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悪役令嬢に戻った元悪役令嬢
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「そのせいでわたしは偽物って疑われて首を折られかけたんだけれど?」
「ええ。目論見は見事に成功。思った以上に早く看破してくれて私も嬉しいわ」
なんてはた迷惑な、と思っても仕方が無いだろう。そこまでイレーネの忠義を確かめたかった理由はうかがい知れないが、少なくとも私はそこまで彼女と信頼関係を結んでいなかった。これも私とレオノールの違いだろう。
イレーネは私をしばらく見つめ、次に元レオノールを見つめ、最後にため息を漏らす。
「……混乱するしかありませんが、やはり貴女様がお嬢様なのですね」
「もうお嬢様って呼ばないでもらえる? レオノールの名は彼女に譲っちゃったんだから。今の私はカレンなんだから」
「しかし……」
「あら。折角イレーネのためにレオノールをやめたんだけれど、無駄だったかしら?」
「私のために、ですか……?」
「だってこれで私は公爵家の娘ではなくなったんだもの。それともただの小娘になった私なんてどうでも良くなった?」
「……!」
イレーネは目元と唇を震わせ、涙をあふれさせながら元レオノールへと駆け寄った。そして愛おしそうに彼女を抱き締める。イレーネの腕に包まれた元レオノールもまたイレーネの背中に腕を回し、幸せそうに抱き返した。
意味が分からなかった。これでは主従はおろか姉妹よりも大事なお互いと想いを確かめ合っているようではないか。それこそまるで愛し合う男女のように。女同士で? レオノールとイレーネが? 理解が追い付かない。
「カレン、なんて馬鹿な……私のために……!」
「イレーネのためだからよ。こうでもしなきゃ報われなかったでしょう? もうこれで誰にも文句は言わせないわ」
「すみませんお嬢様……。どうか一生傍にいさせてください」
「ええ、これからもずっと私を支えて頂戴」
相手を想う言葉を送り合ってようやく置いてきぼりにされた私を思い出したようで、元レオノールがまだわずかに顔を赤く染めながらも微笑を向けてきた。
「その、何て言えばいいのかな? 祝福したいんだけれどまず説明してよ」
「そうね。『悪役令嬢』レオノールは決してイレーネの真実にはたどり着けなかったんだから知らなくて当然よ」
「イレーネの真実?」
「公爵家の闇とも言い換えてもいいわ。カレンは昔、イレーネに裏切られたでしょう?」
「……そこまで知られているんじゃあ秘密も何もあったものじゃないよ」
「どうして終盤まで『悪役令嬢』に忠義を尽くした侍女が裏切ったか。答えは簡単。イレーネもまた『攻略対象者』だから」
それは以前レオノールがしてくれた『乙女ゲーム』の説明とかみ合わない。これまで運命に翻弄されてきたただの少女が素敵な殿方と恋に落ちるのがソレだろう。女同士の恋はまた別の『ジャンル』だそうだから、おかしな話だ。
この矛盾を解決するには、前提条件を覆さないといけない。即ち……、
「まさか、イレーネは……」
「そう、男性よ」
今明かされる衝撃の真実とはこのことだ。
それでは今まで私が信じてきたレオノールとしての人生は一体何だったのか、とすら疑問を抱いてしまうほどの。
レオノールの更なる追い打ちをまとめると、イレーネは現公爵と愛人との間の庶子らしい。しかし公爵は庶子は必要無いから生むなと愛人に命令。妥協点として庶子に子供を産ませなくすることを条件に誕生を許可したんだとか。
「普通に最低じゃないの!」
「あ、その反応とってもレオノールっぽいわ」
「……っ。茶化さないで……!」
使用人の子として預けられたイレーネだったが、幼少期に偶然レオノールと出会って彼女に(というより私もだが)気に入られたことで公爵令嬢専属の従者となった。しかし、腹違いの兄妹とはいえ二人は男女。間違いが無いとも限らない。
だからイレーネは『二次性徴』とやらを薬で止められた。彼女……もとい、彼が中性的な女性と間違えられるのはそのためだ。
「『乙女ゲーム』では『ヒロイン』がその呪縛から解き放つのだけれど、イレーネは私の一推し『キャラ』だったから先に攻略しちゃったってわけ」
「その表現は不快です。やめてください」
「……ええ、初めは『推しキャラ』だったからイレーネを好きになったけれど、今では自分の半身のようにかけがえのない存在だと思えるわ」
レオノールがイレーネを見つめる表情は恋する乙女のものだった。カレンはこんな顔も出来るんだ、と漠然とした感想を抱く。互いを愛おしく見つめ、徐々に唇が近づいていく。もはや私や元の身体なんて眼中にないらしい。
「お嬢様……」
「お願いだから名前で呼んで。カレンになっちゃったけれど、今だけは……」
「……レオノール。心から愛している」
そうして二人は幸せそうに口づけを交わした。
「ええ。目論見は見事に成功。思った以上に早く看破してくれて私も嬉しいわ」
なんてはた迷惑な、と思っても仕方が無いだろう。そこまでイレーネの忠義を確かめたかった理由はうかがい知れないが、少なくとも私はそこまで彼女と信頼関係を結んでいなかった。これも私とレオノールの違いだろう。
イレーネは私をしばらく見つめ、次に元レオノールを見つめ、最後にため息を漏らす。
「……混乱するしかありませんが、やはり貴女様がお嬢様なのですね」
「もうお嬢様って呼ばないでもらえる? レオノールの名は彼女に譲っちゃったんだから。今の私はカレンなんだから」
「しかし……」
「あら。折角イレーネのためにレオノールをやめたんだけれど、無駄だったかしら?」
「私のために、ですか……?」
「だってこれで私は公爵家の娘ではなくなったんだもの。それともただの小娘になった私なんてどうでも良くなった?」
「……!」
イレーネは目元と唇を震わせ、涙をあふれさせながら元レオノールへと駆け寄った。そして愛おしそうに彼女を抱き締める。イレーネの腕に包まれた元レオノールもまたイレーネの背中に腕を回し、幸せそうに抱き返した。
意味が分からなかった。これでは主従はおろか姉妹よりも大事なお互いと想いを確かめ合っているようではないか。それこそまるで愛し合う男女のように。女同士で? レオノールとイレーネが? 理解が追い付かない。
「カレン、なんて馬鹿な……私のために……!」
「イレーネのためだからよ。こうでもしなきゃ報われなかったでしょう? もうこれで誰にも文句は言わせないわ」
「すみませんお嬢様……。どうか一生傍にいさせてください」
「ええ、これからもずっと私を支えて頂戴」
相手を想う言葉を送り合ってようやく置いてきぼりにされた私を思い出したようで、元レオノールがまだわずかに顔を赤く染めながらも微笑を向けてきた。
「その、何て言えばいいのかな? 祝福したいんだけれどまず説明してよ」
「そうね。『悪役令嬢』レオノールは決してイレーネの真実にはたどり着けなかったんだから知らなくて当然よ」
「イレーネの真実?」
「公爵家の闇とも言い換えてもいいわ。カレンは昔、イレーネに裏切られたでしょう?」
「……そこまで知られているんじゃあ秘密も何もあったものじゃないよ」
「どうして終盤まで『悪役令嬢』に忠義を尽くした侍女が裏切ったか。答えは簡単。イレーネもまた『攻略対象者』だから」
それは以前レオノールがしてくれた『乙女ゲーム』の説明とかみ合わない。これまで運命に翻弄されてきたただの少女が素敵な殿方と恋に落ちるのがソレだろう。女同士の恋はまた別の『ジャンル』だそうだから、おかしな話だ。
この矛盾を解決するには、前提条件を覆さないといけない。即ち……、
「まさか、イレーネは……」
「そう、男性よ」
今明かされる衝撃の真実とはこのことだ。
それでは今まで私が信じてきたレオノールとしての人生は一体何だったのか、とすら疑問を抱いてしまうほどの。
レオノールの更なる追い打ちをまとめると、イレーネは現公爵と愛人との間の庶子らしい。しかし公爵は庶子は必要無いから生むなと愛人に命令。妥協点として庶子に子供を産ませなくすることを条件に誕生を許可したんだとか。
「普通に最低じゃないの!」
「あ、その反応とってもレオノールっぽいわ」
「……っ。茶化さないで……!」
使用人の子として預けられたイレーネだったが、幼少期に偶然レオノールと出会って彼女に(というより私もだが)気に入られたことで公爵令嬢専属の従者となった。しかし、腹違いの兄妹とはいえ二人は男女。間違いが無いとも限らない。
だからイレーネは『二次性徴』とやらを薬で止められた。彼女……もとい、彼が中性的な女性と間違えられるのはそのためだ。
「『乙女ゲーム』では『ヒロイン』がその呪縛から解き放つのだけれど、イレーネは私の一推し『キャラ』だったから先に攻略しちゃったってわけ」
「その表現は不快です。やめてください」
「……ええ、初めは『推しキャラ』だったからイレーネを好きになったけれど、今では自分の半身のようにかけがえのない存在だと思えるわ」
レオノールがイレーネを見つめる表情は恋する乙女のものだった。カレンはこんな顔も出来るんだ、と漠然とした感想を抱く。互いを愛おしく見つめ、徐々に唇が近づいていく。もはや私や元の身体なんて眼中にないらしい。
「お嬢様……」
「お願いだから名前で呼んで。カレンになっちゃったけれど、今だけは……」
「……レオノール。心から愛している」
そうして二人は幸せそうに口づけを交わした。
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