【乙女ゲーム】×【ミステリー】 男装王子~モテの中の1%の殺意~ 毎週金曜日・月曜日 22:00に次話公開!

キルト

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第二章 隠しヒロイン カルゼ

第五話 新生活と略奪愛の始まり

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 第五話 新生活と略奪愛の始まり

 ラベンダーの香りに包まれていつもの海へ戻って来た。
 いつもの倒木までテクテクと進むとシフォンが難しい表情で考え込んでいた。
 不思議に思い訊ねてみると妙な遺跡を発見したと言う。
 そう私はキスで一時的にもあっちの世界へ帰っている。
 だけどシフォンは私とのキス後もこっちの世界に囚われたままなのだ。
 それで私が来るまで一日中探索を続けた所、妙な遺跡を発見したらしい。
 私はシフォンに案内されて早速その遺跡の前まで行ってみた。
 暫く歩くと遺跡が見えて来た。
 それは高くそびえ立つ岩石をくり抜く様に作られていた。
 丸い柱が何本も立ち並びまるで何かの神殿の様だった。

 ゴクリ

 近づいて見ると上が見えない程の絶壁に神殿が君臨している。

 ゴクンッ

 その圧倒的なスケールに思わず私は唾を飲み込んだ。
 私達は互いに無言で頷くと恐る恐る中へ入ってみた。
 (えっ、冷たいっ)
 まるで氷水に浸かった様にヒンヤリとした空気が全身に張り付く。
 どんな仕掛けになっているか分からないけれど辺りにぼんやりと光が差し込んでいる。
 遅れて湿気と埃の独特な匂いが鼻孔を刺激した。

 中は長い廊下がずっと続いていた。
 ヒンヤリとして何故か奇妙な重力を感じた。
 コツコツと妙に足音だけが反響して響き渡る。
 それはまるで何百年も時が止まっていたかの様な静けさだった。
 (冥界ってきっとこんな世界なのかな?)
 そんなコトを考えながら暫く進むと広間に出た。
 中央にはぼんやりと蒼白く光る石碑があり、奥に二つの扉が閉まっている。
 その二つの扉には細かい彫刻が施されていた。
 左の扉には禍々しい鎌を持った死神が彫られている。
 右の扉には神秘的な聖杯が彫られていた。

「ねぇ、シフォン。
 この扉って……。」

 そう言う私にシフォンが黙って頷くと石碑に刻まれた文字に触れる。

「うん、何だかヤバイ雰囲気がプンプンするね。
 多分、扉を開けると何かが起こると思う。
 この世界から脱出出来るかもしれないけど罠の可能性もある。」

 死神と聖杯。
 禍々しい程の邪悪さと神々しい程の眩さ。
 確かにどっちの扉を開けてもタダでは済みそうになかった。
 今はシフォンが居る。
 何とか私を助けようと頑張るフライス王子やタフタ兄様やニット。
 執事のカツラギ様やウェルトメイド長だって居る。
 少し恥ずかしいけど情熱的なキスさえすれば一時的だけど屋敷に戻れるのだ。

 謎の遺跡神殿に怪しい石碑。
 石碑にはきっと
 『汝、何を求める』とか『願いを叶えたければ……』等が書いてあるのだろう。
 で謎解きを間違えると罠発動で即昇天?
 映画でよくあるパターンだ。
 怖い怖い。
 何だか、わざわざよく分からない危険を冒す事はないような気がした。
 シフォンが現実の世界に戻れないのは問題だけど神殿は少しづつ調べればいい。
 別に急ぐ必要はないのだ。
 見るとシフォンが蒼白く光る石碑を触りブツブツ何か呟いていた。

「えっ、シフォンて古代文字が読めるの?」

「ああ、単語程度だけど所々なら理解出来そうだ。
 え~っと何々。」

 ……ゴクン

 私は緊張した面持ちでシフォンの言葉を待った。

「乙女ゲーム完全攻略読本。
 乙女ゲーム初のオンライン対応ゲーム。
 『シンデレラ プリンセス』
 隠しヒロイン カルゼ ルート特集。」

「えっ?」

 あまりの予想外の言葉に私は耳を疑った。

「乙女ゲーム完全攻略読本?
 汝、何を求めるか? とかではなくて?」

「うん、意味はよく分からないけれど
 確かに乙女ゲーム完全攻略読本と刻まれている。
 何かの予言書の様だね。
 隠しヒロイン特集とは何だっ。
 分からないっ、何かの暗号かな?
 あれ? ここにブロード第一王子の名前がある。
 どうして太古の遺跡に彼の名前が……」

 首を傾げるシフォンの横で私の頭はパニックに陥っていた。
 (えっ、どういうコト?)

 『シンデレラ プリンセス』とは私がやっていた乙女ゲームの名前だった。
 この遺跡は明らかに私がこの世界に飛ばされた事と関係している気がした。
 どういう事か分からないけどブロード王子の名前がある。
 きっと今起こっている状況が予言されているに違いなかった。
 何だが妙な胸騒ぎがする。
 私は急かすようにシフォンへ内容を尋ねたが解読には時間がかかるらしい。
 モヤモヤする気持ち中で私は一度屋敷に帰る事になった。
 
「とにかく、リプルは一度戻って。
 俺はここで予言書を解読してみるから。」

「うん。分かった。」

 死神と聖杯の二つの扉。
 乙女ゲーム完全攻略読本という謎の予言書。
 後ろ髪を引かれる思いの中で私達は情熱的なキスをした。


 屋敷に戻り目が覚めるとメイド長のウェルトさんが部屋のカーテンを開けた。

「お目覚めですか、旦那様。
 本日も良いお天気ですよ。」

 少し開けた窓から気持ちが良い風が入って来る。

 うーんと両手を上げて伸びをする。
 さっきまでの予言書の事が気になったけど解読はシフォンへ任せるしかなかった。
 あの感じだと数日は解読にかかるだろう。
 ベットから降りるとリノ達メイドが次々とドレスを運んで来る。

「旦那様。
 今日はどのドレスになさいますか?
 ブルーもお似合いですが、ピンクのリボンがついたこちらもお勧めですよ。」

 屋敷の中に居る間は男装はせずに令嬢として過ごしていた。
 ウェルトさん達も私をお姫様扱いしてくれた。
 (呼び方だけは、旦那様だけど……)
 そう思い私は口をとがらせてブサイク顔になる。
 不用意な外出は控える様にフライス王子に言われていた。
 だからリノ達とお茶をしたり、カツラギさん自慢の庭園を散策したりした。
 (こんなゆったりとした時間を過ごしたのは何年ぶりだろう。)
 優しい人達に囲まれてゆったり過ごす時間は最高だった。
 庭園を散策していると窓から幼馴染のニットが嬉しそうに手を振った。
 (元気になってよかった。)
 少し前にお母様が病気で亡くなった。
 幼い頃にお父様が亡くなり女手一つでニットを育てて来たお母様。
 それだけにニットとの繋がりは深くニットの悲しみはどれ程のものだっただろう。
 私も幼少期にはニットのお母様から毎回お菓子を貰っては随分と可愛がってもらった。
 
「リプルちゃん。
 あの子は人見知りが激しいけど根は優しい子なの。
 でも早くに父親を亡くしたせいで随分と寂しい思いをさせて来たわ。
 だからお願い。
 あの子と仲良くしてあげて。」

 そう言って頭を下げられた事を覚えている。
 お母様へ頼まれなくてもニットは私の大事な幼馴染だった。
 だからお母様が亡くなった時は私も随分と心配した。
 けれど何とか最近は気持ちも落ち着いて来たみたいだった。
 (一人暮らしの家を引き払って、この屋敷に来たのが良かったのかもしれない。)
 最近のニットは何か生きる目的が出来た様で瞳に生気がみなぎっている。
 (フライス王子に私を守る為に特別外交官に任命されたからかな?)
 少しだけ照れ臭いけど私への好意で元気になったのなら嬉しかった。
 私はブンブンとニットへ手を振り返して焼き菓子を皆へ差し入れるように頼んだ。
 
 ぶらぶらと歩くと、私を警護しているタフタ兄様が優しい眼差しで微笑んでいる。
 最近は気がつくとさりげなくタフタ兄様が私の警護についてくれている。
 タフタ兄様にしてもそうだ。
 王国一の剣士で鬼の王宮親衛隊隊長。
 任務中は随分と怖い顔をしている事が多かった。
 でもこの屋敷に来て私の護衛をするようになり昔の記憶の中の兄様に戻った気がした。
 優しくて強くて暖かい。
 タフタ兄様の側に居ると全ての心配事が消えて無くなったかの様に安心できた。
 (実は私もブラコンだったりして……。)
 苦笑いをして先へ進む。
 
 綺麗な花を見つけてしゃがみ込んで花びらをつんつんする。

「おぉぉ、綺麗な花。
 おい元気か?
 いっぱい水をがぶ飲みするんだぞ。」

 フフッ

 ふと気配を感じて振り返る。
 すると苦笑いしながら頭を掻くカツラギ様が立っていた。

「旦那様。
 花は香りを愛でるものです。
 つんつんと突かれましても……まぁ楽しみ方はそれぞれですが。」

 私は見られた事を知って顔を真っ赤にして俯いた。
 (うぁぁぁ、恥ずかしいよ~。
  イケメン執事に変な所、見られちゃった。)
 幸せではしゃぎ過ぎた自分に照れているとカツラギ様が教えてくれた。

「現在、フライス王子の指示でブロード王子の身辺を探っています。
 ブロード王子を魅了している令嬢ですが……。」

「えっ、愛人さんの正体が分かったのですか?」

 私は少し動揺した。
 浮気をされたとは言え、婚約直前まで行った推し王子である。
 浮気相手の事が気にならないと言ったら嘘になる。
 (ブロード王子を魅了した令嬢はどんな女性なんだろう。)

 私はゴクンと唾を飲む。

「それがまだ詳しい情報は掴めていないのですが
 どうやら『カルゼ』と言う名の異国の令嬢のようです。」

 (カルゼ?)
 そんな名前はゲームを始める前の登場人物一覧には載っていなかった。
 それに王子を攻略するプレーヤーは私、一人の筈。
 悪役令嬢じゃあるまいし攻略対象の王子を略奪するライバルなんて……ん。
 そこまで考えて昨晩のシフォンが解読した予言書の一文が頭を過る。

「乙女ゲーム完全攻略読本。
 乙女ゲーム初のオンライン対応ゲーム。
 『シンデレラ プリンセス』
 隠しヒロイン カルゼ ルート特集。」
 
 (隠しヒロイン カルゼ?)
 ブロード王子の愛人の名前もカルゼ。
 予言書に書かれている隠しヒロイン名前もカルゼ。
 これは偶然の一致だろうか?
 もし『シンデレラ プリンセス』が今までのオフラインゲームじゃなかったら。
 一定の条件で王子を奪い合うバトルモード。
 そう略奪愛みたいな……隠しヒロインモードが存在したとしたら?

 どこかで聞いたコトがある。
 マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン
 通称MMOと呼ばれるゲームシステムでは多人数が同時に参加する。
 そのシステムは主にRPGで採用されて協力したり対戦したり出来ると言う。
 乙女ゲーム初のオンライン対応ゲーム。
 『シンデレラ プリンセス』
 もし私以外のプレーヤーもこの世界に飛ばされていたら。
 そのカルゼと言う隠しヒロインの攻撃で私が毒殺されたのだとしたら。
 (怖い。でも負けるわけには行かなかった。)
 私は自分を鼓舞しながらも微かに震えているのを感じた。

「旦那様。大丈夫です。
 今度は私達がついています。」

 そう言ってカツラギ様は優しく私に手を重ねて微笑んだ。
 私は強く頷いてカツラギ様へ訊ねた。

「それで私はどうすればいいのでしょうか?」

 そう訊くとカツラギ様は急に邪悪な笑みを浮かべて微笑んだ。

「既に準備は整えております。
 この余興、きっと旦那様もお楽しみいただけると思いますよ。
 今週末、特等席へ御案内いたします。
 それが上手くいけばカルゼという令嬢を引きずり出す事が出来るでしょう。
 その上で最終的にはルプリ伯爵にカルゼを魅了していただきます。」

「えっ、私が愛人さんを誘惑するのですか?」

「はい。
 第一王子ブロード様はカルゼという人物のハニートラップにかかった可能性が高い。
 でしたらこちらもカルゼに逆ハニートラップを仕掛けます。」

「あっ、あのっ、
 私にそんな魅力があるのでしょうか?」

 私は不安になって呟いた。
 するとカツラギ様は口に手を当てて笑い出した。

「フフッ
 大丈夫ですよ。
 貴女には男装王子の才能があります。
 現にイライザ嬢を虜にしているではないですか。
 何でもいきなり唇を奪われたとか?」

 そう言ってカツラギ様は悪戯っぽくウインクして見せた。
 (えっ、どうしてそれを知っているのっ。
  執事カツラギ恐るべし。)
 私は冷や汗が流れるのを感じながら曖昧な笑みを浮かべた。

「すみません。
 少し意地悪が過ぎました。
 大丈夫です。
 これから私が王子道のイロハを伝授いたしますから。
 リプル様には人を魅了する才能があります。
 足りないのは自信と経験だけ。
 後は実践あるのみです。
 私の見立てではそろそろ練習相手が来る筈です。」

 (練習相手?)
 カツラギ様の不思議な言葉に首を傾げているとメイドのリノが駆けて来た。

「旦那様ぁぁっ、大変でございます。」

「あらリノどうしたの?
 そんなに慌てて。」

 私が訊ねるとリノは思いもよらぬ返事をした。

「イライザ令嬢様が来襲されました。
 今、ウェルトメイド長が時間稼ぎをしておりますっ。
 直ぐに服を着替えて御出で下さい。」

 (えっ、悪役令嬢が来襲?)
 思わずカツラギ様の顔を見る。
 するとカツラギは子供の様な笑みを浮かべて肩を上げてみせる。
 そして、どうぞと言わんばかりに深々とお辞儀をして見せた。
 (まさかっ、カツラギ様が言った練習相手って。)
 私はどこか遠くで開戦のラッパが鳴り響いた気がした。


 急いで男装し応接室へ向かうと声が聞こえて来た。

 バンッ

「もう紅茶は結構ですわ。
 それよりルプリ様はどちらですの?
 本当に私が来た事を伝えているのでしょうね?
 こんなに待たせて、私を誰だと思っているの。
 知っておきなさい!
 私の名前と貴族制度をね。」

 ただならぬ気配に慌ててドアを開ける。
 するとイライザの表情が一変した。

「あぁぁ、愛しの君。
 どこへいらしていたのですか?
 私を焦らして罪な御方です。」

 (うわぁぁ、何か瞳がハートなんですけど。)
 多少引き気味で取り敢えずイライザをソファーへ座らせる。
 気づくとソファーへ座ったイライザの向こうでカツラギ様が立っていた。
 救いを求める視線を送るがカツラギ様は素知らぬ顔。
 どうやら自分でどうにかしろと言う事らしい。
 (もう練習は始まっているって事ですか?)
 私はキサラギ様へ聞こえる様にワザとらしく咳払いをしてからイライザへ話しかけた。

「レディ、突然の訪問で驚きました。
 でもどうして私がここに居ると?」

 そう訊ねると待っていましたとばかりにイライザは話し始めた。

「あの夜会の後、突然居なくなるなんて酷いお方ですわ。
 あれから方々必死に探しましたのよ。
 そしたらルプリ様がフライス王子の客人として屋敷に住まわれたと言うじゃないですか。
 私、居ても立っても居られなくなり会いに参りましたの。」

 そこまで言うとイライザは唇を触り俯き顔を赤らめた。

「私の初めての唇を奪っておいて……。
 何の連絡も下さらないなんて。
 あれは遊びでしたの?
 私は貴方に弄ばれたのでしょうか?」

 その言葉に回りのメイド達が何やらヒソヒソと囁いている。
 (うぁぁ、皆の前でそれを言うかっ、悪役令嬢。)
 私はメイド達へ聞こえる様に咳払いをすると言い訳をした。

「いや、その……あの時は貴女のあまりの魅力に感情に任せて唇を奪ってしまいました。
 だが貴女のような女神に嫌われたくはない。
 口づけも貴女の気持ちも考えず良かったのかと少し臆病になってしまいまして。」

 そう言うとイライザはブンブンと首を振りながら言葉を遮った。

「何をおっしゃるのですか?
 初めてを貴方に奪われた時から私の身も心も貴方様の虜でございますわ。」

「ヒソヒソ……まぁ、初めてを奪われたですって。」
 イライザの言葉に回りのメイド達が色めき立つ。

 (いやだからイライザさん。そう言った誤解を招く発言はやめましょうね。)
 私は苦笑いをしながら引きつった顔で頷いた。

「それで今日は?
 ただ私の顔を見に来たという訳ですか?」

 そう言うとイライザはその場で立ち上がり、少し思いつめた表情を見せた。
 その表情から何か伝えようとしている事は間違いがなかった。
 でもそれを伝えるべきか迷っている様だった。

「実はルプリ様のコトが心配で。
 ルプリ様はフライス第二王子の別格の客人。
 それはつまり第一王子の敵となると言う事です。
 でもルプリ様っ。
 貴方は第一王子のブロード様には決して関わってはいけません。
 私は心配なんです。
 あの方のようにアイツに毒を盛られて死んでしまうのではないかと。」

(…………)
(…………)
(…………)

 その言葉にその場に居た全員に戦慄が走った。

 (コイツは何かを知っている。)
 (コイツは何かを知っている。)
 
 執事のカツラギ様がそっと腰の剣に手をかけて構えた。
 私はそれを無言で制止してイライザを再びソファーへ座らせ紅茶を勧めた。

「まずは淹れたての紅茶を頂きましょう。
 せっかくの香りが飛んでしまいますよ。」

 イライザは黙って頷きソファーへ座るとカップに手をかけた。
 暖かい紅茶が茶葉の良い香りと共に緊張した喉を通り過ぎる。
 
「イライザ嬢」

「イライザと御呼びになって。」

「ではイライザ。
 君はプロード第一王子の婚約者が毒殺された件について何か知っているのか。」

「ええ知っていますわ。
 多分その犯人も……。
 でもそれを教える訳にはいきません。
 それを知ればルプリ様を巻き込んでしまいますから。
 これは私が招いた事件。
 全ては私の責任ですわ。
 ですからお願いです。
 貴方は第一王子のブロード様には決して関わってはいけません。
 それだけお伝えしたくて参りました。」
 
 そう言うとイライザは急に席を立って帰ろうとした。
 それを阻むかのようにメイド達がドア前に立ち塞がる。

「貴女達っ、何ですのっ。
 そこをお退きなさい。」

 イライザが声を荒げた。
 それでもメイド達はイライザを睨みつけたまま動かない。
 そんな二人の間に慌てて入る。

「すまない。イライザ。
 でも聞いてくれ。
 実はここの警備に毒を盛られて亡くなった婚約者の兄が居てね。
 私達は彼を家族の様に想っているんだ。
 だから彼女の敵を討ちたい。
 もし何か知っているのなら知っている事を話してくれないか。」

「えっ、そう……彼女は亡くなったのですか。
 とても残念ですわ。
 彼女とはプロード王子を巡って多少の行き違いもありましたが良い令嬢でしたわ。」

 (いやいや多少じゃないでしょ。イライザさん。)
 私は悪役令嬢イライザとの八時間に及ぶ激闘を思い出して内心思わず吹き出した。
 彼女とは乙女ゲーム『シンデレラ プリンセス』プレイ時代に何度か会っている。
 私が攻略対象のプロード王子といい感じになろうとするとなぜか必ず邪魔をして来た。
 気が強くプライドが高い孤高の悪役令嬢。
 ある時は取り巻き令嬢達を利用し。
 ある時は自ら乗り込んであらゆる手段を駆使して邪魔をする。
 プロード第一王子との婚約エンディングまで八時間かかったのだって彼女のせいだった。
 正直当時はイラっとしムカついたが実際に話してみると今はだいぶ印象が変わった。

 こっちの世界に来てからカツラギ様に悪役令嬢について調べてもらった事がある。
 どうやら彼女は由緒ある家柄に生まれたが生まれた事を歓迎されなかったらしい。
 それはその家に男性が居なかったから。
 当主が高齢と言う事もあり妊娠が分かった時にはかなり跡継ぎ誕生を期待されたらしい。
 そんな中でイライザは生まれた。
 我が子誕生の喜びよりも跡継ぎ断絶の落胆の方が強く彼女は当主に愛されなかった。
 母親も跡継ぎを産めなかった負い目からイライザに冷たく当たった。
 周りのそんな不穏な視線を感じたのは物心がついた頃だった。
 それからのイライザは必死に勉強を始めた。
 常に愛情が枯渇した心がカラカラに乾いた人生。
 (誰かに愛されたい。
  私が生きていていいんだと実感して暮らしたい。)
 由緒ある家を断絶させない為に最高の男と結婚する事。
 その為には最高の令嬢になる事。
 それがイライザの生きる目的であり、唯一両親から愛される条件だった。
 だからイライザは誰にも媚びず泣かず振り返らずに生きて来た。
 我がままそうに見える悪役令嬢も実は不安気で乙女。
 その誰にも頼らず頑張ろうとする姿はどこか儚く健気に思えた。
 つまりは典型的なツンデレである。
 だから男装王子ルプリに突然唇を奪われて乙女心に火が点いたのだろう。
 恋愛経験が全くない分、堕ちると行動は一途で大胆だった。
 予測不可能な暴走悪役令嬢……困ったものだ。
 (でも私が男ならこんな彼女も悪くない。) 
 そう思いながらイライザへ改めて質問する。

「イライザ。
 君はプロード第一王子の婚約者が毒殺された件について何か知っているのか。」 
 
「ええ、知っていますわ。
 でもまだ確証がございませんの。
 そうだルプリ様。
 私をオトリになさいませ。
 私は犯人を知っている。
 それを皆の前で告発するらしいと言いふらすのです。
 そうすればきっと犯人を捕まえる事ができますわ。」

「しかしそれは危険では。
 イライザが殺されてしまう可能性はないのか?」

 私は不安気にキサラギ様を見るが参加させろと瞳が言っていた。

「勿論、私も毒殺される可能性はありますわ。
 私だって怖い。
 でも私は愛するルプリ様のお役に立ちたいのです。」

 イライザの瞳は真剣だった。
 そこには強い意志と覚悟があった。

「しかし……」

 私だって自分を殺そうとした犯人を捕まえられるなら捕まえたい。
 だけどその為に他の人が殺されるなんて嫌だった。
 それが自分に好意を持ってくれている令嬢なら尚更だ。
 思い悩んでいるとそんな気持ちを察したのかイライザが柔らかく微笑んだ。

「あらルプリ様は私を守っては下さらないのかしら?」

 少し震えながらも悪戯っぽくウインクをしてみせる。

「あっ、いやそれは全力で守るが……」

 パンッ

 イライザは自身の不安をかき消すように両手を叩いた。

「それならこうしましょう。
 まず今、私にキスの御褒美を下さいませ。
 それでイライザは頑張れますわ。
 そしてもし犯人を捕まえる事が出来ましたら……」

 そこまで言うとイライザは頬を赤らめて唇を指で触った。

「犯人を捕まえる事が出来たら?」

「その時には私と婚約をして下さいませ。
 あっ、勿論ルプリ様が私の事を嫌いになりましたら破棄していただいて構いません。
 でも婚約者として私のコトを知っていただき気に入ってくださいましたら……」

 (えっ、キス?
  婚約? 何を言っているの?)
 突然の申し出に困惑して黙っていると突然キサラギ様が割って入った。

「よろしいでしょう。
 その契約。
 承知いたしました。
 まずは犯人を捕まえる事が先決です。
 旦那様よろしいですね。」

「えっ、でも。」

「旦那様。
 ここまで覚悟を決めた女に恥をかかせるものではありませんよ。」

 ウェルトメイド長がそう言うとメイドのリノも大きく頷いた。

「う~ん。
 分かったけどイライザ。
 危険を感じたら直ぐに逃げてほしい。」

 周りの勢いに押されておずおずと私はイライザの申し出を受け入れた。

「それでは旦那様。
 誓いのキスをっ。」

 (えっ、ここで?)
 周りの視線に戸惑っていると何故かメイド達のキスコールが突然に始まった。

「キスっ、キスっ。」
「キスっ、キスっ。」
「キスっ、キスっ。」

 (え~っ、何だっ、このノリはっ
  一体どうしてこうなったっ。)
 周りの生温かい視線を感じながらイライザを見ると既に瞳を閉じて構えていた。
 (頑張れ私、恥ずかしがったら負けだ。)
 私は恥ずかしさでいっぱいになりながらも夢中でイライザへキスをした。
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