最低の屑になる予定だったけど隣国王子と好き放題するわ

福留しゅん

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いざ出発、祖国へ

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「おはようございます。ゆうべはおたのしみでしたね」

 翌朝、早速マティルデから苦笑いと一緒に冷やかされた。
 ところがあたしの方は怒ったり誇ったりする余裕なんざこれっぽっちも無かった。
 何せ、身体のいたるところが痛くて、特にある特定部位なんざ違和感が酷かったので。

「その様子から見ると楽しみすぎたんじゃないですか? 何なら聖女の奇跡で治してあげますよ」
「余計な真似すんなよ。この痛み含めてイストバーンと一つになったんだなぁ、って実感が湧いてるのに」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょうよ。そんなザマで今日から馬車で座りっぱなしの移動に耐えられるんですか?」
「そこは、まあ、何とかなるさ」

 マティルデはわざとらしく深い溜め息を漏らしながら、馬車に荷物を詰め込んでいく従者達に指示を送っていた。足腰が立たなくてイストバーンに支えられてるあたしはマティルデの出発の準備が整えられていく様子を眺めるばかりだった。

 帝国学園に留学って体で乗り込むのはイストバーン、あたし、それからマティルデ。ヨーゼフ様達部下はしばらく祖国を離れるイストバーンに代わって執務を行う手筈でお留守番。身の回りの世話を行う最低限の使用人が同行するに留まる。

「にしてもよ、別にマティルデまで付いてこなくても良かったんじゃねえのか?」
「何を言ってるんですか。折角わたしが親切心からギゼラさんと同行を申し出たのに」
「は? どういう意味だよ?」
「そうですね。例えば前回のわたしに代わる聖女がイストバーン殿下を誘惑したら?」

 あたしが正気に戻った時にはマティルデに手首を掴まれていた。どうやらカッとなったあたしがマティルデの胸ぐらをつかもうと手を突き出して、でも腰砕けでヘロヘロだったせいで逆にマティルデに防がれたらしい。

「ほら、こんな感じに直情的になるギゼラさんだとまたしてやられる可能性大じゃないですか。仕方がないからわたしが付き添ってあげるんですよ」
「ちっ。否定出来ねえのは悔しいところだが、前回あたしをはめてきたマティルデに指摘されるのは何だかムカつくな」
「だからこそ頼りになる、と発想の転換をして下さい。少なくとも今のままでしたら味方になってあげなくもないですから」
「その言い回しだとあたしの態度次第でまた敵に鞍替えしてあたしを破滅させてくるんだろ? いいぜ。二人してクソ喰らえな運命をひっくり返してやろうじゃねえか」

 マティルデと悪友になりました、だなんて前回のあたしが聞いたって絶対に信じやしねえだろうな。それだけあたしは自分が公爵令嬢かつ皇太子の婚約者って立場に誇りを抱いていて、固執していたからな。

 どうやらマティルデにとってもそうなようで、あたしが素直な感想を口にしたら向こうも同意を示してきた。本当、殺してやりたいぐらい悪かった相手と意気投合することになるなんて、人生ってものは分からないものだよな。

「イストバーン殿下。残念ですけど向こうに行っても学業に専念出来るとは思わないでくださいよ。イストバーン殿下の承認が必要な公文書はきちんと決裁をもらうよう郵送しますんで」
「は? それってヤーノシュの冗談じゃなかったのか? 郵送する時間が勿体ないだろ」
「そんな言い訳が通じないようそれなりに期限に余裕がある案件を選定してイストバーン殿下に担当してもらうんだそうですよ」
「嫌がらせにも程がある……」

 一方のイストバーンはどうやら公務から解放されるわけじゃないみたいだな。言われてみればあたしとイストバーンが出会った国内巡回の際も夜遅くに書類を読み込んでいたから、出先でもきちんと公務を行っていたかのかもしれない。

 イストバーンへの言伝を終えたヨーゼフ様は視線を移し、マティルデを見つめた。彼の熱い眼差しに気付いたマティルデは声をかけようと口を開いたんだが、その前にヨーゼフ様は驚きの行動を取ってきた。なんと、マティルデの前に跪いたんだ。
 
「マティルデ。君が運命に打ち勝とうとイストバーン殿下方と行動を共にする気持ちは充分に理解している。けれどそれだと僕が寂しくてしょうがない」
「しょうがないですね。長期休暇中は戻るようにしますし、都合が付いたらヨーゼフ様もこちらに遊びに来てくださいね」
「約束するよ。本当だったらほんのちょっとでもマティルデを手放したくないんだ」
「わたしも、ヨーゼフ様と離れ離れになるなんて寂しいです。なのでやることやり終えたら……どうかわたしの想いを聞いてくれませんか?」

 あらら。ヨーゼフ様がマティルデに一目惚れした場面には遭遇したし、その後も良好なお付き合いを続けてたのも知ってたけれど、実際に好意を口にするのを見たのは初めてだったっけ。ヨーゼフ様も根気よく口説いてたもんなぁ。

 にしても、ヨーゼフ様もやんごとなき家柄の坊っちゃんなのに、よく聖女の肩書すら無い田舎娘のマティルデを娶ろうだなんて決心したものだな。まあ彼なら前回マティルデに篭絡された男連中と違って事前の根回しは欠かしてねえだろうし、安心なんだが。

「あ、荷物の詰め込み終わったみたいですよ。早く乗り込みましょう」
「切り替え早いなオイ」

 そんな感じにあたし達はパンノニア王国を出発した。
 神聖帝国に帰るって認識じゃない。あたしが帰る場所はここなんだ。
 イストバーン様と一緒にあたしは幸せになるんだから。
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