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61話 ショウカ、姉弟子を訪ね サオール、ひったくり被害にあう
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バサバサバサ。 一羽の鳥が家の屋根にとまる。 その鳥は屋根にある仕掛けから器用に家の中に入っていった。 その先がいわゆるこの鳥の『巣』にあたる場所なのだ。
「あら? お帰り随分はやかったわね。 どれどれー?」
入ってきた鳥に気付いたその人物はその巣を覗き込み鳥の脚に注目する。 鳥の脚には小さな筒のようなものがついており、中には手紙が入っていた。
「ううーん、やっぱり私が書いたものから変わってないかー。 戻ってくるのがはやかったからそうじゃないかとは思ったけど......」
その人物は軽くため息をつき、
「無駄足踏ませてごめんね。 またしばらく休んだら飛んできてもらえる?」
と、鳥に話しかける。 鳥の方はその人物の呼び掛けを理解しているのかいないのか、クルルとのどを鳴らしていた。
「全く。 常連さんが音沙汰なしになるなんて商売あがったりよね。 ......なんて冗談はともかく、いないとなると何処に行ったのかしらあの子」
その人物は他にもいる鳥達を見ながら右手で自分の頭をがしがしとかき、それから腕を組んで考えを口に出してまとめ始めた。
「あの子が私に何も伝えずに居場所を変更したとして...... 仕事に飽きたとかなら連絡くらいできるはずだから当然緊急案件だったとする」
「そうなるとあの子が以前から言っていた、命を狙った刺客の凶刃に倒れた? うーん...... あの子がそんな凡ミスをするとは思えないから、居場所を掴まれての逃亡かしら? いやいや、あの子からすれば居場所を掴まれる事自体が凡ミスだろうからそれもないわね」
「姉さん」
「やりたい事を見つけたにしても連絡くらいできると思うし、私のやってる事の重要性は理解してくれてるから切り捨てる可能性はないはず。 彼個人ではなくて居場所の方に何かあったとか?」
「ペンティアム姉さん」
「もうなによ! 人が考え事してるのに背後から!」
ペンティアム姉さんと呼ばれたその人物が振り向く。 声を掛けた人物の姿を確認した鳥が騒ぎはじめる。
「あ、あら? ショウカ! じゃないビスタ。 いつ王都へ戻ってきたのよ! どうりで連絡がつかないはずよね」
「相変わらずお元気そうで何よりです。 王都へは先程。 お師匠の所に向かう途中なのですが、住む場所が変わる事になりましたので新規の登録を、と思いましてここに寄りました」
ショウカはニッコリと微笑んだ。
~宿屋~
「ショウカさん今頃お姉さんと会えてるかなー。 お姉さん驚いてるだろうねー」
「お姉さんというか、姉弟子なんだが...... まぁいいか。 そりゃ離れてる所からいきなり来たら驚くんじゃないか?」
「お土産もあるしねー」
「まぁ、あれは驚くだろうな」
王都の宿屋に朋広と華音、サオールは居た。 ショウカが言うには目的地はこの王都ではないらしく、ここから南にある都市を目指さなければならない。 しかし、いくつか王都でしていきたい事があると言うので、宿をとってから一旦別行動をする事にした。 宿代はショウカが出すと言って譲らないので、代わりに朋広達が持っているアイテムを姉弟子に会うと言うショウカにお土産として持たせたのである。
「さて、この後のパパ達の行動ですが、王都の文明レベルのチェックをしつつ、サオールさんは王都の地図を作成って事になります」
「はーい! ママやお兄ちゃん達にお土産話たくさん集めるよ」
「お任せください朋広様。 今まで立ち寄った村や町より遥かに広いですが、必ず網羅してみせます」
「今までと違ってとにかく人が多いのと、衛兵もたくさんいるので、問題は起こさないように。 ショウカさん以外はここの人達と種族や常識が違うんだからおとなしくな」
「華音知ってるよ! それフラグって言うんでしょ」
「怖いこと言うなよー」
朋広達はこんな感じで宿屋から出て行った。 一方、ショウカは......
「貴方...... 暫く会わないうちに嘘が下手になったんじゃない? それとも私を試してる?」
「まさか。 私の話の何処に嘘があると?」
「全部よ全部。 本当なのはせいぜい兵士の仕事を辞めたって事くらいでしょう。 別にそれを責めたりしないんだからそんなあからさまな作り話で辻褄を合わせようとしなくてもいいでしょうに」
姉弟子に全くいきさつを信じてもらえていなかった。
「では何処が信じられないのか、ひとつこの不肖な弟弟子にご指導をお願いできますでしょうか?」
「なにか企んでいそうだけど、貴方が私を計略にかける必要はない訳だし...... いいでしょう。 たとえ企みがあったとしてもあえてそれに乗ってあげましょう」
姉弟子と弟弟子の同門対決が始まる。
「まずは貴方の居た砦が二体の飛竜に襲われたのね?」
「はい」
「飛竜は本来標高の高い場所に棲息する魔物ときくわ。 貴方の居た砦の場所とは条件が合わない」
「そうですね」
「まぁ、そこは譲って本当に襲撃されたのだとしましょう。 でもそれをたった一人の女の子が瞬く間に制圧したと?」
「はい。 その親子により砦の隊長と副隊長も命を救われています」
「ありえない。 仮にそんな芸当をやったのがあのオーシンだったとしてもとても信じられないわ」
「わかります」
姉弟子ペンティアムは追求するがショウカは顔色ひとつ変えず、反論するどころかそれを肯定した。
「しかもその女の子の家族も常識外れで、世界を変えうる可能性を感じた貴方はいてもたってもいられず、自分を死んだことにしてまで兵士を辞任し、素性を明かしてその人達に仕官した」
「はい。 今では予感は確信になっていますけどね」
「力のみで世界を治めるのは不可能に等しい。 『貴方』は『奴』と違ってお師様の教えを忘れてはいないわよね?」
「もちろんです。 私は彼等の力だけに魅せられた訳ではありません」
「......『私達』の発想のさらに先を行く、貴方を驚愕させた程の『概念』って言うんでしょ? 私にはそこが一番信じられないのだけど」
「姉さんは、人の集まる場所から離れて一切関わりを断っていた人達では、王都の人が集中している場所で起きる文明の発展速度を上回れるはずがない。 と、考えているからですね?」
ショウカが姉弟子の言いたい事を代弁する。
「そうよ。 分かっているじゃない。 でも貴方は今までの全てを捨ててまでそちらを選んだ。 一体どれほどの衝撃を受けたのか想像ができなくて」
「あの時私が受けた衝撃と感銘を『想像』できる者などいないでしょう」
ショウカはその時を思いだし顔を輝かせて言う。 対照的にペンティアムの方は表情が消え思いつめた感じになる。
「......孤児だった貴方がお師様に連れられてきて、私と初めて会った時の事を覚えてる? 貴方はそれからすぐに頭角を現し、いつからか自分で見つけた主のためにこの力を役立てたいと言っていたわね」
「ええ、遂にそれが実現したのです」
「そう。 ......それが嘘なのよ」
「姉さん?」
「貴方は理想を追い続けた。 でも実際貴方程の才能を活かしきれる器の人物になんて出会える訳もなく」
「いや、会えまし」
「貴方は理想と現実の間で疲れはて、遂に自己の精神の均衡を保つ為、ありもしない妄想を信じるようになってしまったのね」
ペンティアムは真顔でショウカの顔を見ていた。
「......」
「......」
「ふ、ふふふ。 なるほど。 つまり私はとても疲れているという訳なのですね?」
「そうとしか思えない。 しばらくは静養も兼ねてゆっくり過ごすといいと思うわ」
納得して頷いているショウカをみてペンティアムも少し安心する。
「では静養するため、まずは食事でもさせていただく事にしましょうか」
ショウカがそう言うので、ペンティアムがいいお店を紹介すると案内を申し出るがそれは断られた。
「いえ、それには及びません。 実はこちらで持参してきていますから。 姉さんの分もありますからまずは飲み物の容器をお願いできますか?」
「あら、すでにどこかで買ってきていたの? わざわざ私にまでそんな気を使うなんて、貴方も成長したのねぇ」
ペンティアムは嬉しそうに言いながら容器をだそうとする。
「そうそう姉さん。 姉さんの容器は是非『ガラス』製の容器でお願いしますよ?」
ショウカのその一言でペンティアムの動きがとまった。
「『あれ』を出せ...... と? 出土品の中で奇跡的に損壊のなかったあの貴重品を?」
「はい、その『貴重品』です」
ペンティアムはしばらく逡巡したのち、ショウカの気休めになるならそれも構わないかと了承して、やや厚みのあるくすんだ感じの容器を取り出しゴトリと机の上に置く。
「さて。 私に『これ』まで用意させて一体何を飲ませてくれるのかしらね?」
「ただの私の妄想ですよ。 では私の容器も用意しますね」
コトリ。 ショウカは自分で使う容器をペンティアムに見える様に机の上に置いた。
「!? な、な、な、なによそれ!」
「私の妄想から出土した、ただの『グラス』ですよ」
ペンティアムはグラスを凝視してわなわなと震えている。
「それも...... ガラスの容器なの?」
「はい」
「そんな透明度を維持したままその薄さでどこも欠けていない品がこの世にあるなんて...... それをグラスと言ったわね貴方。 質的にガラスの上位に位置するからその呼称なの? 繊細な形といい、間違いなく私のガラス容器よりも高度な技術で造られているはずだわ。 砦の近くに知られていない遺跡があったとでもいうの!?」
ペンティアムは目を丸くして捲し立てるが、ショウカは取り合わない。
「質問はひとつずつお願いしますよ姉さん。 さぁ、せっかく用意した食事です。 冷ましてしまうのは非常にもったいないので食べながら話の続きといきましょうか」
以前砦で周囲の兵士の注意を引いた時の台詞を再び使用し、ショウカはペンティアムを見てニコリと笑う。
「そう。 ......やってくれるじゃない。 これだけでも私には鳥肌ものなのにまだ何かがあるというのね」
「私の抱いた妄想を『もう一度』ご説明するだけですよ。 ご理解いただけるといいのですが」
「あー...... 私が悪かったわ。 でも貴方を心配して出た言葉だったのよ? 分かってくれているとは思うけど」
「ええ、分かっています」
~王城前~
「本物のお城だー」
「さすがに大きいな。 しっかりとした石造りだし」
「位置的には都の中心にこの城があるようですね」
「じゃあここから各方面を見ていったら地図にまとめやすい感じかな?」
「そうですね。 高い位置から確認もできればさらにうわっ!」
サオールは荷物を出した所で人にぶつかられそのまま荷物をひったくられた。
「へへっ、いっただきー!」
「ああ! 荷物が!」
「追うぞサオールさん! 華音はここで待ってるんだ」
朋広とサオールが追いかけていき、後には華音一人が残される。
「ちぇー。 華音も追いかけたかったのに。 華音ならすぐなのになー。 あ、パパでもすぐ追い付くか。 荷物持っていったの子供だったし。 男の子かな」
手持ちぶさたな華音は城を眺める事に決めた。 驚異的な視力で城を観察していく。
「うーん、ガラスの窓がひとつもない。 ここまでくる時にも見なかったし、パパが言ってたみたいにこの世界にはないのかなー。 人は結構いるみたいだね。 王様の部屋とかどこだろー」
華音は城の高い位置を見渡す。 別に王様だからと言って高い場所に部屋がある訳ではないのだが、変な先入観があるようだ。
「あ! なんか綺麗な服を着た女の子発見。 お姫様かなぁ?」
華音の関心は自分と同年代と思われるその女の子に向けられた。
「袋の付いた棒みたいなの持ってるけど何してるんだろ。 あ! 屋根の上で猫ちゃんが動けなくなってる。 まさか助けようとしてるの?」
「あ、惜しいもうちょっと。 うまく届かないよ」
華音はまるで自分がそうしているかの様に実況しているが、何も知らない人が華音を見ればその言動は不審者そのものだ。
そしてその不審者華音は、
「あ!」
という言葉を残してその場から消えた。
~その頃~
「どいたどいた!」
サオールから荷物をひったくった少年は人と人との間を器用に走り抜けていく。 奪われた当人のサオールも身体能力は少年より上なのだろうが、慣れない『人混み』の中での移動と、獣人だと正体がばれないように気を使いながらの追跡なので手こずっているようだ。 この事からも少年が日頃から同じ手口で他人から荷物を掠め取っている事実がうかがえる。
「間抜けそうな旅人のおかげで、今日も飯にありつけるかな」
少年は得意気になり一気にサオールを撒こうと速度をあげた。 だが、一瞬注意が逸れたのか前にいる人に背後からぶつかってしまう。 日頃からこのやり方で生活している少年にとっては考えられないミスだった。 少年は尻餅をつきそうになりながらもぶつかった相手に悪態をつく。
「どこみて歩いてやがんだ!」
完全に言いがかりである。 しかし次の瞬間振り向いたその人物に両腕を掴まれ身体を持ち上げられた。
「な、なにすんだよ! ......え? な、なんで?」
少年がぶつかったのは、すでに撒いたと思って安心していた朋広の背中だったのである。 少年を確保した朋広はすぐさま人混みから外れた路地の裏手へ少年ごと移動した。 そこには少年の発した、
「あ!」
という言葉だけが残された。
「あら? お帰り随分はやかったわね。 どれどれー?」
入ってきた鳥に気付いたその人物はその巣を覗き込み鳥の脚に注目する。 鳥の脚には小さな筒のようなものがついており、中には手紙が入っていた。
「ううーん、やっぱり私が書いたものから変わってないかー。 戻ってくるのがはやかったからそうじゃないかとは思ったけど......」
その人物は軽くため息をつき、
「無駄足踏ませてごめんね。 またしばらく休んだら飛んできてもらえる?」
と、鳥に話しかける。 鳥の方はその人物の呼び掛けを理解しているのかいないのか、クルルとのどを鳴らしていた。
「全く。 常連さんが音沙汰なしになるなんて商売あがったりよね。 ......なんて冗談はともかく、いないとなると何処に行ったのかしらあの子」
その人物は他にもいる鳥達を見ながら右手で自分の頭をがしがしとかき、それから腕を組んで考えを口に出してまとめ始めた。
「あの子が私に何も伝えずに居場所を変更したとして...... 仕事に飽きたとかなら連絡くらいできるはずだから当然緊急案件だったとする」
「そうなるとあの子が以前から言っていた、命を狙った刺客の凶刃に倒れた? うーん...... あの子がそんな凡ミスをするとは思えないから、居場所を掴まれての逃亡かしら? いやいや、あの子からすれば居場所を掴まれる事自体が凡ミスだろうからそれもないわね」
「姉さん」
「やりたい事を見つけたにしても連絡くらいできると思うし、私のやってる事の重要性は理解してくれてるから切り捨てる可能性はないはず。 彼個人ではなくて居場所の方に何かあったとか?」
「ペンティアム姉さん」
「もうなによ! 人が考え事してるのに背後から!」
ペンティアム姉さんと呼ばれたその人物が振り向く。 声を掛けた人物の姿を確認した鳥が騒ぎはじめる。
「あ、あら? ショウカ! じゃないビスタ。 いつ王都へ戻ってきたのよ! どうりで連絡がつかないはずよね」
「相変わらずお元気そうで何よりです。 王都へは先程。 お師匠の所に向かう途中なのですが、住む場所が変わる事になりましたので新規の登録を、と思いましてここに寄りました」
ショウカはニッコリと微笑んだ。
~宿屋~
「ショウカさん今頃お姉さんと会えてるかなー。 お姉さん驚いてるだろうねー」
「お姉さんというか、姉弟子なんだが...... まぁいいか。 そりゃ離れてる所からいきなり来たら驚くんじゃないか?」
「お土産もあるしねー」
「まぁ、あれは驚くだろうな」
王都の宿屋に朋広と華音、サオールは居た。 ショウカが言うには目的地はこの王都ではないらしく、ここから南にある都市を目指さなければならない。 しかし、いくつか王都でしていきたい事があると言うので、宿をとってから一旦別行動をする事にした。 宿代はショウカが出すと言って譲らないので、代わりに朋広達が持っているアイテムを姉弟子に会うと言うショウカにお土産として持たせたのである。
「さて、この後のパパ達の行動ですが、王都の文明レベルのチェックをしつつ、サオールさんは王都の地図を作成って事になります」
「はーい! ママやお兄ちゃん達にお土産話たくさん集めるよ」
「お任せください朋広様。 今まで立ち寄った村や町より遥かに広いですが、必ず網羅してみせます」
「今までと違ってとにかく人が多いのと、衛兵もたくさんいるので、問題は起こさないように。 ショウカさん以外はここの人達と種族や常識が違うんだからおとなしくな」
「華音知ってるよ! それフラグって言うんでしょ」
「怖いこと言うなよー」
朋広達はこんな感じで宿屋から出て行った。 一方、ショウカは......
「貴方...... 暫く会わないうちに嘘が下手になったんじゃない? それとも私を試してる?」
「まさか。 私の話の何処に嘘があると?」
「全部よ全部。 本当なのはせいぜい兵士の仕事を辞めたって事くらいでしょう。 別にそれを責めたりしないんだからそんなあからさまな作り話で辻褄を合わせようとしなくてもいいでしょうに」
姉弟子に全くいきさつを信じてもらえていなかった。
「では何処が信じられないのか、ひとつこの不肖な弟弟子にご指導をお願いできますでしょうか?」
「なにか企んでいそうだけど、貴方が私を計略にかける必要はない訳だし...... いいでしょう。 たとえ企みがあったとしてもあえてそれに乗ってあげましょう」
姉弟子と弟弟子の同門対決が始まる。
「まずは貴方の居た砦が二体の飛竜に襲われたのね?」
「はい」
「飛竜は本来標高の高い場所に棲息する魔物ときくわ。 貴方の居た砦の場所とは条件が合わない」
「そうですね」
「まぁ、そこは譲って本当に襲撃されたのだとしましょう。 でもそれをたった一人の女の子が瞬く間に制圧したと?」
「はい。 その親子により砦の隊長と副隊長も命を救われています」
「ありえない。 仮にそんな芸当をやったのがあのオーシンだったとしてもとても信じられないわ」
「わかります」
姉弟子ペンティアムは追求するがショウカは顔色ひとつ変えず、反論するどころかそれを肯定した。
「しかもその女の子の家族も常識外れで、世界を変えうる可能性を感じた貴方はいてもたってもいられず、自分を死んだことにしてまで兵士を辞任し、素性を明かしてその人達に仕官した」
「はい。 今では予感は確信になっていますけどね」
「力のみで世界を治めるのは不可能に等しい。 『貴方』は『奴』と違ってお師様の教えを忘れてはいないわよね?」
「もちろんです。 私は彼等の力だけに魅せられた訳ではありません」
「......『私達』の発想のさらに先を行く、貴方を驚愕させた程の『概念』って言うんでしょ? 私にはそこが一番信じられないのだけど」
「姉さんは、人の集まる場所から離れて一切関わりを断っていた人達では、王都の人が集中している場所で起きる文明の発展速度を上回れるはずがない。 と、考えているからですね?」
ショウカが姉弟子の言いたい事を代弁する。
「そうよ。 分かっているじゃない。 でも貴方は今までの全てを捨ててまでそちらを選んだ。 一体どれほどの衝撃を受けたのか想像ができなくて」
「あの時私が受けた衝撃と感銘を『想像』できる者などいないでしょう」
ショウカはその時を思いだし顔を輝かせて言う。 対照的にペンティアムの方は表情が消え思いつめた感じになる。
「......孤児だった貴方がお師様に連れられてきて、私と初めて会った時の事を覚えてる? 貴方はそれからすぐに頭角を現し、いつからか自分で見つけた主のためにこの力を役立てたいと言っていたわね」
「ええ、遂にそれが実現したのです」
「そう。 ......それが嘘なのよ」
「姉さん?」
「貴方は理想を追い続けた。 でも実際貴方程の才能を活かしきれる器の人物になんて出会える訳もなく」
「いや、会えまし」
「貴方は理想と現実の間で疲れはて、遂に自己の精神の均衡を保つ為、ありもしない妄想を信じるようになってしまったのね」
ペンティアムは真顔でショウカの顔を見ていた。
「......」
「......」
「ふ、ふふふ。 なるほど。 つまり私はとても疲れているという訳なのですね?」
「そうとしか思えない。 しばらくは静養も兼ねてゆっくり過ごすといいと思うわ」
納得して頷いているショウカをみてペンティアムも少し安心する。
「では静養するため、まずは食事でもさせていただく事にしましょうか」
ショウカがそう言うので、ペンティアムがいいお店を紹介すると案内を申し出るがそれは断られた。
「いえ、それには及びません。 実はこちらで持参してきていますから。 姉さんの分もありますからまずは飲み物の容器をお願いできますか?」
「あら、すでにどこかで買ってきていたの? わざわざ私にまでそんな気を使うなんて、貴方も成長したのねぇ」
ペンティアムは嬉しそうに言いながら容器をだそうとする。
「そうそう姉さん。 姉さんの容器は是非『ガラス』製の容器でお願いしますよ?」
ショウカのその一言でペンティアムの動きがとまった。
「『あれ』を出せ...... と? 出土品の中で奇跡的に損壊のなかったあの貴重品を?」
「はい、その『貴重品』です」
ペンティアムはしばらく逡巡したのち、ショウカの気休めになるならそれも構わないかと了承して、やや厚みのあるくすんだ感じの容器を取り出しゴトリと机の上に置く。
「さて。 私に『これ』まで用意させて一体何を飲ませてくれるのかしらね?」
「ただの私の妄想ですよ。 では私の容器も用意しますね」
コトリ。 ショウカは自分で使う容器をペンティアムに見える様に机の上に置いた。
「!? な、な、な、なによそれ!」
「私の妄想から出土した、ただの『グラス』ですよ」
ペンティアムはグラスを凝視してわなわなと震えている。
「それも...... ガラスの容器なの?」
「はい」
「そんな透明度を維持したままその薄さでどこも欠けていない品がこの世にあるなんて...... それをグラスと言ったわね貴方。 質的にガラスの上位に位置するからその呼称なの? 繊細な形といい、間違いなく私のガラス容器よりも高度な技術で造られているはずだわ。 砦の近くに知られていない遺跡があったとでもいうの!?」
ペンティアムは目を丸くして捲し立てるが、ショウカは取り合わない。
「質問はひとつずつお願いしますよ姉さん。 さぁ、せっかく用意した食事です。 冷ましてしまうのは非常にもったいないので食べながら話の続きといきましょうか」
以前砦で周囲の兵士の注意を引いた時の台詞を再び使用し、ショウカはペンティアムを見てニコリと笑う。
「そう。 ......やってくれるじゃない。 これだけでも私には鳥肌ものなのにまだ何かがあるというのね」
「私の抱いた妄想を『もう一度』ご説明するだけですよ。 ご理解いただけるといいのですが」
「あー...... 私が悪かったわ。 でも貴方を心配して出た言葉だったのよ? 分かってくれているとは思うけど」
「ええ、分かっています」
~王城前~
「本物のお城だー」
「さすがに大きいな。 しっかりとした石造りだし」
「位置的には都の中心にこの城があるようですね」
「じゃあここから各方面を見ていったら地図にまとめやすい感じかな?」
「そうですね。 高い位置から確認もできればさらにうわっ!」
サオールは荷物を出した所で人にぶつかられそのまま荷物をひったくられた。
「へへっ、いっただきー!」
「ああ! 荷物が!」
「追うぞサオールさん! 華音はここで待ってるんだ」
朋広とサオールが追いかけていき、後には華音一人が残される。
「ちぇー。 華音も追いかけたかったのに。 華音ならすぐなのになー。 あ、パパでもすぐ追い付くか。 荷物持っていったの子供だったし。 男の子かな」
手持ちぶさたな華音は城を眺める事に決めた。 驚異的な視力で城を観察していく。
「うーん、ガラスの窓がひとつもない。 ここまでくる時にも見なかったし、パパが言ってたみたいにこの世界にはないのかなー。 人は結構いるみたいだね。 王様の部屋とかどこだろー」
華音は城の高い位置を見渡す。 別に王様だからと言って高い場所に部屋がある訳ではないのだが、変な先入観があるようだ。
「あ! なんか綺麗な服を着た女の子発見。 お姫様かなぁ?」
華音の関心は自分と同年代と思われるその女の子に向けられた。
「袋の付いた棒みたいなの持ってるけど何してるんだろ。 あ! 屋根の上で猫ちゃんが動けなくなってる。 まさか助けようとしてるの?」
「あ、惜しいもうちょっと。 うまく届かないよ」
華音はまるで自分がそうしているかの様に実況しているが、何も知らない人が華音を見ればその言動は不審者そのものだ。
そしてその不審者華音は、
「あ!」
という言葉を残してその場から消えた。
~その頃~
「どいたどいた!」
サオールから荷物をひったくった少年は人と人との間を器用に走り抜けていく。 奪われた当人のサオールも身体能力は少年より上なのだろうが、慣れない『人混み』の中での移動と、獣人だと正体がばれないように気を使いながらの追跡なので手こずっているようだ。 この事からも少年が日頃から同じ手口で他人から荷物を掠め取っている事実がうかがえる。
「間抜けそうな旅人のおかげで、今日も飯にありつけるかな」
少年は得意気になり一気にサオールを撒こうと速度をあげた。 だが、一瞬注意が逸れたのか前にいる人に背後からぶつかってしまう。 日頃からこのやり方で生活している少年にとっては考えられないミスだった。 少年は尻餅をつきそうになりながらもぶつかった相手に悪態をつく。
「どこみて歩いてやがんだ!」
完全に言いがかりである。 しかし次の瞬間振り向いたその人物に両腕を掴まれ身体を持ち上げられた。
「な、なにすんだよ! ......え? な、なんで?」
少年がぶつかったのは、すでに撒いたと思って安心していた朋広の背中だったのである。 少年を確保した朋広はすぐさま人混みから外れた路地の裏手へ少年ごと移動した。 そこには少年の発した、
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ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
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