色が見せる人の心

キィー

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逃走

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ドタバタと廊下を走る足音。
通りがかった先生らしき人に注意されながらも、翔の腕を強く握る細い手は離れることはなかった。
振り払うこともできないまま、猫山さんに声をかける
「猫山さん!どこに向かってるの!?」
階段をいくつか駆け上る。
引っ張られて登る階段はぎこちなく、所々転びそうになった。
それでも猫山さんは走る。
そして、いくつめかわからない階段を登っていくと、周りに人はいなくなって、ガチャっと扉が開く音がした。
そうやって猫山さんに連れられて辿り着いたのは学校の屋上だった。
人をかき分けながら廊下や階段を走っていたので、息が切れる。
翔は少しずつ息を整えてから猫山さんに問いかける
「…ここって立ち入り禁止だよね?」
猫山さんも息が切れているのか肩を大きく上下に動かしながらも、横目で翔をちらっと見た
「…言わなきゃバレない」
翔はハハッと笑ってしまった。
これは…共犯者にさせられてしまったみたいだ。
次第に落ち着きを取り戻した翔は空を見上げる。そして、連れ去られる前のやり取りを思い返して、自責の念に駆られた
「えっと…ごめんね。僕が余計なことを言ったから…」
千里が猫山さんと知り合いなのは少し驚いたが、千里に猫山さんと川で会ったことを伝えようとしたとき、状況が状況なだけに言葉の途中で躊躇った。
その後に千里が怒ったのできっと翔のせいなんだろう。
猫山さんはそっぽを向きながらも、目だけチラッと翔を見た。
「あなたは悪くない。千里にダメって言われてた。でも、私は川に入った。だから私が悪い」
あさっての方向を向きながらそう言う猫山さんを翔がどこか不思議に思っていると、後ろから叫び声が聞こえた
「翔!!」
叫び声の方向を向くと、息を切らし不機嫌そうな顔をした彼が出入り口にいた。
「鏡夜!」
彼は水速 鏡夜ミハヤ キョウヤ。翔とは中学の頃からの付き合いだ。
鏡夜は翔の姿を見てホッとしたような顔を見せたあと、猫山さんの方向に目を向けた
「急に翔が拉致られて驚いたんだけど?」
息を切らし、途切れ途切れになりながらも出入り口から聞こえるようにそう叫ぶ。
鏡夜には生徒手帳を落とした猫山心愛さんっていう人にそれを届けたいけど、どこのクラスかはわからないから一緒に探してほしいと、手伝いをお願いしていた。
まず千里にそれらしい人を知らないか聞きに行ったところ、その教室に猫山さんがいた。
その間、鏡夜は廊下で待っていた。
鏡夜からしてみれば、そんな中、急に知らない誰かに連れ去られる翔を見たことになる
それは心配するのも無理はない。
だから、翔は慌てて説明しようとした。
「ごめん、これにはいろいろと事情が…」
ふと、猫山さんを見ると、目を見開き驚いた様子で鏡夜を見つめていた
その様子にはなんとなく見覚えがあるような気がしたが、思い出せないまま気になって声をかける。
「猫山さん?」
と、翔が視線の先から覗き込むと
我に返ったのか、慌てた様子で猫山さんはまたそっぽを向いた
そして、ハッとした様子で囁いた
「私の名前…」
その言葉を聞いた翔はズボンのポケットから猫山さんの生徒手帳を取り出す
「これ、たぶんタオルを取り出した時に落ちたんだと思う。それを見つけて、拾って、名前を…勝手に見てごめんね」
生徒手帳を受け取りながら猫山さんは軽く首を左右に振った
「…ありがとう」
その言葉を聞いて安心した翔は気持ちを新たにする。
「僕は信条翔。よろしくね」
「…よろしく」
相変わらずそっぽを向かれたままなのが少し残念に思いながらも、誰かに翔の肩に手を置かれて、そちらに気を取られる。
「翔、そろそろ授業始まるぞ」
呼吸を整えた鏡夜がいつのまにか翔たちのそばまで来ていて、翔の肩に手を置きながらそう言った。
それは翔に対して言っているはずなのに、目線はずっと猫山さんに向けられていた。
その表情は明らかに敵意に満ちていて、肩に置かれた手は痛くはない程度に力がこめられた。
このままではまずい。直感でそう思った翔は、説明より先に2人を離れさせることにした
「じゃあ、僕たちは先に教室に戻るね。」
猫山さんは目線は合わせないまま翔たちの方を向いて黙って頷く。
翔は不満気な鏡夜の背中を押しつつ、屋上を後にした
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