1 / 4
心傷配達屋
しおりを挟む
何となく見上げた空に、どこからか飛んできた桜の花弁が舞っている。今日の空は雲ひとつなく、春というよりまるで夏の晴天のように透き通っていた。
のんびりと歩く通学路は同じ学校へ通う生徒で溢れ、まだ大きな制服を持て余している新入生や、義務教育も最後の一年となり気の引き締まった受験生が同じ方向へ進んでいる。
唯は小さく欠伸をしながらそんな人の流れに紛れ歩いていた。
学校の正門に辿り着いたところで、唯は足を止めた。
正門を入ってすぐの桜の木の下に、明らかに中学生ではない少女が立っている。小学五、六年生といったところか。小柄な体に薄黄緑色のワンピースを纏い、肩ほどまでの髪が風に靡いていた。
他の生徒は気付いていないのか、それとも興味が無いのか、まるでその少女がそこにいないかのように通り過ぎていく。少女はふと顔を上げ、振り向いた。
──唯と、目が合う。
少女は一瞬驚いたような顔をして、すぐさま満面の笑みはと変わる。まるで親しい人を見つけた時のように、嬉しそうに唯へ駆け寄ってきた。
「唯!」
「え……?」
少女が自分の名前を知っていることに、唯は驚愕する。そして不思議なことに、会ったことの無いその少女が、酷く懐かしく感じた。
「あなたは、日坂唯?」
「そうだけど……あなたは……」
「やっと、やっと会えた……!」
唯の言葉も聞かず、少女は無邪気に喜ぶ。こちらまで駆け寄り、正門の真ん中で飛び跳ねている少女に、相変わらず他の生徒は見向きもしない。
「ねぇ、私の話を聞いて!こっちへ来て!」
「え、ちょっと待っ──!」
少女に腕を引かれ、唯も慌てて駆け出す。小さなその子に連れてこられた場所は、人気のない校舎の裏庭だった。
「よし、ここならゆっくり話せる!」
「ねぇ、あなたは本当にどこの誰……?」
急に走ったことで乱れた息を整え、先程スルーされた問いを繰り返す。少女はパッと笑った。
「私はミユ。あなたにお願いがあって来たの」
「ミユ……ちゃん。初対面だよね、それなのにお願いって……?」
訝しむ唯とは反対に、ミユの明るい表情は崩れない。唯の手を取ると、やはり嬉しそうに笑った。
「私、ずっとあなたを探していたの」
「私を?」
「心傷配達屋の仕事を、あなたに引き受けて欲しい」
「心傷……配達屋……?」
聞き慣れない言葉なのに、すっと耳に入ってくる。ミユは唯の手を強く握り直す。
「あなたはきっと、誰よりも向いているから」
気付けばそこには、小さな郵便局が建っていた。
のんびりと歩く通学路は同じ学校へ通う生徒で溢れ、まだ大きな制服を持て余している新入生や、義務教育も最後の一年となり気の引き締まった受験生が同じ方向へ進んでいる。
唯は小さく欠伸をしながらそんな人の流れに紛れ歩いていた。
学校の正門に辿り着いたところで、唯は足を止めた。
正門を入ってすぐの桜の木の下に、明らかに中学生ではない少女が立っている。小学五、六年生といったところか。小柄な体に薄黄緑色のワンピースを纏い、肩ほどまでの髪が風に靡いていた。
他の生徒は気付いていないのか、それとも興味が無いのか、まるでその少女がそこにいないかのように通り過ぎていく。少女はふと顔を上げ、振り向いた。
──唯と、目が合う。
少女は一瞬驚いたような顔をして、すぐさま満面の笑みはと変わる。まるで親しい人を見つけた時のように、嬉しそうに唯へ駆け寄ってきた。
「唯!」
「え……?」
少女が自分の名前を知っていることに、唯は驚愕する。そして不思議なことに、会ったことの無いその少女が、酷く懐かしく感じた。
「あなたは、日坂唯?」
「そうだけど……あなたは……」
「やっと、やっと会えた……!」
唯の言葉も聞かず、少女は無邪気に喜ぶ。こちらまで駆け寄り、正門の真ん中で飛び跳ねている少女に、相変わらず他の生徒は見向きもしない。
「ねぇ、私の話を聞いて!こっちへ来て!」
「え、ちょっと待っ──!」
少女に腕を引かれ、唯も慌てて駆け出す。小さなその子に連れてこられた場所は、人気のない校舎の裏庭だった。
「よし、ここならゆっくり話せる!」
「ねぇ、あなたは本当にどこの誰……?」
急に走ったことで乱れた息を整え、先程スルーされた問いを繰り返す。少女はパッと笑った。
「私はミユ。あなたにお願いがあって来たの」
「ミユ……ちゃん。初対面だよね、それなのにお願いって……?」
訝しむ唯とは反対に、ミユの明るい表情は崩れない。唯の手を取ると、やはり嬉しそうに笑った。
「私、ずっとあなたを探していたの」
「私を?」
「心傷配達屋の仕事を、あなたに引き受けて欲しい」
「心傷……配達屋……?」
聞き慣れない言葉なのに、すっと耳に入ってくる。ミユは唯の手を強く握り直す。
「あなたはきっと、誰よりも向いているから」
気付けばそこには、小さな郵便局が建っていた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる