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66話 シロッコ、決戦に備え村を出発 幸依、無理が祟り倒れる
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~開拓村~
「ほう。これが......」
台の上に並べられている物を見つめるシロッコ。
シロッコの前にはニコニコして立っているダランとオーシン。
「はい。シロッコ様ご所望の矛と銛です。オーシン殿にも手伝ってもらい完成させました」
ダランが答える。
「オーシン。そなた鍛冶の心得が?」
「いえ、私にはそんな心得はございません。素人でも出来ることを手伝ったのみでして」
オーシンは恥ずかしそうに言うがその腰に一本の短剣と思われるものがあるのをシロッコは見逃さなかった。
「いやいや、オーシン殿はなかなかよい筋をしておりますぞ」
「なるほどのぅ。確かに両方とも見事なものじゃ」
シロッコは左右の手でそれぞれ矛と銛を掴み眺める。
「軽い。これは鉄ではないな?」
そのシロッコの言葉を待っていたかと言わんばかりにダランが身を乗り出す。
「おわかりになりますか! 鉄と海水は相性が良いとは言えません。
なので最初は鉄をメインに、錆びない特徴を持つ金で周囲をコーティングしようとしておったのです。
しかしその場合重量が増すのと接合面の耐久性に問題がありましてな。
まぁ、これは扱い方次第によるところもあったのですが。
なにぶん金は鉄より重くて柔らかい特徴も持ち合わせておりまして、何よりこれが神様の持つ品に相応しいのかと申しますと一概にはそうとも」
「!? う、うむ?」
「ダ、ダラン殿。シロッコ様が戸惑っておられますから」
熱弁を振るいだしたダランをオーシンが止める。
「あ。こ、これは失礼いたしました。鍛冶の事で語れると思ったらつい熱くなってしまいました」
「いや、儂も専門的な事は分からんのですまんのぅ」
「いえいえ。とにかく簡単に申しますと、最終的に軽くて丈夫。
水中でも錆びずに魔力も通しやすいミスリルのみで作成してみたのでございます」
「ほう。それだけ聞くとまさに逸品じゃな」
シロッコは感心する。
なんじゃ、最初の説明は全部いらんかったんじゃな? とは決して言わない。
「ミスリルは本来貴重な金属で、アクセサリーに使うことはあってもこれで武器を造る事はまずないのです」
「そこで私が手伝うついでにミスリルの武器作成を練習してみようという事になりまして」
「なるほど。それがその腰の短剣という訳じゃな?」
「気付いておられましたか。手伝った礼にと譲り受けました」
オーシンの表情からすると余程嬉しいのだろうと感じられた。
「なんにせよ助かった。礼を言うぞダラン」
「勿体ないお言葉です。ミスリルならば神様の武具の素材として申し分ないかと」
「うむ。これで後はマダコといつどこで戦うかじゃな」
シロッコは作戦を立てるために魚人のもとへと出発した。
~王城~
華音達と別れたミストは悩んでいた。政治に関心を持たない父に好き放題している家臣。
友達になった華音の様に突出した魔力も戦闘力も持たない自身の無力さ。
唯一の味方だったライミーネもキドウの画策により国を離れている。
街にはロシェやリシェの様に日々の糧に困る子供達もいる事実。
「私は無力ね。王女と言ってもただの飾りの姫にすぎない......」
ベッドの上で丸まっていた三号が床に降りてテーブルに飛び乗り、イスに座っているミストと視線を合わせる。
「なぜそんなに関係ない奴の事を気にするんだ。
自分さえ良ければ他の者などどうでもいいだろうが。現に他の奴等はそうしている」
「そういう訳にはいきません。
無関係な方々ばかりではありませんし、王族である以上民の生活を考える事は義務です」
ミストの言葉に、三号は道具として働かない失敗作と製作者に断じられて封印された時の事を思い出す。
三号が反発した理由は自分の意思を無視した扱いが不満だったからだ。
「生まれで全て決まるのか?」
「え?」
それは三号から無意識に出た言葉だった。
「自分の意思を持つのは間違いなのか? 道具として生まれた俺は特に。道具は道具として言われるままに使われていればいいのか?」
三号は伏し目がちにそう言う。思い出したくない記憶が頭の中を駆け巡る。
「三号さん!」
ミストの声で三号は現実に引き戻された。ミストは三号の目をしっかりと見据えて、
「生まれが立場を決めるのではありません。
自分が何をしたいのかしっかりとした意思を持つ事が自分の立場を決めるのだと私は思います」
「自分の...... 意思」
「そうです。それに私は三号さんを道具だなんて思っていません。
華音ちゃんと同じ様に、その、お友達だと......」
「友達...... 俺が?」
「ご、ご迷惑じゃなければですけど。だから私の中では三号さんの立場は道具ではなくてお友達なんです」
他人の立場。三号は自分の中に何かが落ちるのを感じた。
華音達と別れた時、三号はその気になればそちらについていく事も可能だっただろう。
だがそうはしなかった。
(こいつはどこか危なっかしい所があるが、それも含めてただの興味の対象だと思っていた。だが違ったのか)
「あの。......三号さん?」
なんのリアクションも起こさない三号に、怒らせてしまったのかと不安になるミスト。
「意思があっても自分の思うようにいかない。......俺と同じだったんだな」
「え?」
「なんでもない。俺様とミストは友達なんだろう?
なら俺様も出来ることを探さなければと思っただけだ」
「あ、あれ? 今私の事を名前で呼んでくれました?」
(俺の事を友達だなんて言った奴は初めてだ。そんな風に対等に見てくれるやつがいたなんてな)
三号は不思議と悪い気はしなかった。
「ミストの聞き間違いだろ。
それより出来ることを探すぞ。飾りを返上したいのならな」
「やっぱりそうですか...... あれ?」
ここに一人と一匹の名(迷)コンビが誕生した...... のかも知れない。
だが一方で機能していない中央の隙を突いて勢力を拡大しようとする野心家がいた。
~人間領北東部にある屋敷~
「お前がこの私に仕えたいという男か」
「お目通りを許可していただいて感謝致します」
「ふん。たかが僻地の一領主に過ぎぬ私に、天下のとり方を教えるなどという大言を吐く愚か者がどんな顔をしているのか見てみたかっただけだ」
尊大な態度の男はその外見から年齢は四十代位。
面会を求めた男の方は二十代後半から三十代前半位に見える。
「閣下には野心はないと?」
「あるはずがなかろう。私はこれでも忠義に厚いつもりなのでな」
「これは失礼いたしました。
閣下は以前より兵士の数を増やし訓練も頻繁に課しておられるようなので、その胸中に何か抱かれているのではと考えておりました」
閣下と呼ばれた男は白々しく言う。
「それはこの国に何かあった場合、率先して守るためだ」
「お見事なお心がけです。
しかし閣下がいざという時に兵を集めたとして千。対する仮想敵の兵力は三千。
三倍の戦力差では厳しい戦いになるでしょうが...... 例え敗れても閣下のその忠義の生きざまは王や民の心に深く刻まれる事は間違いありません」
仰々しいその男に対して領主の側近の男がイラついて叫ぶ。
「貴様! キョウレイ様を侮辱しに来たのか!」
だがキョウレイ自身は冷静だ。叫んだ側近を制し男に訊ねる。
「ショウホと言ったか? なぜ仮想敵の数を三千だと言い切った?」
「これはあくまで例えばの話ですが...... 閣下が野心をお持ちだったにしても、国に忠義を尽くされようとしていたとしても最初にぶつかる相手は変わりません。
そして相手が動員できる兵士が『全部あわせて』三千程だろうと推測しました」
ショウホと呼ばれた男が淀みなく答えた。
キョウレイは一言ほう、と言って目を細めるが視線はショウホから外さない。
ショウホの方は己へ向けられるキョウレイの心情が好奇心から値踏みへと変化した事を感じ取っていた。
(思った通りだ。
この男、忠義だなんだと口にしているが、それを尊重する気などない雰囲気を堂々と出している。むしろ野心の塊だ。
それだけに損得が絡む部分には目端が利くだろう。
得体の知らない者の献策とてそれが自分の戦略に組み込める価値があるとなれば......)
「面白い。では試しにその千対三千の構図を変える事はできると思うか?」
キョウレイは軽い口調でショウホに語りかけるが目は笑っていない。
ショウホの言う仮想敵が何かを知っていてその先を考えているからこそ、その狙いを見抜いたショウホの真意を探ろうとしている。
「できます」
ショウホはこれがキョウレイの望む答えである事を知っていた。
だがその内容については語らない。
キョウレイは『出来るか否か』を問いにしたからだ。
(聞かれていない内容をさも自慢気に話すような人間をキョウレイは信用せず逆に軽く見るだろう。
知っている情報は小出しにし、常にこちらに興味か関心を持たせておかないといきなり用済みと斬られかねん)
キョウレイも考えていた。
(この男...... ただ適当な事を並べ立てている訳ではないようだ。
確たる情報を持って計画を立てている。こやつの言う仮想敵があやつらなのは間違いないだろう。
頭は切れるようだがそんな男がなぜ私のもとを訪れたか。だな)
キョウレイ自身が言ったように彼の立場は辺境の一領主。
軍事行動を起こせば兵士の数も相手を下回る不利な状態。
ショウホの年齢も若いとは言い難いが、キョウレイの年齢もこの世界ではすでに高齢にあたる。
ショウホの目的が仕官であればまずここは選ばない場所なのだ。
「なるほど。頭は回るようだな。
だがなぜこの地へ? 出世を望むなら他に良い土地があったのではないか?」
「ご冗談でしょう閣下。言われる事が事実であれば閣下はなぜそのような野心を抱かれておいでですか?」
「!!」
「閣下には他の領主にはない点に恵まれております。この地に金鉱がある事もそのひとつ」
「ぬ」
「この地の周辺を併呑すれば知られていない鉱脈も見つかるかも知れません。閣下はそれを見越して野心を抱かれている」
ショウホの雰囲気が変わった。思わずキョウレイも気圧される。
「ですが閣下の頼る所はそれによる『財』ではありません。閣下の信条はあくまで『力』。
私が信じるのもそれと同じなのです」
「き、貴様は......」
「力ある者こそがこの世界を自由にして良いのです。
そしてその力を振るう場所も当然必要。キョウレイ様、天下を望んでよろしいのです」
「ふ、ふふ」
キョウレイの気分は高揚していた。このショウホからは力へ対する狂気めいたものすら感じるが、そんな事は気にならなかった。
目的が達成できるかも知れないという感情に陶酔していたからだ。
「利用できるものは何でも利用なさいませ。それがこの私めであっても構いません。
私にも力を振るう場所を是非与えていただきたく」
「お主もまた力への信奉者だったか。よかろう...... 天下のとり方、聞かせてもらおうか」
「お任せください」
北東部の辺境で力を信奉する領主のキョウレイと知恵者ショウホの野望が幕を開けようとしていた。
~その頃の朋広達の道中~
「うおおっ! まさかこんな所でこんな物に出会えるとは!」
「やったねパパ! これはいいものだよ!」
目的地途中で竹林を見つけた朋広は華音と二人で久々の伐採作業に没頭していた。
朋広にとっては軽い寄り道気分なのだが、この圧倒的な作業風景に王都で犯罪者集団相手に暴れていた二人を知っていた他のメンバーすら呆然としている。
「お、お兄ちゃん......」
「あ、あわわ」
「スケールが違いすぎましたね。私達が余裕で怪我すらしない訳です」
だが同行しているサオールには加えて問題が発生していた。
ここまでも地図を作成しながら来ていた訳なので、
「ここは『竹林』って表記すればいいのかな? それとも『竹林があった場所』? いっそ『元・竹林』で?」
すっかり見通しがよくなってしまった場所を見て悩んでいた。
余談ではあるが、朋広達も竹を土中に埋まっている『根』ごとはアイテムボックスに収納できない。
なので根は残る事になり、竹は成長が早くまたすぐに竹林に戻るだろうと表記は竹林になった。
サオールの疑問、解決。
~開拓村~
シロッコが出発した後、村では各自が行動していたが、その村の中を駆け回るひとつの影があった。
ヒラリエである。彼女は息を乱しながら、それでも休まず走り続けた。
「キエル! ルミにゃ! オワタさん! 大変! 大変にゃりよー!」
ヒラリエは村中を駆け回り、この緊急事態を出会う仲間に伝えていく。その都度村には雷が落ちたような騒ぎになった。
彼女はシロッコに宣言したように時間をみつけては幸依を陰からずっと見守っていたのだが、彼女なりのその思いが幸依が洗濯の途中で倒れる現場に居合わせる結果に結び付く。
幸依はすぐに部屋に運ばれシロッコが危惧した通り、疲労が原因によるものとキエル達は判断する。
安静にして休ませれば問題ないだろうとなり村は落ち着きを取り戻したが、他の家族とシロッコはまだこの事実を知らないでいた。
「ほう。これが......」
台の上に並べられている物を見つめるシロッコ。
シロッコの前にはニコニコして立っているダランとオーシン。
「はい。シロッコ様ご所望の矛と銛です。オーシン殿にも手伝ってもらい完成させました」
ダランが答える。
「オーシン。そなた鍛冶の心得が?」
「いえ、私にはそんな心得はございません。素人でも出来ることを手伝ったのみでして」
オーシンは恥ずかしそうに言うがその腰に一本の短剣と思われるものがあるのをシロッコは見逃さなかった。
「いやいや、オーシン殿はなかなかよい筋をしておりますぞ」
「なるほどのぅ。確かに両方とも見事なものじゃ」
シロッコは左右の手でそれぞれ矛と銛を掴み眺める。
「軽い。これは鉄ではないな?」
そのシロッコの言葉を待っていたかと言わんばかりにダランが身を乗り出す。
「おわかりになりますか! 鉄と海水は相性が良いとは言えません。
なので最初は鉄をメインに、錆びない特徴を持つ金で周囲をコーティングしようとしておったのです。
しかしその場合重量が増すのと接合面の耐久性に問題がありましてな。
まぁ、これは扱い方次第によるところもあったのですが。
なにぶん金は鉄より重くて柔らかい特徴も持ち合わせておりまして、何よりこれが神様の持つ品に相応しいのかと申しますと一概にはそうとも」
「!? う、うむ?」
「ダ、ダラン殿。シロッコ様が戸惑っておられますから」
熱弁を振るいだしたダランをオーシンが止める。
「あ。こ、これは失礼いたしました。鍛冶の事で語れると思ったらつい熱くなってしまいました」
「いや、儂も専門的な事は分からんのですまんのぅ」
「いえいえ。とにかく簡単に申しますと、最終的に軽くて丈夫。
水中でも錆びずに魔力も通しやすいミスリルのみで作成してみたのでございます」
「ほう。それだけ聞くとまさに逸品じゃな」
シロッコは感心する。
なんじゃ、最初の説明は全部いらんかったんじゃな? とは決して言わない。
「ミスリルは本来貴重な金属で、アクセサリーに使うことはあってもこれで武器を造る事はまずないのです」
「そこで私が手伝うついでにミスリルの武器作成を練習してみようという事になりまして」
「なるほど。それがその腰の短剣という訳じゃな?」
「気付いておられましたか。手伝った礼にと譲り受けました」
オーシンの表情からすると余程嬉しいのだろうと感じられた。
「なんにせよ助かった。礼を言うぞダラン」
「勿体ないお言葉です。ミスリルならば神様の武具の素材として申し分ないかと」
「うむ。これで後はマダコといつどこで戦うかじゃな」
シロッコは作戦を立てるために魚人のもとへと出発した。
~王城~
華音達と別れたミストは悩んでいた。政治に関心を持たない父に好き放題している家臣。
友達になった華音の様に突出した魔力も戦闘力も持たない自身の無力さ。
唯一の味方だったライミーネもキドウの画策により国を離れている。
街にはロシェやリシェの様に日々の糧に困る子供達もいる事実。
「私は無力ね。王女と言ってもただの飾りの姫にすぎない......」
ベッドの上で丸まっていた三号が床に降りてテーブルに飛び乗り、イスに座っているミストと視線を合わせる。
「なぜそんなに関係ない奴の事を気にするんだ。
自分さえ良ければ他の者などどうでもいいだろうが。現に他の奴等はそうしている」
「そういう訳にはいきません。
無関係な方々ばかりではありませんし、王族である以上民の生活を考える事は義務です」
ミストの言葉に、三号は道具として働かない失敗作と製作者に断じられて封印された時の事を思い出す。
三号が反発した理由は自分の意思を無視した扱いが不満だったからだ。
「生まれで全て決まるのか?」
「え?」
それは三号から無意識に出た言葉だった。
「自分の意思を持つのは間違いなのか? 道具として生まれた俺は特に。道具は道具として言われるままに使われていればいいのか?」
三号は伏し目がちにそう言う。思い出したくない記憶が頭の中を駆け巡る。
「三号さん!」
ミストの声で三号は現実に引き戻された。ミストは三号の目をしっかりと見据えて、
「生まれが立場を決めるのではありません。
自分が何をしたいのかしっかりとした意思を持つ事が自分の立場を決めるのだと私は思います」
「自分の...... 意思」
「そうです。それに私は三号さんを道具だなんて思っていません。
華音ちゃんと同じ様に、その、お友達だと......」
「友達...... 俺が?」
「ご、ご迷惑じゃなければですけど。だから私の中では三号さんの立場は道具ではなくてお友達なんです」
他人の立場。三号は自分の中に何かが落ちるのを感じた。
華音達と別れた時、三号はその気になればそちらについていく事も可能だっただろう。
だがそうはしなかった。
(こいつはどこか危なっかしい所があるが、それも含めてただの興味の対象だと思っていた。だが違ったのか)
「あの。......三号さん?」
なんのリアクションも起こさない三号に、怒らせてしまったのかと不安になるミスト。
「意思があっても自分の思うようにいかない。......俺と同じだったんだな」
「え?」
「なんでもない。俺様とミストは友達なんだろう?
なら俺様も出来ることを探さなければと思っただけだ」
「あ、あれ? 今私の事を名前で呼んでくれました?」
(俺の事を友達だなんて言った奴は初めてだ。そんな風に対等に見てくれるやつがいたなんてな)
三号は不思議と悪い気はしなかった。
「ミストの聞き間違いだろ。
それより出来ることを探すぞ。飾りを返上したいのならな」
「やっぱりそうですか...... あれ?」
ここに一人と一匹の名(迷)コンビが誕生した...... のかも知れない。
だが一方で機能していない中央の隙を突いて勢力を拡大しようとする野心家がいた。
~人間領北東部にある屋敷~
「お前がこの私に仕えたいという男か」
「お目通りを許可していただいて感謝致します」
「ふん。たかが僻地の一領主に過ぎぬ私に、天下のとり方を教えるなどという大言を吐く愚か者がどんな顔をしているのか見てみたかっただけだ」
尊大な態度の男はその外見から年齢は四十代位。
面会を求めた男の方は二十代後半から三十代前半位に見える。
「閣下には野心はないと?」
「あるはずがなかろう。私はこれでも忠義に厚いつもりなのでな」
「これは失礼いたしました。
閣下は以前より兵士の数を増やし訓練も頻繁に課しておられるようなので、その胸中に何か抱かれているのではと考えておりました」
閣下と呼ばれた男は白々しく言う。
「それはこの国に何かあった場合、率先して守るためだ」
「お見事なお心がけです。
しかし閣下がいざという時に兵を集めたとして千。対する仮想敵の兵力は三千。
三倍の戦力差では厳しい戦いになるでしょうが...... 例え敗れても閣下のその忠義の生きざまは王や民の心に深く刻まれる事は間違いありません」
仰々しいその男に対して領主の側近の男がイラついて叫ぶ。
「貴様! キョウレイ様を侮辱しに来たのか!」
だがキョウレイ自身は冷静だ。叫んだ側近を制し男に訊ねる。
「ショウホと言ったか? なぜ仮想敵の数を三千だと言い切った?」
「これはあくまで例えばの話ですが...... 閣下が野心をお持ちだったにしても、国に忠義を尽くされようとしていたとしても最初にぶつかる相手は変わりません。
そして相手が動員できる兵士が『全部あわせて』三千程だろうと推測しました」
ショウホと呼ばれた男が淀みなく答えた。
キョウレイは一言ほう、と言って目を細めるが視線はショウホから外さない。
ショウホの方は己へ向けられるキョウレイの心情が好奇心から値踏みへと変化した事を感じ取っていた。
(思った通りだ。
この男、忠義だなんだと口にしているが、それを尊重する気などない雰囲気を堂々と出している。むしろ野心の塊だ。
それだけに損得が絡む部分には目端が利くだろう。
得体の知らない者の献策とてそれが自分の戦略に組み込める価値があるとなれば......)
「面白い。では試しにその千対三千の構図を変える事はできると思うか?」
キョウレイは軽い口調でショウホに語りかけるが目は笑っていない。
ショウホの言う仮想敵が何かを知っていてその先を考えているからこそ、その狙いを見抜いたショウホの真意を探ろうとしている。
「できます」
ショウホはこれがキョウレイの望む答えである事を知っていた。
だがその内容については語らない。
キョウレイは『出来るか否か』を問いにしたからだ。
(聞かれていない内容をさも自慢気に話すような人間をキョウレイは信用せず逆に軽く見るだろう。
知っている情報は小出しにし、常にこちらに興味か関心を持たせておかないといきなり用済みと斬られかねん)
キョウレイも考えていた。
(この男...... ただ適当な事を並べ立てている訳ではないようだ。
確たる情報を持って計画を立てている。こやつの言う仮想敵があやつらなのは間違いないだろう。
頭は切れるようだがそんな男がなぜ私のもとを訪れたか。だな)
キョウレイ自身が言ったように彼の立場は辺境の一領主。
軍事行動を起こせば兵士の数も相手を下回る不利な状態。
ショウホの年齢も若いとは言い難いが、キョウレイの年齢もこの世界ではすでに高齢にあたる。
ショウホの目的が仕官であればまずここは選ばない場所なのだ。
「なるほど。頭は回るようだな。
だがなぜこの地へ? 出世を望むなら他に良い土地があったのではないか?」
「ご冗談でしょう閣下。言われる事が事実であれば閣下はなぜそのような野心を抱かれておいでですか?」
「!!」
「閣下には他の領主にはない点に恵まれております。この地に金鉱がある事もそのひとつ」
「ぬ」
「この地の周辺を併呑すれば知られていない鉱脈も見つかるかも知れません。閣下はそれを見越して野心を抱かれている」
ショウホの雰囲気が変わった。思わずキョウレイも気圧される。
「ですが閣下の頼る所はそれによる『財』ではありません。閣下の信条はあくまで『力』。
私が信じるのもそれと同じなのです」
「き、貴様は......」
「力ある者こそがこの世界を自由にして良いのです。
そしてその力を振るう場所も当然必要。キョウレイ様、天下を望んでよろしいのです」
「ふ、ふふ」
キョウレイの気分は高揚していた。このショウホからは力へ対する狂気めいたものすら感じるが、そんな事は気にならなかった。
目的が達成できるかも知れないという感情に陶酔していたからだ。
「利用できるものは何でも利用なさいませ。それがこの私めであっても構いません。
私にも力を振るう場所を是非与えていただきたく」
「お主もまた力への信奉者だったか。よかろう...... 天下のとり方、聞かせてもらおうか」
「お任せください」
北東部の辺境で力を信奉する領主のキョウレイと知恵者ショウホの野望が幕を開けようとしていた。
~その頃の朋広達の道中~
「うおおっ! まさかこんな所でこんな物に出会えるとは!」
「やったねパパ! これはいいものだよ!」
目的地途中で竹林を見つけた朋広は華音と二人で久々の伐採作業に没頭していた。
朋広にとっては軽い寄り道気分なのだが、この圧倒的な作業風景に王都で犯罪者集団相手に暴れていた二人を知っていた他のメンバーすら呆然としている。
「お、お兄ちゃん......」
「あ、あわわ」
「スケールが違いすぎましたね。私達が余裕で怪我すらしない訳です」
だが同行しているサオールには加えて問題が発生していた。
ここまでも地図を作成しながら来ていた訳なので、
「ここは『竹林』って表記すればいいのかな? それとも『竹林があった場所』? いっそ『元・竹林』で?」
すっかり見通しがよくなってしまった場所を見て悩んでいた。
余談ではあるが、朋広達も竹を土中に埋まっている『根』ごとはアイテムボックスに収納できない。
なので根は残る事になり、竹は成長が早くまたすぐに竹林に戻るだろうと表記は竹林になった。
サオールの疑問、解決。
~開拓村~
シロッコが出発した後、村では各自が行動していたが、その村の中を駆け回るひとつの影があった。
ヒラリエである。彼女は息を乱しながら、それでも休まず走り続けた。
「キエル! ルミにゃ! オワタさん! 大変! 大変にゃりよー!」
ヒラリエは村中を駆け回り、この緊急事態を出会う仲間に伝えていく。その都度村には雷が落ちたような騒ぎになった。
彼女はシロッコに宣言したように時間をみつけては幸依を陰からずっと見守っていたのだが、彼女なりのその思いが幸依が洗濯の途中で倒れる現場に居合わせる結果に結び付く。
幸依はすぐに部屋に運ばれシロッコが危惧した通り、疲労が原因によるものとキエル達は判断する。
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
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