元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる

福留しゅん

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気付いてくれて感涙した元悪役令嬢

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 徐々に思い出してきたのだが、どうやらここは公爵家の屋敷にあるレオノールの部屋のようだ。調度品がほとんど違ったので思い出すのに苦労したが、窓からの景色や間取りには覚えがある。

(多分……以前の昨日以来ね)

 懇談会で婚約破棄と同時に断罪された私はもうここには戻ってこれなかった。それ以来になるのだが……やはり懐かしさは感じない。それはあくまで元レオノールが過ごした空間だからだろう。

 レオノールとイレーネが愛を確かめ合っている間に私は勝手にレオノールのクローゼットを物色、適当に服を見繕って着替え始めた。屋敷内を動き回る程度の普段着なら自分一人でも着替えられるもの。侍女は御覧の通り取り込み中だから。

「そ、それで、入れ替わった二つ目の理由なのだけれど」
「あら、もっと貪り合っていても良かったのよ」
「……ごめんなさい。反省するから『悪役令嬢』レオノールに戻らないで」
「それは失礼」

 ようやく満足したレオノールが咳払いをして丁度着替え終えた私を気付かせる。皮肉を込めて昔のように振る舞ったら何故かレオノールは苦笑いを浮かべてきた。一方のイレーネはどうしてか納得したように頷いている。

「第二に、やっぱり王太子妃レオノールにはカレンの方が相応しいって思うのよ」
「レオノールとして生きた期間は私もレオノール様も大差ないけれど?」
「教養の問題じゃないわ。ジョアン様の傍に寄り添う相手って意味」

 本気で言っているのだろうか? 伴侶に相応しくないと婚約破棄されたこの私が?

 レオノールの説明によれば、確かに『乙女ゲーム』において『悪役令嬢』はどの『ルート』でも王太子に婚約破棄されてしまう。しかし可愛い『ヒロイン』に立ちはだかる悪役こと公爵令嬢は対比されるよう美女として『デザイン』されたそうだ。

 美男美女の『カップル』に幸せになってもらいたい、との声に著者が応えて本編から分岐するおまけを披露してくれたんだとか。どの『攻略対象者』とも友好関係を築きながらも恋愛には発展しない、平穏な終幕の物語を。

「披露宴でのレオノールとジョアン様がとっても素敵だったの! 私にはとてもあんな大役は務まらないわ」
「つまり、その素敵な場面を再現した挙句に拝みたかったからわたしにレオノール役を押し付けた、と?」
「ええそうよ。あくまで自分の欲望を満たすためで失望したかしら?」
「ううん。むしろその方がらしいかな、って思います」

 これは本音だった。何を考えているか、何を求めているかも分からなかったレオノールの想いが分かった気がして嬉しかったからだ。そしてそれらの動機が決して独りよがりな私利私欲ではなかった点も高評価な理由だろう。

「最後なのだけれどこれが一番肝心。第二の理由もあってレオノールにはジョアン様と結ばれてほしいのだけれど、私個人はやっぱりジョアン様を好きではないのよ」
「演技じゃないのは何となく分かっていました」
「むしろ大半の『ルート』で『ヒロイン』にほだされる王子様のどこが素敵なのかも分からないわ。カレンを愛すると告白したようだけれど、あいにく全く信用していないの」
「……不安があるのは事実です」

 確かに愛していると言ってくれた。けれどそれは単に私が『ヒロイン』だったからではないのか、と思ってしまうのだ。私こそがイサベルで、ジョアン様は『ヒロイン』と添い遂げれば良くて、中身が私でなくても構わなかったのではないのか、と。

「だから確かめるのよ。入れ替わった私達に気付くようなら合格よ。その愛は本物なんだって認めてあげるわ」
「イレーネさんは気付きましたけれど、ジョアン様は……」
「願わくば気付いてほしいものね」

 ちなみに存在入れ替えの邪視は『乙女ゲーム』でも登場したらしい。断罪劇において『ヒロイン』が『悪役令嬢』に勝った際、それまでの『悪役令嬢』の『憎悪フラグ』とやらが高すぎるとこの邪視を使われてしまうんだとか。

 つまり、レオノールがイサベルとして何食わぬ顔でジョアン様と結ばれ、本来愛し合った筈のイサベルはレオノールとして惨い罰を受けるのだ。そして、ジョアン様は入れ替わりにも気付かないままイサベルとなったレオノールを愛するのだ。

 もしジョアン様が気付かないようならレオノールはイレーネと二人して亡命する考えらしい。その際私も一緒にどうだと誘われた。迷った末に私は彼女の提案を承諾した。これでまたジョアン様に否定されたら……それが運命だと思って諦める他無いから。

 その時だった、部屋の外から慌ただしい足音が聞こえてきた。そして足音の主こちらに伺いを立てもせずに扉を開き、そのまま大股で部屋に入ってきた。よほど急いできたのか若干息が上がっている。

「カレン、無事だったか」
「はい。一晩寝たら元気になりました」

 彼、ジョアン様は真っ先にカレンになったレオノールに声をかけた。カレンの言動は寸分違わず私を真似出来ており、見破るのは極めて困難だろう。いつの間にかイレーネも私の傍に控えているからなおさらだ。

「全く、レオノールが何をしたのかは知らんが……」

 と皮肉を込めて私に視線を移したジョアン様は……何故か固まった。しばらく私を凝視した彼は再びレオノールに目を向ける。そしてまた私に戻し、少しの間深く考え込んだ。そして……何故か満足そうに笑みをこぼした。

「成程、そうか。ようやくその魂胆が分かったぞレオノール」

 ジョアン様が言葉を向けた先は呼んだ名とは裏腹にカレンの方だった。それから彼はためらわずに私の方へと歩み寄る。驚きと混乱に支配される私を余所にジョアン様は私の前までやってくると、膝をついて頭を垂れた。私の手の甲に口づけしつつ。

 つまり、分かってくれたのだ。
 私とレオノールが入れ替わっているのだと、ジョアン様は――!

「改めて言う。結婚してくれカレン」
「ジョアン様……!」
「俺はお前を幸せにしたい。笑顔でいてもらいたいんだ。外見が変わろうと関係ない。カレンはカレンだ」
「はい、はい……! ええ、勿論です……!」

 それからは嬉しさのあまり有頂天になってしまったのであまり覚えていない。
 記憶にあるのは涙が止まらず優しく抱きしめられ、口づけを交わしたぐらいか。

 愛は本物だったのだ。
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