縦縞のパジャマ

北風 嵐

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8 放射能の街

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 東北自動車道は福島まで開通していたので、郡山まで自動車道を使い、郡山から海のほうに向かって288号線を走った。山地を抜け平野部に出てしばらく行ったとき、目に入った光景に信吾は絶句してしまった。テレビで見てはいたが、実際に震災、津波の町の瓦礫の惨状を目の前にして、震災というより、戦災直後の写真を見ているようであった。 

「ここから先は一応立ち入り禁止ですがどうします?」と近藤さんは訊いてきた。この時は避難指定区域であったが、立看板があるだけで、別段どうってことはなかった。正式に立ち入り禁止地域になったのは暫くしてからであった。  とりあえず、家に帰って、あのパジャマを着てゆっくり眠りたかった。後のことはそれから考えようと信吾は思った。人影も、人の気配もしない町だが、紛れもない信吾が生まれ育った町だった。 

「家はどっちですか?」と近藤さんが訊いたので、咄嗟に、右を曲がって突き当たりを左と云った。家はもうすぐ…あと少しだ。  その時、近藤さんが「今晩、泊めてもらえますか…ロウソクも、食べ物も、酒も用意しています。放射能の町で一泊したと、皆に言いたいんですわ」と云った。二人で揃いのパジャマで寝ると思うと、何故か信吾は笑えてきて、元気な気持ちになった。  

 家に入る方法は一つあった。泥棒だってわかりはしない。家の持ち主だからこそ知っていることだ。近藤さんは懐中電灯で照らしてくれた。用意万端であった。家の中はあの日と何にも変わっていないように思えた。 「慌てて逃げたわりには、えらい綺麗ですなぁ~」と、近藤さんはロウソクに火をつけながら感心した様子だった。   「我家で食べるカップラーメンと焼酎の味は格別でしょう」と、近藤さんは云ったが、信吾は泣けてきて、ラーメンが涙で塩味になり、旨いのやらなにかわからない味だった。見ると近藤さんも泣いていた。  

 信吾は少し湿っていたが、干してあったパジャマを着、近藤さんにはタンスの引き出しに仕舞ってあった、同じ柄のパジャマを着てもらった。 「あっ、放射能のパジャマ、それを着たかったのに」と、近藤さんは何だか浮き浮きした感じであった。大事なお客に放射能を着せるわけにはいかない。勝手知ったる我家、遠慮する家族も今はいない。二人は並んで寝た。  

 暗がりの中で近藤さんは訊いてきた。 「信吾さん、今、何を考えてます?」 「笠っさんが云ってくれた〈黄色のハンカチーフ〉の意味を考えています。春菜は、気の弱い僕がついそこまで帰ってきても、やっぱり家に入れないことを考えて、毎日汚れてなくても、代わる代わる洗濯して干していたんだと思っています。このパジャマの温もりが、そう語ってくれています」 「そうですね、僕かて、同じパジャマを着てますから、春菜さんの気持ちがわかるような気がしますよ。」  二人は暫く無言でパジャマと布団の温もりを味わった。
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