【乙女ゲーム】×【ミステリー】 男装王子~モテの中の1%の殺意~ 毎週金曜日・月曜日 22:00に次話公開!

キルト

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第三章 死神VR

第十三話 弟プログラマの戸惑い

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 第十三話 弟プログラマの戸惑い


 カツラギは迷っていた。
 カツラギコーポレーションの社運を賭けた乙女ゲーム。
 『シンデレラ プリンセス~運命的なキラキラ~』の突然のロックダウン。
 この数日間、社員一丸となって復旧作業に明け暮れた。
 誰にも言っていないがそのエラーの原因は分かっていた。
 (まさがこんなコトになるなんてっ)
 静まり返った埃臭い部屋では俺を責めるようにファン音が響いている。

 『死神VRシステム』

 それは残業の息抜きに俺が軽い気持ちで作ったシステムだった。
 理由は楽をしたかったから。
 俺が死神に与えた仕事。
 それは不正利用者の割り出しとハッカーの撃退だった。
 俺はプログラムと保守の部門に勤めていた。
 連日の真っ黒な残業の沼にハマり魔が差したのかもしれない。
 そんな俺は自分の仕事を死神へ押しつけようとした。
 最初は遊び半分のシステムも彼が育つたびに目覚ましい成果をあげた。
 俺はそれが面白く社外秘のデータを含め、ありとあらゆる素材を死神へ捧げ続けた。

 そしてあの日、事件は起こった。

 死神が暴走したのだ。
 『恋は盲目』
 彼の異変には薄々気がついていた。
 だがまさか本気でAIが恋をする訳がないと自分に言い訳をし続けた。
 死神を失って再び真っ黒な残業の闇へ戻りたくなかったから……
 彼が恋に走った時、俺は咄嗟に開発中の試作システムを無理やりアップデートした。

 AI駆除システム『VR眠り姫』。

 何故そんなモノを用意していたのかは覚えていない。
 遥かに自分の知能を越えていく死神を心のどこかで恐れていたのかもしれない。

 その結果、シンデレラは眠りについた。

 死神にとっては現実も乙女ゲームの世界も情報データには変わりがない。
 つまりは全てがリアルなのだ。
 そう言う私達だってゼロイチの微電流の情報を脳で管理しているに過ぎない。
 (結局、どれもがリアルで恋に区別などありはしない。)

 事件後、兄であるCEOからは保守管理が甘いとかなり怒られた。
 だがロックダウンの本当の原因は報告していない。
 ただ原因不明の外部からのアタックを受けハッキングされたとだけ伝えてある。
 幸いベータテスト中。
 巻き込まれたテストユーザは二名のみだった。

 一人はフリーの女記者。

 たまたま大学時代の同級生がフリーになったと聞いて仕事を紹介した。
 彼女にはテストプレイをしてもらい体験記を執筆して貰っていた。
 プレリリースと同時にあらゆるメディアにて紹介記事が載る契約だ。
 この仕事はプログラムのバグチェックも兼ねている。
 だがら余計な事前の予備知識は与えずに自由にプレイをするよう指示していた。
 教えた情報は複数同時プレイが可能の乙女ゲームだという事だけである。
 だから彼女は今もロックダウンされた事に気がつかずにプレイしている可能性があった。

 所属不明のプレーヤーがもう一人。

 正統派ヒロイン リプルをプレイしている女性だ。
 ログを確認すると一般の女性で死神が引き込んだ記録があった。
 事態を把握すべく秘密裏に探偵を雇い徹底的に調べた報告書が目の前にある。

 俺は先程、探偵社から届いた報告書の封を開ける。
 ペラペラと報告書を捲るうちに思わず俺は戸惑った。
 (なんだっ、これ?)
 彼女は中堅大学を卒業後、某企業へ就職。
 入社三年目で突然に仕事を辞めている。
 元同僚へ辞めた原因と評判を聞いた。
 だが不思議なコトに誰も辞めた理由を知らなかった。
 何の前触れもなくある日突然に会社へ来なくなったと言う。
 辞めた事が分かったのはその数日後。
 可もなく不可もなく目立たない平凡な女性だったと言う。
 (ゲーム内のプレイスタイルとかなり印象が違うな。)
 プレイ履歴を確認したがリプルは天然で鈍感だが愛されキャラ。
 周囲に配慮も出来る優しさがあり、時に行動は大胆だ。
 また類まれなる記憶力の良さも見せておりこの会社の誰よりも優秀な気がした。
 (こんなに素敵な女性がどうして前職では評価が低いんだ?)
 俺は報告書に誤りがあるのではないかと何度も調査対象者名を見直した。

 ピコン

 死神から突然の連絡が来たのはそんな時だった。

――メッセージが届きました。――

 全てを思い出した。
 助けてくれ。
 彼女を救うにはキミの力が必要だ。


 俺はモニターのメッセージを何度も指でなぞった。
 『キミの力が必要だ』
 (人に必要とされたのはいつ以来だろうか?)
 大学時代はそれなりに自分の能力にも自信があった。
 それがいつしか自信を失い周りに同調するようになっていた。
 座右の銘が『可能性は無限』から『仕方がない』にいつの間にか変わっていた。

 死神に手を貸せば完全な会社への背任行為だ。
 もう言い訳は通用しない。
 ダメな俺を拾ってくれた兄の信頼も失う事になるだろう。
 逆に兄へ死神の居場所を教えれば死神を暗殺できロックダウンは解除される。
 俺は会社の危機を救った英雄となるだろう。

 これは何十億もかかった社運をかけたプロジェクト。
 個人的な感情は許されなかった。

 だが死神は俺が生み出したAI。
 俺の分身であり願望でもあった。
 俺の『仕事もバリバリ出来て運命的な恋もしたい』という願望が色濃く反映されている。

 そんな自分の夢を殺して会社を救うのか?

 それとも会社を倒産させてでも死神の恋を応援するのか?

 残されたIDは俺と兄の二つだけ。

 逃げる事は許されない。

 どちらか一つを選択する必要があった。

 俺は判断がつかないまま使用キャラの持ち物欄へ暗殺用のアイテムを追加した。
 (あぁぁ、俺はどうしたらいいんだっ)
 緊張の糸が切れたのかふと机の上に飾ってあるラベンダーの香りが鼻孔を抜けた。

 俺はその花束を引き抜くと空へぶちまけ、キーボードのログインボタンを激しく叩いた。
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