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第二話 メルゲルと勇者試験
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――ロマン王国 王都 勇者アカデミー面接会場――
目の前に三人の長老達が座っている。
その前には一人の少年が座り、後ろには大勢の受験生達が控えていた。
長老達はテーブルを指で叩きながら無言で少年が立ち去るのを待っている。
「一体どうしてこうなった?」
不合格を言い渡されたメルゲルは不合格の理由が理解出来なかった。
目の前の試験官達は俺が平民。
しかも最果ての村の出身と知るとあからさまに苦笑いを浮かべた。
そして貴族の紹介でもないと知ると即座に不合格を言い渡した。
ここロマン王国では数百年に及ぶ魔族との戦いを経て一つの結論を出した。
それは対魔族特化の戦士を作り出す事。
つまりは勇者の育成である。
巫女姫教会が莫大な資金を投じて設立した勇者育成学校。
それが勇者アカデミーである。
年に一度、王都にある勇者アカデミーでは各地の勇者候補が集まってくる。
そこから数名の合格者を決めて徹底した英才教育を施していた。
三年間の学園生活を経て主席で卒業した者は勇者の称号を与えられる。
主席を逃してもアカデミー卒業というだけで将来の成功は約束された。
そんな羨望の試験にメルゲルは臨み、見事に門前払いとなっていた。
(クソッ、こんなはずでは……何故だっ)
試験会場を追い出され外へ出ると肌寒い風が吹き抜けた。
雨が降る前の独特の匂いが鼻を駆け抜ける。
試験前あれ程、晴天だった空も今はどんよりと曇っている。
湿気た空気が俺の気持ちに纏わりつく。
「悪いが勇者アカデミーの受験資格は王族・貴族である事。
または貴族の紹介状を持っている事なんだ。
メルゲル君はそのどちらも満たしていない。」
試験官はそう言うと、そんな事も知らないのかと言う顔で首を振る。
「そっ、そんな。
せっ、せめて実技試験だけでも受けさせて下さい。
実技を見ていただければ俺が勇者に相応しいと納得していただけるはずです。」
「悪いが規則は規則なので……。」
薄ら笑いを浮かべてそう言う試験官の言葉に無性に腹が立った。
「そんなっ、平民と言うだけで試験も受けられないなんて。
世界を救う勇者を育成するアカデミーが平然と差別するんですかっ。」
「差別?
君は伝統ある勇者アカデミーを侮辱するのかね。
貴族の推薦一つ持って来れない平民がっ。
貴族一人にすら認められない人間が世界に認められる訳がないだろう。
つまりはそう言う事なのだよ。
分かったら、さっさと村へ帰りなさい。
え~っと自称村の勇者 メルゲル君。」
「ふふふっ」
「ははは」
「自称 勇者ねぇ」
そう言うと後ろに控えていた受験者達が一斉に笑い出した。
(ぐすっ、こんな王都なんて直ぐに出よう。)
涙目になりながら足早に街の出口へ向かう。
こんなに惨めな気持ちになったのは生まれて初めてだ。
村では村始まって以来の天才ともてはやされ。
将来は世界を救う勇者になると村人全員が信じていた。
自身も幼い頃から周りとは違う身体能力に将来は勇者だと確信していた。
だから王都に行けば……。
勇者アカデミーへさえ行けば将来は約束されると思っていた。
「あぁぁぁ、何と素晴らしい身体能力なんだ。
こんな勇者は伝説の二代目勇者以来の快挙だよ。
君こそ世界を救う勇者に違いないっ。
さあ、勇者アカデミーで存分に学ぶがいい。」
そう拍手喝采の中で迎え入れられると信じていた。
村人達の期待や羨望がそう俺に夢を見させていたんだ。
それなのに……実技試験も受けずに門前払い。
昨日で十五歳。成人し村中の資金を集めて送り出されている。
今更、勇者になれませんでしたと村へは帰れなかった。
ザァァァ ゴロゴロ
突然、夕立のような雨が降って来た。
慌てて脇の森へ入る。
木の葉で雨を避けながら先へ進むと中央の大樹が枝を広げていた。
(あそこなら雨宿り出来るだろう。)
慌てて大樹へ駆け込むと既に誰かが先に雨宿りをして居た。
「凄い雨ですね。」
服に付いた雨を手で払いながら独り言のように話しかける。
返事がないので気になり思わず顔を上げる。
全身を漆黒のコートに身を包んだ黒髪の細身の男性。鋭い眼光に銀縁の眼鏡を掛けている。
彼はチラっと俺を見ると再び空へ視線を戻した。
(感じ悪いなぁ 挨拶くらいすればいいのに。)
「どうして王都の人間は、こうも感じが悪いのか。」
先程の試験官の顔が浮かび顔をしかめて呟いた。
すると男は蔑むように俺を睨んで言った。
「試験に落ちたからと言ってアカデミーの老いぼれ達と一緒にしないでもらいたい。」
「えっ、どうして俺が試験に落ちたと知っているのですか?」
驚く俺に男はさも当然の様に言った。
「君のような若者が正装をしている。
だが服の生地はそれ程上質ではないから貴族ではないのだろう。
靴底はかなり擦り切れているから労働者。
つまりは平民だ。
右手には受験証を持っているが試験時間にこんな場所でうろついている。
そこから導き出される結論はただ一つ。
田舎から勇者アカデミーに受験に来たが、受験資格がなく追い返された。
自分に実力が無い事を棚に上げて他人のせいにして苛立っている。
大方、そんな所だろう。」
(なんだっ、この人は?)
余りに図星で俺は腹が立った。
「貴方に何が分かるんですかっ。
俺は実技試験も出来ずに追い返されたんだ。
俺には人にはない身体能力がある。
実技試験さえ受けられれば間違いなく勇者になれていた。」
「ふっ、ふはははっ」
その言葉に男は突然笑い出した。
「何が可笑しいんだっ。」
俺は顔を真っ赤にして男に掴みかかった。
「いや、悪い悪い。
君が余りに無知なものでつい笑ってしまった。」
「俺のどこが無知なんですかっ」
「わざわざ王都まで来てアカデミーに受験している事自体が無知なんだよ。
勇者アカデミーなんてクソだ。
三年間ひたすら体を鍛えた所で何になる。 馬鹿らしい。ただ時間の無駄だ。
そんな脳筋勇者なぞ何の役にも立ちはしない。
私なら君を一年でアカデミーを越える勇者に育てる事が出来るがな。」
「たった一年でアカデミーを越える勇者にっ。
そんな事が出来るわけがない。
田舎者だからってバカにして……デタラメを言うな。」
「嘘ではないさ。
私なら……錬金術ならそれが可能だと言っている。」
「錬金術?」
聞いた事のない言葉に一瞬面食らった。
だが先程の俺の状況をピタリと言い当てた観察眼。
嘘を言っているようには思えなかった。
不思議そうな顔している俺の顔をみて男は落ちている枝を拾い上げた。
「君の身体能力が常人の二倍だとして三年鍛えてどの位伸びると思う。」
「……さぁ、でも頑張れば一割は伸びるんじゃないですか。」
俺は顎に手を当てながら答えた。
村では散々自分なりに鍛え尽くしたつもりだ。
でも高名な王都の勇者アカデミーならきっともう少し伸ばせるはずだった。
「そう、勇者と言えども人間。
身体能力の向上には限界がある。
まぁ、自称天才の君が頑張って常人の三倍まで向上したとしよう。
だがそれでは魔族には太刀打ち出来ない。」
「どうしてですか?」
「それは魔族が常人の五倍の身体能力を持っているからさ。」
(ごっ、五倍!)
その言葉に俺は驚愕した。
魔族で五倍なら魔王では何倍なんだっ。
それが事実ならとても魔王討伐など出来る気がしなかった。
俺は自分の弱さと浅はかさに打ちのめされた。
村始まって以来の天才 メルゲル。
もてはやされてその気になって上京したが所詮はただの田舎者だったのだ。
うなだれていると男は拾った枝に蒼い液体をかけた。
パンッ両手を叩くと空中に浮かぶ枝の下に小さな魔法陣が現れる。
「無から実へ……静寂から混沌へ
我、契約の名の下に混沌の理を破壊する者なり。
『魔導錬金 雷』」
そう言うと枝が蒼白い光に包まれた。
男はそれを俺に投げて寄こす。
「君っ、剣術の心得は?」
「えっ、一応あります。
独学ですが……。」
「ではあの岩山を敵だと思って振ってみたまえ。」
(なんだっ、突然。演舞でも観たいのか?)
そう思いながらも俺は枝を剣に見立てて構えた。
勇者アカデミーの実技試験の為に何度も練習してきた技だ。
呼吸を整えて左手を前に突き出して構える。
バンッ
強く一歩足を踏み込み枝を振るう。
バキッ ガラガラ グシャッ
(えっ?)気がつくと俺に一振りで目の前の岩が切り裂かれ崩れ落ちた。
握りしめた枝が細かい光となって消えて行く。
(……っ、これはっ、一体何が起こったんだ。)
思わず男へ振り返る。
「『魔導錬金 雷』錬金術によって枝に強化と属性を付与した。
初歩の簡易的な錬金だが少しは理解出来たかな。」
「……っ、つまりは……。」
「そうだっ、アカデミーの三年間など何の役にも立たない。
魔導錬金術こそが究極で最強。
魔導錬金は君の力を数十倍に昇華させるコトが可能だ。
そして究極の剣を生成できれば……
その力は勇者や魔王を遥かに凌駕する。
戦闘力とは人ではないっ、道具が仕事をするのだよ。
どうだ少年っ、君も錬金の深淵を覗いて見たくはないか?」
「貴方は一体?」
「あぁぁ、言ってなかったな。
私は魔導錬金士 クラウド フェル パイルだ。」
(魔導錬金士?)
聞いた事もない言葉に一瞬戸惑ったがこの力は本物だった。
俺はすっかりその力に魅了されていた。
どの道、あれだけ応援されて村を出たんだ。
試験に落ちましたとスゴスゴと村へは帰れない。
それにアカデミーの試験官達を見返してやりたい気持ちでいっぱいだった。
「俺にっ、俺に錬金を教えて下さい。」
そう言って俺は頭を下げた。
「いいだろう。
だが条件がある。」
「条件?」
「何、簡単な契約だ。
君の名は今日からシフォン。
ニコレ伯爵当主 ニコレ フォン シフォンだ。
一年後、勇者として魔王を討伐して貰う。」
「魔王討伐?
でも魔王はこの百年封印されていないのでは?」
「君が得るのは圧倒的な力、差し出すのは過去の経歴と未来。
私が教えるのは一年間だけだ。
一年後、見込みがなければ死んでもらう。
あと師匠の言う事は絶対だ。一切の口答えは許さない。」
(死んでもらうって何の冗談だよ。
この人なんか怪し過ぎる……でも凄さは本物だ。)
強くなれるのなら過去や名前などどうでもいい。
あんな凄い技を魅せられて、ここで引き下がる訳にはいかなかった。
「分かりました。
よろしくお願いします。」
そう言って俺は覚悟を決めた。
「いいだろう。
君の名前は?」
「餓狼村から来ましたメルゲルです。」
(餓狼村?
神降ろしの一族か。
これは案外、拾い物かもしれんな。)
パイルの眼鏡が妖しく光る。
「いいだろう。
メルゲルっ、私について来い。
アカデミーの爺達をぎゃふんと言わせてやるぞ。」
「はいっ。」
そう言って俺は高鳴る鼓動と共に謎の魔導錬金士について行った。
いつの間にか夕立は止んで枝葉から眩しい光が差し込んでいた。
雨上がりの独特な匂いを嗅ぎながら森を抜けるとコテージに着いた。
ドアを開けると中に居た女性が振り向いて声をかける。
「あっ、先生 お帰りなさい。
その子は?」
「あぁぁ、森で拾って来た。
弟子にしたから色々教えてやってくれ。」
見ると細身の体に銀髪の長い髪の清楚そうな女性が立っていた。
先生と呼ぶからには彼女も弟子なのだろう。
小顔に蒼い瞳……魔族だろうか?
長い髪を後ろで縛り金の髪飾りを着けている。
凛々しい顔立で意志が強そうだった。
服装は清楚な顔立ちとは裏腹に胸がはち切れそうなタイトなブラウス。
目のやり場に困るくらいのかなりの巨乳だ。
下は左の太股を大きくカットアウトしたミニスカート。
ロングソックスにガーターベルト。
絶対領域全開のセクシーな服装だった。
餓狼村では素朴な女性しか居なかった。
俺が垢抜けた雰囲気に押されモゴモゴしていると眉をひそめて睨まれた。
「ふ~ん」
値踏みするような視線に気圧されながらぎこちなく笑う。
「メル……っ、いやシフォンです。
よっ、よろしくお願いします。」
「まぁいいや、マリーよ。
取り敢えず、これから毎日銅貨一枚支払いな。」
「えっ、金取るんですか?」
「当たり前だよっ、 飯代だって馬鹿にならないんだからね。
先生から指導代を盗られないだけでも恵まれてるよあんた。」
(盗られないって?
おいおい、師匠ってどれだけ鬼畜眼鏡なんだよ。)
チラッと師匠の方を見るが無表情で眼鏡を上げていた。
俺は慌ててポケットの有り金を漁る。
だがそこには鉄貨が数枚あるだけだった。
「……り せん。」
「はっ? 何だって?」
「お金、足りません。」
そう言うとマリーは深いため息をついて俺の有り金全てを奪い取った。
「なにっ、たったこれだけしか持ってないの?
まぁ、今日はこれで許してやるよ。
明日から一所懸命に働くんだね。
それから私の方が姉弟子なんだから私の言う事は絶対だからね。
一切の口答えは許さないよ。」
(この師弟はどんだけ鬼畜なんだよっ
このエロ守銭奴がっ
もしかして俺はとんでもない所に弟子入りしたのでは?)
俺は少し不安な気持ちになりながらも姉弟子との対面を果たした。
――翌日――
「シフォン、いつまで寝てるのっ
姉弟子より先に起きないなんてあり得ないんだからね。
早く起きて支度しなさいっ。
出かけるわよ。」
(眠いっ、今何時だよ。)
俺は眠い目を擦りながら姉弟子マリーの後について森へ出た。
マリーに叩き起こされ薬草採りに連れ出されたのだ。
朝靄が立ち込めまだ肌寒い。
よくもまあ、この寒さで太股を剥き出しに出来るものだ。
そう思いながらもついつい露出した尻を見てしまう。
(性格さえ良ければ清楚顔で美形なんだけどな。)
俺の視線に気がついたのかマリーは振り返ると睨みつけながら手を払った。
そして何かに気がついたのか走り出すと足元の草を摘み取った。
「シフォン、いい。
これが薬草よ。
よく特徴を覚えて。」
そう言って目の前に摘み取った草を突き出す。
見るとそれは五つの花びらを持つ黄色い可憐な花だった。
「これが薬草?」
「そう、オトギリソウ。
傷口の炎症に良く効くの。
古代から悪魔や雷を避けるとされている草よ。
はいっ。」
そう言うと大きな籠を渡された。
「取り敢えずこの辺りに咲いているから、
この籠が一杯になるまで摘んで来て。」
(えっ、こんなに?)
「あの、マリ姉さん。
この籠だとかなりの量があるのかと……。」
「ふふふっ、大丈夫よ。
これから毎朝、摘むんだから。」
そう言うとマリーは悪魔の笑顔を浮かべた。
ひたすらオトギリソウを摘む事、数時間。
やっと積み終わると俺達は湖のほとりの倒木に腰掛けて休憩をした。
マリーが小瓶を取り出すと湖の水を汲み始める。
「はいっ、
これ私のお古だけどあげる。」
そう言うと古めかしい腕輪を差し出した。
見ると銅製の腕輪に緑の石が一つ埋め込まれている。
不思議そうに眺める俺にマリーが説明を始めた。
「魔導錬金士になるには、まず基礎知識の錬金術の習得が不可欠よ。
魔導錬金術と錬金術は似ていて非なるもの。
錬金術は複数の材料から別の物質を生み出すモノ。
魔導錬金術はある材料に異なる性質を付加するモノ。」
「変更と付加?」
「そう、水と薬草からポーションを作り出すのが錬金術。
枝に雷の性質を付加するのが魔導錬金術。
シフォンは先生の作った雷の枝を体験したんだよね。」
俺は大きく頷いた。
メルゲル師匠の作った雷の枝を思い出す。
一振りで一瞬にして岩を粉々にいたあの威力。
その魅力に取りつかれて魔導錬金士に弟子入りしたのだっだ。
『アカデミーの三年間など何の役にも立たない。
魔導錬金術こそが究極で最強。』
師匠の言葉を思い出して再び心がときめいた。
だが師匠に聞くまで魔導錬金術なんて聞いた事がなかった。
「魔導錬金術って何なんですか?」
そう訊ねるとマリ姉は誇らしげに語った。
「先生は凄いのよ。
世界で唯一の魔導錬金士なの。
シフォンは聖遺物って知ってる?」
「聖遺物?」
「う~ん、 ロンギヌスの槍なら聞いたコトあるかな?」
「あぁぁ、知ってる。
伝説の最強の槍だろ?」
「ふふふっ、そう最強の槍。
でもその最強の槍も最初はただの槍だったの。
それがイエスの血に触れ性質を付加され最強となった。」
「性質を付加?
まさか魔導錬金術ってロンギヌスの槍を作れる術なのか?」
「そう、魔導錬金術の最終到達点は聖遺物の作製よ。」
(神をも殺す武器の作製……)
途方もない話に啞然とした。
だが聖遺物と言う言葉には馴染みがあった。
故郷の餓狼村の神殿にも儀式に使う宝珠がある。
その宝珠は聖遺物と呼ばれ神降ろしの舞いを踊る時にだけ着用を許された。
俺も今年の儀式ではそれを着けて舞ったので覚えている。
どこか神秘的で不思議なパワーを秘めた石だった。
「でもそんなに凄い技術があるならどうして量産しないんだ。
それこそ王族や勇者達が黙っていないだろう。」
「そうね。
それには二つ理由があるわ。
一つは付与する土台の武器が少ないコト。
魔導錬金士は付与は出来ても武器を作製する事は出来ないの。
もう一つは完成された聖遺物は完成者以外には扱う事が出来ないの。
他者が使用すると何故か光の粒子となって消えてしまうの。」
そう言えば確かに師匠が作製した雷の枝を俺が使った時。
枝を振るうと細かい光となって消えて行った。
あれはそう言う事だったのか。
『魔導錬金こそが究極で最強。
究極の武具を錬金できれば……
その力は勇者や魔王を遥かに超える。』
師匠の言った意味が少し分かった気がした。
(俺にしか使う事が出来ない最強の聖遺物。
それを装備すれば正に究極で最強。
馬鹿にした勇者アカデミーを見返すどころか世界を救う事だって……)
そう考えると俺はますます心が滾って来た。
「すげ~っ、あああ、マリ姉っ、
はやく俺に魔導錬金術教えてくれよ。」
俺は姉弟子の袖を引っ張った。
「やっと眠気が覚めたみたいね。
でもシフォンにはまだ早いわ。
まずは錬金術の基本から学びましょう。
今日はポーションの作り方を教えるわ。
見てて。」
そう言うと湖の水を入れた小瓶と薬草を取り出した。
パンッ
両手を叩くと両手の間に小さな魔法陣が現れた。
魔法陣の上で小瓶と薬草が光に包まれる。
光が消えると薬草は消えていた。
「出来たっ。
これが初級ポーションよ。」
そう言ってマリーは小瓶を手渡す。
見ると透明だった湖の水が赤く色づいていた。
「さぁ、シフォンもさっき渡した腕輪を着けてやってみて。」
「腕輪?」
よく見るとマリ姉も両手に腕輪をしていた。
色は銀。三つの穴が空いていて緑と黄色の魔石が一つずつ埋め込まれている。
「この腕輪が錬金に関係あるのか?」
腕輪を左手に着けながら訊ねる。
「そう錬金はこの魔道具を使って行うの。
これを使用すれば瞬時に魔法陣を展開する事が出来るのよ。」
「俺のは銅で、マリ姉のは銀色なんだな。」
「そう魔道具にはレベルがあってね。
腕輪は銅や銀や金があるの。
埋め込まれている魔石も色によって効果が違うのよ。
ポーションを錬金するには緑の魔石が必要なの。
腕輪や魔石の種類。
埋め込まれた数によって出来る事や効果に違いがあるのよ。」
「ふ~ん」
「さぁ、とにかく実際にやってみましょう。」
俺は説明を受けると見よう見まねでやってみる。
パンッ
不安定ながらもふわふわとした魔法陣が展開される。
魔法陣の上で小瓶と薬草が光に包まれる。
光が消えると薬草は消えていた。
(どうだっ)慌てて見ると小瓶の水は薄っすらと赤く色づいていた。
「成功だっ、おぉぉぉぉ
初錬金っ。ポーションゲットォォォ」
(初めてでいきなり成功なんて俺天才じゃね。
勇者アカデミーの爺、ざまあ見ろっ。)
俺は嬉しさで舞い上がっていた。
こんなに嬉しかったのは人生で初めてだった。
苦笑いしながらマリーが拍手する。
「成功よ。
おめでとう。
早速、飲んでみて。」
少し勿体ない気がしたが初成功のポーションを飲んでみた。
一口飲むと薄っすら体が光る。
(よしっ、これでググっと体力が回復して……んっ?)
気のせいか余り回復した気がしない。
「あのっ、マリ姉さん。
ポーションと言ったら瀕死の兵士が一気に回復するアレですよね?」
「……う~ん、ちゃんと作ればね。
私の作ったポーションと色を比べてごらん。」
言われてみれば確かにマリ姉の作ったポーションと比べるとかなり色は薄かった。
「効能は色の濃さ。
つまり純度に比例するの。
その色は赤から紫、上級ポーションにもなれば青く色づくのよ。
まあ、銅の腕輪じゃあ赤が限界だけどね。」
(薄っす、俺の薄っす……)
小瓶を太陽光に透かして見る。
俺の作ったポーションは紫どころか赤でもない。
微かに色づくピンクだった。
これじゃあ薬草をかじっているのと変わりなかった。
(う~)余りの現実にしょげているとマリーが肩を叩いて励ました。
「まぁ練習、練習。
毎日やればその内、赤くなるわよ。
初めてで成功するなんて凄い事なんだから。
取り敢えず摘み取った薬草分を全部作って街で売って来なよ。
今日中に銅貨一枚を稼がないといけないんだがら。」
「銅貨一枚?」
首を傾げる俺に姉弟子は怪しく微笑む。
「忘れたの?
ウチに居る間は毎日銅貨一枚徴収するって言ったじゃない。
払えない日は晩御飯抜きだから。」
「そんな~。」
俺はさっき少しでも姉弟子を尊敬した事を後悔した。
見た目は清楚でエロ可愛くても中身はやっぱり守銭奴なのだ。
仕方がなく、俺はため息をついて作り始めた。
パンッパンッパンッ
一心不乱に作っていると後ろから声がかかる。
「私は先に街に行って売ってくるから。
全部作れたら街へおいで。
シフォンのポーションは店では買い取ってもらえないと思うから
大通りのフリーマーケットで売るといいよ。
じゃあ、頑張って晩御飯代稼いでね。」
そう言うと手を振り笑顔で去って行った。
(初日から放置プレイかよっ。
この鬼~、エロ守銭奴~。)
俺は呪いの言葉を吐きながらひたすら手を叩いた。
やっと全て作り終わり教えてもらった大通りへ行ってみる。
道沿いにズラリと多くの人が並び地面に商品を並べて売っていた。
(こんな事なら下に敷く布を持ってくればよかったな。
布買う金ないけど……)
そんな事をブツブツを言いながら空いている隅へ座りポーションを並べる。
「………………」
「………………」
「………………」
座る事、二時間。
全く売れる気配がなかった。
時々ポーションを手に取る客もいたが俺のポーションの余りの薄さに去って行く。
やがて人通りも少なくなった。
(うわぁぁ、一個も売れないのかよ。
こりゃ、今日は晩御飯抜きだな。)
「はぁ~」
「はぁ~」
同時にため息が隣から聞こえて思わず振り向くと隣と目が合った。
「はぁ、どうもっ。」
隣の少年が頭を下げた。
武器屋だろうか。
見ればナイフを中心に品揃えをしているが売れてはいないようだった。
「売れませんね。」
少年は自虐的に苦笑いを浮かべた。
全く売れない店主二人。
何となく親近感が湧き客も来ない事から俺達は色んな話をした。
少年はカツラギと言い異国からロマンへ来たのだという。
赤髪の好青年で確かにこの辺りでは見ない顔立ちをしていた。
現在はロマン随一の鍛冶職人の元で修行中らしい。
彼のナイフを見てみる。
(うわぁぁ、こりゃ売れないわ)
刃は薄くヘロヘロ。
使うと直ぐにても刃こぼれしそうな感じだった。
なんだが嬉しくなって俺の作ったポーションを試飲させてみる。
「うわっ、薄っす。」
カツラギが笑って言う。
「なっ、薄いだろ?」
二人は同時にゲラゲラ笑った。
暫くするとカツラギは帰り支度を始めていた。
「あれ、もう閉店するの?」
「うん、今日は全然売れないから材料採集に行こうと思います。
そうだっ、一緒に行きませんか?
上手くすれば銅貨一枚稼げるかもしれませんよ。
銅貨一枚払わないと晩御飯が抜きなんでしょ?」
そう誘われて俺も店じまいを始めた。
どうせこのまま店を開いていても薄っすいポーションじゃ売れはしない。
採集場所の鉱山へ行く道すがらカツラギから鍛冶について色々学んだ。
鍛冶はインゴットと呼ばれる地金を熱して叩く事で成形するらしい。
その強さは伸ばしてはたたみ、また伸ばす事で強度が増す。
「神宮寺師匠の凄い所は鋳造を止めた事。
ロマンでは金属を液体にして型に流し込む作り方が主流なんだ。
鋳造は複雑な形でも簡単に安価に作れるという利点があるんだけれど。
でも師匠は祖国の鍛造という秘術で作るんだ。
何度も伸ばすと折るを繰り返す『折り返し鍛錬』。
それによって時間はかかるけど各段に強度が増すんだ。
師匠の作製したロングソードは評判を呼びロマン一の鍛冶職人になった。
通常は打ち手を三人従えて強度を増して行くんだけど。
ほら僕は独りだから……大量に作る為にあまり折り返していないんだ。
でも大量に作ってもこの出来じゃあ意味ないね。」
「う~ん。
素人の俺が見てもカツラギのナイフは刃こぼれしそうだからな。
大量生産を諦めて折り返し回数を増やして強度を増した方が売れるかも。
そもそもどこにでもある物は競合も多いんじゃね。
需要は少なくても珍しい物の方がいいかもな。
切れ味が未熟でも装飾用で売れるかもだぜ。
俺の村の祭事で使用する神具も切れ味は求めてないし。」
「へ~、そうなんだ。
今までは早くこの国に馴染もうと兄弟子達の模倣作製を懸命にして来た。
でもそれじゃあ駄目なんだね。
シフォン君の言葉で吹っ切れたよ。
僕なりに武器を作ってみるよ。
サムライソードは無理でもワラビテ刀なら出来るかも。」
「サムライソード?」
「うん。 師匠の得意としている刀。
ロングソードみたいに両刃じゃなくて片刃で反っているんだ。
斬るに特化した特殊武器かな。」
「すげぇな。
そんな武器をカツラギは作れるのか?」
「ううん、まだ僕の力量じゃあ無理だよ。
頑張ってワラビテ刀ぐらいかな。」
「ワラビテ刀?」
「うん。
サムライソードの短剣。
大きさはグラディウス位かな。
凄く時間がかかると思うけど仕事の合間に挑戦してみるよ。
そしていつか一人前になったら剣にも挑戦してみたい。」
「おお、出来たら見せてくれよな。」
「うん、分かった。
じゃあ初めての剣は君にプレゼントするよ。
約束する。」
「あぁ、約束だ。」
(ふ~ん、鍛冶の秘術『折り返し鍛錬』か。
もし俺の薄いポーションも繰り返し鍛錬したら……)
そんな事が頭を過った。
暫く歩くと目的の鉱山が見えて来た。
人工的に掘り進められた跡と無骨な骨組みが組み巡らされている。
ひんやりとした感触と独特な匂い。
カツラギに連れられ鉱山ダンジョンの奥に進む。
細い通路を進み広間の様な場所へ出た。
辺りには無数のスライムが飛び跳ねている。
「あの茶色のスライムが銅スライム。
倒すとたまに銅のインゴットをドロップするんだ。」
「色んな色のスライムがいるんだな。」
「ここのスライムは生態系が特殊なんだ。
主に鉱山の金属を食べていてね。
食べる金属の種類によって色が違うんだ。
銅スライムなら俺達でも倒せるよ。」
そう言いながらカツラギは鉄のハンマーを取り出すと俺に手渡した。
「じゃあ、狩りますか。」
「じゃあ、狩りますか。」
そう言ってピョンピョン跳ねる茶色のスライムへ挑んで行った。
バシッ ポコッ ポカッ
悪戦苦闘しながら何度かハンマーで殴り、やっとスライムを一匹倒した。
スライムが光と共に消えて代わりに何かが現れた。
(……っ)これがモンスターが稀に落とすドロップ品らしい。
興味津々でその場へ駆け寄る。
今回獲得したドロップ品は二つ。
――銅のインゴット
上薬草
「おぉぉ、これがドロップ品か。
俺初めて見たよ。」
「そう、モンスター討伐は初めて?」
「あぁぁ、ダンジョン自体が初めてだ。
そうだっ、ポーション飲むか?
薄いけど……」
「飲む、飲むっ、もう喉がカラカラだよ。」
二人は笑いながら薄いポーションで祝杯を挙げた。
「ドロップ品の分配だけど……
インゴット系は僕で、その他はシフォンでいいかな?」
「ああ、いいぜ。
上薬草の方が錬金に使えるし。」
それから俺達は夢中で銅スライムを狩りまくった。
「えいっ、ボコッ、
とうっ、ポカッ」
俺はカツラギからハンマーを二本かりて両手で殴りまくる。
「おぉぉ、シフォン君強いな。
びっくりだよ。」
「ふふふっ、これでも村では天才と言われていたんだぜ。
伊達に勇者を目指していないのだよカツラギ君。」
そう言って俺は胸を張った。
(褒められるって気持ちいい♪)
王都に来てから鼻を折られてばかりだった。
だからカツラギからの称賛が素直に嬉しかった。
「おいっ、もう少し奥にも行ってみようぜ。」
調子に乗った俺はそう言ってノリノリで脇の細道を突き進む。
それをカツラギも苦笑いしながらついて行く。
道なき道を探索して行くと緑色がかった黒色のスライムが数匹いた。
俺が無言で指さすとカツラギも頷いた。
「鉄スライムだ……あれ?」
そう言ってカツラギの視線が止まる。
釣られて見ると鉄スライムの中に白い色のスライムが居た。
「よぉ、変な色のスライムがいるぜ。」
俺が囁くとカツラギも不思議そうな顔で囁く。
「あんな色のスライム初めて見た。
珍種かも。」
(レアなスライム?)
その言葉に俺達の冒険心に火が点いた。
「おぃっ、狩ってみようぜ。」
「うんっ」
俺達は黙って目配せをすると逃げられないようにそっと左右から挟むように近づいた。
「いまだっ、カツラギっ」
そう言うと一斉に二人で襲いかかる。
「えいっ、ピコッ、このっ、スカッ」
「やぁぁ、ポカッ、逃げるなっ、スカッ」
珍種スライムは意外とすばしっこい。
(くそ~っ、こうなったら)俺は村の祭事で使うとっておきのスキルを発動した。
『秘技 神降ろしの舞い 壱の型』
俺の体が蒼い光に包まれ少し浮遊する。
そして劇的に身体能力が向上した。
ヒュンッドガッ キュ~
会心の一撃を珍種へ与えスライムは光に消えて行く。
「やったぜ、カツラギ。」
カツラギが驚いて駆け寄る。
「シフォンっ、今のスキルは一体。」
「あぁぁ、俺の村に伝わる秘術さ。
本来は巫女が神へ捧げる舞いを踊る為の技さ。
本当は他人に見せちゃ駄目なんだけど……。
凄いだろ。壱から参の型まであるんだぜ。
俺はまだ壱の型までしか舞えないんだけど
それでも少しの間、嘘みたいに速く動けるんだぜ。」
「神降ろしの舞いか……凄いんだね。」
「ああ、一時間に一回しか使えない奥の手スキルさ。
それよりドロップアイテム見てみようぜ。」
興味津々で現れたアイテムを手に取る。
今回獲得したドロップ品は一つ。
――???のインゴット
「白い鉱石?
これは何て言う金属なんだ。」
「……分からない。」
「へっ?
鍛冶師のお前が分からない事はないだろう。
鉄か?」
「分からないんだっ、
こんな不思議な金属見た事がないよ。」
首を傾げるカツラギだったが、約束通りカツラギが持ち帰る事になった。
それから鉄スライムを数匹狩って俺達は街へ戻った。
鉱石はカツラギが貰い。
その他を俺が貰った。
俺は上薬草だけを残し後を道具屋で売り払った。
今日の売り上げは全部で銅貨三枚。
一日中働いてこれだけだったが満足していた。
これで三日は飯が食えるし初ダンジョンは楽しかった。
何よりこの街へ来て初めての友達が出来た事が嬉しかった。
「シフォン君、
今日は素材集め手伝ってくれてありがとう。」
「いや、俺の方こそ楽しかったぜ。
鍛冶の修行がんばれよな。
俺も銅貨稼げて助かったぜ。
これで今日は飯が食える。」
そう言っておどけて見せた後、俺達は手を振り別れを告げた。
「……あのさ、シフォン君。」
少し歩いた後でカツラギが振り向き言いにくそうに立ち止まった。
「俺、異国人だけど。
もし良かったら来週も一緒に行かないか?
ダンジョン。」
俺は笑顔で即答した。
「勿論だぜ、俺達友達だろ?」
俺も何だか少し名残惜しい気がしていた所だった。
そう言うとカツラギの顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、じゃあ。
俺達で冒険者ギルドに登録するのはどうかな。
その方が道具屋へ売るよりずっとお金になるんだっ。
あっ……ゴメンっ、シフォン君がもし良ければだけど。」
「いいぜ、
今から登録に行こうぜ。」
そう言って俺達はその足で冒険者ギルドへ行って登録をした。
チーム名は迷った挙句『神速の雷鎚』とした。
手続きを終えて冒険者ギルドを出ると心地よい風が吹いていた。
俺達は握手を交わして帰路についた。
この街に来て二日目。
俺はこれから始まるであろう冒険にワクワクが止まらなかった。
――森のコテージ――
部屋には先程から甘い香りが漂っていた。
マリーは淹れたてのホットミルクをそっとパイルの前に置いた。
そして自分も横に座るとそっとパイルの手を繋いだ。
パイルは優しく微笑みマリーの頭をポンポンと叩く。
マリーと嬉しそうにホットミルクを口へ運んだ。
事情柄、人目がつく所では先生と弟子という事になっているが、二人きりではそうもいかない。
日頃我慢している分、気持ちが溢れ出してベタベタが止まらなかった。
(師匠は私のコトどう思っているんだろう。)
確かめる様に時折りぎゅっ、ぎゅっ、と握った手の感触を確かめる。
箱庭の森で倒れていた私を助け育ててくれたのは師匠だった。
気後れして子供の頃のようには気軽に抱きつきには行けない。
(昔はあんなに気軽に抱きつけたのに……)
私にだけ見せる素顔は言葉数も少なく優しく物静かな印象だ。
これが本来の彼なのだろう。
一緒に暮らしていると何となく好意を持たれているコトは感じていた。
でも愛してるどころか、好きだとさえ言われたコトは一度もなかった。
だから、その好意が家族愛なのか恋愛なのかよく分からなかった。
(私はもう大人……ちゃんと一人の女性として見て欲しい。)
そんな気持ちも伝えられずマリーは悶々とした日々を送っていた。
いつも突然に居なくなっては、いきなり戻って来る。
「こいつに錬金の基礎を教えてやってくれ。
基礎を習得次第連れて行く。」
そう言って突然戻って来たのが一か月前。
そろそろシフォンも基礎が身について来た頃だった。
(きっとまた突然、居なくなる。)
そんなマリーの不安を察してか珍しくパイルは世間話を始めた。
「マリー、最近のシフォンの様子はどうだ。
確か付与の実技に入っていた筈だが……。」
それを聞いたマリーは立ち上がり台所へ行くと一つの水筒を持って来た。
それは薄い鉄で出来た小柄な水筒で中央に金槌の印が刻印されていた。
「これは?」
パイルが訊ねるとマリーはにっこりと微笑んだ。
「これシフォン達が作った水筒です。
街ではちょっとしたブームになっていて……
今、物凄く売れているんですよ。」
「ほう」
そう言うとパイルはテーブルの上の水筒を手に取った。
「かなり薄い鉄で作られているな。
作りも精巧で技術も確かだ。
技術的なコトはよく分からないが、
かなり丁寧に作られているコトは直ぐに分かる。
なるほど、炎の付与をかけているな。
それで中身が冷めない仕組か……」
「そうなの。
何でもフリーマーケットで出会った鍛冶見習いの子と仲良くなって
『神速の雷鎚』と言う名のギルドを作ったみたい。
見習いの二人だから……
最初は今にも刃こぼれしそうなヘロヘロな薄いナイフと
まるで効果が薄いポーションを売っていたみたい。
でも逆に薄い鉄と効果が弱い付与なんて誰も出来ないから……」
「それで保温水筒を創る事を思いついた?」
パイルは呆れ顔で首を振った。
それを笑いながらマリーは見つめている。
「最初はお客さんからの依頼だったみたい。
どうせ暇だから、何でも作ろうって作ったらそれが口コミで広がって。
今ではそれだけを量産してかなり儲かってるみたいよ。
そろそろ毎日の食事代を銅貨一枚から値上げしようかしら。」
そう言いながらもマリーはシフォンの成功を喜んでいるようだった。
(やれやれ、マリーの守銭奴的な性格は誰に影響を受けたのやら……)
「それに一度作った薄いポーションを原料に
再びポーションを作って濃度を上げてるみたい。
銅の腕輪で紫のポーションを作り出したのよ。
凄いでしょ?」
そう言うと紫の小瓶を差し出した。
「ほう、これは凄いな。」
「何でも鍛冶職人の技法の『折り返し鍛錬』って技で思いついたみたい。
あの子、天才じゃない?
この技法を使えば、どこまで濃いポーションが出来るのかしら?」
「先生が優秀だからだな。
ありがとうマリー。」
そう言ってパイルはマリーの頭を撫でた。
二人がそんな話をしている頃……。
シフォンはカツラギと鍛冶師匠 神宮寺 コトミの前に居た。
事の発端は昨晩、カツラギの作業場に師匠が顔を出した事から始まった。
カンカンカン
その晩もカツラギは一心不乱に地金を叩いていた。
もう一か月以上も同じインゴットを叩いている。
その白い鉱石は打てば打つほどに蒼白く輝きを増していた。
夜の地金叩き。
それは正しい力の入れ方を習得するべく自分に課した毎日の日課だった。
どうせやるなら自分のモチベーションを上げよう思い。
思い出の地金を使っている。
それはシフォンとの初めてのダンジョンで手に入れた不思議な金属だった。
金槌はシフォンが雷の付与をしてくれた物を使っている。
雷の付与自体に意味はない。
でもこれは二人でギルド名『神速の雷鎚』に因んで作ったマスコットアイテムだった。
僕が作製した金槌に、シフォンが僕の為に付与してくれた。
不格好な無骨な金槌……でも大切な絆の証だった。
(大分、力加減が分かって来た。)
この一か月、シフォンとダンジョンへ素材捜しに行ったり、二人で保温水筒を創ったり。
忙しかったが楽しい日々を送っていた。
最初、彼へ声をかけるのにはかなりの勇気がいった。
ギルドへ誘おうと昼間から思っていたけど、結局言えたのは別れる間際だった。
自分の生い立ちもあり、かなり迷った。
でも、もう二度と会えない。
そう思ったら自然と体が動いていた。
初対面で誘うなんてはしたない……そう思うと恥ずかしくなる。
でも今では、そんな自分を褒めてあげたかった。
それ程に毎日が楽しくどんどんシフォンとの友情が育まれていった。
シフォンは異国人の僕を差別する事なく受け入れてくれている。
毎日、今日の出来事を思い出しながら叩けば夜の修練なんて何も苦にはならなかった。
「随分と楽しそうに鍛錬しているな。
ほう、マジックミスリルを精錬しているのか?」
(えっ……)気がつくと隣に師匠が呆れ顔で立っていた。
(えっ、いつから……)
シフォンとの冒険を思い出し、かなりニヤニヤとした表情でいたのだろう。
師匠が作業場に入って来た事にまるで気がつかなかった。
訊けば、この白い金属はマジックミスリルと言いかなり珍しい物らしい。
「インゴットの段階でかなりの雷属性を含んでいるな。
なるほど、この手順を踏めば、刀剣を作製してから付与するよりも
ずっと効果が出るのか……こんな方法があるとは。
この製法はお前が自分で考案したのか?」
「あっ、いえ、その何となく感覚で……」
まさか親友のコトを想いながら叩いてましたとは言えず。
赤面しながらシドロモドロにカツラギは答えた。
「そうか……感覚か。
とは言えゼロからイチを生み出せる者は世界に数える程しかいない。
成長したな……お前もそろそろ卒業試験を受ける頃合いか。
明日、私の所へ来なさい。
そうだ最近お前と一緒に居る彼も連れて来るといい。
お前をそんなデレ顔にする友と対面するとしよう。」
そう師匠に言われ、翌日、シフォンはカツラギと二人ここへ居た。
王国一の鍛冶職人 神宮寺 コトミ。
名前だけは以前から知ってはいた。
だが保温水筒がバカ売れして、商売が広がるにつれその名前の大きさを思い知らされた。
王国で商売をする者でそのブランドを知らない者はいない。
カツラギの師匠にして偉大な鍛冶職人。
その武人をも超える貫禄に、シフォンはすっかりと呑まれていた。
「さて週末から二人には『あるダンジョン』に潜ってもらう。
目的は指定の魔石を採集してくる事。
これはカツラギの鍛冶職人としての卒業試験である。
チャンスは一度きり、失敗は許されない。
今回、指定の魔石を持ち帰られなかった場合は破門とする。」
(えっ、破門?
ちょっと厳し過ぎねえか。)
シフォンは思わず眉をひそめた。
その気持ちを察したのか神宮寺師匠はシフォンに軽く微笑んだ。
「シフォン君だね。
君が噂の親友君か。
いつもカツラギを助けてくれてありがとう。
一流の鍛冶職人というのは素材に妥協は出来なくてね。
いくら技術があっても良い素材がなければ納得した物は作れない。
だから素材を提供してくれるコネクションを構築する社交性。
時には自分で素材を採集できる武人としての力も必要なんだ。
どうやら我が弟子は仲間を作ることには恵まれたようだ。
だが自身の武力については心もとない。
どうだろう、今回の卒業試験。
君も同行して手伝ってやってくれないか。」
そう言うと深々と頭を下げた。
プライドの高い王国一の鍛冶職人が初対面のこんな若造に頭を下げている。
その事の偉大さは同じく師匠へ弟子入りしているシフォンにも分かった。
厳しいようでこの師匠も弟子の事を愛しているのだ。
親友の人生をかけた大勝負。
断る理由なんて微塵もなかった。
「もちろんです。
いや、むしろ俺からお願いしたいくらいですよ。」
「シフォンっ、ありがとう。」
カツラギが泣きそうになりながら何度も頭を下げた。
二人で抱き合いながら、頑張ろうと励まし合っている姿を師匠は微笑ましく眺めていた。
「シフォン君。
私からも礼を言うよ。
我が愛弟子の為に快諾してくれてありがとう。
勿論、無料とは言わないよ。
これを持って行くと言い。」
そう言うと神宮寺は一対の防具を手渡した。
「師匠っ、これは?」
目を輝かせて驚愕するカツラギ。
それを尻目に神宮寺は何食わぬ顔で説明を始めた。
「これは私が十五年間かけて完成させた現時点での最高傑作。
『雷鳴の魔装』だ。」
(十五年?)
伝説の鍛冶職人が十五年間もの歳月をかけて完成させた武具。
その姿はシンプルながら確実に急所を守った動きやすそうな軽鎧。
その背中には五角形の小さな盾が据え付けられおり、白く輝く魔石が埋め込まれていた。
(伝説の鍛冶職人が自ら最高傑作と言い放つ逸品。
こんな凄いモノを貰っていいのだろうか?)
「あの……世界最強の防具なんて、こんな凄いモノは頂けません。」
恐縮してそう申し出ると神宮寺は悪戯っぽく笑って答えた。
「大丈夫。
世界最強と言っても現段階の話だ。
いいかい、職人の世界に世界最強の武具なんて存在しない。
そこにあるのは職人の確かな技術と継続した努力。
その先にある技術革新なんだよ。
こんな武具など直ぐに追い越してみせるさ。
それにこれ位の装備無いと秒で死ぬから……。
だって相手は暗黒竜だし。」
「えっ、」
「えぇぇぇっ、」
「暗黒竜っっっ」
「暗黒竜っっっ」
ニヤニヤと笑う神宮寺の前でシフォン達は意識が遠のいて行くのを感じた。
新米二人が無謀にも暗黒竜へ挑んだのは、その週末の事だった。
――セッツエリア ドラゴンダンジョン最下層――
その広間は物凄い熱気に包まれていた。
ドラゴンダンジョン最下層。
到来者を拒むようにそそり立つ巨大な扉を抜けて黒光りの広間へ出た。
目の前には巨大なドラゴンが暗黒炎を吐きながら二人を威嚇していた。
引きつり顔の弟子達を師匠達はニヤニヤと笑いながら背中を突いている。
(どうしてこうなった?)
軽い目眩を覚えながら悪夢の一日を思い出す。
今回の鍛冶卒業試験の事をパイル師匠に話した。
一応、長期の探索になる事を考えて外泊の許可を取る為だ。
(特にマリ姉は一日でも食事代の支払いを延滞すると怒るからな……)
すると何故か師匠は神宮寺師匠に連絡を取りついて来る事になったのだ。
知らなかったが師匠達は同じ森の出身で幼馴染らしい。
数日に渡る長期戦を覚悟し大量の食料やポーションを用意した俺達だったが準備は全て無駄になった。
まるでピクニックにでも来たように師匠達は昔話に花を咲かせ絶えず談笑。
「そう言えば若い頃はよく三人でダンジョン潜ったな。」
そんな事を言いながら次々とダンジョンの敵をなぎ倒して行った。
「お前が武器作ってアイツが付与、それを私が高値で売りつける。」
「そうそう、懐かしいな。
フクロウ印のお値打ち品だっけ?
アコギな値段で売りまくりやがって。」
「ははは……そうだったか?」
「そうだったさ……それにしてもアイツは残念だった。」
「………………」
そう言いながら一振りで魔物の群れを一掃する。
特にカツラギなんかは師匠の意外な一面に目を丸くして驚いていた。
凶悪オーガの群れを『神殺突』やら『幻竜牙斬』やらの圧倒的な火力で目もくれずに殲滅して行った。
……まるでピクニック中の蚊を振り払うかのように。
『一流の職人は一流の武人であれ。』
その言葉の意味が何となく分かった気がした。
(それにしてもパイル師匠がこんなに強かったなんて……)
ここまでパイル師匠は一度も魔導錬金を使っていない。
これで魔導錬金を使用したらと思うと吐きそうだった。
(俺はとんでもない人の弟子になったのかもしれない。)
そんなこんなで半日足らずで今、ドラゴンダンジョンの最下層にいた。
なぜか秒殺必死の暗黒ドラゴンを前にしてもイマイチ危機感を感じられなかった。
(全部っ、師匠達のせいだ。)
オーガにしたってかなりの強敵である。
それを爆笑しながら葬り去るのを見ると感覚がマヒするのだ。
(あれは特別……流されちゃ駄目だ。)
俺達は頬を叩き合い、頷き合った。
まずは事前の作戦通りにカツラギが前に出る。
この日の為に用意した超重装備に巨大なシールド。
時間はかかっても前衛でチクチクと少しずつドラゴンの体力を削る作戦だ。
俺は後ろで対闇属性や魔法防御力アップの付与を切らさないようにかけながらポーションを併用。
地味だが着実に相手のHPを減らして行った。
数時間が経ち、鞄いっぱいのポーションが残り少なくなった。
俺はマリ姉に借りたステータス確認眼鏡をかける。
(いいぞっ、もう少しだ。)
こちらのポーションも残り少ないが暗黒竜のHPも残り僅かだった。
俺は最後のポーションを使用しカバンを投げ捨てワラビテ刀を引き抜いた。
「カツラギっ、その調子だ。
もう少しで倒せるぞ。」
俺は疲弊したカツラギへ短剣を振って声をかけた。
心身ともにかなり疲れているのだろう。
カツラギはゼェゼェと息を切らしながらも振ったワラビテ刀を見ると軽く手を上げた。
(いけるっ、これで僕の全ての夢が叶うんだっ。)
カツラギは手ごたえを感じていた。
当初、自分の体重の何倍もある超重装備に体力の不安を感じていた。
だが暗黒竜の攻撃から身を守るにはこれ位でなければ防げない。
それに今日は人生をかけた勝負の日。
多少の無理はやむを得なかった。
パイルさんからこの試験を最後に引っ越すと聞いていた。
異国人で半人前の僕……。
親友なんて無縁だとずっと思っていた。
だけどシフォンと出会って行動を共にする内にどうしようもない感情に囚われた。
それでも一人前になるまではと、押し隠した秘めた想い。
毎晩、友への想いを込めて鍛錬したマジックミスリルの剣。
初めての打った剣は彼へ渡すと決めていた。
やっと完成したのが今朝、シフォンは喜んでくれるだろうか。
もうすぐこの試験も終わる。
そうしたらシフォンにこの『雷鎚の剣』を渡して親友になってくれと告げるつもりだった。
シフォンは僕の気持ちに応えてくれるのだろうか。
そんな時、自身の最後を悟ったのか暗黒竜は力を振り絞るように飛翔すると突然に急降下を始めた。
「えっ」
半ば体当たりの様な風の衝撃に思わずカツラギは手にしたシールドを落としてしまった。
必死に態勢を立て直そうするが疲労で足がもつれる。
そこに暗黒竜は炎を吐く準備を始めていた。
パチパチと言う音と共にムアっとした熱気が周囲に漂う。
「やばいっ」
「やばいっ」
突然のアクシデントに師匠達が慌てふためくが間に合わない。
(えっ、僕、死ぬの?
シフォン……)
カツラギが死を覚悟して目を閉じる。
その時、カツラギの背後から一筋の光が駆け抜けた。
ギャー
暗黒竜が断末魔の叫びを上げて倒れ込んだ。
『錬金武技 雷』驚いて振り返るとそこにはシフォンの姿があった。
(シフォン?)
驚き見つめるカツラギにシフォンはバツが悪そうに頭を掻いて謝る。
「カツラギすまねぇ。
せっかく貰った短剣。
今の技で粉々に砕けちゃった。」
そこへ師匠達が駆けつける。
「カツラギっ、無事か?」
「はい、師匠。
何とか」
そう言うと急に気が抜けたのか、その場にヘナヘナと座り込んだ。
心配そうに見守るシフォンへパイルが肩に手を置いた。
「『錬金武技 雷』 いつの間に使えるようになった。
まだ教えてない筈だが……。」
「へへっ、見様見真似です。
本当は突然見せて、びっくりさせようと思ってたんですけどね。」
(こいつ……)
一度見ただけで出来る程『錬金武技 雷』は簡単ではない。
パイルはシフォンの才能に舌を巻いた。
やっと落ち着くと神宮寺師匠の指揮の下、魔石の採集が行われた。
カツラギはドラゴンの魔石を受け取るとシフォンへ手渡した。
「おいっ、いいのかよ?」
驚いてシフォンが訊ねるとカツラギは苦笑いをした。
「いいんだよ。
僕は最後の最後でミスっちゃったし……。
その魔石は錬金に使うといいよ。
暗黒竜の魔石。
きっとシフォンの役に立つと思うんだ。」
「……わかった。
有難くいただくぜっ。
これで試験終了だな。
そう言えば話って何だ?」
そう訊ねるシフォンにカツラギは更に深い苦笑いを浮かべた。
「また今度でいいよ。
師匠の前で話す事でもないし……」
(最後の最後で大ミスしでかした。
シフォンが助けてくれなかったら今頃僕は死んでいた。
こんな半人前のままじゃ、シフォンに告白なんて出来ないよ。
あ~も~何であそこでミスるかな。
僕のバカっ。)
カツラギは自分を罵りながら帰路に着いた。
ドラゴンダンジョンからの帰り道、パイル師匠が言った。
「シフォン。
これでお前も卒業だ。
明日、ニコレ領へ出立する。
カツラギ君があれだけ頑張ったんだ。
今度はお前がやる番だ。」
驚く二人に神宮寺師匠が言葉を添える。
「カツラギ、残念だが彼とはここでお別れだ。
ちゃんと今日のお礼とお別れをしておきなさい。
まあ、この後は若い二人に任せるとして……」
そう言って微笑むと師匠達はそそくさと先に帰ってしまった。
「まったく、師匠はいつも突然だな。
……悪いカツラギ、どうやらお別れみたいだ。」
「あのシフォン……これ。」
そう言うとカツラギは恥ずかしそうに一振りの剣を差し出した。
「これは?」
「『雷鎚の剣』って言うんだ。
初めて出会った日の不思議な金属で僕が初めて作った剣なんだ。」
「お~、かっけ~。
ありがとうカツラギ。」
その笑顔にカツラギは舞い上がる。
「師匠に聞いたんだけどあの白い金属はマジックミスリルって言って……
……シフォンの金槌で雷属性が付与されていて……それで……それで」
「ありがとう、カツラギ。
凄く嬉しいぜ。
約束覚えていてくれたんだな。」
シフォンの何気ないそんな言葉にカツラギは幸せな気持ちになった。
「忘れる訳ないじゃないかっ」
シフォンのあどけない嬉しそうな笑顔。
剣を掲げいつまでも見惚れている幸せそうな瞳。
何より嬉しかったのは出会った時の約束を覚えていてくれたコトだった。
その姿を見ていたら、何だか別れが切なくなってしまった。
「………………」
「んっ、カツラギ、どうした?」
「いつか僕が一人前になったらまた素材集め手伝ってくれるかな?」
「当たり前だろ。
だって俺達親友じゃん。」
そう言ってシフォンは笑った。
「だね。」
(今度こそミスなくこなして、シフォンと一緒に。)
二人は互いに照れ笑いを浮かべながら自分達の未来について語り合った。
疲れた体を心地よい風が吹き抜け、沈む夕日が綺麗で眩しかった。
「じゃあ、俺そろそろ行くわ。」
シフォンはそう言いながら大事そうに剣を背中に収めた。
「うん、またいつか。」
「おう、今度会う時はびっくりする位の凄い技みせてやるよ。」
そう言ってシフォンは剣を振るフリをした。
「師匠お待たせ。」
「カツラギ君とのお別れは済んだのか?」
「ああ、もうアイツは大丈夫……きっとまた会えるさ。
師匠っ、俺はやるぜっ、やる気、満々だ。
これから何をすればいい魔王でも討伐するかっ」
「表向きはな……だが本当の目的は別にある。」
「本当の目的?」
「皇女巫女姫の暗殺だ。」
目の前に三人の長老達が座っている。
その前には一人の少年が座り、後ろには大勢の受験生達が控えていた。
長老達はテーブルを指で叩きながら無言で少年が立ち去るのを待っている。
「一体どうしてこうなった?」
不合格を言い渡されたメルゲルは不合格の理由が理解出来なかった。
目の前の試験官達は俺が平民。
しかも最果ての村の出身と知るとあからさまに苦笑いを浮かべた。
そして貴族の紹介でもないと知ると即座に不合格を言い渡した。
ここロマン王国では数百年に及ぶ魔族との戦いを経て一つの結論を出した。
それは対魔族特化の戦士を作り出す事。
つまりは勇者の育成である。
巫女姫教会が莫大な資金を投じて設立した勇者育成学校。
それが勇者アカデミーである。
年に一度、王都にある勇者アカデミーでは各地の勇者候補が集まってくる。
そこから数名の合格者を決めて徹底した英才教育を施していた。
三年間の学園生活を経て主席で卒業した者は勇者の称号を与えられる。
主席を逃してもアカデミー卒業というだけで将来の成功は約束された。
そんな羨望の試験にメルゲルは臨み、見事に門前払いとなっていた。
(クソッ、こんなはずでは……何故だっ)
試験会場を追い出され外へ出ると肌寒い風が吹き抜けた。
雨が降る前の独特の匂いが鼻を駆け抜ける。
試験前あれ程、晴天だった空も今はどんよりと曇っている。
湿気た空気が俺の気持ちに纏わりつく。
「悪いが勇者アカデミーの受験資格は王族・貴族である事。
または貴族の紹介状を持っている事なんだ。
メルゲル君はそのどちらも満たしていない。」
試験官はそう言うと、そんな事も知らないのかと言う顔で首を振る。
「そっ、そんな。
せっ、せめて実技試験だけでも受けさせて下さい。
実技を見ていただければ俺が勇者に相応しいと納得していただけるはずです。」
「悪いが規則は規則なので……。」
薄ら笑いを浮かべてそう言う試験官の言葉に無性に腹が立った。
「そんなっ、平民と言うだけで試験も受けられないなんて。
世界を救う勇者を育成するアカデミーが平然と差別するんですかっ。」
「差別?
君は伝統ある勇者アカデミーを侮辱するのかね。
貴族の推薦一つ持って来れない平民がっ。
貴族一人にすら認められない人間が世界に認められる訳がないだろう。
つまりはそう言う事なのだよ。
分かったら、さっさと村へ帰りなさい。
え~っと自称村の勇者 メルゲル君。」
「ふふふっ」
「ははは」
「自称 勇者ねぇ」
そう言うと後ろに控えていた受験者達が一斉に笑い出した。
(ぐすっ、こんな王都なんて直ぐに出よう。)
涙目になりながら足早に街の出口へ向かう。
こんなに惨めな気持ちになったのは生まれて初めてだ。
村では村始まって以来の天才ともてはやされ。
将来は世界を救う勇者になると村人全員が信じていた。
自身も幼い頃から周りとは違う身体能力に将来は勇者だと確信していた。
だから王都に行けば……。
勇者アカデミーへさえ行けば将来は約束されると思っていた。
「あぁぁぁ、何と素晴らしい身体能力なんだ。
こんな勇者は伝説の二代目勇者以来の快挙だよ。
君こそ世界を救う勇者に違いないっ。
さあ、勇者アカデミーで存分に学ぶがいい。」
そう拍手喝采の中で迎え入れられると信じていた。
村人達の期待や羨望がそう俺に夢を見させていたんだ。
それなのに……実技試験も受けずに門前払い。
昨日で十五歳。成人し村中の資金を集めて送り出されている。
今更、勇者になれませんでしたと村へは帰れなかった。
ザァァァ ゴロゴロ
突然、夕立のような雨が降って来た。
慌てて脇の森へ入る。
木の葉で雨を避けながら先へ進むと中央の大樹が枝を広げていた。
(あそこなら雨宿り出来るだろう。)
慌てて大樹へ駆け込むと既に誰かが先に雨宿りをして居た。
「凄い雨ですね。」
服に付いた雨を手で払いながら独り言のように話しかける。
返事がないので気になり思わず顔を上げる。
全身を漆黒のコートに身を包んだ黒髪の細身の男性。鋭い眼光に銀縁の眼鏡を掛けている。
彼はチラっと俺を見ると再び空へ視線を戻した。
(感じ悪いなぁ 挨拶くらいすればいいのに。)
「どうして王都の人間は、こうも感じが悪いのか。」
先程の試験官の顔が浮かび顔をしかめて呟いた。
すると男は蔑むように俺を睨んで言った。
「試験に落ちたからと言ってアカデミーの老いぼれ達と一緒にしないでもらいたい。」
「えっ、どうして俺が試験に落ちたと知っているのですか?」
驚く俺に男はさも当然の様に言った。
「君のような若者が正装をしている。
だが服の生地はそれ程上質ではないから貴族ではないのだろう。
靴底はかなり擦り切れているから労働者。
つまりは平民だ。
右手には受験証を持っているが試験時間にこんな場所でうろついている。
そこから導き出される結論はただ一つ。
田舎から勇者アカデミーに受験に来たが、受験資格がなく追い返された。
自分に実力が無い事を棚に上げて他人のせいにして苛立っている。
大方、そんな所だろう。」
(なんだっ、この人は?)
余りに図星で俺は腹が立った。
「貴方に何が分かるんですかっ。
俺は実技試験も出来ずに追い返されたんだ。
俺には人にはない身体能力がある。
実技試験さえ受けられれば間違いなく勇者になれていた。」
「ふっ、ふはははっ」
その言葉に男は突然笑い出した。
「何が可笑しいんだっ。」
俺は顔を真っ赤にして男に掴みかかった。
「いや、悪い悪い。
君が余りに無知なものでつい笑ってしまった。」
「俺のどこが無知なんですかっ」
「わざわざ王都まで来てアカデミーに受験している事自体が無知なんだよ。
勇者アカデミーなんてクソだ。
三年間ひたすら体を鍛えた所で何になる。 馬鹿らしい。ただ時間の無駄だ。
そんな脳筋勇者なぞ何の役にも立ちはしない。
私なら君を一年でアカデミーを越える勇者に育てる事が出来るがな。」
「たった一年でアカデミーを越える勇者にっ。
そんな事が出来るわけがない。
田舎者だからってバカにして……デタラメを言うな。」
「嘘ではないさ。
私なら……錬金術ならそれが可能だと言っている。」
「錬金術?」
聞いた事のない言葉に一瞬面食らった。
だが先程の俺の状況をピタリと言い当てた観察眼。
嘘を言っているようには思えなかった。
不思議そうな顔している俺の顔をみて男は落ちている枝を拾い上げた。
「君の身体能力が常人の二倍だとして三年鍛えてどの位伸びると思う。」
「……さぁ、でも頑張れば一割は伸びるんじゃないですか。」
俺は顎に手を当てながら答えた。
村では散々自分なりに鍛え尽くしたつもりだ。
でも高名な王都の勇者アカデミーならきっともう少し伸ばせるはずだった。
「そう、勇者と言えども人間。
身体能力の向上には限界がある。
まぁ、自称天才の君が頑張って常人の三倍まで向上したとしよう。
だがそれでは魔族には太刀打ち出来ない。」
「どうしてですか?」
「それは魔族が常人の五倍の身体能力を持っているからさ。」
(ごっ、五倍!)
その言葉に俺は驚愕した。
魔族で五倍なら魔王では何倍なんだっ。
それが事実ならとても魔王討伐など出来る気がしなかった。
俺は自分の弱さと浅はかさに打ちのめされた。
村始まって以来の天才 メルゲル。
もてはやされてその気になって上京したが所詮はただの田舎者だったのだ。
うなだれていると男は拾った枝に蒼い液体をかけた。
パンッ両手を叩くと空中に浮かぶ枝の下に小さな魔法陣が現れる。
「無から実へ……静寂から混沌へ
我、契約の名の下に混沌の理を破壊する者なり。
『魔導錬金 雷』」
そう言うと枝が蒼白い光に包まれた。
男はそれを俺に投げて寄こす。
「君っ、剣術の心得は?」
「えっ、一応あります。
独学ですが……。」
「ではあの岩山を敵だと思って振ってみたまえ。」
(なんだっ、突然。演舞でも観たいのか?)
そう思いながらも俺は枝を剣に見立てて構えた。
勇者アカデミーの実技試験の為に何度も練習してきた技だ。
呼吸を整えて左手を前に突き出して構える。
バンッ
強く一歩足を踏み込み枝を振るう。
バキッ ガラガラ グシャッ
(えっ?)気がつくと俺に一振りで目の前の岩が切り裂かれ崩れ落ちた。
握りしめた枝が細かい光となって消えて行く。
(……っ、これはっ、一体何が起こったんだ。)
思わず男へ振り返る。
「『魔導錬金 雷』錬金術によって枝に強化と属性を付与した。
初歩の簡易的な錬金だが少しは理解出来たかな。」
「……っ、つまりは……。」
「そうだっ、アカデミーの三年間など何の役にも立たない。
魔導錬金術こそが究極で最強。
魔導錬金は君の力を数十倍に昇華させるコトが可能だ。
そして究極の剣を生成できれば……
その力は勇者や魔王を遥かに凌駕する。
戦闘力とは人ではないっ、道具が仕事をするのだよ。
どうだ少年っ、君も錬金の深淵を覗いて見たくはないか?」
「貴方は一体?」
「あぁぁ、言ってなかったな。
私は魔導錬金士 クラウド フェル パイルだ。」
(魔導錬金士?)
聞いた事もない言葉に一瞬戸惑ったがこの力は本物だった。
俺はすっかりその力に魅了されていた。
どの道、あれだけ応援されて村を出たんだ。
試験に落ちましたとスゴスゴと村へは帰れない。
それにアカデミーの試験官達を見返してやりたい気持ちでいっぱいだった。
「俺にっ、俺に錬金を教えて下さい。」
そう言って俺は頭を下げた。
「いいだろう。
だが条件がある。」
「条件?」
「何、簡単な契約だ。
君の名は今日からシフォン。
ニコレ伯爵当主 ニコレ フォン シフォンだ。
一年後、勇者として魔王を討伐して貰う。」
「魔王討伐?
でも魔王はこの百年封印されていないのでは?」
「君が得るのは圧倒的な力、差し出すのは過去の経歴と未来。
私が教えるのは一年間だけだ。
一年後、見込みがなければ死んでもらう。
あと師匠の言う事は絶対だ。一切の口答えは許さない。」
(死んでもらうって何の冗談だよ。
この人なんか怪し過ぎる……でも凄さは本物だ。)
強くなれるのなら過去や名前などどうでもいい。
あんな凄い技を魅せられて、ここで引き下がる訳にはいかなかった。
「分かりました。
よろしくお願いします。」
そう言って俺は覚悟を決めた。
「いいだろう。
君の名前は?」
「餓狼村から来ましたメルゲルです。」
(餓狼村?
神降ろしの一族か。
これは案外、拾い物かもしれんな。)
パイルの眼鏡が妖しく光る。
「いいだろう。
メルゲルっ、私について来い。
アカデミーの爺達をぎゃふんと言わせてやるぞ。」
「はいっ。」
そう言って俺は高鳴る鼓動と共に謎の魔導錬金士について行った。
いつの間にか夕立は止んで枝葉から眩しい光が差し込んでいた。
雨上がりの独特な匂いを嗅ぎながら森を抜けるとコテージに着いた。
ドアを開けると中に居た女性が振り向いて声をかける。
「あっ、先生 お帰りなさい。
その子は?」
「あぁぁ、森で拾って来た。
弟子にしたから色々教えてやってくれ。」
見ると細身の体に銀髪の長い髪の清楚そうな女性が立っていた。
先生と呼ぶからには彼女も弟子なのだろう。
小顔に蒼い瞳……魔族だろうか?
長い髪を後ろで縛り金の髪飾りを着けている。
凛々しい顔立で意志が強そうだった。
服装は清楚な顔立ちとは裏腹に胸がはち切れそうなタイトなブラウス。
目のやり場に困るくらいのかなりの巨乳だ。
下は左の太股を大きくカットアウトしたミニスカート。
ロングソックスにガーターベルト。
絶対領域全開のセクシーな服装だった。
餓狼村では素朴な女性しか居なかった。
俺が垢抜けた雰囲気に押されモゴモゴしていると眉をひそめて睨まれた。
「ふ~ん」
値踏みするような視線に気圧されながらぎこちなく笑う。
「メル……っ、いやシフォンです。
よっ、よろしくお願いします。」
「まぁいいや、マリーよ。
取り敢えず、これから毎日銅貨一枚支払いな。」
「えっ、金取るんですか?」
「当たり前だよっ、 飯代だって馬鹿にならないんだからね。
先生から指導代を盗られないだけでも恵まれてるよあんた。」
(盗られないって?
おいおい、師匠ってどれだけ鬼畜眼鏡なんだよ。)
チラッと師匠の方を見るが無表情で眼鏡を上げていた。
俺は慌ててポケットの有り金を漁る。
だがそこには鉄貨が数枚あるだけだった。
「……り せん。」
「はっ? 何だって?」
「お金、足りません。」
そう言うとマリーは深いため息をついて俺の有り金全てを奪い取った。
「なにっ、たったこれだけしか持ってないの?
まぁ、今日はこれで許してやるよ。
明日から一所懸命に働くんだね。
それから私の方が姉弟子なんだから私の言う事は絶対だからね。
一切の口答えは許さないよ。」
(この師弟はどんだけ鬼畜なんだよっ
このエロ守銭奴がっ
もしかして俺はとんでもない所に弟子入りしたのでは?)
俺は少し不安な気持ちになりながらも姉弟子との対面を果たした。
――翌日――
「シフォン、いつまで寝てるのっ
姉弟子より先に起きないなんてあり得ないんだからね。
早く起きて支度しなさいっ。
出かけるわよ。」
(眠いっ、今何時だよ。)
俺は眠い目を擦りながら姉弟子マリーの後について森へ出た。
マリーに叩き起こされ薬草採りに連れ出されたのだ。
朝靄が立ち込めまだ肌寒い。
よくもまあ、この寒さで太股を剥き出しに出来るものだ。
そう思いながらもついつい露出した尻を見てしまう。
(性格さえ良ければ清楚顔で美形なんだけどな。)
俺の視線に気がついたのかマリーは振り返ると睨みつけながら手を払った。
そして何かに気がついたのか走り出すと足元の草を摘み取った。
「シフォン、いい。
これが薬草よ。
よく特徴を覚えて。」
そう言って目の前に摘み取った草を突き出す。
見るとそれは五つの花びらを持つ黄色い可憐な花だった。
「これが薬草?」
「そう、オトギリソウ。
傷口の炎症に良く効くの。
古代から悪魔や雷を避けるとされている草よ。
はいっ。」
そう言うと大きな籠を渡された。
「取り敢えずこの辺りに咲いているから、
この籠が一杯になるまで摘んで来て。」
(えっ、こんなに?)
「あの、マリ姉さん。
この籠だとかなりの量があるのかと……。」
「ふふふっ、大丈夫よ。
これから毎朝、摘むんだから。」
そう言うとマリーは悪魔の笑顔を浮かべた。
ひたすらオトギリソウを摘む事、数時間。
やっと積み終わると俺達は湖のほとりの倒木に腰掛けて休憩をした。
マリーが小瓶を取り出すと湖の水を汲み始める。
「はいっ、
これ私のお古だけどあげる。」
そう言うと古めかしい腕輪を差し出した。
見ると銅製の腕輪に緑の石が一つ埋め込まれている。
不思議そうに眺める俺にマリーが説明を始めた。
「魔導錬金士になるには、まず基礎知識の錬金術の習得が不可欠よ。
魔導錬金術と錬金術は似ていて非なるもの。
錬金術は複数の材料から別の物質を生み出すモノ。
魔導錬金術はある材料に異なる性質を付加するモノ。」
「変更と付加?」
「そう、水と薬草からポーションを作り出すのが錬金術。
枝に雷の性質を付加するのが魔導錬金術。
シフォンは先生の作った雷の枝を体験したんだよね。」
俺は大きく頷いた。
メルゲル師匠の作った雷の枝を思い出す。
一振りで一瞬にして岩を粉々にいたあの威力。
その魅力に取りつかれて魔導錬金士に弟子入りしたのだっだ。
『アカデミーの三年間など何の役にも立たない。
魔導錬金術こそが究極で最強。』
師匠の言葉を思い出して再び心がときめいた。
だが師匠に聞くまで魔導錬金術なんて聞いた事がなかった。
「魔導錬金術って何なんですか?」
そう訊ねるとマリ姉は誇らしげに語った。
「先生は凄いのよ。
世界で唯一の魔導錬金士なの。
シフォンは聖遺物って知ってる?」
「聖遺物?」
「う~ん、 ロンギヌスの槍なら聞いたコトあるかな?」
「あぁぁ、知ってる。
伝説の最強の槍だろ?」
「ふふふっ、そう最強の槍。
でもその最強の槍も最初はただの槍だったの。
それがイエスの血に触れ性質を付加され最強となった。」
「性質を付加?
まさか魔導錬金術ってロンギヌスの槍を作れる術なのか?」
「そう、魔導錬金術の最終到達点は聖遺物の作製よ。」
(神をも殺す武器の作製……)
途方もない話に啞然とした。
だが聖遺物と言う言葉には馴染みがあった。
故郷の餓狼村の神殿にも儀式に使う宝珠がある。
その宝珠は聖遺物と呼ばれ神降ろしの舞いを踊る時にだけ着用を許された。
俺も今年の儀式ではそれを着けて舞ったので覚えている。
どこか神秘的で不思議なパワーを秘めた石だった。
「でもそんなに凄い技術があるならどうして量産しないんだ。
それこそ王族や勇者達が黙っていないだろう。」
「そうね。
それには二つ理由があるわ。
一つは付与する土台の武器が少ないコト。
魔導錬金士は付与は出来ても武器を作製する事は出来ないの。
もう一つは完成された聖遺物は完成者以外には扱う事が出来ないの。
他者が使用すると何故か光の粒子となって消えてしまうの。」
そう言えば確かに師匠が作製した雷の枝を俺が使った時。
枝を振るうと細かい光となって消えて行った。
あれはそう言う事だったのか。
『魔導錬金こそが究極で最強。
究極の武具を錬金できれば……
その力は勇者や魔王を遥かに超える。』
師匠の言った意味が少し分かった気がした。
(俺にしか使う事が出来ない最強の聖遺物。
それを装備すれば正に究極で最強。
馬鹿にした勇者アカデミーを見返すどころか世界を救う事だって……)
そう考えると俺はますます心が滾って来た。
「すげ~っ、あああ、マリ姉っ、
はやく俺に魔導錬金術教えてくれよ。」
俺は姉弟子の袖を引っ張った。
「やっと眠気が覚めたみたいね。
でもシフォンにはまだ早いわ。
まずは錬金術の基本から学びましょう。
今日はポーションの作り方を教えるわ。
見てて。」
そう言うと湖の水を入れた小瓶と薬草を取り出した。
パンッ
両手を叩くと両手の間に小さな魔法陣が現れた。
魔法陣の上で小瓶と薬草が光に包まれる。
光が消えると薬草は消えていた。
「出来たっ。
これが初級ポーションよ。」
そう言ってマリーは小瓶を手渡す。
見ると透明だった湖の水が赤く色づいていた。
「さぁ、シフォンもさっき渡した腕輪を着けてやってみて。」
「腕輪?」
よく見るとマリ姉も両手に腕輪をしていた。
色は銀。三つの穴が空いていて緑と黄色の魔石が一つずつ埋め込まれている。
「この腕輪が錬金に関係あるのか?」
腕輪を左手に着けながら訊ねる。
「そう錬金はこの魔道具を使って行うの。
これを使用すれば瞬時に魔法陣を展開する事が出来るのよ。」
「俺のは銅で、マリ姉のは銀色なんだな。」
「そう魔道具にはレベルがあってね。
腕輪は銅や銀や金があるの。
埋め込まれている魔石も色によって効果が違うのよ。
ポーションを錬金するには緑の魔石が必要なの。
腕輪や魔石の種類。
埋め込まれた数によって出来る事や効果に違いがあるのよ。」
「ふ~ん」
「さぁ、とにかく実際にやってみましょう。」
俺は説明を受けると見よう見まねでやってみる。
パンッ
不安定ながらもふわふわとした魔法陣が展開される。
魔法陣の上で小瓶と薬草が光に包まれる。
光が消えると薬草は消えていた。
(どうだっ)慌てて見ると小瓶の水は薄っすらと赤く色づいていた。
「成功だっ、おぉぉぉぉ
初錬金っ。ポーションゲットォォォ」
(初めてでいきなり成功なんて俺天才じゃね。
勇者アカデミーの爺、ざまあ見ろっ。)
俺は嬉しさで舞い上がっていた。
こんなに嬉しかったのは人生で初めてだった。
苦笑いしながらマリーが拍手する。
「成功よ。
おめでとう。
早速、飲んでみて。」
少し勿体ない気がしたが初成功のポーションを飲んでみた。
一口飲むと薄っすら体が光る。
(よしっ、これでググっと体力が回復して……んっ?)
気のせいか余り回復した気がしない。
「あのっ、マリ姉さん。
ポーションと言ったら瀕死の兵士が一気に回復するアレですよね?」
「……う~ん、ちゃんと作ればね。
私の作ったポーションと色を比べてごらん。」
言われてみれば確かにマリ姉の作ったポーションと比べるとかなり色は薄かった。
「効能は色の濃さ。
つまり純度に比例するの。
その色は赤から紫、上級ポーションにもなれば青く色づくのよ。
まあ、銅の腕輪じゃあ赤が限界だけどね。」
(薄っす、俺の薄っす……)
小瓶を太陽光に透かして見る。
俺の作ったポーションは紫どころか赤でもない。
微かに色づくピンクだった。
これじゃあ薬草をかじっているのと変わりなかった。
(う~)余りの現実にしょげているとマリーが肩を叩いて励ました。
「まぁ練習、練習。
毎日やればその内、赤くなるわよ。
初めてで成功するなんて凄い事なんだから。
取り敢えず摘み取った薬草分を全部作って街で売って来なよ。
今日中に銅貨一枚を稼がないといけないんだがら。」
「銅貨一枚?」
首を傾げる俺に姉弟子は怪しく微笑む。
「忘れたの?
ウチに居る間は毎日銅貨一枚徴収するって言ったじゃない。
払えない日は晩御飯抜きだから。」
「そんな~。」
俺はさっき少しでも姉弟子を尊敬した事を後悔した。
見た目は清楚でエロ可愛くても中身はやっぱり守銭奴なのだ。
仕方がなく、俺はため息をついて作り始めた。
パンッパンッパンッ
一心不乱に作っていると後ろから声がかかる。
「私は先に街に行って売ってくるから。
全部作れたら街へおいで。
シフォンのポーションは店では買い取ってもらえないと思うから
大通りのフリーマーケットで売るといいよ。
じゃあ、頑張って晩御飯代稼いでね。」
そう言うと手を振り笑顔で去って行った。
(初日から放置プレイかよっ。
この鬼~、エロ守銭奴~。)
俺は呪いの言葉を吐きながらひたすら手を叩いた。
やっと全て作り終わり教えてもらった大通りへ行ってみる。
道沿いにズラリと多くの人が並び地面に商品を並べて売っていた。
(こんな事なら下に敷く布を持ってくればよかったな。
布買う金ないけど……)
そんな事をブツブツを言いながら空いている隅へ座りポーションを並べる。
「………………」
「………………」
「………………」
座る事、二時間。
全く売れる気配がなかった。
時々ポーションを手に取る客もいたが俺のポーションの余りの薄さに去って行く。
やがて人通りも少なくなった。
(うわぁぁ、一個も売れないのかよ。
こりゃ、今日は晩御飯抜きだな。)
「はぁ~」
「はぁ~」
同時にため息が隣から聞こえて思わず振り向くと隣と目が合った。
「はぁ、どうもっ。」
隣の少年が頭を下げた。
武器屋だろうか。
見ればナイフを中心に品揃えをしているが売れてはいないようだった。
「売れませんね。」
少年は自虐的に苦笑いを浮かべた。
全く売れない店主二人。
何となく親近感が湧き客も来ない事から俺達は色んな話をした。
少年はカツラギと言い異国からロマンへ来たのだという。
赤髪の好青年で確かにこの辺りでは見ない顔立ちをしていた。
現在はロマン随一の鍛冶職人の元で修行中らしい。
彼のナイフを見てみる。
(うわぁぁ、こりゃ売れないわ)
刃は薄くヘロヘロ。
使うと直ぐにても刃こぼれしそうな感じだった。
なんだが嬉しくなって俺の作ったポーションを試飲させてみる。
「うわっ、薄っす。」
カツラギが笑って言う。
「なっ、薄いだろ?」
二人は同時にゲラゲラ笑った。
暫くするとカツラギは帰り支度を始めていた。
「あれ、もう閉店するの?」
「うん、今日は全然売れないから材料採集に行こうと思います。
そうだっ、一緒に行きませんか?
上手くすれば銅貨一枚稼げるかもしれませんよ。
銅貨一枚払わないと晩御飯が抜きなんでしょ?」
そう誘われて俺も店じまいを始めた。
どうせこのまま店を開いていても薄っすいポーションじゃ売れはしない。
採集場所の鉱山へ行く道すがらカツラギから鍛冶について色々学んだ。
鍛冶はインゴットと呼ばれる地金を熱して叩く事で成形するらしい。
その強さは伸ばしてはたたみ、また伸ばす事で強度が増す。
「神宮寺師匠の凄い所は鋳造を止めた事。
ロマンでは金属を液体にして型に流し込む作り方が主流なんだ。
鋳造は複雑な形でも簡単に安価に作れるという利点があるんだけれど。
でも師匠は祖国の鍛造という秘術で作るんだ。
何度も伸ばすと折るを繰り返す『折り返し鍛錬』。
それによって時間はかかるけど各段に強度が増すんだ。
師匠の作製したロングソードは評判を呼びロマン一の鍛冶職人になった。
通常は打ち手を三人従えて強度を増して行くんだけど。
ほら僕は独りだから……大量に作る為にあまり折り返していないんだ。
でも大量に作ってもこの出来じゃあ意味ないね。」
「う~ん。
素人の俺が見てもカツラギのナイフは刃こぼれしそうだからな。
大量生産を諦めて折り返し回数を増やして強度を増した方が売れるかも。
そもそもどこにでもある物は競合も多いんじゃね。
需要は少なくても珍しい物の方がいいかもな。
切れ味が未熟でも装飾用で売れるかもだぜ。
俺の村の祭事で使用する神具も切れ味は求めてないし。」
「へ~、そうなんだ。
今までは早くこの国に馴染もうと兄弟子達の模倣作製を懸命にして来た。
でもそれじゃあ駄目なんだね。
シフォン君の言葉で吹っ切れたよ。
僕なりに武器を作ってみるよ。
サムライソードは無理でもワラビテ刀なら出来るかも。」
「サムライソード?」
「うん。 師匠の得意としている刀。
ロングソードみたいに両刃じゃなくて片刃で反っているんだ。
斬るに特化した特殊武器かな。」
「すげぇな。
そんな武器をカツラギは作れるのか?」
「ううん、まだ僕の力量じゃあ無理だよ。
頑張ってワラビテ刀ぐらいかな。」
「ワラビテ刀?」
「うん。
サムライソードの短剣。
大きさはグラディウス位かな。
凄く時間がかかると思うけど仕事の合間に挑戦してみるよ。
そしていつか一人前になったら剣にも挑戦してみたい。」
「おお、出来たら見せてくれよな。」
「うん、分かった。
じゃあ初めての剣は君にプレゼントするよ。
約束する。」
「あぁ、約束だ。」
(ふ~ん、鍛冶の秘術『折り返し鍛錬』か。
もし俺の薄いポーションも繰り返し鍛錬したら……)
そんな事が頭を過った。
暫く歩くと目的の鉱山が見えて来た。
人工的に掘り進められた跡と無骨な骨組みが組み巡らされている。
ひんやりとした感触と独特な匂い。
カツラギに連れられ鉱山ダンジョンの奥に進む。
細い通路を進み広間の様な場所へ出た。
辺りには無数のスライムが飛び跳ねている。
「あの茶色のスライムが銅スライム。
倒すとたまに銅のインゴットをドロップするんだ。」
「色んな色のスライムがいるんだな。」
「ここのスライムは生態系が特殊なんだ。
主に鉱山の金属を食べていてね。
食べる金属の種類によって色が違うんだ。
銅スライムなら俺達でも倒せるよ。」
そう言いながらカツラギは鉄のハンマーを取り出すと俺に手渡した。
「じゃあ、狩りますか。」
「じゃあ、狩りますか。」
そう言ってピョンピョン跳ねる茶色のスライムへ挑んで行った。
バシッ ポコッ ポカッ
悪戦苦闘しながら何度かハンマーで殴り、やっとスライムを一匹倒した。
スライムが光と共に消えて代わりに何かが現れた。
(……っ)これがモンスターが稀に落とすドロップ品らしい。
興味津々でその場へ駆け寄る。
今回獲得したドロップ品は二つ。
――銅のインゴット
上薬草
「おぉぉ、これがドロップ品か。
俺初めて見たよ。」
「そう、モンスター討伐は初めて?」
「あぁぁ、ダンジョン自体が初めてだ。
そうだっ、ポーション飲むか?
薄いけど……」
「飲む、飲むっ、もう喉がカラカラだよ。」
二人は笑いながら薄いポーションで祝杯を挙げた。
「ドロップ品の分配だけど……
インゴット系は僕で、その他はシフォンでいいかな?」
「ああ、いいぜ。
上薬草の方が錬金に使えるし。」
それから俺達は夢中で銅スライムを狩りまくった。
「えいっ、ボコッ、
とうっ、ポカッ」
俺はカツラギからハンマーを二本かりて両手で殴りまくる。
「おぉぉ、シフォン君強いな。
びっくりだよ。」
「ふふふっ、これでも村では天才と言われていたんだぜ。
伊達に勇者を目指していないのだよカツラギ君。」
そう言って俺は胸を張った。
(褒められるって気持ちいい♪)
王都に来てから鼻を折られてばかりだった。
だからカツラギからの称賛が素直に嬉しかった。
「おいっ、もう少し奥にも行ってみようぜ。」
調子に乗った俺はそう言ってノリノリで脇の細道を突き進む。
それをカツラギも苦笑いしながらついて行く。
道なき道を探索して行くと緑色がかった黒色のスライムが数匹いた。
俺が無言で指さすとカツラギも頷いた。
「鉄スライムだ……あれ?」
そう言ってカツラギの視線が止まる。
釣られて見ると鉄スライムの中に白い色のスライムが居た。
「よぉ、変な色のスライムがいるぜ。」
俺が囁くとカツラギも不思議そうな顔で囁く。
「あんな色のスライム初めて見た。
珍種かも。」
(レアなスライム?)
その言葉に俺達の冒険心に火が点いた。
「おぃっ、狩ってみようぜ。」
「うんっ」
俺達は黙って目配せをすると逃げられないようにそっと左右から挟むように近づいた。
「いまだっ、カツラギっ」
そう言うと一斉に二人で襲いかかる。
「えいっ、ピコッ、このっ、スカッ」
「やぁぁ、ポカッ、逃げるなっ、スカッ」
珍種スライムは意外とすばしっこい。
(くそ~っ、こうなったら)俺は村の祭事で使うとっておきのスキルを発動した。
『秘技 神降ろしの舞い 壱の型』
俺の体が蒼い光に包まれ少し浮遊する。
そして劇的に身体能力が向上した。
ヒュンッドガッ キュ~
会心の一撃を珍種へ与えスライムは光に消えて行く。
「やったぜ、カツラギ。」
カツラギが驚いて駆け寄る。
「シフォンっ、今のスキルは一体。」
「あぁぁ、俺の村に伝わる秘術さ。
本来は巫女が神へ捧げる舞いを踊る為の技さ。
本当は他人に見せちゃ駄目なんだけど……。
凄いだろ。壱から参の型まであるんだぜ。
俺はまだ壱の型までしか舞えないんだけど
それでも少しの間、嘘みたいに速く動けるんだぜ。」
「神降ろしの舞いか……凄いんだね。」
「ああ、一時間に一回しか使えない奥の手スキルさ。
それよりドロップアイテム見てみようぜ。」
興味津々で現れたアイテムを手に取る。
今回獲得したドロップ品は一つ。
――???のインゴット
「白い鉱石?
これは何て言う金属なんだ。」
「……分からない。」
「へっ?
鍛冶師のお前が分からない事はないだろう。
鉄か?」
「分からないんだっ、
こんな不思議な金属見た事がないよ。」
首を傾げるカツラギだったが、約束通りカツラギが持ち帰る事になった。
それから鉄スライムを数匹狩って俺達は街へ戻った。
鉱石はカツラギが貰い。
その他を俺が貰った。
俺は上薬草だけを残し後を道具屋で売り払った。
今日の売り上げは全部で銅貨三枚。
一日中働いてこれだけだったが満足していた。
これで三日は飯が食えるし初ダンジョンは楽しかった。
何よりこの街へ来て初めての友達が出来た事が嬉しかった。
「シフォン君、
今日は素材集め手伝ってくれてありがとう。」
「いや、俺の方こそ楽しかったぜ。
鍛冶の修行がんばれよな。
俺も銅貨稼げて助かったぜ。
これで今日は飯が食える。」
そう言っておどけて見せた後、俺達は手を振り別れを告げた。
「……あのさ、シフォン君。」
少し歩いた後でカツラギが振り向き言いにくそうに立ち止まった。
「俺、異国人だけど。
もし良かったら来週も一緒に行かないか?
ダンジョン。」
俺は笑顔で即答した。
「勿論だぜ、俺達友達だろ?」
俺も何だか少し名残惜しい気がしていた所だった。
そう言うとカツラギの顔がパッと明るくなった。
「じゃあ、じゃあ。
俺達で冒険者ギルドに登録するのはどうかな。
その方が道具屋へ売るよりずっとお金になるんだっ。
あっ……ゴメンっ、シフォン君がもし良ければだけど。」
「いいぜ、
今から登録に行こうぜ。」
そう言って俺達はその足で冒険者ギルドへ行って登録をした。
チーム名は迷った挙句『神速の雷鎚』とした。
手続きを終えて冒険者ギルドを出ると心地よい風が吹いていた。
俺達は握手を交わして帰路についた。
この街に来て二日目。
俺はこれから始まるであろう冒険にワクワクが止まらなかった。
――森のコテージ――
部屋には先程から甘い香りが漂っていた。
マリーは淹れたてのホットミルクをそっとパイルの前に置いた。
そして自分も横に座るとそっとパイルの手を繋いだ。
パイルは優しく微笑みマリーの頭をポンポンと叩く。
マリーと嬉しそうにホットミルクを口へ運んだ。
事情柄、人目がつく所では先生と弟子という事になっているが、二人きりではそうもいかない。
日頃我慢している分、気持ちが溢れ出してベタベタが止まらなかった。
(師匠は私のコトどう思っているんだろう。)
確かめる様に時折りぎゅっ、ぎゅっ、と握った手の感触を確かめる。
箱庭の森で倒れていた私を助け育ててくれたのは師匠だった。
気後れして子供の頃のようには気軽に抱きつきには行けない。
(昔はあんなに気軽に抱きつけたのに……)
私にだけ見せる素顔は言葉数も少なく優しく物静かな印象だ。
これが本来の彼なのだろう。
一緒に暮らしていると何となく好意を持たれているコトは感じていた。
でも愛してるどころか、好きだとさえ言われたコトは一度もなかった。
だから、その好意が家族愛なのか恋愛なのかよく分からなかった。
(私はもう大人……ちゃんと一人の女性として見て欲しい。)
そんな気持ちも伝えられずマリーは悶々とした日々を送っていた。
いつも突然に居なくなっては、いきなり戻って来る。
「こいつに錬金の基礎を教えてやってくれ。
基礎を習得次第連れて行く。」
そう言って突然戻って来たのが一か月前。
そろそろシフォンも基礎が身について来た頃だった。
(きっとまた突然、居なくなる。)
そんなマリーの不安を察してか珍しくパイルは世間話を始めた。
「マリー、最近のシフォンの様子はどうだ。
確か付与の実技に入っていた筈だが……。」
それを聞いたマリーは立ち上がり台所へ行くと一つの水筒を持って来た。
それは薄い鉄で出来た小柄な水筒で中央に金槌の印が刻印されていた。
「これは?」
パイルが訊ねるとマリーはにっこりと微笑んだ。
「これシフォン達が作った水筒です。
街ではちょっとしたブームになっていて……
今、物凄く売れているんですよ。」
「ほう」
そう言うとパイルはテーブルの上の水筒を手に取った。
「かなり薄い鉄で作られているな。
作りも精巧で技術も確かだ。
技術的なコトはよく分からないが、
かなり丁寧に作られているコトは直ぐに分かる。
なるほど、炎の付与をかけているな。
それで中身が冷めない仕組か……」
「そうなの。
何でもフリーマーケットで出会った鍛冶見習いの子と仲良くなって
『神速の雷鎚』と言う名のギルドを作ったみたい。
見習いの二人だから……
最初は今にも刃こぼれしそうなヘロヘロな薄いナイフと
まるで効果が薄いポーションを売っていたみたい。
でも逆に薄い鉄と効果が弱い付与なんて誰も出来ないから……」
「それで保温水筒を創る事を思いついた?」
パイルは呆れ顔で首を振った。
それを笑いながらマリーは見つめている。
「最初はお客さんからの依頼だったみたい。
どうせ暇だから、何でも作ろうって作ったらそれが口コミで広がって。
今ではそれだけを量産してかなり儲かってるみたいよ。
そろそろ毎日の食事代を銅貨一枚から値上げしようかしら。」
そう言いながらもマリーはシフォンの成功を喜んでいるようだった。
(やれやれ、マリーの守銭奴的な性格は誰に影響を受けたのやら……)
「それに一度作った薄いポーションを原料に
再びポーションを作って濃度を上げてるみたい。
銅の腕輪で紫のポーションを作り出したのよ。
凄いでしょ?」
そう言うと紫の小瓶を差し出した。
「ほう、これは凄いな。」
「何でも鍛冶職人の技法の『折り返し鍛錬』って技で思いついたみたい。
あの子、天才じゃない?
この技法を使えば、どこまで濃いポーションが出来るのかしら?」
「先生が優秀だからだな。
ありがとうマリー。」
そう言ってパイルはマリーの頭を撫でた。
二人がそんな話をしている頃……。
シフォンはカツラギと鍛冶師匠 神宮寺 コトミの前に居た。
事の発端は昨晩、カツラギの作業場に師匠が顔を出した事から始まった。
カンカンカン
その晩もカツラギは一心不乱に地金を叩いていた。
もう一か月以上も同じインゴットを叩いている。
その白い鉱石は打てば打つほどに蒼白く輝きを増していた。
夜の地金叩き。
それは正しい力の入れ方を習得するべく自分に課した毎日の日課だった。
どうせやるなら自分のモチベーションを上げよう思い。
思い出の地金を使っている。
それはシフォンとの初めてのダンジョンで手に入れた不思議な金属だった。
金槌はシフォンが雷の付与をしてくれた物を使っている。
雷の付与自体に意味はない。
でもこれは二人でギルド名『神速の雷鎚』に因んで作ったマスコットアイテムだった。
僕が作製した金槌に、シフォンが僕の為に付与してくれた。
不格好な無骨な金槌……でも大切な絆の証だった。
(大分、力加減が分かって来た。)
この一か月、シフォンとダンジョンへ素材捜しに行ったり、二人で保温水筒を創ったり。
忙しかったが楽しい日々を送っていた。
最初、彼へ声をかけるのにはかなりの勇気がいった。
ギルドへ誘おうと昼間から思っていたけど、結局言えたのは別れる間際だった。
自分の生い立ちもあり、かなり迷った。
でも、もう二度と会えない。
そう思ったら自然と体が動いていた。
初対面で誘うなんてはしたない……そう思うと恥ずかしくなる。
でも今では、そんな自分を褒めてあげたかった。
それ程に毎日が楽しくどんどんシフォンとの友情が育まれていった。
シフォンは異国人の僕を差別する事なく受け入れてくれている。
毎日、今日の出来事を思い出しながら叩けば夜の修練なんて何も苦にはならなかった。
「随分と楽しそうに鍛錬しているな。
ほう、マジックミスリルを精錬しているのか?」
(えっ……)気がつくと隣に師匠が呆れ顔で立っていた。
(えっ、いつから……)
シフォンとの冒険を思い出し、かなりニヤニヤとした表情でいたのだろう。
師匠が作業場に入って来た事にまるで気がつかなかった。
訊けば、この白い金属はマジックミスリルと言いかなり珍しい物らしい。
「インゴットの段階でかなりの雷属性を含んでいるな。
なるほど、この手順を踏めば、刀剣を作製してから付与するよりも
ずっと効果が出るのか……こんな方法があるとは。
この製法はお前が自分で考案したのか?」
「あっ、いえ、その何となく感覚で……」
まさか親友のコトを想いながら叩いてましたとは言えず。
赤面しながらシドロモドロにカツラギは答えた。
「そうか……感覚か。
とは言えゼロからイチを生み出せる者は世界に数える程しかいない。
成長したな……お前もそろそろ卒業試験を受ける頃合いか。
明日、私の所へ来なさい。
そうだ最近お前と一緒に居る彼も連れて来るといい。
お前をそんなデレ顔にする友と対面するとしよう。」
そう師匠に言われ、翌日、シフォンはカツラギと二人ここへ居た。
王国一の鍛冶職人 神宮寺 コトミ。
名前だけは以前から知ってはいた。
だが保温水筒がバカ売れして、商売が広がるにつれその名前の大きさを思い知らされた。
王国で商売をする者でそのブランドを知らない者はいない。
カツラギの師匠にして偉大な鍛冶職人。
その武人をも超える貫禄に、シフォンはすっかりと呑まれていた。
「さて週末から二人には『あるダンジョン』に潜ってもらう。
目的は指定の魔石を採集してくる事。
これはカツラギの鍛冶職人としての卒業試験である。
チャンスは一度きり、失敗は許されない。
今回、指定の魔石を持ち帰られなかった場合は破門とする。」
(えっ、破門?
ちょっと厳し過ぎねえか。)
シフォンは思わず眉をひそめた。
その気持ちを察したのか神宮寺師匠はシフォンに軽く微笑んだ。
「シフォン君だね。
君が噂の親友君か。
いつもカツラギを助けてくれてありがとう。
一流の鍛冶職人というのは素材に妥協は出来なくてね。
いくら技術があっても良い素材がなければ納得した物は作れない。
だから素材を提供してくれるコネクションを構築する社交性。
時には自分で素材を採集できる武人としての力も必要なんだ。
どうやら我が弟子は仲間を作ることには恵まれたようだ。
だが自身の武力については心もとない。
どうだろう、今回の卒業試験。
君も同行して手伝ってやってくれないか。」
そう言うと深々と頭を下げた。
プライドの高い王国一の鍛冶職人が初対面のこんな若造に頭を下げている。
その事の偉大さは同じく師匠へ弟子入りしているシフォンにも分かった。
厳しいようでこの師匠も弟子の事を愛しているのだ。
親友の人生をかけた大勝負。
断る理由なんて微塵もなかった。
「もちろんです。
いや、むしろ俺からお願いしたいくらいですよ。」
「シフォンっ、ありがとう。」
カツラギが泣きそうになりながら何度も頭を下げた。
二人で抱き合いながら、頑張ろうと励まし合っている姿を師匠は微笑ましく眺めていた。
「シフォン君。
私からも礼を言うよ。
我が愛弟子の為に快諾してくれてありがとう。
勿論、無料とは言わないよ。
これを持って行くと言い。」
そう言うと神宮寺は一対の防具を手渡した。
「師匠っ、これは?」
目を輝かせて驚愕するカツラギ。
それを尻目に神宮寺は何食わぬ顔で説明を始めた。
「これは私が十五年間かけて完成させた現時点での最高傑作。
『雷鳴の魔装』だ。」
(十五年?)
伝説の鍛冶職人が十五年間もの歳月をかけて完成させた武具。
その姿はシンプルながら確実に急所を守った動きやすそうな軽鎧。
その背中には五角形の小さな盾が据え付けられおり、白く輝く魔石が埋め込まれていた。
(伝説の鍛冶職人が自ら最高傑作と言い放つ逸品。
こんな凄いモノを貰っていいのだろうか?)
「あの……世界最強の防具なんて、こんな凄いモノは頂けません。」
恐縮してそう申し出ると神宮寺は悪戯っぽく笑って答えた。
「大丈夫。
世界最強と言っても現段階の話だ。
いいかい、職人の世界に世界最強の武具なんて存在しない。
そこにあるのは職人の確かな技術と継続した努力。
その先にある技術革新なんだよ。
こんな武具など直ぐに追い越してみせるさ。
それにこれ位の装備無いと秒で死ぬから……。
だって相手は暗黒竜だし。」
「えっ、」
「えぇぇぇっ、」
「暗黒竜っっっ」
「暗黒竜っっっ」
ニヤニヤと笑う神宮寺の前でシフォン達は意識が遠のいて行くのを感じた。
新米二人が無謀にも暗黒竜へ挑んだのは、その週末の事だった。
――セッツエリア ドラゴンダンジョン最下層――
その広間は物凄い熱気に包まれていた。
ドラゴンダンジョン最下層。
到来者を拒むようにそそり立つ巨大な扉を抜けて黒光りの広間へ出た。
目の前には巨大なドラゴンが暗黒炎を吐きながら二人を威嚇していた。
引きつり顔の弟子達を師匠達はニヤニヤと笑いながら背中を突いている。
(どうしてこうなった?)
軽い目眩を覚えながら悪夢の一日を思い出す。
今回の鍛冶卒業試験の事をパイル師匠に話した。
一応、長期の探索になる事を考えて外泊の許可を取る為だ。
(特にマリ姉は一日でも食事代の支払いを延滞すると怒るからな……)
すると何故か師匠は神宮寺師匠に連絡を取りついて来る事になったのだ。
知らなかったが師匠達は同じ森の出身で幼馴染らしい。
数日に渡る長期戦を覚悟し大量の食料やポーションを用意した俺達だったが準備は全て無駄になった。
まるでピクニックにでも来たように師匠達は昔話に花を咲かせ絶えず談笑。
「そう言えば若い頃はよく三人でダンジョン潜ったな。」
そんな事を言いながら次々とダンジョンの敵をなぎ倒して行った。
「お前が武器作ってアイツが付与、それを私が高値で売りつける。」
「そうそう、懐かしいな。
フクロウ印のお値打ち品だっけ?
アコギな値段で売りまくりやがって。」
「ははは……そうだったか?」
「そうだったさ……それにしてもアイツは残念だった。」
「………………」
そう言いながら一振りで魔物の群れを一掃する。
特にカツラギなんかは師匠の意外な一面に目を丸くして驚いていた。
凶悪オーガの群れを『神殺突』やら『幻竜牙斬』やらの圧倒的な火力で目もくれずに殲滅して行った。
……まるでピクニック中の蚊を振り払うかのように。
『一流の職人は一流の武人であれ。』
その言葉の意味が何となく分かった気がした。
(それにしてもパイル師匠がこんなに強かったなんて……)
ここまでパイル師匠は一度も魔導錬金を使っていない。
これで魔導錬金を使用したらと思うと吐きそうだった。
(俺はとんでもない人の弟子になったのかもしれない。)
そんなこんなで半日足らずで今、ドラゴンダンジョンの最下層にいた。
なぜか秒殺必死の暗黒ドラゴンを前にしてもイマイチ危機感を感じられなかった。
(全部っ、師匠達のせいだ。)
オーガにしたってかなりの強敵である。
それを爆笑しながら葬り去るのを見ると感覚がマヒするのだ。
(あれは特別……流されちゃ駄目だ。)
俺達は頬を叩き合い、頷き合った。
まずは事前の作戦通りにカツラギが前に出る。
この日の為に用意した超重装備に巨大なシールド。
時間はかかっても前衛でチクチクと少しずつドラゴンの体力を削る作戦だ。
俺は後ろで対闇属性や魔法防御力アップの付与を切らさないようにかけながらポーションを併用。
地味だが着実に相手のHPを減らして行った。
数時間が経ち、鞄いっぱいのポーションが残り少なくなった。
俺はマリ姉に借りたステータス確認眼鏡をかける。
(いいぞっ、もう少しだ。)
こちらのポーションも残り少ないが暗黒竜のHPも残り僅かだった。
俺は最後のポーションを使用しカバンを投げ捨てワラビテ刀を引き抜いた。
「カツラギっ、その調子だ。
もう少しで倒せるぞ。」
俺は疲弊したカツラギへ短剣を振って声をかけた。
心身ともにかなり疲れているのだろう。
カツラギはゼェゼェと息を切らしながらも振ったワラビテ刀を見ると軽く手を上げた。
(いけるっ、これで僕の全ての夢が叶うんだっ。)
カツラギは手ごたえを感じていた。
当初、自分の体重の何倍もある超重装備に体力の不安を感じていた。
だが暗黒竜の攻撃から身を守るにはこれ位でなければ防げない。
それに今日は人生をかけた勝負の日。
多少の無理はやむを得なかった。
パイルさんからこの試験を最後に引っ越すと聞いていた。
異国人で半人前の僕……。
親友なんて無縁だとずっと思っていた。
だけどシフォンと出会って行動を共にする内にどうしようもない感情に囚われた。
それでも一人前になるまではと、押し隠した秘めた想い。
毎晩、友への想いを込めて鍛錬したマジックミスリルの剣。
初めての打った剣は彼へ渡すと決めていた。
やっと完成したのが今朝、シフォンは喜んでくれるだろうか。
もうすぐこの試験も終わる。
そうしたらシフォンにこの『雷鎚の剣』を渡して親友になってくれと告げるつもりだった。
シフォンは僕の気持ちに応えてくれるのだろうか。
そんな時、自身の最後を悟ったのか暗黒竜は力を振り絞るように飛翔すると突然に急降下を始めた。
「えっ」
半ば体当たりの様な風の衝撃に思わずカツラギは手にしたシールドを落としてしまった。
必死に態勢を立て直そうするが疲労で足がもつれる。
そこに暗黒竜は炎を吐く準備を始めていた。
パチパチと言う音と共にムアっとした熱気が周囲に漂う。
「やばいっ」
「やばいっ」
突然のアクシデントに師匠達が慌てふためくが間に合わない。
(えっ、僕、死ぬの?
シフォン……)
カツラギが死を覚悟して目を閉じる。
その時、カツラギの背後から一筋の光が駆け抜けた。
ギャー
暗黒竜が断末魔の叫びを上げて倒れ込んだ。
『錬金武技 雷』驚いて振り返るとそこにはシフォンの姿があった。
(シフォン?)
驚き見つめるカツラギにシフォンはバツが悪そうに頭を掻いて謝る。
「カツラギすまねぇ。
せっかく貰った短剣。
今の技で粉々に砕けちゃった。」
そこへ師匠達が駆けつける。
「カツラギっ、無事か?」
「はい、師匠。
何とか」
そう言うと急に気が抜けたのか、その場にヘナヘナと座り込んだ。
心配そうに見守るシフォンへパイルが肩に手を置いた。
「『錬金武技 雷』 いつの間に使えるようになった。
まだ教えてない筈だが……。」
「へへっ、見様見真似です。
本当は突然見せて、びっくりさせようと思ってたんですけどね。」
(こいつ……)
一度見ただけで出来る程『錬金武技 雷』は簡単ではない。
パイルはシフォンの才能に舌を巻いた。
やっと落ち着くと神宮寺師匠の指揮の下、魔石の採集が行われた。
カツラギはドラゴンの魔石を受け取るとシフォンへ手渡した。
「おいっ、いいのかよ?」
驚いてシフォンが訊ねるとカツラギは苦笑いをした。
「いいんだよ。
僕は最後の最後でミスっちゃったし……。
その魔石は錬金に使うといいよ。
暗黒竜の魔石。
きっとシフォンの役に立つと思うんだ。」
「……わかった。
有難くいただくぜっ。
これで試験終了だな。
そう言えば話って何だ?」
そう訊ねるシフォンにカツラギは更に深い苦笑いを浮かべた。
「また今度でいいよ。
師匠の前で話す事でもないし……」
(最後の最後で大ミスしでかした。
シフォンが助けてくれなかったら今頃僕は死んでいた。
こんな半人前のままじゃ、シフォンに告白なんて出来ないよ。
あ~も~何であそこでミスるかな。
僕のバカっ。)
カツラギは自分を罵りながら帰路に着いた。
ドラゴンダンジョンからの帰り道、パイル師匠が言った。
「シフォン。
これでお前も卒業だ。
明日、ニコレ領へ出立する。
カツラギ君があれだけ頑張ったんだ。
今度はお前がやる番だ。」
驚く二人に神宮寺師匠が言葉を添える。
「カツラギ、残念だが彼とはここでお別れだ。
ちゃんと今日のお礼とお別れをしておきなさい。
まあ、この後は若い二人に任せるとして……」
そう言って微笑むと師匠達はそそくさと先に帰ってしまった。
「まったく、師匠はいつも突然だな。
……悪いカツラギ、どうやらお別れみたいだ。」
「あのシフォン……これ。」
そう言うとカツラギは恥ずかしそうに一振りの剣を差し出した。
「これは?」
「『雷鎚の剣』って言うんだ。
初めて出会った日の不思議な金属で僕が初めて作った剣なんだ。」
「お~、かっけ~。
ありがとうカツラギ。」
その笑顔にカツラギは舞い上がる。
「師匠に聞いたんだけどあの白い金属はマジックミスリルって言って……
……シフォンの金槌で雷属性が付与されていて……それで……それで」
「ありがとう、カツラギ。
凄く嬉しいぜ。
約束覚えていてくれたんだな。」
シフォンの何気ないそんな言葉にカツラギは幸せな気持ちになった。
「忘れる訳ないじゃないかっ」
シフォンのあどけない嬉しそうな笑顔。
剣を掲げいつまでも見惚れている幸せそうな瞳。
何より嬉しかったのは出会った時の約束を覚えていてくれたコトだった。
その姿を見ていたら、何だか別れが切なくなってしまった。
「………………」
「んっ、カツラギ、どうした?」
「いつか僕が一人前になったらまた素材集め手伝ってくれるかな?」
「当たり前だろ。
だって俺達親友じゃん。」
そう言ってシフォンは笑った。
「だね。」
(今度こそミスなくこなして、シフォンと一緒に。)
二人は互いに照れ笑いを浮かべながら自分達の未来について語り合った。
疲れた体を心地よい風が吹き抜け、沈む夕日が綺麗で眩しかった。
「じゃあ、俺そろそろ行くわ。」
シフォンはそう言いながら大事そうに剣を背中に収めた。
「うん、またいつか。」
「おう、今度会う時はびっくりする位の凄い技みせてやるよ。」
そう言ってシフォンは剣を振るフリをした。
「師匠お待たせ。」
「カツラギ君とのお別れは済んだのか?」
「ああ、もうアイツは大丈夫……きっとまた会えるさ。
師匠っ、俺はやるぜっ、やる気、満々だ。
これから何をすればいい魔王でも討伐するかっ」
「表向きはな……だが本当の目的は別にある。」
「本当の目的?」
「皇女巫女姫の暗殺だ。」
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