【乙女ゲーム】×【ミステリー】 男装王子~モテの中の1%の殺意~ 毎週金曜日・月曜日 22:00に次話公開!

キルト

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最終章 それぞれの旅立ち

最終話 恋の行方

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 最終話 恋の行方


 王国求婚舞踏会会場から逃げ出した私は、独り部屋にこもり震えていた。
 膝には飼い猫のトラオ君。
 私は必死に死の恐怖から逃れようと暖かい毛並みを整えていた。
 ユーザIDが失効し私が死ぬまで後、五分。
 時刻は夜の十一時五十五分を示していた。
 誰かを選んでエンディングを迎えれば死なずに元の世界へ帰れる筈だった。
 きっと誰を選んでも幸せなエンディングを迎えられたのだと思う。
 でもきっとどこかで見ているシフォンの前で他の男性の愛を受け入れたくはなかった。
 たとえそれで自分が死ぬ事になったとしても……。
 (死にたくないっ)
 フライス王子はシフォンは生きていると教えてくれた。
 シフォンを見つけ出して求愛のダンスの手を取れば、きっと元の世界に帰れるのだろう。
 でも、探し出すにはもう時間が無かった。

「シフォンっ、助けて。」

 そう呟くと同時に時間が過ぎ、私は静かに息を引き取った。


 (……んっ)
 頬に当たるヒンヤリとした感触で目が覚めた。
 甘いお菓子の香りが周囲に漂っている。
 気がつくと私は自分の部屋の床の上で目を覚ましていた。
 右手にはスマホを握りしめている。
 ノロノロと起き上がると、部屋の隅の鏡に自分の姿が映る。 
 ボサボサの髪に黒縁メガネ。
 そして、こじらせた服装の自分がそこには居た。
 (えっ、夢?)
 頭がぼーっとしていて、まるで長い夢を見ていたようだった。
 (……っ)
 何だか無性に悲しくなり、何故か私は、わんわんと泣き出した。

 今までの出来事は全て夢だったのだ。

 シフォンもニットもタフタ兄様も、みんなの愛に包まれた優しい世界も……全てが幻。
 結局残ったのは、無職のボサボサメガネのこじらせ女子。
 (結局、私は永久に孤独なんだ。)
 そう気づくと悲しくて、悲しくて、私は床に突っ伏して、わんわんと泣き続けた。

 すると何かが涙で濡れた頬を優しく撫でた。

「ニャー」

 (……っ?)

 顔を上げると一匹の猫が腹を晒して毛づくろいを求めていた。

「えっ、トラオ君?」

 美しい黄色の毛並みに少し小太りなフォルム。
 このむくむくな毛並みは間違いなく、あの世界で飼っていた飼い猫のトラオ君だった。

「何だっ、一緒に来ちゃったの?」

 私は嬉しくて、嬉しくて、思わず抱き抱えて頬ずりした。

「みゃー」

 トラオ君が甘えた声を出した。
 彼がこの声を出すのは、お腹が空いた合図だった。

「何かっ、食べる物っ。」

 私は弾かれたように立ち上がると、急いで冷蔵庫のドアを開けた。

「えっ、何にもないじゃないっ。
 何でこんな物しか入ってないのよ。
 バカッ」

 私は腹を立てて荒々しくドアを閉めた。
 取り敢えずお皿に牛乳を入れて、おずおずとトラオ君へ差し出した。
 直ぐにでも何か美味しい物を買いに出かけたかった。
 でも部屋を出た瞬間にトラオ君が居なくなる気がして怖くて動けなかった。

「缶詰とか何かあったかな?」

 ガサガサと探していると、トラオ君が私のスマホを引っ搔いていた。

「あっ、こら、トラオ君。
 何してるのよ。
 画面が傷つくじゃないの?」

 ピロロン

 そう言って近づくとスマホが鳴り出し着信のマークが点滅した。
 尚も、じゃれつくトラオ君からスマホを取り上げると私はメッセージを開いた。
 表題には『採用のお知らせ』と書かれていた。

――『採用のお知らせ』
  天音 さくら様
  お元気でしょうか?
  カツラギコーポレーションのプログラマの結希です。
  貴女にはフライス第二王子と名乗った方が分かりやすいかな。
  お陰様で『シンデレラプリンセス』の原因不明のロックダウンは解除されました。
  色々ありましたが、予定通り来月正式リリースがされる予定です。
  今回、無事サービスが開始できるのも天音さくらさん、いやリプル嬢のお陰です。
  ありがとうございます。
  でも喜んでばかりは居られません。
  私達の快進撃はまだまだこれからなのですから。
 『ホントに恋する王子を創る』をコンセプトにSNSを中心にプロモーション。
  累計で三十二万いいね!を獲得しました。
  スマッシュヒットを飛ばした前作を更に改良し今回の目玉に複数同時プレイ制を導入。
  VR化も視野に入れての巨額投資。
  水面下で乙女ゲーム初の『ボーイズサイド』のプラグインを開発。
  現在、マッチングアプリ会社とのコラボ企画も進んでいます。
  今回の経験を元に各自予め用意されたヒロインの中から一人を選ぶ同時プレイモード。
  この男女混合にて恋愛を楽しむ乱戦モードでは悪女による友情援護。
  ヒロイン同士のバチバチの恋バトルも楽しめる予定です。
  また今まで実装されていなかった猫や犬の導入もしようと思っています。
  え~、話が長くなりましたが、何を言いたいかと言いますと……。

  一緒に仕事しませんか?

  やる事が多過ぎて人員が足りません。
  というか友人記者の杏奈(あっ悪役令嬢イライザです)にそそのかされて……。
  勝手にリプル嬢の履歴書を密造して会社に送りました。
  勿論、結果は合格です。
  皆に愛されて、周囲に配慮も出来る優しさがあり、時に行動は大胆。
  それでいて毒殺事件で見せた類まれなる記憶力の良さ。
  この会社の誰よりも優秀で、何よりも王子達を愛しています。
  そんな貴女が認められない訳がないじゃないですか。  

  一緒に仕事しませんか?

  貴女は勝手に履歴書を送った事を怒っているのかもしれません。
  でも、貴女の親友と自負する杏奈は、親友だから平気と開き直っています。
  とにかく一度、王子達に会いに来てください。
  幼馴染のニットも、タフタ兄様も、生意気なパイル宰相も待っています。
  
  あっ、その際にはお手数ですがシフォンも連れて来て下さいね。
  今はトラオ君って名前でしたでしょうか?
  木を隠すには森の中。
  兄もまさか自分が毎日餌を用意している猫が死神だとは思わなかったでしょうね。
  この乙女ゲームに動物は登場しませんよ。
  開発者なら自明の事実です。
  CEOとしてしっかりしている様で、あれで抜けている所があるんです。
  責任感が強いだけで、兄も悪い人間ではありません。
  無礼を許してあげて下さい。
  
  それでは王子一同、お待ちしております。――


 そうメッセージには書かれていた。
 驚いて私はトラオ君を見つめた。

「ねぇ、トラオ君はシフォンなの?」

「にゃ~」

 トラオ君は自慢げに腹を晒すと、褒めてと言わんばかりに太い腹を揺すった。

 心の中で何かが切れて会社を辞めた私。
 そんな私なんかが、ちゃんと仕事が出来るかどうか分からない。
 でも大切な王子達がいれば頑張れるかもと思った。
 それでもダメなら親友の悪役令嬢にまた愚痴を聞いて貰えばいい。
 だって私は誰もが愛する正統派ヒロインなのだから……。

「よしっ」

 私は強く頷くと、人生の乙女ゲームへログインを始めた。
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