80 / 84
79話 ミスト、覚悟を以てその手を汚し オルドゥーク、命を以て敵を欺く(後編)
しおりを挟む
ミークはキョウレイ軍の軍師、ショウホの陣幕へ呼ばれた。
(軍師殿が私を呼ぶなど珍しい。 一体何の話だろうか)
「失礼します。 ミーク、軍師殿のお呼びにより参りました」
ショウホの傍らにはゼムオールが立っている。 だがミークに対してはちらりと見ただけで目線を外してしまった。
「ミーク将軍よく来てくれた。 実は先日の件で話があるのだ」
「先日の件...... オルドゥークの使者の事でしょうか?」
「そうだ。 オルドゥークは使者に家族の面倒をみると約束を交わして機密を託し、さらにはその首が交渉成立を示す手形となるようにまで手配していた」
「はい。 その使者の覚悟に敬意を表したキョウレイ様はオルドゥークの要望をお認めになり、さらにはその使者をも説得して戻らせました」
「ああ。 あの者がオルドゥーク陣営からいなくなる事でオルウェン側に疑問を抱く者が出る可能性を考えられたのであろう。 いわばオルドゥークの狙いの穴を補完した感じだな」
ショウホとミークは出来事の再確認をする。
「なるほど。 では後は待っていれば勝利が転がり込み、オルドゥークは家名を残せるという訳でしょう?」
途端にショウホは顔を曇らせミークのそばへ寄ってきた。
「やはりミーク将軍は気付いていなかったか。 実はそれを教えようとここへ呼んだのだ」
ミークは怪訝な顔をする。
「? 私が何を......?」
「おそらくキョウレイ様はオルドゥークを認めまい。 戦いが終われば奴の命を奪うであろう」
「!! それでは約束は!?」
「考えてもみよ。 我等のオルドゥークへの評価は取り柄のない凡庸な人物だった」
「は、はい」
「それがどうだ。 家名を残す為と言いながらここまでの用意周到さを披露した」
「それは。 ですがそれだけで命を奪う必要が? 恭順するなら味方になる訳ですし」
ショウホはため息と同時に首を振った。
「良いか。 オルドゥークは我等と同じく最初から国に対して翻意はなく賊を討伐するために協力する、という立場を取った事になる」
「そう...... ですね」
「最初から加担していないとなれば確かに家名は残せるかもしれん。 だが、その本質が問題だ」
「本質......」
「オルウェンからオルドゥークへと実権が移るという事はオルドゥークが権力を手にする。 勢力は小さくなるとも自然な流れでその座を奪える訳で、これは我等を利用し簒奪を画策していた可能性が否定できない。
キョウレイ様がオルウェンの盟主就任当時に反対したものの最終的に引き下がったのと同じく、あの男が名乗りをあげても無駄な事を理解していた為時期を待っていたとも推測できるのだ」
ミークは黙って続きを聞く。
「キョウレイ様も時期を待って今回動いただけというなら見逃したかもしれん。 だが、この計画性に加えて自分の為なら甥といえども切り捨てる冷酷さ。 こんな輩に今後背中を預けられるか?」
「!」
「やってきた使者の家族の面倒をみる約束もほぼ脅しに近いのではないか? 確かに老齢かもしれなかったが申し出の圧力は相当だろう」
「さらにその約束も本当に守るかも怪しい......?」
「そういう事だな。 自分の為だけに他人に死を強制する輩などキョウレイ様も側には置くまい。 いっそ利用する決断をしたと踏んでいるのだ」
「確かに...... その方が良いかもしれません」
「これらから判断するとこのオルドゥークもキョウレイ様と似ている部分はあるのかもしれん。 だがキョウレイ様を覇王とするならオルドゥークの性格は梟雄。 実際は似ても似つかぬ」
ミークはなるほどと頷いた。
「しかしなぜ私にキョウレイ様の心の内を教えていただけたのですか?」
「実は...... キョウレイ様にオルドゥークが接触した時、オルドゥークに不審な動きありとその場で奴を斬ってもらいたいのだ」
「!」
「これだけの計画を考える男だ。 そんな簡単に隙を見せる様な事はせぬだろうが、キョウレイ様が後に理由をこじつけて斬ったとしても不信感を抱く者は出てこよう」
「......!! 軍師殿はキョウレイ様が動く前に我等で憂いを除いてしまえとそういう......」
ショウホが頷く。
「部下が独断で行ったとあればキョウレイ様への不信には繋がらぬ。 だがその場合キョウレイ様が部下を罰せぬ訳にはいかぬ。 並の者なら死罪になろう。 だが......」
ショウホはミークの右手を両手で握った。
「!?」
「ミーク将軍はキョウレイ様への忠心厚く、長年仕えキョウレイ様からの信頼もある。 貴公であればキョウレイ様も深く追及はせぬであろう。 どうかこの役目引き受けてもらえないだろうか?」
「お、おやめください。 その様に仰々しく」
ミークは照れた様に空いている左手でショウホの両手を右手から外す。
「軍師殿。 よくその役目を私に与えてくださいました。 キョウレイ様の憂いは必ず取り除いてご覧にいれます!」
「おお! やっていただけるか。 このショウホ、深く感謝いたします」
「キョウレイ様の為ならばこの位平気です」
その後打ち合わせを済ませミークは戻っていった。
「......命令ひとつで済むものを人間は随分と回りくどい事をするものだ」
口を開いたのは一部始終を黙って見ていたゼムオール。
「そう言うな。 自動人形のお前がやっては誰の理解も得られぬ。 それどころか痛くもない腹を探られる者が出るだけだ」
苦笑いしながらショウホはゼムオールを嗜めた。
~オルリア城・オルドゥークの部屋~
密約を結べたオルドゥークは部屋で今後の展開を考えている。
「キョウレイ様はこちらの願いを聞き入れてくれた...... だがそれだけで安泰と考えて良いものだろうか......」
オルドゥークがいるのはオルリア城、オルウェンの勢力圏だ。
「オルウェンからの信用をなくせば私はここで孤立する。 という事はオルウェン達からの信用も維持せねばこの身が危うい」
一番の懸念はキョウレイとの内通がばれる事。
オルウェン達は現在キョウレイに対する有効な策が見出だせていない。
オルウェン達の信用を維持するには。
「すでにキョウレイ様の手の者も一名潜入しているしこれもうまく隠さねばなるまい」
オルドゥークは腕組みして目を閉じ考え、ひとつの答えにたどり着いた。
「自分の策を逆手に取れば良いかもしれん」
~オルリア城・会議~
「敵に内通するですって!? 叔父上正気ですか!?」
カーク、タッカーも焦りの表情を見せたがそれを手で制し続ける。
「もちろん振りだ。 この身の安泰を条件に内部から呼応するとな」
カークが異論を挟む。
「おかしいです。 それは策として辻褄があいませぬが」
オルウェン達に対抗策がないとはいえキョウレイによる城への力攻めを望んではいない。
だがオルドゥークが内応するとなればその力攻めを誘ってしまう可能性があるからだ。
「うむ。 その証拠にこちらの兵糧を横流しすると伝え、実際に送りつけるのだ」
「いや、それでは相手がそのまま兵糧攻めを続けてくるとは限りません。 結果的に力攻めのタイミングを早めるだけかと! 我等はそれを望んでは......」
カークが言い終わらないうちにオルドゥークは言った。
「毒を混ぜる」
「「「!?」」」
オルウェン達が硬直する。
「オルウェンよ。 このまま囲まれ続けても打つ手がないのであろう?」
「は、はい。 恥ずかしながら......」
「無謀に打って出なかっただけましだ。 気にするな」
「オ、オルドゥーク殿は私に何か言いたい事でも?」
タッカーは遠回しに自分の思慮の足りなさを指摘されたと受け取った。
「いや? 私は最終的には守りではなく攻めに転じてキョウレイを倒すべきと考えている。 援軍のあてがない籠城戦は不毛だ」
「おお! そうでありましたか! それで毒で敵の数を減らそうとした訳ですな?」
乗り気になったタッカーに首を振るオルドゥーク。
「そんな毒は最初に気付かれ大した被害などもたらさぬ。 私が言う毒とは微弱な...... 暫く腹痛で動けなくなるような毒の事だ。 動けぬ兵は数には入らず、キョウレイの動きをも邪魔する存在になろう。 そこで突撃をかけキョウレイの首だけを狙うのだ」
「なるほどなるほど! 何もせぬよりは勝算がありそうだ。 このタッカーは賛成いたしますぞ!」
タッカーは突撃派が増えて喜んでいる感じだ。
「し、しかし向こうがその策に引っ掛かってくれるでしょうか?」
慎重なカーク。
「カーク殿。 どうせ元々相容れぬ間柄なら策が成功しようが失敗しようが、とにかく相手を思うように動かした方が有利と思われぬかな?」
「! それは確かに。 城に籠る時間が長いか短いかだけになるよりは試す価値はあるかもしれません」
「繋がりを持っておけば敵の動きもご丁寧に向こうから教えてくれるかもしれぬしな」
「まさに! さらに優位性を保てるという訳ですね」
カークも納得したようだ。
「では叔父上、これからその策の詳細を詰めましょう」
オルウェンも賛同しオルドゥークは計画の全容を打ち明けた。
......彼らを欺く為の表向きの計画を。
そしてオルドゥークが内通の使者に選んだのがキョウレイ側から来た密偵であった。
これによりオルドゥーク側とキョウレイ側とのやり取りを自然に見せ、オルウェン達に不信感を抱かせない布石が出来上がったのである。
その密偵により最初の兵糧が運ばれキョウレイへとその旨が伝えられた。
「うまく手筈を整えたものよ。 兵糧に毒と見立てた異物を混ぜてよこした時の翌日が作戦の決行日だというのだな?」
「は! その際には私が巻き込まれない様こちらの陣営に帰らせるとの事。 城壁にオルドゥーク殿の旗が掲げられればそれを成功の証とし、後に城門を開きキョウレイ様を迎え入れるそうにございます」
「うむ分かった。 戻って成功を期待していると伝えよ。 どの門から使いが出てきてもオルドゥークの手の者は通すように通達しておくともな」
「は!」
密偵はまたオルドゥークの所へキョウレイの言葉を伝えに戻る。
キョウレイも抜け目なくそれらしい『返書』を用意させて持たせていた。
「自らの保身にのみ走らなければ中々の才覚の持ち主かもしれぬものを......」
だがショウホとミークはキョウレイのその言葉を聞き益々オルドゥークへの警戒心を深める。
(......軍師殿が言った通りキョウレイ様はオルドゥークを手にかける気だ。 その前に私が)
ミークは決意を更に固めた。
オルリア城を忠心とした戦場はオルドゥークの画策により動きのない停滞した場へと変化する。
主導権を握っていたのはキョウレイのはずだった。 だがそのキョウレイが静観に回った今、それは確かにオルドゥークへと移っていたのである。
オルドゥークは城の高見台から一人戦場を眺めていた。
「戦場に駒は配置され、残す駒はあとひとつとなった。 最後の駒を置いた時、我が生涯最大の作戦は必ずや実を結ぶであろう」
オルドゥークは空を見る。 そのずっと先には王都がある。
「しばらくすれば敵も味方も士気が落ちる。 最後の駒...... 我が命を置くのはまさにその時。 その時こそ...... この命をあなた様に捧げましょうぞ」
オルドゥークは儚げな...... それでもどこか優しさを感じさせるような表情で笑った。
決着の時は近い。
(軍師殿が私を呼ぶなど珍しい。 一体何の話だろうか)
「失礼します。 ミーク、軍師殿のお呼びにより参りました」
ショウホの傍らにはゼムオールが立っている。 だがミークに対してはちらりと見ただけで目線を外してしまった。
「ミーク将軍よく来てくれた。 実は先日の件で話があるのだ」
「先日の件...... オルドゥークの使者の事でしょうか?」
「そうだ。 オルドゥークは使者に家族の面倒をみると約束を交わして機密を託し、さらにはその首が交渉成立を示す手形となるようにまで手配していた」
「はい。 その使者の覚悟に敬意を表したキョウレイ様はオルドゥークの要望をお認めになり、さらにはその使者をも説得して戻らせました」
「ああ。 あの者がオルドゥーク陣営からいなくなる事でオルウェン側に疑問を抱く者が出る可能性を考えられたのであろう。 いわばオルドゥークの狙いの穴を補完した感じだな」
ショウホとミークは出来事の再確認をする。
「なるほど。 では後は待っていれば勝利が転がり込み、オルドゥークは家名を残せるという訳でしょう?」
途端にショウホは顔を曇らせミークのそばへ寄ってきた。
「やはりミーク将軍は気付いていなかったか。 実はそれを教えようとここへ呼んだのだ」
ミークは怪訝な顔をする。
「? 私が何を......?」
「おそらくキョウレイ様はオルドゥークを認めまい。 戦いが終われば奴の命を奪うであろう」
「!! それでは約束は!?」
「考えてもみよ。 我等のオルドゥークへの評価は取り柄のない凡庸な人物だった」
「は、はい」
「それがどうだ。 家名を残す為と言いながらここまでの用意周到さを披露した」
「それは。 ですがそれだけで命を奪う必要が? 恭順するなら味方になる訳ですし」
ショウホはため息と同時に首を振った。
「良いか。 オルドゥークは我等と同じく最初から国に対して翻意はなく賊を討伐するために協力する、という立場を取った事になる」
「そう...... ですね」
「最初から加担していないとなれば確かに家名は残せるかもしれん。 だが、その本質が問題だ」
「本質......」
「オルウェンからオルドゥークへと実権が移るという事はオルドゥークが権力を手にする。 勢力は小さくなるとも自然な流れでその座を奪える訳で、これは我等を利用し簒奪を画策していた可能性が否定できない。
キョウレイ様がオルウェンの盟主就任当時に反対したものの最終的に引き下がったのと同じく、あの男が名乗りをあげても無駄な事を理解していた為時期を待っていたとも推測できるのだ」
ミークは黙って続きを聞く。
「キョウレイ様も時期を待って今回動いただけというなら見逃したかもしれん。 だが、この計画性に加えて自分の為なら甥といえども切り捨てる冷酷さ。 こんな輩に今後背中を預けられるか?」
「!」
「やってきた使者の家族の面倒をみる約束もほぼ脅しに近いのではないか? 確かに老齢かもしれなかったが申し出の圧力は相当だろう」
「さらにその約束も本当に守るかも怪しい......?」
「そういう事だな。 自分の為だけに他人に死を強制する輩などキョウレイ様も側には置くまい。 いっそ利用する決断をしたと踏んでいるのだ」
「確かに...... その方が良いかもしれません」
「これらから判断するとこのオルドゥークもキョウレイ様と似ている部分はあるのかもしれん。 だがキョウレイ様を覇王とするならオルドゥークの性格は梟雄。 実際は似ても似つかぬ」
ミークはなるほどと頷いた。
「しかしなぜ私にキョウレイ様の心の内を教えていただけたのですか?」
「実は...... キョウレイ様にオルドゥークが接触した時、オルドゥークに不審な動きありとその場で奴を斬ってもらいたいのだ」
「!」
「これだけの計画を考える男だ。 そんな簡単に隙を見せる様な事はせぬだろうが、キョウレイ様が後に理由をこじつけて斬ったとしても不信感を抱く者は出てこよう」
「......!! 軍師殿はキョウレイ様が動く前に我等で憂いを除いてしまえとそういう......」
ショウホが頷く。
「部下が独断で行ったとあればキョウレイ様への不信には繋がらぬ。 だがその場合キョウレイ様が部下を罰せぬ訳にはいかぬ。 並の者なら死罪になろう。 だが......」
ショウホはミークの右手を両手で握った。
「!?」
「ミーク将軍はキョウレイ様への忠心厚く、長年仕えキョウレイ様からの信頼もある。 貴公であればキョウレイ様も深く追及はせぬであろう。 どうかこの役目引き受けてもらえないだろうか?」
「お、おやめください。 その様に仰々しく」
ミークは照れた様に空いている左手でショウホの両手を右手から外す。
「軍師殿。 よくその役目を私に与えてくださいました。 キョウレイ様の憂いは必ず取り除いてご覧にいれます!」
「おお! やっていただけるか。 このショウホ、深く感謝いたします」
「キョウレイ様の為ならばこの位平気です」
その後打ち合わせを済ませミークは戻っていった。
「......命令ひとつで済むものを人間は随分と回りくどい事をするものだ」
口を開いたのは一部始終を黙って見ていたゼムオール。
「そう言うな。 自動人形のお前がやっては誰の理解も得られぬ。 それどころか痛くもない腹を探られる者が出るだけだ」
苦笑いしながらショウホはゼムオールを嗜めた。
~オルリア城・オルドゥークの部屋~
密約を結べたオルドゥークは部屋で今後の展開を考えている。
「キョウレイ様はこちらの願いを聞き入れてくれた...... だがそれだけで安泰と考えて良いものだろうか......」
オルドゥークがいるのはオルリア城、オルウェンの勢力圏だ。
「オルウェンからの信用をなくせば私はここで孤立する。 という事はオルウェン達からの信用も維持せねばこの身が危うい」
一番の懸念はキョウレイとの内通がばれる事。
オルウェン達は現在キョウレイに対する有効な策が見出だせていない。
オルウェン達の信用を維持するには。
「すでにキョウレイ様の手の者も一名潜入しているしこれもうまく隠さねばなるまい」
オルドゥークは腕組みして目を閉じ考え、ひとつの答えにたどり着いた。
「自分の策を逆手に取れば良いかもしれん」
~オルリア城・会議~
「敵に内通するですって!? 叔父上正気ですか!?」
カーク、タッカーも焦りの表情を見せたがそれを手で制し続ける。
「もちろん振りだ。 この身の安泰を条件に内部から呼応するとな」
カークが異論を挟む。
「おかしいです。 それは策として辻褄があいませぬが」
オルウェン達に対抗策がないとはいえキョウレイによる城への力攻めを望んではいない。
だがオルドゥークが内応するとなればその力攻めを誘ってしまう可能性があるからだ。
「うむ。 その証拠にこちらの兵糧を横流しすると伝え、実際に送りつけるのだ」
「いや、それでは相手がそのまま兵糧攻めを続けてくるとは限りません。 結果的に力攻めのタイミングを早めるだけかと! 我等はそれを望んでは......」
カークが言い終わらないうちにオルドゥークは言った。
「毒を混ぜる」
「「「!?」」」
オルウェン達が硬直する。
「オルウェンよ。 このまま囲まれ続けても打つ手がないのであろう?」
「は、はい。 恥ずかしながら......」
「無謀に打って出なかっただけましだ。 気にするな」
「オ、オルドゥーク殿は私に何か言いたい事でも?」
タッカーは遠回しに自分の思慮の足りなさを指摘されたと受け取った。
「いや? 私は最終的には守りではなく攻めに転じてキョウレイを倒すべきと考えている。 援軍のあてがない籠城戦は不毛だ」
「おお! そうでありましたか! それで毒で敵の数を減らそうとした訳ですな?」
乗り気になったタッカーに首を振るオルドゥーク。
「そんな毒は最初に気付かれ大した被害などもたらさぬ。 私が言う毒とは微弱な...... 暫く腹痛で動けなくなるような毒の事だ。 動けぬ兵は数には入らず、キョウレイの動きをも邪魔する存在になろう。 そこで突撃をかけキョウレイの首だけを狙うのだ」
「なるほどなるほど! 何もせぬよりは勝算がありそうだ。 このタッカーは賛成いたしますぞ!」
タッカーは突撃派が増えて喜んでいる感じだ。
「し、しかし向こうがその策に引っ掛かってくれるでしょうか?」
慎重なカーク。
「カーク殿。 どうせ元々相容れぬ間柄なら策が成功しようが失敗しようが、とにかく相手を思うように動かした方が有利と思われぬかな?」
「! それは確かに。 城に籠る時間が長いか短いかだけになるよりは試す価値はあるかもしれません」
「繋がりを持っておけば敵の動きもご丁寧に向こうから教えてくれるかもしれぬしな」
「まさに! さらに優位性を保てるという訳ですね」
カークも納得したようだ。
「では叔父上、これからその策の詳細を詰めましょう」
オルウェンも賛同しオルドゥークは計画の全容を打ち明けた。
......彼らを欺く為の表向きの計画を。
そしてオルドゥークが内通の使者に選んだのがキョウレイ側から来た密偵であった。
これによりオルドゥーク側とキョウレイ側とのやり取りを自然に見せ、オルウェン達に不信感を抱かせない布石が出来上がったのである。
その密偵により最初の兵糧が運ばれキョウレイへとその旨が伝えられた。
「うまく手筈を整えたものよ。 兵糧に毒と見立てた異物を混ぜてよこした時の翌日が作戦の決行日だというのだな?」
「は! その際には私が巻き込まれない様こちらの陣営に帰らせるとの事。 城壁にオルドゥーク殿の旗が掲げられればそれを成功の証とし、後に城門を開きキョウレイ様を迎え入れるそうにございます」
「うむ分かった。 戻って成功を期待していると伝えよ。 どの門から使いが出てきてもオルドゥークの手の者は通すように通達しておくともな」
「は!」
密偵はまたオルドゥークの所へキョウレイの言葉を伝えに戻る。
キョウレイも抜け目なくそれらしい『返書』を用意させて持たせていた。
「自らの保身にのみ走らなければ中々の才覚の持ち主かもしれぬものを......」
だがショウホとミークはキョウレイのその言葉を聞き益々オルドゥークへの警戒心を深める。
(......軍師殿が言った通りキョウレイ様はオルドゥークを手にかける気だ。 その前に私が)
ミークは決意を更に固めた。
オルリア城を忠心とした戦場はオルドゥークの画策により動きのない停滞した場へと変化する。
主導権を握っていたのはキョウレイのはずだった。 だがそのキョウレイが静観に回った今、それは確かにオルドゥークへと移っていたのである。
オルドゥークは城の高見台から一人戦場を眺めていた。
「戦場に駒は配置され、残す駒はあとひとつとなった。 最後の駒を置いた時、我が生涯最大の作戦は必ずや実を結ぶであろう」
オルドゥークは空を見る。 そのずっと先には王都がある。
「しばらくすれば敵も味方も士気が落ちる。 最後の駒...... 我が命を置くのはまさにその時。 その時こそ...... この命をあなた様に捧げましょうぞ」
オルドゥークは儚げな...... それでもどこか優しさを感じさせるような表情で笑った。
決着の時は近い。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる