一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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57話 ショウカ、砦を離れ 朋広、一旦アズマドと別れる

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 飛竜による第二次砦攻略戦はあっけなく終了した。 飛竜からすれば戦力を倍にし、奇襲まで成功させたにも関わらず。 砦側が出した損害は物的、人的ともに全くない。 襲撃からわずか『数分』で飛竜が『降伏』するという人類史上でも前例のない結果が華音ただ一人の存在の為に刻まれた。 ......最も、その瞬間には当の華音も困惑させられたのだが。

「とりゃあー」

 ズズーン! 空中にいた飛竜が華音の持つ棒で地面に『叩き』落とされた。 最初の遭遇戦の時のように『地対空』で煉瓦をぶつけるのではなく、ジャンプして『空対空』で撃墜させたのだ。 落とされた飛竜も面食らっている。 

「すげぇ! なんだあの子!」

 兵士達も面食らって驚いた。 だが、その場面を見たもう一体の飛竜が防壁上空から飛行し、追撃しようとしている華音の前に舞い降りた。

「一人で二体は......! え?」
「何体いても問題ないよ! え?」

 焦ったアンと余裕の華音は二人同時にその光景に固まる。 いや、周囲の兵士も朋広も、朋広に助けられたガーディも固まっていた。 それだけ飛竜がインパクトのある行動をとったという事な訳だが。

「は、ははは。 飛竜が『腹』を見せて降伏...... ですか?」
「まさか...... ここまでとは......」

 ビスタとアズマドの会話が停止した砦の時間を動き始めさせる。 飛竜はもう一体の飛竜にも促して同じ体勢をとらさせていた。 この飛竜は華音に煉瓦をぶつけられた飛竜で、あの時圧倒的な力の差を感じて逃げだしたのだが、砦にその本人がいるのを見て慌てて仲間を庇い、降伏の意思を見せたのだ。

「うーん。 そういう態度とられたら許すしかないよねー」
「あ、ちょっと! 不用意に近付くのは危険......」
「お馬さんと違ってお腹も鱗でザラザラしてるんだねー」

 アンは慌てて引き止めようとしたが、華音は構わず飛竜のお腹をなで回した。 アンはされるがままの飛竜の姿に言葉を失う。
 
「は、はは。 なんかもうすげぇよ、色々と」
「飛竜、ワイバーンも腹を見せる...... ワイ腹...... うん、ワイハラの称号を与えられるレベルだ」
「おお! ワイハラだワイハラ!」

 砦の兵士達がワイハラワイハラと騒ぎだし、この後華音は砦の兵士達に『ワイハラ華音』と呼ばれるようになる。 一方の華音は飛竜のお腹からすごい空腹と思われる音を聞き、朋広となにやら相談し持っていた肉の塊を飛竜達に差し出した。 二体の飛竜は素直にそれを分けあってかぶりつく。

「きゅううぅん」
「おお! 飛竜が素直に餌付けされているぞ」
「そうかぁ。 お腹空いてたんだねー、お魚さんも食べるかな?」

 華音はイワナを取り出して与えてみると問題なくまるごとムシャムシャと食べた。 とはいっても飛竜の大きさから言えば本当に小魚みたいなものでしかない。

「お前達、そろそろ持ち場に戻れ! 何か異常があれば報告しろ」

ガーディが指示を出しながら朋広と共に華音とアンの所に集まってくる。 それを見てアズマドとビスタも合流した。

「この飛竜はもう問題ないと見てよろしいのでしょうか?」

 ガーディがおとなしくなっている飛竜を見上げながら朋広に質問する。

「まぁ、暴れたとしてもすぐ制圧されるだけですし、飛竜もそれはわかってるんじゃないですかね」
「そうですか。 では改めて我々と砦を救っていただけたお礼を言わせてください。 ありがとうございました」

 ガーディが頭を下げるのでアンも慌ててそれに倣った。 砦の馬達のすぐ近くに飛竜が二体いるにも関わらず、馬達に混乱した様子は見られない。 オーシンの馬が平然としている影響だろう。

「これもこの馬の存在ゆえ...... か?」

 アンはそのまま華音に視線を移す。

(こんな子が飛竜を降伏させるとか、実際に目にしたにも関わらずとても信じられない)

「だから言ったでしょう。 彼等は信用できる人物ですし、砦にとっても敵対すべきではないと」

 ドヤ顔で誇らしげに言うのはアズマドだ。 もし朋広と華音が動かなければ、ガーディとアンの命はなかっただろうし、砦もどれだけの被害を受けたかわからない。 さすがにガーディもそれはそれ、これはこれとは言えずに黙りこむ。 そのやりとりを横目にビスタが朋広と華音に近付きこっそり話しかける。

「朋広殿に娘さん、これでこの砦からの拘束からは解放されそうですね」
「そうなんですか?」
「ええ、もう一押しでしょう。 アズマド殿が押しきるのも時間の問題でしょうが、探し物がおありならば今後の方針も必要ではないですか?」

 探し物という単語に朋広も華音も関心を示す。

「何か知っているんですか!?」
「その前にひとつ。 あなた方は私を珍しい道具や食事と巡り会わせてくれました。 飛竜を軽く退ける程の力がある事も見せてくれました。 仮にあなた方のところに人が一人転がり込んだとして、何か影響が出たりするものでしょうか?」

 朋広と華音にはビスタの質問の真意はわからなかったが、あのような食事をまた食べたいので場所を知りたいと言っているのだと判断した。

「そうですね。 私達の所に宿屋になる空き部屋が多い建物もありますし、協力していただいて砦までの直通の道を拓くのもありかもしれませんね」

 朋広はビスタの質問で、このルートで砦の兵士達から外貨を獲得するのはありだと思い至ったのである。

「しかしその為にはまずは私達の用を済ませないと......」
「息子さんの件ですね? ひょっとするとお力になれるかも知れません。 ただ......」
「ただ...... なんですか?」
「今から隊長と副隊長を説得しますので、私をあなた方の所に置いてもらえませんか? 給金などはいりません。 住むところと食事さえ与えていただければ結構です。 そうなれば私は全力を持ってあなた方に助力いたしましょう」

 砦の兵卒、ビスタの話は想像した内容と違い朋広と華音も困惑したが、ビスタの持つ情報が有益なものならとその提案を受ける事にした。

「おお、ありがとうございます。 では今からが私の本当の腕の見せ所ですね。 この砦を完全に朋広様の味方につける事にしましょう」

 ビスタは目を輝かせガーディとアンの説得に向かう。

「隊長に副隊長。 幸いな事に彼等のおかげでこの砦の被害は兵士が一人死んだだけですみました」
「何? 全く被害は出ていないはずだが、誰が死んだというのだ」

 ビスタの聞き逃せない台詞に、ガーディもアズマドとの会話を中断して問い質す。

「ビスタです隊長」
「ビスタ貴様、隊長と私をからかっているのか!」

 アンがビスタを叱責するが、ビスタは平然と続ける。

「ビスタは飛竜を発見して皆に伝えたもののその犠牲になりました」
「な、何を言っている?」

 ガーディが困惑するが周囲も同様だ。

「私は砦の兵士ビスタとしてではなく、今後はこの朋広様にお仕えする事にしたのです。 『ショウカ』という本当の名とともに」

 ビスタは朋広に本当の名前で改めて挨拶しているが、アンは納得できない。 

「そんな勝手が許される訳ないだろうが! だいたい、なんでそもそも偽名で兵士の任などについているんだ!」
「身を隠すには都合が良かったものですから」
「意味がわからん! 隊長からも何か言ってやってください!」
「ショウカ......? ショウカ......」
「隊長?」

 腕組みをしてショウカの名を呟くガーディの姿に今度はアンが困惑した。

「ショウカ。 その名どこかで......!」

 ガーディはハッとして顔をあげる。

「思い出した! お前まさかあのショウカか!?」
「さて? よくある名前かも知れませんし、どのショウカの事なのか」
「とぼけるな! なんで貴様がここに...... いや、こんな所にいるんだ!?」
「え、隊長、この男の事を御存知なのですか?」
「知ってる男本人ならばな。 ......あれは俺が王都にいた頃の話だから五、六年程前になるか」

 ガーディは記憶を辿りながら話始めた。

「アンも王都出身でないにしろ、官僚採用試験の事くらいは知っているか?」
「はい、超難関と言われていて、受かればエリートコースは間違いないとか」
「そうだ、宰相になるには最も近い道と言える。 だが、そんな超難関の試験をひとつのミスもなく完璧に通った者がいたと噂できいた事がある。 王国史上で初めての偉業だと騒がれていた」
「そんな事が?」
「ああ。 だがこの話には続きがあってな。 それだけの結果を出し数百年に一人の逸材だと騒がれ、期待されたその者は国に仕えずそのまま姿を消したらしい」

 ガーディはショウカを注意深く観察しながら話を続ける。

「俺はその後ここに異動になったのでその後の事はしらないんだがな」
「た、確かこの者は三年程前にここに入隊。 名前はビスタでキエソナ村出身で入隊当時二十四才だったと記憶していますが......」

 アンはビスタの入隊時の情報を思い出そうとする。

「さすが副隊長。 見事な記憶力です。 とは言え、それは全部でたらめな情報で申し訳ありません」
「な!? なぜそんな真似を!」
「待てアン。 俺も疑問がある。 宰相を期待された男がそれを断り辺境の一兵士に甘んじている理由はなんだ? 待遇もここと全然違ったはずだ」
「何、簡単な事です。 本来試験を受ける資格は二十歳からとあったのですが、当時の私は十六で、年齢をごまかしていたからですよ」

 笑いながら言うショウカの返答にガーディは驚く。

「じ、十六でだと」
「まぁ、それはすぐバレたのですが、規則の方を変えるからそのまま仕えて欲しいという誘いはありましたね」
「き、規則の方を変える。 とんでもない事じゃないか」
「しかし私は試験の難度がどんなものか知りたかっただけでしたし、それに」

 ショウカは一旦間をあけ、

「衰退するであろう国に仕えても面白そうな事はなさそうでしたから」

 と続けた。

「な、貴様、国から録をもらっている身でなんて言いぐさだ!」
「アン副隊長の言われる通りではありますが、私がここに来たのは家まで押しかけてくる勧誘から逃れる為と辺境から中央の動きを知る為だったのですよ」

 官僚を蹴った人間が、まさか辺境の兵士になるとは思わないでしょうと言いながらショウカは笑うが、すぐに真剣な表情になり話題を変える。

「さて、私の事よりも本題はこちらの朋広様達の事です。 いきさつはどうあれ、砦の士気は高まり隊長と副隊長は命まで救われた訳です」

 ショウカがアズマドにちらりと視線を送るとアズマドも狙いを察知して相づちをうつ。

「そうです、ガーディ殿。 そんな恩人を犯罪者扱いして砦に拘束したなどと他の人が知ったら、砦の皆様方は恩知らずだと囁かれるでしょう」
「う、む、それはそうだが...... し、しかし」

 アンは返答に困っているガーディから視線を移す。 朋広と華音を見て、飛竜を見て、砦の馬達を見て、そして問題となった朋広が連れてきた馬を見て少し間を置き、何かを決意して軽く息をはきだした。

「話を遮ってすみませんが隊長」
「ん? な、なんだアン」

 ガーディはアンが助け船を出してくれるものと期待した目でアンを見る。

「今更大変言いにくいのですが、この方の馬はよく見れば二等級どころか等級にすら値しないとんでもない駄馬でした」
「な、なに?」
「私の見立て違いで今回の騒動を引き起こしてしまい、まことに申し訳ありません」

 アンは朋広に頭を下げて謝罪した。


~砦の入口~

 朋広、華音、ショウカ、駄馬とガーディ、アン、アズマドが見送られる側と見送る側になって立っている。 ショウカは荷物をまとめて来ると言って僅か数分で戻ってきた。 アズマドはこのままカソー村に先行し、そこで王都に向かう家族を待つ流れになったので一旦見送る側に回ったのだ。

「ショウカ、いやに早かったが荷物はそれで全部なのか?」

 ショウカは背中にカバンをひとつ背負い、手に袋をひとつ持っただけの姿だった。

「はい。 かさばりそうなものは同僚に丸投げしてきましたので」
「いつでも姿を消せる準備はしていたって事か」
「さてどうでしょうか」
「考え直す気は...... ないだろうな」

 ガーディは何かを思うところがあるのか、強く引き留めようとはせず質問を変える。

「教えてくれ。 お前はこの国は衰退すると言ったな? その根拠は?」
「長年お世話になったお礼にお答えしましょう。 すでに国の内部は腐敗しています。 目立ってこそいませんが、官僚の賄賂や職権の乱用などは日常化しており、王は自らの目でそれを見ようとはしません」
「......」
「この砦は名目上は人類を守る最前線とされていますが、実際は不正を働く者達にとって都合の悪い人間を隔離する為の場所。 隊長は上司の暴挙に再三反対し異動、副隊長は現場の不正を発見、告発し逆にここへ異動になりました」
「な、なぜそのような事まで知っている」

 アンはショウカにここに配属になった理由を知られていた事に狼狽えた。 別に隠す事ではないといえ、公に公表する事でもなかったからだ。 だがショウカはそれには答えず話を続ける。

「有能で忠義の心も持っている。 そんな人材を中央から遠ざけ、私腹を肥やす事ばかり考える者達が中央で幅をきかせる。 隊長達にも分かっていたのではないですか?」
「......」
「......」
「だ、だからこそお前が宰相になり国を正せば良かったのではないのか?」
「もし私が宰相の地位に就き、悪臣の排斥を始めれば彼らはそれぞれの土地で反乱を起こし、たちまち戦火が全土に飛び火したでしょう。 私への執拗な勧誘も国の為ではなく、私を取り込み自分達の栄華に役立たせるのが狙い。 勧誘の他にごく稀に暗殺者を送り込まれた事もあります。 引き入れられないなら消してしまえと考えた者もいるのでしょうね」

 ショウカは笑いながら言う。

「さて彼等の方も準備ができたようですのでそろそろお別れです」

 向こうからは朋広達と話を終えたアズマドがすれ違いざまにショウカに一声かけた。

「舌を噛まないように気をつけてくださいね」
「え?」

 アズマドはそのままガーディ達の所にやってくる。

「飛竜は彼等についていくようですよ」
「飛竜が? 飼い慣らせるものなんですかね?」
「無理でしょう。 ......普通なら。 彼等は普通じゃありませんから」
「あー...... しかし一国の宰相になれる男が一家の使用人になる道を選ぶとは......」
「ただの一家かどうかはこの後の光景ではっきりすると思いますよ? 彼等は急ぐ様子でしたので」

 アズマドが言うのでガーディとアンも視線をそちらへ向けると......

「え? 馬が荷台に? 荷台を引かないの?」
「ショウカも一緒に荷台に乗せられているな」
「ヒ、ヒヒーン。 ......ヒヒーン」
「ええ? 飛竜にも怯えなかったあの馬が怯えている!?」

 不思議がるガーディとアンの目の前で、荷台の前後にいる朋広と華音がそれをひょいと持ち上げた。

「「!!?」」
「ではまた後日ここを訪ねますのでその時はよろしくお願いしますー」

 そう言ってバビュンとでもいう表現がふさわしい感じであっという間に視界から消えていき、飛竜達も慌てて空に飛び上がり朋広達を追っていった。

「......」

 後には手を振っているアズマドと茫然としているガーディとアンが残されたが、ガーディより先に我にかえったアンは近くのかがり火の中へ懐から手紙を取り出し放り込んだ。

「なんだか色々あったけど...... ふふ。 きっとこれでいいのよね」
「おい、アン。 それは王都へ送るあの馬の調査依頼の手紙じゃなかったのか?」

 ガーディも我にかえってきいてくる。

「何を言ってるんですか隊長。 あの馬はとんでもない駄馬ですよ。 私の見立てに間違いはありません」

 アンは笑顔でそう言った。
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