最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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宿敵と手を組むのも一興だろ

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「洗礼の議を経てあたし達は変わった、のか?」
「そうじゃなかったらわたしはあんな風になってません。ギゼラ様だってそうなんじゃないですか?」
「確かにあの日を境に心を入れ替えたのは事実なんだが……。んじゃあ、あたし達はそん時に洗脳でもされちまったってか?」
「少なくとも使命を課せられた、って考えるべきかと。わたしは聖女としての、ギゼラ様は聖女を引き立てる悪役としての」
「悪役の令嬢、ねえ……」

 ふざけんじゃねえぞクソが! と大声を上げつつ傍にあった木に八つ当たりをかます。木はわずかに揺れただけでびくともせず、逆に叩いたあたしの手が痛え。それはまるであたしが怒ったところで運命は変えられねえ、と暗示してるようで腹が立つ。

「あたしの人生はあたしのものだ! 神聖帝国のでも、公爵家のでも、ましてや悪役令嬢なんかのものじゃねえ……!」
「同感ですね。わたしの人生だって神のものでも、神聖帝国のでも、ましてや皇太子のでもないで。それだけはハッキリ言わせてください」

 よりによってテメエが言うか、と詰りながら胸ぐら掴みたい衝動を何とか堪える。怒りに任せてたら目の前のコイツをあの聖女を同一視してることになって、同時にあの最低の屑があたしだったって認めたも同然だからな。

 それはマティルデも同じらしく、あたしに向けてくる視線には怒りとか恨みとかが混ざってる。どうやら聖女時代は寛大に許してきたクソ女の悪意を思い出して今更負の感情を抱いてきたみたいだな。少しは溜飲が下がるってものだ。

「前回を水に流そう、とは言いません。そこまで割り切れるほど今のわたしは人間ができちゃいませんから」
「奇遇だな。それはあたしもだ」
「でも前回みたいな人生はもう沢山、とは一致してますよね」
「……まあな」

 どうしてマティルデが前回みたくなりたくないのかはどうでもいい。聖女として崇められるのがうんざりだとかちやほらされるのに疲れたとか色々と想像出来るが、こいつが言ったようにマティルデの人生はマティルデのもの。あたしが口出しするのは野暮ってものだ。

「わたし達が取れる選択肢は二つだけです。一つはこの出会いを無かったことにして互いに新たな人生を歩んでいくか」
「そりゃ無理だろ。マティルデだって分かってんだろ? あたし達はもう再会した時点で縁が出来ちまってる。このままなし崩し的に前回みたくされたらたまらねえんだけど」
「こっちだって前回のような理不尽な悪意に晒されるのはもう沢山です。互いに相手を信用してないですし目を離すのは不安だとしたら、もう一つの選択肢しか残されてないですよね」
「相互監視出来るぐらいの距離感を保つ、か」

 今回のマティルデが何をしでかすか分からねえ以上、目につく所にいてもらった方が何かと都合がいいか。もし前回みたく周囲がマティルデに惑わされるんなら、今度こそ二度とコイツと会わねえ遠くまで逃げれば済む話だ。

「それは分かったけどよ、あたしがこの街に留まれ、ってか?」
「嫌ならわたしがギゼラ様に付いていきますけど」
「いいのかよ? せっかく新しい生活送ってるんだろ?」
「もう自立しなきゃいけない年齢になってましたし、潮時です」

 マティルデがこっちに手を差し出してきた。何を意図してるのかは分かるんだが、クソ女として歩んできた記憶が邪魔して躊躇しちまう。それでも利害が一致してる以上、彼女と握手する以外の選択肢は無かった。

「協力しましょう。望まぬ未来の回避のために」
「いいぜ。ただし裏切ったら首だけになってもその喉を噛み千切ってやるよ」
「そんなコトしませんよ。ただし、前回みたくわたしをいじめるんでしたら同じ末路を辿っていただきますけれどね」
「……上等じゃねえか」

 まさかこうなるとは思わなかったが、とにかくあたしはマティルデと手を組むことになった。この決断がどう転ぶかは知らねえが、せいぜい利用しまくってやるとしようじゃねえか。
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