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第一章 「縛りプレイはデフォルトですか?」
第三十七話 「お願い」
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「ひなさん、どっか行くんっすか?」
俺が家に尋ねてからの秋彦の第一声だ。確かに旅行用のキャリーバッグを引っ提げてれば、誰だってそう思うな。
だから俺はペコリとお辞儀をしてから、
「今日からお世話になりますっ!」と、にっこり微笑んで言ってやる。
「そ、そんな…ラノベな展開がっ…!」
こいつ、酷いセリフを絶句で返しやがった。さすがの俺も思わず、「うへぇ…」って顔しちゃったよ。
そもそもそのセリフって、キモい、ウザい、エロいの三拍子が揃ってる感じで、女の子当人を目の前にして出しちゃダメだよね。
そんなわけで、半眼で秋彦を眺めていると、
「それはそうと、ひなさん…何かあったんすか?」と、再起動した奴が訊いてくる。
そのしたり顔が余計にイラッとくるが…。普通その言葉が最初だよね。態度に不要な属性を含ませるよりも、まずは常識を含めて欲しい。
それと、玄関先でそのまま会話ってないよねー。
「部屋で話してもいいですか?」
「えっ…あ、あぁいいすっよ」
相変わらず雑然としてはいたが、部屋はそこそこ綺麗に掃除はされていた。
遊びに行くと宣言していたから、奴なりに掃除したのだろう。そういったところは、まぁ感心かな。
(さてと、それでどこまで何を話すべきか――)
本当のことを話したところで、信じてもらえるかどうかは微妙だし。
そんなことを思案しながら、俺は取りあえず荷物を部屋の隅に置くと、ぴょんと手近なベッドに腰掛ける。
(それで…なんでお前はこっち見て、さっきからボーっと突っ立ってんだ?)
ハッキリ言ってちょっと怖いぞ? ここお前のホームだよな? もっと余裕もてよ? 挙動不審っぷりが明らかにおかしいんだが?
いちいち気を遣うし、逆にこっちが疲れるぞ? というか、もう少しスマートに動けないのか?
「秋彦さんも、座りませんか?」
「あ、あっ…はいっす」
俺の不愛想な声音に目を泳がせながら、秋彦は返事をすると、恐縮した感じでベッドへと腰掛ける。
――で、なぜ隣に座る? しかも距離近い。
「あのー。ちょっと近いです」
「う…あ、すいません」
すると秋彦は慌てて間を開けて、
「べ、べつにやましいことなんて、考えてないっすからね!」と、ややツンデレ気味に言い訳をする。
いや、ホントいいから。そういうの。反射的に舌打ちが出かけちゃったよ!?
一気に疲れた…事情を話す前からこれだよ。
そういえば、事情と情事って、漢字を逆にしただけなのに一気にエロくなるよね。
「少し真面目な話なんですけど…」
「うえっ…まさか」
秋彦の意外な反応に、キョトンとした顔でそちらを見ると、奴は青い顔をして冷や汗をかいていた。
ん? まさかって何か思い当たる節でもあるのか? まさか、こいつのところにも既に何か手が回っているのか?
「ひなさん。すんません。責任とります。費用は全額負担しますんで…」
「費用? 責任をとる? …って、何のことですか?」
「えっ…だって、中絶しますよね…?」
中絶って…あぁなるほど、そういう事か。まあ、その辺は大丈夫だ。なぜなら、実はこの体って、そもそも生理がないらしいからな。
って軽く流してはみたけど、ホントに大丈夫なのか? このカラダ?
まぁお陰でヤリ放題なわけだし、いまこの状況下では正直言って助かるんだがな。
それでも始めの頃は焦りまくって、検査薬も毎日のように試していたが、結局、今まで陽性の反応が出ることはなかったし。
なので、たぶん妊娠はしないはずだ。そうは言っても、やっぱり怖さは残ってるけどね。
「違います。その話じゃないです」
「えっ…あ、そうなんすか…いやぁ良かったっす。修羅場確定かと思ったっすよ」
明らかに安心した態度の秋彦を見て、少しカチンときたので、
「最悪の事態にならなかっただけで、全然っ良くないですけどね」と、ひんやりした声音で非難してやる。
「い、いや、分かってるっすよ。そうっすよねー…でも、そんな嫌な思いしたのに、どうしてまた俺のうちに来たんすか?」
ちっ、話をそらしやがった。
まあ、こっちもお願いがあってわざわざ来ているので、話を訊いてもらえるのは有り難いけどな。
しかし、話の切り出し方が難しいな。何気にこれ、難易度が高過ぎるぞ…。
「えっと…そのー。助けて欲しいんです」
「お金とかっすか? 中絶費用くらいの額なら出せるっすよ」
ほぅ…中絶費用は確か保険適用外だから、それなりに高額だったはず。慰謝料のつもりか? こいつ結構金持ちなのか?
確かに金も欲しい。
だが、それはまたいずれという事で…今は本題を話すことにする。
「いえ、身の危険があるというか…この前、あとを付けられて」
「なるほど…ストーカーっすか? ひなさん可愛いからそういう事もあるっすよね」
「まぁ…大体そんな雰囲気かな。それが、結構危ない性格の人で…」
「マジっすか? 警察には相談したんすか?」
これが無理だから困ってるんだよな。
まさか性転換しちゃって身元保証できないから相談できないとも言えないし。
うーん。ここは適当に言い訳を言っておくか…。
「あまり取り合ってもらえなくてー…」
「やっぱ…そうなんすね。どうりで世の中からストーカー被害がなくならないわけっすよね」
「うん。まぁ…それで、匿ってもらえないかなって」
「そういう事ならいいっすけど…ひなさんにとっては俺だって似たようなものっすよね?」
ああ。まあそうだな。
だが、お前は命までは狙わないだろうから、若干マシだ。
「まぁそうなんですけど、その危ない人って、ナイフもって押し掛けたりする感じなので…」
と、苦笑いしながら理由を教えてやる。
「それって完全に犯罪じゃないっすか!」
確かに犯罪だな。
ちなみに我が事のように憤慨してくれているようだが、お前のこの前の行為も強姦罪で完全に犯罪だ。
まあ、だけど共感してくれてるみたいだし、これはもうひと押しかな。
「それで、お願いできますか?」
と、ここぞとばかりに両手を胸元で組んで、瞳を潤ませながら上目づかいにあざとく聞いてみる。
こういった演技ができるようになったのも、日々の弛まぬ努力の賜物だ。
この過酷な環境を生き残るためには、以前は男だったという安い矜持など何の足しにもならない。
いま自分が使える武器を、最大限有効に活用することができるか否かが大事なのだ。
すると秋彦は一瞬の沈黙のあと、
「うーん。でもなぁ…」と、困ったような表情を浮かべる。
なんだ、怖気づいたか。せっかく可愛く言ってやったのに。
まぁ、もともと危険な話だしな。それならそれで仕方ないんだが。くそっ…せっかくここまで来たのに。
すると、こちらのガッカリした雰囲気に気が付いたのか、
「違うんすよ。その、俺…またひなさんのこと、襲っちゃいそうで」と、秋彦が慌てるように取り繕う。
なるほど。そういう事か。確かに若い男女が一つ屋根の下で暮らしていれば、実際問題そうなるよな。
しかし、それなら心配ない。予想はしてたし、なぜなら…。
「ちゃんとゴムしてくれるなら、襲ってもいいですよ?」
「…………………えっ?」
君、今日二度目の絶句だね。まぁそりゃそうか。
俺が家に尋ねてからの秋彦の第一声だ。確かに旅行用のキャリーバッグを引っ提げてれば、誰だってそう思うな。
だから俺はペコリとお辞儀をしてから、
「今日からお世話になりますっ!」と、にっこり微笑んで言ってやる。
「そ、そんな…ラノベな展開がっ…!」
こいつ、酷いセリフを絶句で返しやがった。さすがの俺も思わず、「うへぇ…」って顔しちゃったよ。
そもそもそのセリフって、キモい、ウザい、エロいの三拍子が揃ってる感じで、女の子当人を目の前にして出しちゃダメだよね。
そんなわけで、半眼で秋彦を眺めていると、
「それはそうと、ひなさん…何かあったんすか?」と、再起動した奴が訊いてくる。
そのしたり顔が余計にイラッとくるが…。普通その言葉が最初だよね。態度に不要な属性を含ませるよりも、まずは常識を含めて欲しい。
それと、玄関先でそのまま会話ってないよねー。
「部屋で話してもいいですか?」
「えっ…あ、あぁいいすっよ」
相変わらず雑然としてはいたが、部屋はそこそこ綺麗に掃除はされていた。
遊びに行くと宣言していたから、奴なりに掃除したのだろう。そういったところは、まぁ感心かな。
(さてと、それでどこまで何を話すべきか――)
本当のことを話したところで、信じてもらえるかどうかは微妙だし。
そんなことを思案しながら、俺は取りあえず荷物を部屋の隅に置くと、ぴょんと手近なベッドに腰掛ける。
(それで…なんでお前はこっち見て、さっきからボーっと突っ立ってんだ?)
ハッキリ言ってちょっと怖いぞ? ここお前のホームだよな? もっと余裕もてよ? 挙動不審っぷりが明らかにおかしいんだが?
いちいち気を遣うし、逆にこっちが疲れるぞ? というか、もう少しスマートに動けないのか?
「秋彦さんも、座りませんか?」
「あ、あっ…はいっす」
俺の不愛想な声音に目を泳がせながら、秋彦は返事をすると、恐縮した感じでベッドへと腰掛ける。
――で、なぜ隣に座る? しかも距離近い。
「あのー。ちょっと近いです」
「う…あ、すいません」
すると秋彦は慌てて間を開けて、
「べ、べつにやましいことなんて、考えてないっすからね!」と、ややツンデレ気味に言い訳をする。
いや、ホントいいから。そういうの。反射的に舌打ちが出かけちゃったよ!?
一気に疲れた…事情を話す前からこれだよ。
そういえば、事情と情事って、漢字を逆にしただけなのに一気にエロくなるよね。
「少し真面目な話なんですけど…」
「うえっ…まさか」
秋彦の意外な反応に、キョトンとした顔でそちらを見ると、奴は青い顔をして冷や汗をかいていた。
ん? まさかって何か思い当たる節でもあるのか? まさか、こいつのところにも既に何か手が回っているのか?
「ひなさん。すんません。責任とります。費用は全額負担しますんで…」
「費用? 責任をとる? …って、何のことですか?」
「えっ…だって、中絶しますよね…?」
中絶って…あぁなるほど、そういう事か。まあ、その辺は大丈夫だ。なぜなら、実はこの体って、そもそも生理がないらしいからな。
って軽く流してはみたけど、ホントに大丈夫なのか? このカラダ?
まぁお陰でヤリ放題なわけだし、いまこの状況下では正直言って助かるんだがな。
それでも始めの頃は焦りまくって、検査薬も毎日のように試していたが、結局、今まで陽性の反応が出ることはなかったし。
なので、たぶん妊娠はしないはずだ。そうは言っても、やっぱり怖さは残ってるけどね。
「違います。その話じゃないです」
「えっ…あ、そうなんすか…いやぁ良かったっす。修羅場確定かと思ったっすよ」
明らかに安心した態度の秋彦を見て、少しカチンときたので、
「最悪の事態にならなかっただけで、全然っ良くないですけどね」と、ひんやりした声音で非難してやる。
「い、いや、分かってるっすよ。そうっすよねー…でも、そんな嫌な思いしたのに、どうしてまた俺のうちに来たんすか?」
ちっ、話をそらしやがった。
まあ、こっちもお願いがあってわざわざ来ているので、話を訊いてもらえるのは有り難いけどな。
しかし、話の切り出し方が難しいな。何気にこれ、難易度が高過ぎるぞ…。
「えっと…そのー。助けて欲しいんです」
「お金とかっすか? 中絶費用くらいの額なら出せるっすよ」
ほぅ…中絶費用は確か保険適用外だから、それなりに高額だったはず。慰謝料のつもりか? こいつ結構金持ちなのか?
確かに金も欲しい。
だが、それはまたいずれという事で…今は本題を話すことにする。
「いえ、身の危険があるというか…この前、あとを付けられて」
「なるほど…ストーカーっすか? ひなさん可愛いからそういう事もあるっすよね」
「まぁ…大体そんな雰囲気かな。それが、結構危ない性格の人で…」
「マジっすか? 警察には相談したんすか?」
これが無理だから困ってるんだよな。
まさか性転換しちゃって身元保証できないから相談できないとも言えないし。
うーん。ここは適当に言い訳を言っておくか…。
「あまり取り合ってもらえなくてー…」
「やっぱ…そうなんすね。どうりで世の中からストーカー被害がなくならないわけっすよね」
「うん。まぁ…それで、匿ってもらえないかなって」
「そういう事ならいいっすけど…ひなさんにとっては俺だって似たようなものっすよね?」
ああ。まあそうだな。
だが、お前は命までは狙わないだろうから、若干マシだ。
「まぁそうなんですけど、その危ない人って、ナイフもって押し掛けたりする感じなので…」
と、苦笑いしながら理由を教えてやる。
「それって完全に犯罪じゃないっすか!」
確かに犯罪だな。
ちなみに我が事のように憤慨してくれているようだが、お前のこの前の行為も強姦罪で完全に犯罪だ。
まあ、だけど共感してくれてるみたいだし、これはもうひと押しかな。
「それで、お願いできますか?」
と、ここぞとばかりに両手を胸元で組んで、瞳を潤ませながら上目づかいにあざとく聞いてみる。
こういった演技ができるようになったのも、日々の弛まぬ努力の賜物だ。
この過酷な環境を生き残るためには、以前は男だったという安い矜持など何の足しにもならない。
いま自分が使える武器を、最大限有効に活用することができるか否かが大事なのだ。
すると秋彦は一瞬の沈黙のあと、
「うーん。でもなぁ…」と、困ったような表情を浮かべる。
なんだ、怖気づいたか。せっかく可愛く言ってやったのに。
まぁ、もともと危険な話だしな。それならそれで仕方ないんだが。くそっ…せっかくここまで来たのに。
すると、こちらのガッカリした雰囲気に気が付いたのか、
「違うんすよ。その、俺…またひなさんのこと、襲っちゃいそうで」と、秋彦が慌てるように取り繕う。
なるほど。そういう事か。確かに若い男女が一つ屋根の下で暮らしていれば、実際問題そうなるよな。
しかし、それなら心配ない。予想はしてたし、なぜなら…。
「ちゃんとゴムしてくれるなら、襲ってもいいですよ?」
「…………………えっ?」
君、今日二度目の絶句だね。まぁそりゃそうか。
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