良識のある異世界生活を

Hochschuler

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学園

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始業のベルがなるわけでもなく、暇を持て余した俺たちは駄弁るわけだが、そこからついに逸れてしまった生粋の陰の者の俺は凝然と黒板を睨んでいた。マイケルとシャーロットのおしゃべりから意識を遠のかせると、今までの日々を振り返った。然し、たかが15,6年、前世の俺にも届かぬ若輩が思い出に浸るなど僭越至極であろうから、ふっとそれを掻き消した。そして遂に何もやることがなくなってしまった俺は黒板をもう一度睨んだ。よく見ると黒板には傷がある。多分、この学園ができてから何百何千もの人がここで学び、幾重もの人がここで教え、卒業式には慨嘆したことだろう。思えば俺の大学も歴史のあるところだった。文学部は100周年を迎え、教授どもや学徒どもは何もわからぬ阿呆面をしながらやいのやいの言っていた。俺がもし、もう一度あの授業を受けて、「人間の本質とは何か」と問われた時にはこう答えてみても面白いかもしれない。それは歴史ですよ。中釜さん。誰かが最初に火を使った。だから今、我々は火を使える。誰かが最初に名前をつけた。だからこの物の名前を使える。誰かが伝承を作った。だから物語が生まれた。……俺は一体何億人の人の上に生きているのだろうか。そして俺の上には一体何億人が立つのだろうか。――
「――ねぇちょっと!アル!聞いてるの!?」
シャーロットの声が俺を現実へと引き戻した。
あ、ああ、聞いていた。アルマゲドンが云々とか。
「全然聞いてないじゃないの。はぁ、あんたはいっつもこれだから――」
耳の裏にはシャーロットの小言が並ぶ。マイケルはまたやっていると若干辟易としている。俺は思った。俺なんかが歴史を作れるわけがないのだから、刹那的に生きてみて、後世を引っ掻き回してやるのも一興かもしれないと。

家に帰るとお出迎えしたのはいつもの暗闇ではなく、明かりのついた部屋だった。俺はそこで「あれ?灯つけたまま出ちゃったっけ?」とのほほんとしている莫迦ではないからカバンの中にある護身用の剣を取る。そして慎重に部屋に入ると――そこにはケインさんにボコボコにされていた女がいた。
俺は即座に一刀両断する。
「ま、まてまて、今日は争いに来たわけじゃないんだ」
じゃあなんのようだ。
「龍皇にお前を連れてくるように頼まれてな」
龍皇?面識などないが?
「そんなこと言ったってしらねぇよ!朝起きたらあいつにいきなり拳骨落とされて駆り出されたんだから!」
……まあ嘘だと言うことがわかった。お前はここで殺させてもらう。
「ま、待ってくれ!お前を連れてこないと俺は龍界から追放されちまうんだ!はぐれドラゴンになったらあいつが……」
目線の先にはケインさんの屋敷があった。
……わかった。着いていく。
「ほ、本当か?」
ああ。
「す、すまねぇ」
俺は窓を開けると女に先を促した。
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