復讐を誓う少年と蒼き魔族の女将軍 ~人類を裏切った俺が、異界の救世主になるまで~

M_mao

文字の大きさ
45 / 48
グランディ帝国編-第三章

第三話 「暴発の瀬戸際」

しおりを挟む
貴婦人の嘲笑がまだ海風に掻き消えぬうちに、レブランカ伯爵夫人が優雅に手を上げ、絹の手袋で朱唇を隠した。
「あら、グロリア様、そうとも言えませんわ。この魔族の小娘たち、雪原の兎のように純真に見えますけれど、その牙には……街一つを麻痺させるほどの猛毒が塗られておりますのよ。ほほ……」

一瞬にして、隠そうともしない嘲笑が、捕虜の中から次々と湧き起こる。
最前列に立つ無名の少女は、嵐の目の中のようにぴくりとも動かない。だが、彼女の後ろに控える仲間たちは、それほど冷静ではいられない。怒りの魔力が空気を灼き、足元の石畳からは点々と火花が迸っていた。

典獄長はその様子を見て、顔の贅肉をぷるぷると震わせながら笑った。彼女はこの好機を逃さず、金属を擦り合わせるような甲高い声で、この嘲りの合唱に最も甲高いパートを捧げた。
「その通りですとも!」
 「どうせ、毒を盛るような姑息な手段で勝っただけですものね。我ら偉大なる帝国が負けるはずがない! このような自作自演の芝居、我々のような『高貴』な人間には、とても真似できませぬな! ははははは!」


「この、クソが!」
ついに、堪えきれなくなった魔導団の少女の一人が爆発した。

「シャーリー、やめなさい!」
無名の少女が即座に制止する。
「アリシア様の命令を忘れたの!」

「だって……!」
シャーリーは怒りに全身を震わせ、今なお嘲笑を浮かべる貴族たちを指差した。
「あの女たちの言葉が聞こえなかったの!? 毒を盛ったのは私たちじゃないのに! これはセリーヌ統帥への侮辱よ! これ以上、どうやって耐えろって言うの!」


彼女の悲憤に満ちた叫びが、駱駝の背を折る最後の一藁となった。
「殺してやる!」
「思い知らせてやれ!」
シャーリーの怒りは病毒のように伝染し、一瞬にして、制御を失った数十の魔力が破滅の嵐と化し、監獄そのものを粉微塵にしようとしていた!

「ご覧なさい、皆様」
グロリアの声は愉悦に満ちていた。
「言ったでしょう? 可愛くも危険な野良猫ちゃんたち。少しからかってやれば、すぐに爪を立てる」
仲間たちが次々と怒りに呑まれていく様を、リーダーである無名の少女は静かに目を閉じて見ていた。再び目を開けた時、その氷のような青い瞳には、骨身に染みるほどの冷たさと、仲間が自制を失った現状への深い悲哀だけが残っていた。

「……いいでしょう」
彼女は静かに言った。その声からは感情が読み取れない。
「あなたたちがそうまで言うのなら、私も付き合う」

言葉が終わるか終わらないかのうちに、純粋で、極致たる冷気が、彼女の身体から轟然と放たれた!
荒れ狂っていた破滅の嵐が、その冷気の前に、まるで躾けられたペットのように瞬時に静まった。次の瞬間、鋭利極まりない、死の輝きを放つ数十本の氷の槍が、音もなく宙に出現し、貴族と典獄長一人一人の喉元、心臓、そして眉間を、寸分の狂いもなく捉えていた。その冷たい切っ先は、彼女たちの肌から、指一本分の距離もない。

狂ったように笑っていた貴族たちは、顔の表情を完全に凍りつかせ、呼吸さえ忘れている。初めて「死」というものの、まぎれもない手触りを感じていた。
彼女が一人で作り上げた絶対的な静寂の中、少女の声がはっきりと響き渡る。それは、仲間一人一人の魂を問いただすかのようだった。


「彼女たちを殺す? 簡単なことよ。――それで、どうするの?」
その氷の視線が、驚愕に動きを止めた仲間たちを射抜く。
「我々自身の手で、我々がずっと否定してきた嘘――『魔族は卑劣な毒を以てグランディを征服した』という嘘を、証明するとでも言うの!?」

その最後の一問は、冷水の一撃のように、仲間たちの頭上に燃え盛っていた怒りの炎を、根こそぎ消し去った。少女たちは互いに顔を見合わせ、その激昂した表情は、次第に戸惑いと、遅れてやってきた恐怖へと変わっていった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...