは前世の記憶を思い出した。 ここは乙女ゲームの世界。 そして自分は、必ず破滅する“悪役令嬢”。 だが彼女は、復讐も、英雄になることも選ばなかった。 正義を掲げれば、いずれ誰かに利用され、切り捨てられると知っていたから。 エレナが選んだのは、 「正しさ」を振りかざさず、 「責任」を一人で背負わず、 明日も続く日常を作ること。 聖女にも、英雄にもならない。 それでも確かに、世界は静かに変わっていく。 派手なざまぁはない。 けれど、最後に残るのは―― 誰も処刑されず、誰か一人が犠牲にならない結末。 これは、 名前の残らない勝利を選んだ悪役令嬢の物語。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

処理中です...