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学園
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座学が終わり、実技にて。俺はマイケルと組み手をしていた。
「はぁ、はぁ、やっぱお前はつえぇわ」
そうか。
「……なあ、どうしたんだよ」
何がだ。
「お前、今日は変だぞ」
そうか?
「シャーロットを避けるし、俺との組み手にもあまり集中してないし……」
避けている気は無いんだがな。
「……ちょっとこっち来い」
そう言ってマイケルは近くのベンチを指した。俺とマイケルはそこに座る。
「お前とシャーロットの間に何があったかは知らない。だがな、シャーロットはいつも通りなんだぞ?それをお前が避けているんだぞ?お前だったらどう思う?」
どう思う、とは?
「ほら、お前がシャーロットからそうやって避けられたら何か感じないのか?」
……まぁ、傷つくな。
「だろ?それをお前は今、シャーロットにやっているんだ」
……なるほど。
「なるほどじゃねぇよ。……はぁ、まあいい、今日の放課後、シャーロットと話し合うぞ。それで解決できたならよし、できなかったなら、ああ、お前は確かに卑屈だが、悪いやつでは無いから慰めてやる」
……ああ、わかった。
「よし!そうと決まったらもう一戦だ!たっぷり休んだな?」
そう言ってマイケルは試合場に駆け出していった。
「で、心の準備はいいか?」
あ、ああ。
「よし、じゃあ俺がシャーロットを呼び止める。そしたらお前はまず今日避け続けていたことを謝るんだ。そして、許しを得ても得なくても、話の場を俺が作る。そしてあわよくば円満解決って算段だ」
わかった。
終業のベルがなる。生徒たちは一挙に胎動する。シャーロットはいつも通り俺たちと帰ろうと一瞬こちらに寄るが、思い直した様子で一人帰宅しようとする。そこにすかさず俺たちは駆けて行き、呼び止める。
「おうシャーロット、ちょっといいか?」
「何かしら」
「こいつが何か言いたいことがあるらしい」
シャーロットの視線がこちらに向く。すると昨日のあの顔がフラッシュバックしてしまってドギマギする。
あ、ああ、シャーロット、あ、あのな、今日は避け続けてごめん。
「いいわよ。どうせ卑屈なアルのことだから何か勘違いしているのではと思ったわ」
そ、それで、ちょっと話し合いをな?
「……どこで?」
空き教室で。
「いいわ」
そう言って俺たちは空き教室へと移動するわけなのだが、その間に俺は一言も発せなかった。
「で、話って何かしら?」
マイケルに目配せして外に出てもらう。
あ、ああ、俺は疑問なんだ。なんでお前が昨日、あんなに悲痛な顔をしたのか。なんで言葉に詰まっていたのか。それでな、俺は考えたんだ。お前が、シャーロットが、シャーロット・リリーが俺に恋慕しているのでは無いかと。
窓にかけられたカーテンが薫風に靡き、空き教室の埃の匂いが鼻腔をくすぐる。埃は舞い、陽光の舞台で戯れ、虚無の時間を慈しむ。彼女の赤毛は斜陽に踊り出し、瞳孔は水を打ったかのように潤んでいる。阿呆の烏が一つ鳴くと、雀どもは恐れをなして飛び去っていく。彼女の目が俯く。彼女の口は今開かれた。
「そんなわけ、ないじゃない」
……そうか。
そうか。これは俺の勘違いだったか。
「私があんたを好きになれるわけ、ないじゃない」
彼女は俯いていて表情がよくわからない。
「あんたは、確かに卑屈だけれど、顔も良くて、才能に溢れていて、更に優しいんだから」
その言葉は何か彼女が俺に恋をしていて、それを諦めているように聞こえる。だが、そんなはずはないだろう。だって俺とシャーロットは――
「私とあんたはただの――」
「「王族と公爵家の関係なのだから」」
そ、そうだよな。良かった。俺はそれだけを懸念していたんだ。これからも普通に友達でいような。
「……当たり前よ」
顔を上げたシャーロットはいつも通りに戻っていた。
「はぁ、はぁ、やっぱお前はつえぇわ」
そうか。
「……なあ、どうしたんだよ」
何がだ。
「お前、今日は変だぞ」
そうか?
「シャーロットを避けるし、俺との組み手にもあまり集中してないし……」
避けている気は無いんだがな。
「……ちょっとこっち来い」
そう言ってマイケルは近くのベンチを指した。俺とマイケルはそこに座る。
「お前とシャーロットの間に何があったかは知らない。だがな、シャーロットはいつも通りなんだぞ?それをお前が避けているんだぞ?お前だったらどう思う?」
どう思う、とは?
「ほら、お前がシャーロットからそうやって避けられたら何か感じないのか?」
……まぁ、傷つくな。
「だろ?それをお前は今、シャーロットにやっているんだ」
……なるほど。
「なるほどじゃねぇよ。……はぁ、まあいい、今日の放課後、シャーロットと話し合うぞ。それで解決できたならよし、できなかったなら、ああ、お前は確かに卑屈だが、悪いやつでは無いから慰めてやる」
……ああ、わかった。
「よし!そうと決まったらもう一戦だ!たっぷり休んだな?」
そう言ってマイケルは試合場に駆け出していった。
「で、心の準備はいいか?」
あ、ああ。
「よし、じゃあ俺がシャーロットを呼び止める。そしたらお前はまず今日避け続けていたことを謝るんだ。そして、許しを得ても得なくても、話の場を俺が作る。そしてあわよくば円満解決って算段だ」
わかった。
終業のベルがなる。生徒たちは一挙に胎動する。シャーロットはいつも通り俺たちと帰ろうと一瞬こちらに寄るが、思い直した様子で一人帰宅しようとする。そこにすかさず俺たちは駆けて行き、呼び止める。
「おうシャーロット、ちょっといいか?」
「何かしら」
「こいつが何か言いたいことがあるらしい」
シャーロットの視線がこちらに向く。すると昨日のあの顔がフラッシュバックしてしまってドギマギする。
あ、ああ、シャーロット、あ、あのな、今日は避け続けてごめん。
「いいわよ。どうせ卑屈なアルのことだから何か勘違いしているのではと思ったわ」
そ、それで、ちょっと話し合いをな?
「……どこで?」
空き教室で。
「いいわ」
そう言って俺たちは空き教室へと移動するわけなのだが、その間に俺は一言も発せなかった。
「で、話って何かしら?」
マイケルに目配せして外に出てもらう。
あ、ああ、俺は疑問なんだ。なんでお前が昨日、あんなに悲痛な顔をしたのか。なんで言葉に詰まっていたのか。それでな、俺は考えたんだ。お前が、シャーロットが、シャーロット・リリーが俺に恋慕しているのでは無いかと。
窓にかけられたカーテンが薫風に靡き、空き教室の埃の匂いが鼻腔をくすぐる。埃は舞い、陽光の舞台で戯れ、虚無の時間を慈しむ。彼女の赤毛は斜陽に踊り出し、瞳孔は水を打ったかのように潤んでいる。阿呆の烏が一つ鳴くと、雀どもは恐れをなして飛び去っていく。彼女の目が俯く。彼女の口は今開かれた。
「そんなわけ、ないじゃない」
……そうか。
そうか。これは俺の勘違いだったか。
「私があんたを好きになれるわけ、ないじゃない」
彼女は俯いていて表情がよくわからない。
「あんたは、確かに卑屈だけれど、顔も良くて、才能に溢れていて、更に優しいんだから」
その言葉は何か彼女が俺に恋をしていて、それを諦めているように聞こえる。だが、そんなはずはないだろう。だって俺とシャーロットは――
「私とあんたはただの――」
「「王族と公爵家の関係なのだから」」
そ、そうだよな。良かった。俺はそれだけを懸念していたんだ。これからも普通に友達でいような。
「……当たり前よ」
顔を上げたシャーロットはいつも通りに戻っていた。
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