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58話 アリマ、正和の状態を看破し 幸依、能力に可能性を見出だす
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その日は朝から曇っていて、いつ雨になってもおかしくない天気だった。 幸依は大食堂でキエル、ルミナ、ヒラリエ、ダラン、オワタに食事を出しそれを見守っている。 隣のテーブルにはサトオルがマジックと木板を持ち、幸依と同じ様に食事をしているメンバーを見守っていた。 その様子から、これがただの食事ではないという事が窺い知れる。
現在の開拓村メンバーの状況は、朋広、華音、新参のショウカ、ラビニアンでサトオルの息子サオールが王都に向かっていて村には居ない。 ショウカは王都内を含んだ道案内役を。 サオールは目立つ耳をターバン風の帽子で隠し、地図作成の名目でついて行った。 朋広達が一度砦から戻った時に連れてきたワイバーンは村に居着いている。 朋広達が再び出掛けた後、オーシンが個人的に用事があると言って詳細を告げず馬に乗って村を出ていったが、あの腕前に加えて無茶をする性格でもないのを皆が知っており、オーシン自身も助けがいるような用事ではないというのでそのまま送り出した。
アリマはいまだ意識の戻らない正和の傍についていて、時おり人知れず涙を流したりしていたが、その気丈に振る舞う健気な姿が村の住人や眷族の亜人との距離を近付けていた。 懸念されていた暴走をするような事もなく、たまに村の中を歩いている姿も見られる様になっている。
「それで、食事の効果はどうでしょう?」
幸依が尋ねると食べていた各人が自身にどんな変化が起きたか確認する。 最初に口を開いたのはオワタだ。
「私はこのメニューを少量食べただけですが、なんだか満腹感を感じます」
それを聞いたサトオルが、
「ふむふむ、その料理は少量で満腹感を感じさせる効果があるのですね?」
と、木板に内容を書き込みつつ、オワタの前にある料理に手を伸ばす。
「なるほど...... 確かに普通の量より少なくても満足できそうですね。 この料理の効果は満腹感を満たす事でしょうか? 幸依様」
「そうみたいですねぇ。 他にないならそんな感じでしょうか。 食材の消費を抑えたい時にいいかもー。 あ、ワイバーンちゃん達にも適した料理かしら」
どうやら幸依が能力を発現させて料理を作ると、それを食べた者に何かしらの恩恵がつくようで、以前から村の住人から出ていた話は気のせいではなくその予兆であった事が発覚していた。 効果が付与されるのが一時的なものだったために実感として感じられていなかったのである。 ただ、幸依が狙った効果を料理につけられるという訳ではないので、ついた効果の料理の食材、調理法などをサトオルが記録し、意図的に効果をつけられるようにする為に試食会のようなものを行っていたのだった。
「わしが食べたメニューは。 ......なんだか力に補正がかかったような気がしますぞ。 ふん!」
ダランは近くの空いているテーブルを片手で持ち上げてみせると周囲から驚きの声があがる。
「効果が長続きしないのが悔やまれますなぁ。 せっかくの補正がもったいないというか惜しいというか」
ダランはそう言いながらテーブルを降ろす。 同じ効果の重複は現在のところ確認されておらず、持続性についても不明瞭な点がある。
「しかしそれでも食事でこのような恩恵が受けられるのはとても素晴らしい事には違いありません」
「ええ、対象に効果を意図的に付与できるようになれば、その有用性は増すばかりだと思うわ。 間違いなくこれは機密に類するものよ」
キエルが目を瞑りながら感想を述べ、ルミナが自己の解釈を付け加えて同意した。 キエルはその奇跡とも言える出来事に感動しているようだが、アリマ様のお導き~というような言葉は発しなかった。
「しかし私の食べたサラダにはどんな効果が...... え?何これは!?」
「どうしたにゃ、キエル?」
「すごく大きな力がこちらに向かって移動してきています!」
「なんだと!? 魔物か!?」
キエルの突然の言葉にダラン達がどよめきたつ。
「いえ。 ......これはおそらくアリ」
「母上殿はここにおられるか! おお、そなたらも揃っておったか都合がよい」
「......マ様」
キエルが言い終わらないうちに扉をバンと開け放ち、大食堂に駆け込んできた乱入者は亜人を創造した神のアリマだった。
「あらあらアリマちゃん、そんなに大慌てでどうしたの?」
幸依がのんびりした口調で問いかける。
「慌てずにはいられない発見をしたのじゃから当然なのじゃ、母上殿。 シロッコの奴めも呼びたいのじゃがここにはおらぬのかの。 全く、この大事な時にどこに行っておるのじゃ!」
ぼやくアリマをよそにルミナはキエルを見て話しかけた。
「キエル、あなたの食事の効果って感知能力補正?」
「どうやらそういう力のようですね。 シロッコ様はこの別の大きい力かしら? 場所は...... え!? 土の中?」
「なんじゃと? 詳しく申せ」
「それでアリマちゃんの発見ってなんだったのかしら?」
「ふふん、もちろん婿殿の変化に決まっておるのじゃ!」
『え、ええ!?』
幸依に対し自慢気に胸をはって言うアリマ以外の全員が固まる。
~その頃~
ポツリ、ポツリ。
「降ってきたか」
「そのようです」
「目標は?」
「まだ姿を見せてはいないようですが...... やはりイタズラではないですか? 隊長」
キエソナ村近くの砦の隊長と副隊長、ガーディとアンは砦の入口で雨が降ってきた空を見上げながらそんなやりとりをしていた。 朋広達が再び砦を通過して王都へ向かってしばらして後、門に挟まっている一通の書状が兵士の一人により発見されたのだ。 内容は、『砦に所属する隊長と副隊長を倒させていただく』とあり、殺害予告じゃないかと一時騒ぎになったものの、今までそんな出来事自体がなかった事と、近年で過剰に恨まれる心当たりもなかった為、結局何者かのイタズラであろうという意見が大半を占めていた。
「遠くで雷も鳴り出したか......」
雷鳴を聞いたガーディがぽつりと漏らす。 側にいる門番の仕事中の兵士が二人に声をかける。
「大丈夫ですって、隊長、副隊長。 こんなとこを襲撃したってなんの得もないんですから。 イタズラに決まってますよ」
「ならいいんだが。 イタズラがあったという前例すら今までなかった事だからな。 それに妙な胸騒ぎも......」
「飛竜に襲撃されてからドタバタ続きできっと落ち着かないんですよ。 ささ、隊長も副隊長も雨が酷くならないうちに中に入ってください。 監視は私がしっかりしておきますから。猫の子一匹だって通しはしませんよ」
「そうだな。 では引き続き警戒を頼む。 アン、中に戻るぞ」
「わかりました隊長。 ......え?」
ガーディに続いて戻ろうとしたアンが動きをとめて振り返った。
「どうした?」
「いえ、今馬の嘶きが聞こえたような気がしたのですが......」
ガーディと兵士には何も聞こえなかったようで、アンも、
「ならおそらく気のせいでしょう。 私も過敏になっているのかもしれませんね」
と言い、軽く笑って砦に戻った。
~開拓村~
「それでわしの所に蟻を差し向けたという訳か。 突然蟻が出てきた時には何事かと思ったぞ」
「何を言うか。 蟻でもないそなたが皆には内緒で土中なんぞにおるからそうなったのじゃ」
「土中じゃないわい! 正確には地底洞窟におってじゃな...... まぁ、その話はどうでもいいじゃろう。 して、正和君の変化に気がついたという話じゃが」
シロッコは森の中に一本の大樹を出現させていた。 この幹の中から太い根の中へと移動できるようにして地上から地下への巨大な地底洞窟に繋がるように改造していたのである。 そしてそこに地底湖ならぬ『地底海』を出現させるという荒業を村の者には内緒で実行していた。 海産物を確保する事が村の為になるという建前ではあったが、その真の目的は自らの為に白子の材料を確保する事にこそあったのだ。 まさに神の力の無駄遣いである。 シロッコとしては完成してから皆を驚かせたかったのだが、タイミング悪くキエルに居場所を感知され、アリマに蟻を送り込まれて計画が露呈する事になってしまった。
現在、正和の眠っている部屋には幸依をはじめアリマに集められたメンバーが揃っている。 皆アリマが気付いたという正和の変化を知りたくて仕方がない様子だ。 その様子にアリマは気を良くして話し始める。
「妾もいきなり気がついた感じではあるのじゃがな? 婿殿をじっと見ていたら気付いたのじゃ。 わからぬかや? 今もその状態が続いておるのじゃぞ」
アリマに言われて他の者が正和を注視する...... も、今までの正和と何も変わりがないようにしか見えない。 キエル達だけではなく神であるシロッコや母親の幸依にも違いが見抜けなかった。
「なんじゃ? わかったのは妾だけかや? これも愛の成せるわざかのぅ。 仕方ない、皆にわかるように教えてやるとするかの。 妾の触角を見ておるがよいぞ」
皆の視線が更に気を良くしたアリマの触角に集中する。 アリマの触角は先が曲がって垂れていた。
「よいか...... 今!」
アリマの合図と共に触角がピンと伸びる。 だがすぐにまた最初の状態に戻ってしまった。
「まだじゃぞ...... ほれ、今!」
しばらくして再びアリマの合図と共に触角がピンと伸びてすぐに先が曲がった状態に戻る。
「どうじゃ? さすがに今ので皆も分かったであろう?」
アリマは御満悦だが他の者は全員頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「アリマちゃんが可愛いのを再確認する仕草だったのかしら?」
幸依も理解できずにこんな事を言う。
「な!? ち、ちち、違うのじゃ母上殿! そう言われるのは悪い気はせぬのじゃが伝えたいのは妾の事ではなく婿殿の事であって」
真っ赤になってしどろもどろになるアリマを確かに可愛いとルミナ達も思ってしまった。
「すまんがお主以外誰も理解できておらんようじゃ。 頼むからわかるように説明してもらえんか」
シロッコが呆れながら突っ込むとアリマも我にかえる。
「ぬ。 つまりじゃな...... お主は以前妾に婿殿は魔力枯渇による影響で意識が回復しないのではないかと説明したであろう?」
「うむ。 前例がない事じゃともな」
「妾も気付かずそう思っておったのじゃが、今ならその前提がすでに間違っておったと言える」
「なんじゃと?」
「結論から言えば婿殿の魔力は枯渇してなどおらぬのじゃ」
「ならばなぜ意識が戻らん」
「それは回復したそばから消費されて常に空の状態になっておるからじゃと妾は考えた。 まぁ、考えたというか見たままから判断した事じゃがな」
「見たままじゃと!? 何が見えたというんじゃ!」
シロッコのあまりの食いつきにアリマはたじろいだ。
「わ、妾が今じゃと言って触角を伸ばしたじゃろう? あの瞬間が婿殿の魔力が微量回復した時で、すぐに消費されて空になった時が妾の触角が普通時に戻った時じゃったのじゃが...... 本当に見えておらんかったのかや?」
アリマは素でそう言っている。
「不覚じゃがわしには何も見えんかった......」
シロッコはショックを受けた。
「妾の複眼で感知した事じゃがな。今までは分からんかったというに、なぜいきなり感知できるようになったのかは妾にもわからぬが。 やはり愛の成せるわざかのう」
アリマは一人赤くなってもじもじしている。
「複眼かい! ......わしには複眼はないからの。 複眼に何かしらの特性が発現したのかもしれんな。 複眼の差というのもなんだか釈然とせぬものがあるがお手柄には違いないわい」
「え!? 正和は...... 息子は目を覚ますのですか!?」
幸依がシロッコの言葉に反応し、希望に身を震わせ涙目になっていた。 オワタや亜人のメンバーの目にも光が宿っているように思える。 シロッコはアリマに向かい口を開く。 アリマの考えに気付いたからだ。
「なるほど...... アリマよ、お主正和君の状態のみを幸依さんに伝えるつもりじゃなかったのじゃな」
「ふん、無論じゃ。 妾は常に婿殿の事を考えておる。 むしろ貴様は神のくせに気付くのが遅いわ」
アリマがニヤリとシロッコに微笑む。
「え? え? どういう事でしょうか?」
幸依は二人の会話の意味がわからず混乱している。
「せっかくのお手柄じゃ。 お主が説明すると良かろうて」
シロッコがアリマを促す。
「む、そうか? 良いかの母上殿。 婿殿は何かの不都合で回復した魔力を消費し続けておるのじゃ。 そしてそのせいで意識が回復しないと仮定する。 ここまではよいかや?」
「え、ええ」
「と、するなら回復に必要な魔力を消費するまで意識は回復しない事になるであろ?」
「そんな。 じゃあ正和はまだこのまま......」
「ああ! 母上殿まだ続きがあるので落ち込まないで欲しいのじゃ! なのでこれを解決すれば婿殿は回復すると思うのぞよ」
アリマは指を二本立てて幸依に見せる。
「そして考えられる方法はふたつ。 婿殿に己が持つ魔力を譲渡する方法を編み出すか、外部から婿殿の魔力になるようなものを直接投与、もしくは摂取させる。 これにより婿殿が必要とする魔力を与えきる事ができれば......」
幸依達にはアリマのその言葉に対してすぐに心当たりが浮かんだ。 まさに今さっきまで大食堂で自分達がやっていたそれであると。
「ゆ、幸依様!」
「これはアタイ達でも役にたてるにゃりよ!」
「すぐに食堂に戻りましょう!」
「目指す料理は魔力回復か魔力に補正がかかるものですな!」
「皆さん...... ええ、ええ。 そうですね。 正和、お母さん頑張るから待っていてね」
幸依達は部屋を出ていきシロッコとアリマが残される。
「ではわしらはもうひとつの方法を考えるとするかのぅ」
「婿殿...... きっともうすぐ会えるからの」
現在の開拓村メンバーの状況は、朋広、華音、新参のショウカ、ラビニアンでサトオルの息子サオールが王都に向かっていて村には居ない。 ショウカは王都内を含んだ道案内役を。 サオールは目立つ耳をターバン風の帽子で隠し、地図作成の名目でついて行った。 朋広達が一度砦から戻った時に連れてきたワイバーンは村に居着いている。 朋広達が再び出掛けた後、オーシンが個人的に用事があると言って詳細を告げず馬に乗って村を出ていったが、あの腕前に加えて無茶をする性格でもないのを皆が知っており、オーシン自身も助けがいるような用事ではないというのでそのまま送り出した。
アリマはいまだ意識の戻らない正和の傍についていて、時おり人知れず涙を流したりしていたが、その気丈に振る舞う健気な姿が村の住人や眷族の亜人との距離を近付けていた。 懸念されていた暴走をするような事もなく、たまに村の中を歩いている姿も見られる様になっている。
「それで、食事の効果はどうでしょう?」
幸依が尋ねると食べていた各人が自身にどんな変化が起きたか確認する。 最初に口を開いたのはオワタだ。
「私はこのメニューを少量食べただけですが、なんだか満腹感を感じます」
それを聞いたサトオルが、
「ふむふむ、その料理は少量で満腹感を感じさせる効果があるのですね?」
と、木板に内容を書き込みつつ、オワタの前にある料理に手を伸ばす。
「なるほど...... 確かに普通の量より少なくても満足できそうですね。 この料理の効果は満腹感を満たす事でしょうか? 幸依様」
「そうみたいですねぇ。 他にないならそんな感じでしょうか。 食材の消費を抑えたい時にいいかもー。 あ、ワイバーンちゃん達にも適した料理かしら」
どうやら幸依が能力を発現させて料理を作ると、それを食べた者に何かしらの恩恵がつくようで、以前から村の住人から出ていた話は気のせいではなくその予兆であった事が発覚していた。 効果が付与されるのが一時的なものだったために実感として感じられていなかったのである。 ただ、幸依が狙った効果を料理につけられるという訳ではないので、ついた効果の料理の食材、調理法などをサトオルが記録し、意図的に効果をつけられるようにする為に試食会のようなものを行っていたのだった。
「わしが食べたメニューは。 ......なんだか力に補正がかかったような気がしますぞ。 ふん!」
ダランは近くの空いているテーブルを片手で持ち上げてみせると周囲から驚きの声があがる。
「効果が長続きしないのが悔やまれますなぁ。 せっかくの補正がもったいないというか惜しいというか」
ダランはそう言いながらテーブルを降ろす。 同じ効果の重複は現在のところ確認されておらず、持続性についても不明瞭な点がある。
「しかしそれでも食事でこのような恩恵が受けられるのはとても素晴らしい事には違いありません」
「ええ、対象に効果を意図的に付与できるようになれば、その有用性は増すばかりだと思うわ。 間違いなくこれは機密に類するものよ」
キエルが目を瞑りながら感想を述べ、ルミナが自己の解釈を付け加えて同意した。 キエルはその奇跡とも言える出来事に感動しているようだが、アリマ様のお導き~というような言葉は発しなかった。
「しかし私の食べたサラダにはどんな効果が...... え?何これは!?」
「どうしたにゃ、キエル?」
「すごく大きな力がこちらに向かって移動してきています!」
「なんだと!? 魔物か!?」
キエルの突然の言葉にダラン達がどよめきたつ。
「いえ。 ......これはおそらくアリ」
「母上殿はここにおられるか! おお、そなたらも揃っておったか都合がよい」
「......マ様」
キエルが言い終わらないうちに扉をバンと開け放ち、大食堂に駆け込んできた乱入者は亜人を創造した神のアリマだった。
「あらあらアリマちゃん、そんなに大慌てでどうしたの?」
幸依がのんびりした口調で問いかける。
「慌てずにはいられない発見をしたのじゃから当然なのじゃ、母上殿。 シロッコの奴めも呼びたいのじゃがここにはおらぬのかの。 全く、この大事な時にどこに行っておるのじゃ!」
ぼやくアリマをよそにルミナはキエルを見て話しかけた。
「キエル、あなたの食事の効果って感知能力補正?」
「どうやらそういう力のようですね。 シロッコ様はこの別の大きい力かしら? 場所は...... え!? 土の中?」
「なんじゃと? 詳しく申せ」
「それでアリマちゃんの発見ってなんだったのかしら?」
「ふふん、もちろん婿殿の変化に決まっておるのじゃ!」
『え、ええ!?』
幸依に対し自慢気に胸をはって言うアリマ以外の全員が固まる。
~その頃~
ポツリ、ポツリ。
「降ってきたか」
「そのようです」
「目標は?」
「まだ姿を見せてはいないようですが...... やはりイタズラではないですか? 隊長」
キエソナ村近くの砦の隊長と副隊長、ガーディとアンは砦の入口で雨が降ってきた空を見上げながらそんなやりとりをしていた。 朋広達が再び砦を通過して王都へ向かってしばらして後、門に挟まっている一通の書状が兵士の一人により発見されたのだ。 内容は、『砦に所属する隊長と副隊長を倒させていただく』とあり、殺害予告じゃないかと一時騒ぎになったものの、今までそんな出来事自体がなかった事と、近年で過剰に恨まれる心当たりもなかった為、結局何者かのイタズラであろうという意見が大半を占めていた。
「遠くで雷も鳴り出したか......」
雷鳴を聞いたガーディがぽつりと漏らす。 側にいる門番の仕事中の兵士が二人に声をかける。
「大丈夫ですって、隊長、副隊長。 こんなとこを襲撃したってなんの得もないんですから。 イタズラに決まってますよ」
「ならいいんだが。 イタズラがあったという前例すら今までなかった事だからな。 それに妙な胸騒ぎも......」
「飛竜に襲撃されてからドタバタ続きできっと落ち着かないんですよ。 ささ、隊長も副隊長も雨が酷くならないうちに中に入ってください。 監視は私がしっかりしておきますから。猫の子一匹だって通しはしませんよ」
「そうだな。 では引き続き警戒を頼む。 アン、中に戻るぞ」
「わかりました隊長。 ......え?」
ガーディに続いて戻ろうとしたアンが動きをとめて振り返った。
「どうした?」
「いえ、今馬の嘶きが聞こえたような気がしたのですが......」
ガーディと兵士には何も聞こえなかったようで、アンも、
「ならおそらく気のせいでしょう。 私も過敏になっているのかもしれませんね」
と言い、軽く笑って砦に戻った。
~開拓村~
「それでわしの所に蟻を差し向けたという訳か。 突然蟻が出てきた時には何事かと思ったぞ」
「何を言うか。 蟻でもないそなたが皆には内緒で土中なんぞにおるからそうなったのじゃ」
「土中じゃないわい! 正確には地底洞窟におってじゃな...... まぁ、その話はどうでもいいじゃろう。 して、正和君の変化に気がついたという話じゃが」
シロッコは森の中に一本の大樹を出現させていた。 この幹の中から太い根の中へと移動できるようにして地上から地下への巨大な地底洞窟に繋がるように改造していたのである。 そしてそこに地底湖ならぬ『地底海』を出現させるという荒業を村の者には内緒で実行していた。 海産物を確保する事が村の為になるという建前ではあったが、その真の目的は自らの為に白子の材料を確保する事にこそあったのだ。 まさに神の力の無駄遣いである。 シロッコとしては完成してから皆を驚かせたかったのだが、タイミング悪くキエルに居場所を感知され、アリマに蟻を送り込まれて計画が露呈する事になってしまった。
現在、正和の眠っている部屋には幸依をはじめアリマに集められたメンバーが揃っている。 皆アリマが気付いたという正和の変化を知りたくて仕方がない様子だ。 その様子にアリマは気を良くして話し始める。
「妾もいきなり気がついた感じではあるのじゃがな? 婿殿をじっと見ていたら気付いたのじゃ。 わからぬかや? 今もその状態が続いておるのじゃぞ」
アリマに言われて他の者が正和を注視する...... も、今までの正和と何も変わりがないようにしか見えない。 キエル達だけではなく神であるシロッコや母親の幸依にも違いが見抜けなかった。
「なんじゃ? わかったのは妾だけかや? これも愛の成せるわざかのぅ。 仕方ない、皆にわかるように教えてやるとするかの。 妾の触角を見ておるがよいぞ」
皆の視線が更に気を良くしたアリマの触角に集中する。 アリマの触角は先が曲がって垂れていた。
「よいか...... 今!」
アリマの合図と共に触角がピンと伸びる。 だがすぐにまた最初の状態に戻ってしまった。
「まだじゃぞ...... ほれ、今!」
しばらくして再びアリマの合図と共に触角がピンと伸びてすぐに先が曲がった状態に戻る。
「どうじゃ? さすがに今ので皆も分かったであろう?」
アリマは御満悦だが他の者は全員頭の上にはてなマークを浮かべていた。
「アリマちゃんが可愛いのを再確認する仕草だったのかしら?」
幸依も理解できずにこんな事を言う。
「な!? ち、ちち、違うのじゃ母上殿! そう言われるのは悪い気はせぬのじゃが伝えたいのは妾の事ではなく婿殿の事であって」
真っ赤になってしどろもどろになるアリマを確かに可愛いとルミナ達も思ってしまった。
「すまんがお主以外誰も理解できておらんようじゃ。 頼むからわかるように説明してもらえんか」
シロッコが呆れながら突っ込むとアリマも我にかえる。
「ぬ。 つまりじゃな...... お主は以前妾に婿殿は魔力枯渇による影響で意識が回復しないのではないかと説明したであろう?」
「うむ。 前例がない事じゃともな」
「妾も気付かずそう思っておったのじゃが、今ならその前提がすでに間違っておったと言える」
「なんじゃと?」
「結論から言えば婿殿の魔力は枯渇してなどおらぬのじゃ」
「ならばなぜ意識が戻らん」
「それは回復したそばから消費されて常に空の状態になっておるからじゃと妾は考えた。 まぁ、考えたというか見たままから判断した事じゃがな」
「見たままじゃと!? 何が見えたというんじゃ!」
シロッコのあまりの食いつきにアリマはたじろいだ。
「わ、妾が今じゃと言って触角を伸ばしたじゃろう? あの瞬間が婿殿の魔力が微量回復した時で、すぐに消費されて空になった時が妾の触角が普通時に戻った時じゃったのじゃが...... 本当に見えておらんかったのかや?」
アリマは素でそう言っている。
「不覚じゃがわしには何も見えんかった......」
シロッコはショックを受けた。
「妾の複眼で感知した事じゃがな。今までは分からんかったというに、なぜいきなり感知できるようになったのかは妾にもわからぬが。 やはり愛の成せるわざかのう」
アリマは一人赤くなってもじもじしている。
「複眼かい! ......わしには複眼はないからの。 複眼に何かしらの特性が発現したのかもしれんな。 複眼の差というのもなんだか釈然とせぬものがあるがお手柄には違いないわい」
「え!? 正和は...... 息子は目を覚ますのですか!?」
幸依がシロッコの言葉に反応し、希望に身を震わせ涙目になっていた。 オワタや亜人のメンバーの目にも光が宿っているように思える。 シロッコはアリマに向かい口を開く。 アリマの考えに気付いたからだ。
「なるほど...... アリマよ、お主正和君の状態のみを幸依さんに伝えるつもりじゃなかったのじゃな」
「ふん、無論じゃ。 妾は常に婿殿の事を考えておる。 むしろ貴様は神のくせに気付くのが遅いわ」
アリマがニヤリとシロッコに微笑む。
「え? え? どういう事でしょうか?」
幸依は二人の会話の意味がわからず混乱している。
「せっかくのお手柄じゃ。 お主が説明すると良かろうて」
シロッコがアリマを促す。
「む、そうか? 良いかの母上殿。 婿殿は何かの不都合で回復した魔力を消費し続けておるのじゃ。 そしてそのせいで意識が回復しないと仮定する。 ここまではよいかや?」
「え、ええ」
「と、するなら回復に必要な魔力を消費するまで意識は回復しない事になるであろ?」
「そんな。 じゃあ正和はまだこのまま......」
「ああ! 母上殿まだ続きがあるので落ち込まないで欲しいのじゃ! なのでこれを解決すれば婿殿は回復すると思うのぞよ」
アリマは指を二本立てて幸依に見せる。
「そして考えられる方法はふたつ。 婿殿に己が持つ魔力を譲渡する方法を編み出すか、外部から婿殿の魔力になるようなものを直接投与、もしくは摂取させる。 これにより婿殿が必要とする魔力を与えきる事ができれば......」
幸依達にはアリマのその言葉に対してすぐに心当たりが浮かんだ。 まさに今さっきまで大食堂で自分達がやっていたそれであると。
「ゆ、幸依様!」
「これはアタイ達でも役にたてるにゃりよ!」
「すぐに食堂に戻りましょう!」
「目指す料理は魔力回復か魔力に補正がかかるものですな!」
「皆さん...... ええ、ええ。 そうですね。 正和、お母さん頑張るから待っていてね」
幸依達は部屋を出ていきシロッコとアリマが残される。
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沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
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