色が見せる人の心

キィー

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みんなでお昼ご飯

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「猫山さーん!」
午前の授業が終わった昼休み。翔はとある教室でそう叫ぶ
片手にはタオルの入った紙袋を持って、廊下では鏡夜が待っていた
名前を呼んだ人がこっちを一瞬見る、そのそばには千里がいた
きっと、朝の出来事についてなにか話していたんだ
翔は容赦なくそこに突っ込んで行った
「これ、ありがとう。でも、そのせいで猫山さんの分が…体調とか大丈夫?」
紙袋を猫山さんの机の上に置いてそう問いかけた
猫山さんは翔と目を合わすことはせず、屋上にいたときと似たような様子で窓の外を見ながら、目線を一瞬こちらに向けたあと頷いた
「用はそれだけ?」
なんだか少し困らせたくなった
「お昼一緒に食べようと思って」
笑顔でそう答えると、翔は猫山さんの手を掴んだ
断られるのは承知の上なので、隙をついて連れ出せばなんとかなりそうと考えたうえでの行動だ
「ちょっと!」
「翔、心愛はその…」
「千里も一緒に!ほら」
もう片方の手で止めにかかろうとした千里の手を掴み、半ば強引に2人を連れ出す。
周りもなんだなんだとザワザワしていたような気がしていたけど、翔はそんなこと気にしない
2人の腕を掴んで食堂へと向かった
廊下で待っていた鏡夜は驚きはしていたものの、2人を逃す気がない翔を見て無理だと思ったのだろう、諦めろといった様子で千里をみた
千里はそれを察したのか深いため息を吐き
「わかったわよ」
と言った。その隣で猫山さんが
「私は良くないんだけど」
と呟いた気がするけど、聞かなかったことにした

食堂に着いた翔達は座ってそれぞれのお昼ご飯を広げた
そこに誰かがひょこっとやってきて声をかけてきた
「教室にいないと思ったらみんなここにいたんだ。…って誰?」
彼女は神山 星羅カミヤマ セイラ。翔と千里の幼なじみでもある
ちなみに翔たちの中では一番に身長が低く、よく周りにそれで可愛がられている。
「ん?」
本人は身長を気にしているようなので、さっきのは翔の心の中にしまっておく
「こちら猫山心愛さん、昨日知り合ったばかりなんだ」
「へぇー」
と言いながら、猫山さんをジーッと見る星羅
「私、教室戻る」
「ここが嫌なら、僕も教室行くよ?」
そういう意味で言っていないのはわかっていたが、どこに行ってもついていくと意味を込めて、あえてそう言った。
それが伝わったのか定かではないが、翔を睨みつけた猫山さんはしばらくして不機嫌そうに座り直した。
千里は心配そうに、鏡夜は探るようにその様子を眺めていた
星羅はキョトンとして訳がわからないといった様子で翔達を見ていた。
その後、星羅も加わって昼ごはんを食べようとしたとき
「あれー?珍しい組み合わせね」
「ち…影山先生!」
隣で鏡夜がニヤっと翔を見ていたが、見えないふりをした。
彼女は影山 千結カゲヤマ チユ。僕達の高校の先生であり、千里の姉である。
しかし、ため、知らない人から見れば、ただの生徒と教師に見えるほど似ていない。翔と星羅は昔、“千結ねぇ”と呼んで一緒に遊んだこともたくさんある。
ちなみに担当教科は国語だ
「心愛ちゃんが教室にいないと思ったらここに居たのね」
猫山さんが会釈する。そのとき、強張っていた顔がわずかに緩んだ気がした。
「強制的に連れてこられた」
「あらま、千里に?」
頭を左右に振り、翔にチラッと目線を向ける
「翔に?…知り合いだったっけ?」
猫山さんはまた頭を振る。そして、躊躇いがちに口を開いた
「…昨日、川で…」
「あー、あれ絶対に勘違いされるんだから、気をつけなさいって言ったでしょ?」
2人の親しげな会話に翔は不思議に思った。なぜなら猫山さんが千里の友達なら、千結ねぇはここまで親しそうに話さない。翔と星羅みたいに千里の友達と割り切った関係で、ある程度距離を置くはずだと思った
「…2人はどうゆう関係?」
「ん?心愛ちゃんは私の従姉妹よ」
『え!』
と翔達が驚く中、猫山さんは平然としていた。
「あれ?てっきり千里からみんなに紹介されてると思ってたんだけど…」
千里は居心地悪そうにしながら影山先生をチラッと何回も見て、なにか言いたげな様子でソワソワしていた。
「えっと、あ!そういえば、そろそろ体育祭でしょ?みんなは何に参加するの?」
影山先生はそんな千里の様子を気にしてか、話を変えた。明らかになにかありそうだけど、翔と鏡夜と星羅で目配せをして話を合わせることにした。
「私はダンス!」
最初に口を開いたのは星羅だ。星羅は音楽が大好きで、踊りも得意だ。きっと自分から立候補したんだろう、その様子が目に浮かぶ。
「星羅のキレッキレなダンスが見れるのかー。楽しみにしてるね」
と、影山先生が言うと、少し照れくさそうにしながらも笑顔でうん、と頷いた星羅は鏡夜に目を向ける
「鏡夜は?」
「俺は玉入れ」
「えー、鏡夜は力あるんだし、綱引きとか騎馬戦とか出ると思ったのに…」
「団体競技は苦手なんだよ」
「めんどくさいだけでしょー?大体、鏡夜はー」
長引きそうと思った翔は、2人が言い争う中、千里に声をかける
「千里はやっぱりリレー?」
うんと、千里は頷いた。それを傍で聞いた星羅は言い争いをやめて、すぐ千里の方を向いた。鏡夜はそれをやれやれといった感じでみて、隣にいた翔にサンキュと、小さく呟いた。
「千里は足早いもんね。中学も毎年出てたし、今回も出ると思ってたんだよねー」
なぜか誇らしげに語る星羅。そして流れ的に次は…といった感じで星羅と千里が翔を見る。
「僕は借り物競走」
『え…』
その瞬間、2人は凍りついたように固まった。翔がそれ以上言わないでいると、ゆっくり顔だけ鏡夜の方向に向けた。
「じゃんけんで負け続けて、最終的に残り物がそれしかなかったんだよ」
同じクラスで状況を知っている鏡夜がそう捕捉して納得したのか、千里と星羅は何度も頷いた。
「翔はじゃんけん激弱だからね。納得だわ」
「でも、よりによって借り物競走か…。まぁ、いざというときは協力するし、とりあえず頑張れ」
と言いつつ哀れみを込めながら星羅に肩をポンポンとされた。3人が借り物競争でこの反応をするのには理由がある
競技自体は至って普通の借り物競走なので、借りるものは定番なものから無理難題まで揃えている。しかし、もし無理難題の方を引いてしまったりしてものを借りられなかった場合、罰ゲームがあるのだ
その罰ゲームが3人があんな反応をする理由である
あくまで噂だけど、それで一週間学校を休んだ人もいたらしい。
毎年、内容が変わるらしく運が良ければプール掃除とかになるかもしれないが、
去年の罰ゲームを受けた先輩がトイレ掃除をさせられていたと誰かが聞いたらしく、それが伝わって今年は高い確率で“やばい罰ゲーム”だと言われている
その罰ゲーム、正直気にはなる。だけど、触らぬ神に祟りなし、どうか簡単なものであってほしいと願うばかりだ。
ふと横を見ると、淡々とお弁当を食べる猫山さんがいて、そういえばと思って声をかけた
「猫山さんは?」
ピタッと動きが一瞬だけ止まったが、何事もなかったかのようにまたお弁当を食べ始めた。
「…休み」
「こらこら、見学でしょ。勝手に休もうとしない」
翔達が話しているのを、ニコニコしながら眺めていた影山先生が、すかさずそう訂正した。
「見学…?」
「心愛ちゃんはちょっと体が弱くて…普通の授業は問題ないんだけど、体育祭では競技に参加はせず、見学兼、雑用係をすることになってるの」
そう言うと、腕時計を確認した影山先生。
「あ、もうこんな時間。私これから授業の準備しないと。星羅、次はあなたのクラスだからよろしくね」
「はいはーい」
「ハイは一回」
「あいあーい」
こらっと言いながらも、影山先生は笑って去っていった。
その後、ご飯を食べ終えた翔達はそれぞれの教室へ戻った
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