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皇太子が喧嘩ふっかけてきやがった
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「そう言えば、ギゼラって前回この時期はどうしてたんだっけ?」
「あ? 何だよいきなり」
そうして再び王宮は日常を取り戻したわけで。忙しさは増したものの、第一王子執務室内は平常運転に戻っていた。ふとした拍子に雑談が飛び交うのも日常茶飯事。口は動かしても手と頭は仕事を処理する器用な真似も慣れたもんだ。
「神聖帝国には国家規模の学び舎があるんだろ」
「あー、帝国学園のことか。良い思い出無えんだよなぁ」
神聖帝国の貴族として生を受けた子供は例外なく帝国学園に通うことが義務付けられてる。それは聖女として適正を認められた聖女候補者も例外じゃない。前回はあたしとマティルデも教会での修行の合間を縫って通ってたっけか。
で、最低の屑は調子に乗って威張り散らして、マティルデの奴は援助を得るべく男共を篭絡してく始末。んで、クソ女っぷりに我慢出来なくなったラースローの野郎に婚約破棄されたのは卒業を間近に控えた夜会だったって記憶してる。
「もし前回を思い出さないままだったらもうじき最終学年に進学する頃だな」
「ふぅん。もう一度通って学び直したいとは思わないのか?」
「思うわけねえだろ。こう見えてあたしぁ優等生だったんだぜ。あそこで覚えられる事なんざもう無えよ」
「性格と態度は最悪でしたけど成績はダントツでしたからね」
よく考えればその優秀さをひけらかしたのもラースローの野郎に嫌われた要因かもな。かと言ってあんな奴よりあたしの方が優れてるって考えは今も変わっちゃいねえ。こればっかりは傲慢なんかじゃなくてれっきとした事実だもんな。
大体、今となっちゃこうして文官として業務に励んでる身だしな。今更学生に戻って将来のために勉強に勤しむとか馬鹿らしいったらありゃしない。知識を得たければ専門書を取り寄せれば済む話だろ。
「で、何でまたそんな話が出てきたんだ?」
「いや、ラインヒルデ皇女から一年間留学しないかと誘われた」
「はあ? アイツ馬鹿じゃねえの? 既に公務に携わってる他国の王子を招待するとか有り得ねえだろ」
「だよなぁ。俺も勉強なんか大嫌いだから断りたいんだが……」
「嫌なのにどうして迷うんだよ?」
「それはギゼラ宛の手紙も送ったから読めば分かるってさ」
そう言ってイストバーン様はこっちに手紙を放り投げてきた。上手く掴めずに床に転がったソレを拾い上げると、なんと神聖帝国皇家の家紋が描かれた封蝋がされているじゃないか。心当たりはあるんだが……正直見たくねえからそのまま捨てちまおうかな?
観念して封を切ると、案の定送り主はラインヒルデからだった。ラースローを逃したことを結構重く受け止めてるみたいで、まずその件の謝罪から文章は始まっていた。そこからはクソ真面目で堅苦しく近状報告が綴られていたんだが……、
「は?」
ある一文に目が釘付けになった。
「ラースロー皇子を次の皇帝に推す勢力が弱体化したことでいよいよ本格的にラインヒルデ皇女の婚約者を選ぶ動きが活発になってきたらしい。有力貴族の子息が次々と名乗りを上げてるようなんだが、当の本人は内側を固めるのは政治の役目だと主張してるそうだ」
だからか、ラインヒルデ皇太子の伴侶には他国の王族から迎え入れるのがいいんじゃないか、と囁かれ始めた、とイストバーン様は説明を続けてくれたのだが、ぶっちゃけ今のあたしの右耳から左耳に通り過ぎてくだけだった。
とどのつまり、ラインヒルデの相手として隣国王子であるイストバーン様は最適だ、ってことだろ。何せ二人は気心知れた間柄なんだからな。だからラインヒルデはイストバーン様を自国に呼びたがってるんだ。
「いや、確かに光栄なんだけどさ、のんびりとながら王国に尽くしたいって将来設計してたのに、いきなりそう振られたって困るよな」
「……」
「あとラインヒルデ皇女に不満があるわけじゃないけど、女性として見れるかって言うとちょっと戸惑いの方が勝るような……」
「イストバーン殿下ー。ギゼラさんはそれどころじゃないみたいですよー」
手紙にはラインヒルデがイストバーン様と共に歩んでいくのも悪くはない、むしろ好ましい、と書かれていた。そこからあたしが知らないイストバーン様との交流を自慢話みたいに伝えてくる始末。
そして、とうとうあたしの堪忍袋の緒が切れた。
あたしが神聖帝国に帰って来ないならイストバーン様を自分の夫とするつもりだ、との結言を目にして。
「ふ、ざけんなぁぁ!」
我に返った時には大声を張り上げて手紙を引き裂いていた。
「あ? 何だよいきなり」
そうして再び王宮は日常を取り戻したわけで。忙しさは増したものの、第一王子執務室内は平常運転に戻っていた。ふとした拍子に雑談が飛び交うのも日常茶飯事。口は動かしても手と頭は仕事を処理する器用な真似も慣れたもんだ。
「神聖帝国には国家規模の学び舎があるんだろ」
「あー、帝国学園のことか。良い思い出無えんだよなぁ」
神聖帝国の貴族として生を受けた子供は例外なく帝国学園に通うことが義務付けられてる。それは聖女として適正を認められた聖女候補者も例外じゃない。前回はあたしとマティルデも教会での修行の合間を縫って通ってたっけか。
で、最低の屑は調子に乗って威張り散らして、マティルデの奴は援助を得るべく男共を篭絡してく始末。んで、クソ女っぷりに我慢出来なくなったラースローの野郎に婚約破棄されたのは卒業を間近に控えた夜会だったって記憶してる。
「もし前回を思い出さないままだったらもうじき最終学年に進学する頃だな」
「ふぅん。もう一度通って学び直したいとは思わないのか?」
「思うわけねえだろ。こう見えてあたしぁ優等生だったんだぜ。あそこで覚えられる事なんざもう無えよ」
「性格と態度は最悪でしたけど成績はダントツでしたからね」
よく考えればその優秀さをひけらかしたのもラースローの野郎に嫌われた要因かもな。かと言ってあんな奴よりあたしの方が優れてるって考えは今も変わっちゃいねえ。こればっかりは傲慢なんかじゃなくてれっきとした事実だもんな。
大体、今となっちゃこうして文官として業務に励んでる身だしな。今更学生に戻って将来のために勉強に勤しむとか馬鹿らしいったらありゃしない。知識を得たければ専門書を取り寄せれば済む話だろ。
「で、何でまたそんな話が出てきたんだ?」
「いや、ラインヒルデ皇女から一年間留学しないかと誘われた」
「はあ? アイツ馬鹿じゃねえの? 既に公務に携わってる他国の王子を招待するとか有り得ねえだろ」
「だよなぁ。俺も勉強なんか大嫌いだから断りたいんだが……」
「嫌なのにどうして迷うんだよ?」
「それはギゼラ宛の手紙も送ったから読めば分かるってさ」
そう言ってイストバーン様はこっちに手紙を放り投げてきた。上手く掴めずに床に転がったソレを拾い上げると、なんと神聖帝国皇家の家紋が描かれた封蝋がされているじゃないか。心当たりはあるんだが……正直見たくねえからそのまま捨てちまおうかな?
観念して封を切ると、案の定送り主はラインヒルデからだった。ラースローを逃したことを結構重く受け止めてるみたいで、まずその件の謝罪から文章は始まっていた。そこからはクソ真面目で堅苦しく近状報告が綴られていたんだが……、
「は?」
ある一文に目が釘付けになった。
「ラースロー皇子を次の皇帝に推す勢力が弱体化したことでいよいよ本格的にラインヒルデ皇女の婚約者を選ぶ動きが活発になってきたらしい。有力貴族の子息が次々と名乗りを上げてるようなんだが、当の本人は内側を固めるのは政治の役目だと主張してるそうだ」
だからか、ラインヒルデ皇太子の伴侶には他国の王族から迎え入れるのがいいんじゃないか、と囁かれ始めた、とイストバーン様は説明を続けてくれたのだが、ぶっちゃけ今のあたしの右耳から左耳に通り過ぎてくだけだった。
とどのつまり、ラインヒルデの相手として隣国王子であるイストバーン様は最適だ、ってことだろ。何せ二人は気心知れた間柄なんだからな。だからラインヒルデはイストバーン様を自国に呼びたがってるんだ。
「いや、確かに光栄なんだけどさ、のんびりとながら王国に尽くしたいって将来設計してたのに、いきなりそう振られたって困るよな」
「……」
「あとラインヒルデ皇女に不満があるわけじゃないけど、女性として見れるかって言うとちょっと戸惑いの方が勝るような……」
「イストバーン殿下ー。ギゼラさんはそれどころじゃないみたいですよー」
手紙にはラインヒルデがイストバーン様と共に歩んでいくのも悪くはない、むしろ好ましい、と書かれていた。そこからあたしが知らないイストバーン様との交流を自慢話みたいに伝えてくる始末。
そして、とうとうあたしの堪忍袋の緒が切れた。
あたしが神聖帝国に帰って来ないならイストバーン様を自分の夫とするつもりだ、との結言を目にして。
「ふ、ざけんなぁぁ!」
我に返った時には大声を張り上げて手紙を引き裂いていた。
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