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56話 朋広、砦で料理を振舞い アズマド、ビスタと協力関係を築く
小屋には煙突が増えていた。 しかしこの世界に煙突は普及していないので、異様な建造物に見えるのは無理からぬ事であった。 さらにそこから煙があがっているので異様さは二割増しといったところだろうか。 ただ、周囲の兵士の関心はそこから漂う食欲を刺激する匂いにあり、その正体を知りたいという欲求が彼等を突き動かしていた。
「一体何があったというのだ......? いや、何が行われているのか...... か?」
ガーディ達が小屋に近付くと扉がバーンと開き中から兵士がとび出てきた。 見張りをしていたもう一名である。
「おいみんな! お待た...... おわっ隊長!?」
「誰が終わった隊長だ! ん? ......貴様何を持っている?」
「は...... その...... 焼肉であります!」
その兵士は直立不動の姿勢でやぶれかぶれにそう叫ぶ。 その手に持つ皿には焼きたての肉串が並んでいた。 これはキエル達にもらった肉の塊(なんの肉かは朋広達には不明)を手頃な厚みに切って焼いたものに朋広作製の串を通し、塩コショウか焼肉のたれをかけたもので、焼肉というよりはステーキ串に近い。
「部屋の中で肉を焼いただと? その煙に乗じて逃走でもする気か?」
入り口の前で固まっている兵士をそのままにしてガーディは扉を開ける。
「こ、これは?」
「煙がこもっていない......?」
「おや? これは隊長さん達お揃いで」
予想と違ってまごつくガーディ達に朋広はのんびり声をかける。 その手は新たな肉を焼き続けていた。 商人のアズマドはその仕組みに注目し驚く。
「こ、こんな仕組みで...... なるほど、これは利便性が高い」
「問題はそこではありませんアズマドさん。 ......朋広さんでしたね。 これはなんの騒ぎですか?」
ガーディが質問する。
「騒ぎ? 私は昼食を用意しただけですよ」
「昼食...... ですか?」
「私達は一日三回食事をしていますので」
「え? 三回...... ですか?」
「はい。 皆さんが朝と夕の一日二回の食事なのは知っていましたので、昼食を自分達で用意する事にしました」
「は、はぁ......」
「そうしましたらそこの兵士の方々が妙に気にされるようでしたので、どうせなら振舞いましょうか、と」
朋広が経緯を説明し、さらに狙いを話す。
「これはもちろん先行投資です。 この味を気に入っていただければ、ここで食事が商売になるかもしれませんからね」
「あ、貴方はまだ疑いが晴れていないというのにもうここで商売する気でいるのですか?」
ガーディは驚きと呆れが半々といった感じで対応し、アンも何か言いかけたが、後ろからあがった
「いやぁこれは美味い!」
という声につられてそちらを見ると、公務室にサンドイッチを持ってきた兵士が肉串を手に取りかぶりついている姿を目撃した。
「き、貴様は」
だがアンより早くその兵士が大きな声で周囲の兵士に聞こえるように騒ぐ。
「これは上等な塩と胡椒がじゅうぶんにかかっていて、王族でも食べる機会が限られるのではないだろうか! こっちのソースの方も肉の旨さを引き出して最高に美味しい! せっかくの好意を冷ましてしまうのは非常にもったいない!」
「塩や胡椒だって!?」
そう言われてはサンドイッチの味を知ったガーディもアンも関心をもつ。 周囲を見れば他の兵士も食べているその兵士を羨ましそうに見ている。 アズマドもその一人だった。
「さぁ、皆さんに冷めない内にすすめていただけませんか?」
朋広に言われガーディも仕方なく許可を出すと周囲の兵士から歓声があがり、近くの兵士が駆け寄ってくる。 たちまち驚きや感嘆の声が周囲を埋め尽くした。
「う、うめぇよ!」
「なんだこれ! なんだこれ!」
「こんなのが食べれるようになるなら俺は無駄遣いせずに給金貯めとくぞ!」
「俺も俺も!」
ガーディとアンは無言で肉串を味わう。 そうするしかできなかった。 味に黙らされたのだ。 感想は他の兵士達と一緒なのだが、得体が知れずに拘束している朋広達を素直に認める訳には立場上いかなかった。 逆にアズマドはこれを好材料としてガーディの説得に持ち出す。 その様子をきっかけを作った兵士が微笑みながら見ていた。 アンはその兵士に近付くと呟く。
「貴様、確か『ビスタ』だったな? 後で覚えておけ」
「こんな一兵卒の名を知っていただけていたとは。 覚えておきましょう」
「フン! 身勝手な部下がいたものだ! ん? なんだ?」
その時アンを妙な感覚が襲った。
「今...... 変な違和感が......」
アンは周囲を観察する。 隊長にアズマドは話し合いを続けていて問題ない。 手に肉串を持ってはいるが。 兵士達も肉串にかぶりついている。 離れた持ち場の者に運んでやっている者もいるようだ。 特に問題はない。 朋広と娘の華音は肉を焼き続けている。 朋広の馬も変わりない。 相変わらず素晴らしい馬だ。
「あ」
アンは気付いた。 砦の馬...... つまり自分達の馬が落ち着かないように思える。 彼女は馬達に近付いた。
「どうしたお前達? 周りが騒がしくて落ち着かないか? 大丈夫だ。 あの二等級みたいにどっしりとしていろ。 ......まさかあの肉が馬肉とか? そんな訳はないか」
「ひ、飛竜だー!」
馬に向かいハハハと笑おうとしていたアンだったが、一人の兵士の叫ぶ声にその表情が凍りつく。 砦の空気もさっきまでにはない緊張に包まれる。 馬達は飛竜の存在に気付き、怯えていたのだ。
「総員迎撃用意! 急げ!」
ガーディは発見した兵士のいる防壁へ向かう。 飛竜は小屋近くの防壁上空に姿を現した!
「ギャオオオォン!」
飛竜の咆哮が響く。
「ひっ!」
アンは襲撃された時の記憶がよみがえり短い悲鳴をあげたが、馬達の動揺はそれ以上で集団でパニック状態に陥り、腰が抜けたり粗相をしている馬もいる。
「だ、大丈夫だお前達。 大丈夫だから落ち着くんだ!」
アンの宥めの言葉も馬達には効果がない。
それどころか馬達の混乱は更に拡大しようとしていた。
「ああ! どうすれば」
「ヒヒィン!」
「え?」
朋広の馬だ。 その馬が甲高く一声鳴き、前足で地面を音を立てて踏み鳴らすと小屋の馬達も落ち着きを取り戻した。 それはまるで小屋の馬達が朋広の馬を自分達のリーダーだと認め、従った瞬間のようにアンには見えた。
「お、お前は...... 協力してくれたのか? 飛竜相手に物怖じもせずに?」
アンは自分を恥ずかしく思ったが、それを振り払うように気持ちを奮いたたせる!
「くっ! 近場の者は武器を取れ! 飛竜の侵入を許すな。 隊長を援護するぞ! 隊長今行きます!」
ガーディはその声をきいてアンを見る。
「! アン! そこを離れろ! 逃げるんだ!」
「え?」
アンが疑問を抱いたのとすぐ近くに飛竜が舞い降りた衝撃を感じたのは同時だった。
「あ、ああ......」
飛竜は一体だけではなかった。 もう一体いたのだ。 アンは全て後手に回ってしまった。 飛竜の眼がアンと朋広の馬を見据えている。
「アン、逃げろー!」
ガーディの叫びが聞こえるがすでにどうにもならない。 飛竜の口が開いて近付いてきているのだから。 ガーディももう一体の飛竜を相手にしているので動けないのは明白だ。
「は、ははは。 せめて馬だけでも......」
アンは朋広の馬を庇うように震えながら前に出た。
「アンー!」
飛竜の口の中にアンの頭が入る。
「これが...... 私の最後か」
そして飛竜の口が閉じられる。 ......ことはなかった。
「はい。 そこまでだよー」
その声がきこえたのとアンの体が振り回されたのは同時だ。
「え?」
「よくやったよお馬さん。 お姉ちゃんもお馬さん庇ってくれてありがとう」
「え?」
アンは朋広の馬に口で引っ張られ、助けられたと理解した。 そして肝心の飛竜は朋広という商人の娘に口につっかい棒を入れられて口が閉じれないようだがこれは理解できない。
「は?」
そしてそれは隊長のガーディにも同じ事が起きていた。
「は?」
「ご無事ですか?」
ガーディは朋広に抱き止められていたからだ。 防壁の下で。
「隊長も副隊長も無事だぞ!」
「よっしゃー!」
そんな声が聞こえる。 ガーディは思い出す。 アンに気を取られ飛竜の尾の一撃をもらい、防壁の上から空中に投げ出された事を。
「なるほど。 貴方が妙に落ち着いていたのは彼等がこの程度の事に危機感を感じないと分かっていたからですね?」
ビスタがアズマドに話しかけた。
「......そう見えますか? 偶然ですよ」
「......そうでしょうか? 確信を持っていたのは貴方だけではないようですし」
「ほう?」
「今回の問題の発端となったあの馬...... いくら等級が高いとは言っても飛竜相手にあの落ち着きようはありえません。 しかし飼い主が飛竜を取るに足らない存在として扱えると知っていればどうでしょうか? ほら、今など飛竜に後ろ蹴りを当ててます。 荷台もついているのに器用なものです」
(このビスタという兵士こそよく状況を見ている。 私がとぼけているのも見抜いているのだろう。 さてどうしたものか)
アズマドは考える。
「これは私の独り言ですが......」
ビスタが『前置き』をして朋広達を見ながら語り出す。 アズマドも同じ光景を眺める。
「彼等がこの砦にもたらすものを考えれば、馬の事などどうでもいい感覚で自由にさせるべきでしょう。 ですが、真にもたらすものを見抜いた者はなんとしても信頼関係を築きたいと考えるでしょうね。 ではそのもたらすものとは? 高価な塩や胡椒? 食べたことのないような食事? いいえ。 私は新たな『概念』であると思うのです」
(! この男!)
「その概念は世界を大きく変えられる可能性がある。 その瞬間が見られるかもしれないというのなら、関係を深め、より近くに居たいと思うのも無理なき事。 もし私が商人であれば全財産でも投資したのになぁ」
(なるほど。 この男もそうなのだな)
「では私も独り言ですが......」
アズマドも前置きをして話し出す。
「朋広さんには息子さんがいます。 しかし現在は眠り続けており、その息子さんを回復させる薬や、手段を探しているのです。 普通の薬などでは効果がないようで彼等も困っているのです。 どこかにそういったものがないかなぁ」
アズマドとビスタ。 個人間での奇妙な同盟が締結された。
「一体何があったというのだ......? いや、何が行われているのか...... か?」
ガーディ達が小屋に近付くと扉がバーンと開き中から兵士がとび出てきた。 見張りをしていたもう一名である。
「おいみんな! お待た...... おわっ隊長!?」
「誰が終わった隊長だ! ん? ......貴様何を持っている?」
「は...... その...... 焼肉であります!」
その兵士は直立不動の姿勢でやぶれかぶれにそう叫ぶ。 その手に持つ皿には焼きたての肉串が並んでいた。 これはキエル達にもらった肉の塊(なんの肉かは朋広達には不明)を手頃な厚みに切って焼いたものに朋広作製の串を通し、塩コショウか焼肉のたれをかけたもので、焼肉というよりはステーキ串に近い。
「部屋の中で肉を焼いただと? その煙に乗じて逃走でもする気か?」
入り口の前で固まっている兵士をそのままにしてガーディは扉を開ける。
「こ、これは?」
「煙がこもっていない......?」
「おや? これは隊長さん達お揃いで」
予想と違ってまごつくガーディ達に朋広はのんびり声をかける。 その手は新たな肉を焼き続けていた。 商人のアズマドはその仕組みに注目し驚く。
「こ、こんな仕組みで...... なるほど、これは利便性が高い」
「問題はそこではありませんアズマドさん。 ......朋広さんでしたね。 これはなんの騒ぎですか?」
ガーディが質問する。
「騒ぎ? 私は昼食を用意しただけですよ」
「昼食...... ですか?」
「私達は一日三回食事をしていますので」
「え? 三回...... ですか?」
「はい。 皆さんが朝と夕の一日二回の食事なのは知っていましたので、昼食を自分達で用意する事にしました」
「は、はぁ......」
「そうしましたらそこの兵士の方々が妙に気にされるようでしたので、どうせなら振舞いましょうか、と」
朋広が経緯を説明し、さらに狙いを話す。
「これはもちろん先行投資です。 この味を気に入っていただければ、ここで食事が商売になるかもしれませんからね」
「あ、貴方はまだ疑いが晴れていないというのにもうここで商売する気でいるのですか?」
ガーディは驚きと呆れが半々といった感じで対応し、アンも何か言いかけたが、後ろからあがった
「いやぁこれは美味い!」
という声につられてそちらを見ると、公務室にサンドイッチを持ってきた兵士が肉串を手に取りかぶりついている姿を目撃した。
「き、貴様は」
だがアンより早くその兵士が大きな声で周囲の兵士に聞こえるように騒ぐ。
「これは上等な塩と胡椒がじゅうぶんにかかっていて、王族でも食べる機会が限られるのではないだろうか! こっちのソースの方も肉の旨さを引き出して最高に美味しい! せっかくの好意を冷ましてしまうのは非常にもったいない!」
「塩や胡椒だって!?」
そう言われてはサンドイッチの味を知ったガーディもアンも関心をもつ。 周囲を見れば他の兵士も食べているその兵士を羨ましそうに見ている。 アズマドもその一人だった。
「さぁ、皆さんに冷めない内にすすめていただけませんか?」
朋広に言われガーディも仕方なく許可を出すと周囲の兵士から歓声があがり、近くの兵士が駆け寄ってくる。 たちまち驚きや感嘆の声が周囲を埋め尽くした。
「う、うめぇよ!」
「なんだこれ! なんだこれ!」
「こんなのが食べれるようになるなら俺は無駄遣いせずに給金貯めとくぞ!」
「俺も俺も!」
ガーディとアンは無言で肉串を味わう。 そうするしかできなかった。 味に黙らされたのだ。 感想は他の兵士達と一緒なのだが、得体が知れずに拘束している朋広達を素直に認める訳には立場上いかなかった。 逆にアズマドはこれを好材料としてガーディの説得に持ち出す。 その様子をきっかけを作った兵士が微笑みながら見ていた。 アンはその兵士に近付くと呟く。
「貴様、確か『ビスタ』だったな? 後で覚えておけ」
「こんな一兵卒の名を知っていただけていたとは。 覚えておきましょう」
「フン! 身勝手な部下がいたものだ! ん? なんだ?」
その時アンを妙な感覚が襲った。
「今...... 変な違和感が......」
アンは周囲を観察する。 隊長にアズマドは話し合いを続けていて問題ない。 手に肉串を持ってはいるが。 兵士達も肉串にかぶりついている。 離れた持ち場の者に運んでやっている者もいるようだ。 特に問題はない。 朋広と娘の華音は肉を焼き続けている。 朋広の馬も変わりない。 相変わらず素晴らしい馬だ。
「あ」
アンは気付いた。 砦の馬...... つまり自分達の馬が落ち着かないように思える。 彼女は馬達に近付いた。
「どうしたお前達? 周りが騒がしくて落ち着かないか? 大丈夫だ。 あの二等級みたいにどっしりとしていろ。 ......まさかあの肉が馬肉とか? そんな訳はないか」
「ひ、飛竜だー!」
馬に向かいハハハと笑おうとしていたアンだったが、一人の兵士の叫ぶ声にその表情が凍りつく。 砦の空気もさっきまでにはない緊張に包まれる。 馬達は飛竜の存在に気付き、怯えていたのだ。
「総員迎撃用意! 急げ!」
ガーディは発見した兵士のいる防壁へ向かう。 飛竜は小屋近くの防壁上空に姿を現した!
「ギャオオオォン!」
飛竜の咆哮が響く。
「ひっ!」
アンは襲撃された時の記憶がよみがえり短い悲鳴をあげたが、馬達の動揺はそれ以上で集団でパニック状態に陥り、腰が抜けたり粗相をしている馬もいる。
「だ、大丈夫だお前達。 大丈夫だから落ち着くんだ!」
アンの宥めの言葉も馬達には効果がない。
それどころか馬達の混乱は更に拡大しようとしていた。
「ああ! どうすれば」
「ヒヒィン!」
「え?」
朋広の馬だ。 その馬が甲高く一声鳴き、前足で地面を音を立てて踏み鳴らすと小屋の馬達も落ち着きを取り戻した。 それはまるで小屋の馬達が朋広の馬を自分達のリーダーだと認め、従った瞬間のようにアンには見えた。
「お、お前は...... 協力してくれたのか? 飛竜相手に物怖じもせずに?」
アンは自分を恥ずかしく思ったが、それを振り払うように気持ちを奮いたたせる!
「くっ! 近場の者は武器を取れ! 飛竜の侵入を許すな。 隊長を援護するぞ! 隊長今行きます!」
ガーディはその声をきいてアンを見る。
「! アン! そこを離れろ! 逃げるんだ!」
「え?」
アンが疑問を抱いたのとすぐ近くに飛竜が舞い降りた衝撃を感じたのは同時だった。
「あ、ああ......」
飛竜は一体だけではなかった。 もう一体いたのだ。 アンは全て後手に回ってしまった。 飛竜の眼がアンと朋広の馬を見据えている。
「アン、逃げろー!」
ガーディの叫びが聞こえるがすでにどうにもならない。 飛竜の口が開いて近付いてきているのだから。 ガーディももう一体の飛竜を相手にしているので動けないのは明白だ。
「は、ははは。 せめて馬だけでも......」
アンは朋広の馬を庇うように震えながら前に出た。
「アンー!」
飛竜の口の中にアンの頭が入る。
「これが...... 私の最後か」
そして飛竜の口が閉じられる。 ......ことはなかった。
「はい。 そこまでだよー」
その声がきこえたのとアンの体が振り回されたのは同時だ。
「え?」
「よくやったよお馬さん。 お姉ちゃんもお馬さん庇ってくれてありがとう」
「え?」
アンは朋広の馬に口で引っ張られ、助けられたと理解した。 そして肝心の飛竜は朋広という商人の娘に口につっかい棒を入れられて口が閉じれないようだがこれは理解できない。
「は?」
そしてそれは隊長のガーディにも同じ事が起きていた。
「は?」
「ご無事ですか?」
ガーディは朋広に抱き止められていたからだ。 防壁の下で。
「隊長も副隊長も無事だぞ!」
「よっしゃー!」
そんな声が聞こえる。 ガーディは思い出す。 アンに気を取られ飛竜の尾の一撃をもらい、防壁の上から空中に投げ出された事を。
「なるほど。 貴方が妙に落ち着いていたのは彼等がこの程度の事に危機感を感じないと分かっていたからですね?」
ビスタがアズマドに話しかけた。
「......そう見えますか? 偶然ですよ」
「......そうでしょうか? 確信を持っていたのは貴方だけではないようですし」
「ほう?」
「今回の問題の発端となったあの馬...... いくら等級が高いとは言っても飛竜相手にあの落ち着きようはありえません。 しかし飼い主が飛竜を取るに足らない存在として扱えると知っていればどうでしょうか? ほら、今など飛竜に後ろ蹴りを当ててます。 荷台もついているのに器用なものです」
(このビスタという兵士こそよく状況を見ている。 私がとぼけているのも見抜いているのだろう。 さてどうしたものか)
アズマドは考える。
「これは私の独り言ですが......」
ビスタが『前置き』をして朋広達を見ながら語り出す。 アズマドも同じ光景を眺める。
「彼等がこの砦にもたらすものを考えれば、馬の事などどうでもいい感覚で自由にさせるべきでしょう。 ですが、真にもたらすものを見抜いた者はなんとしても信頼関係を築きたいと考えるでしょうね。 ではそのもたらすものとは? 高価な塩や胡椒? 食べたことのないような食事? いいえ。 私は新たな『概念』であると思うのです」
(! この男!)
「その概念は世界を大きく変えられる可能性がある。 その瞬間が見られるかもしれないというのなら、関係を深め、より近くに居たいと思うのも無理なき事。 もし私が商人であれば全財産でも投資したのになぁ」
(なるほど。 この男もそうなのだな)
「では私も独り言ですが......」
アズマドも前置きをして話し出す。
「朋広さんには息子さんがいます。 しかし現在は眠り続けており、その息子さんを回復させる薬や、手段を探しているのです。 普通の薬などでは効果がないようで彼等も困っているのです。 どこかにそういったものがないかなぁ」
アズマドとビスタ。 個人間での奇妙な同盟が締結された。
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※小説家になろう・カクヨムでも公開しています
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