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奈落への階段(裏)
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夜も遅くなり皆が寝静まった時間帯、山口悠斗(仮名)はマンションの階段を上っていた。本当だったら高層階に上がるためにエレベーターを使いたかったのだが、あいにく使えなかった。
蛍光灯がところどころ切れているようで暗い階もあった。聞こえてくるのは自分が階段を踏む足音だけ。
中層階まで上っては反転して次の階に上る、を延々と繰り返すだけの苦行。普段運動をしない彼にとっては過酷とも言え、三、四階上っては休憩をし、鞄の中に入れたペットボトルの水で喉を潤すのだった。
今自分がどの階にいるかはその階の柱に貼り付けられる表示に頼るしかなかった。その数値が一つずつ増やされるごとに自分が目的とする階まで近づいている、という実感だけが彼を支えた。
一、二、三……十一、十二。
反転、一、二、三……十一、十二。次の階に到着。
反転、一、二、三……十一、十二。
反転……。
疲れと単純な動きの繰り返しはやがて彼から思考力を奪っていく。めまいがして息が苦しい。頭がくらくらする。汗が異様に吹き出てシャツが濡れて気持ち悪い。
壁に手を付きながら必死になって足を持ち上げ、次の段を踏む。五、六、七……。目的の階に到達したら一回休んで疲れを取ろう。そして改めて目的の部屋に向かうんだ。
十一、十二、十三。
次の階に到着……はしなかった。
山口悠斗は自分が今存在しない十三段目を踏んだことも気づかない。そして、その直後に自分がどうなっているのか把握するのにもかなりの時間を要した。
いつの間にか山口悠斗の足元、階段と踊り場がすべて無くなっていた。
落下する彼の視界に映るのは先程まで階数を確認するために眺めていた表示が下から上へと飛んでいく様。彼が感じたのは遊園地の大型プールの飛び込み台から勇気を出して飛び込んだ際の浮遊感。
自分が落下している、と山口悠斗は悟った。
階段の壁だけが彼の視界を駆け抜けていく。いくら壁に手をつこうとも手すりも無いため落下する自分を支えられない。ただ手のひらが擦れて痛いだけだった。恐怖で悲鳴を上げても救いを求めても、彼の落下は止まらない。
そして、階数を示す表示が一桁になり、3、2、1、B1、B2、と地下の駐車場フロアまで到達した。そして……B3、B4、B5……と階数は更に増えていく。
壁の蛍光灯は明かりが消えたものが増えていき、やがて暗闇が支配する階層まで落下したようだ。次第に明るかった階層が視界から小さくなっていき、やがては消えてしまった。
自分は一体どこまで落ちるんだ?
そもそもここはそんなに地下深くなかった筈じゃないのか?
やがて山口悠斗が手で振れていた壁の感覚すらなくなった。
山口悠斗はただ暗黒の空に放り出されたようになったのだ。
――その後、山口悠斗の行方を知る者はいない。
□□□
「この山口悠斗さんが奈落に真っ逆さまになったのなら、投稿してきたのは誰なんだろう? もしかして本当に霊界から送ってきてるのかもしれないね!」
リスナーからは“創作乙”“山口悠斗だ。俺が山口悠斗だ”“山口悠斗なら俺の隣で寝てるよ”といった茶化す反応ばかりで、山口悠斗の安否を気遣う者は誰一人としていなかった。
例え本当に行方不明者として名を連ねる者がいようと、その程度ではニュースにならない。せいぜい面白おかしく街の噂話で広がる程度だろう。彼一人がいなかろうと世界は回っていくのだから。
「今晩はここまでだよ! チャンネル登録と高評価をよろしくね。ばいび~♪」
そのため、誰もがさほど気にしない。
今日もまた幽幻ゆうなの配信は終わるのだった。
夜も遅くなり皆が寝静まった時間帯、山口悠斗(仮名)はマンションの階段を上っていた。本当だったら高層階に上がるためにエレベーターを使いたかったのだが、あいにく使えなかった。
蛍光灯がところどころ切れているようで暗い階もあった。聞こえてくるのは自分が階段を踏む足音だけ。
中層階まで上っては反転して次の階に上る、を延々と繰り返すだけの苦行。普段運動をしない彼にとっては過酷とも言え、三、四階上っては休憩をし、鞄の中に入れたペットボトルの水で喉を潤すのだった。
今自分がどの階にいるかはその階の柱に貼り付けられる表示に頼るしかなかった。その数値が一つずつ増やされるごとに自分が目的とする階まで近づいている、という実感だけが彼を支えた。
一、二、三……十一、十二。
反転、一、二、三……十一、十二。次の階に到着。
反転、一、二、三……十一、十二。
反転……。
疲れと単純な動きの繰り返しはやがて彼から思考力を奪っていく。めまいがして息が苦しい。頭がくらくらする。汗が異様に吹き出てシャツが濡れて気持ち悪い。
壁に手を付きながら必死になって足を持ち上げ、次の段を踏む。五、六、七……。目的の階に到達したら一回休んで疲れを取ろう。そして改めて目的の部屋に向かうんだ。
十一、十二、十三。
次の階に到着……はしなかった。
山口悠斗は自分が今存在しない十三段目を踏んだことも気づかない。そして、その直後に自分がどうなっているのか把握するのにもかなりの時間を要した。
いつの間にか山口悠斗の足元、階段と踊り場がすべて無くなっていた。
落下する彼の視界に映るのは先程まで階数を確認するために眺めていた表示が下から上へと飛んでいく様。彼が感じたのは遊園地の大型プールの飛び込み台から勇気を出して飛び込んだ際の浮遊感。
自分が落下している、と山口悠斗は悟った。
階段の壁だけが彼の視界を駆け抜けていく。いくら壁に手をつこうとも手すりも無いため落下する自分を支えられない。ただ手のひらが擦れて痛いだけだった。恐怖で悲鳴を上げても救いを求めても、彼の落下は止まらない。
そして、階数を示す表示が一桁になり、3、2、1、B1、B2、と地下の駐車場フロアまで到達した。そして……B3、B4、B5……と階数は更に増えていく。
壁の蛍光灯は明かりが消えたものが増えていき、やがて暗闇が支配する階層まで落下したようだ。次第に明るかった階層が視界から小さくなっていき、やがては消えてしまった。
自分は一体どこまで落ちるんだ?
そもそもここはそんなに地下深くなかった筈じゃないのか?
やがて山口悠斗が手で振れていた壁の感覚すらなくなった。
山口悠斗はただ暗黒の空に放り出されたようになったのだ。
――その後、山口悠斗の行方を知る者はいない。
□□□
「この山口悠斗さんが奈落に真っ逆さまになったのなら、投稿してきたのは誰なんだろう? もしかして本当に霊界から送ってきてるのかもしれないね!」
リスナーからは“創作乙”“山口悠斗だ。俺が山口悠斗だ”“山口悠斗なら俺の隣で寝てるよ”といった茶化す反応ばかりで、山口悠斗の安否を気遣う者は誰一人としていなかった。
例え本当に行方不明者として名を連ねる者がいようと、その程度ではニュースにならない。せいぜい面白おかしく街の噂話で広がる程度だろう。彼一人がいなかろうと世界は回っていくのだから。
「今晩はここまでだよ! チャンネル登録と高評価をよろしくね。ばいび~♪」
そのため、誰もがさほど気にしない。
今日もまた幽幻ゆうなの配信は終わるのだった。
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(。-人-。)
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