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78話 ミスト、覚悟を以てその手を汚し オルドゥーク、命を以て敵を欺く(前編)
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ミストは城のバルコニーにいた。
だがその視線はずっと自身の開かれた両手へ注がれたままだ。
「もう私は...... 後へは退けない。 退いてはいけないんだわ」
そして顔をあげ、遠い空のその先へと視線を送り続ける。
ミストの足元にはセイディンが何も言わずに寄り添っていた。
~オルリア城~
オルリア城の士気はオルウェンの叔父、オルドゥークを迎えた事で高まっている。
「叔父上。 来ていただけないかと思っていましたが、こんな時によくぞ来てくれました」
「馬鹿を言うな。 軍の編成に手間取ってしまったが、ここの重要性位は分かっている。 それでなくともお前は我が兄の子。 私にとっても息子同然だ。 駆けつけぬ訳がない」
だが...... と続けてオルドゥークは辺りを見回した。 将はもとよりどの兵士にも疲労の色が隠せていない。
「状況は思っていたより悪かったようだな」
「はい。 すぐに今後の作戦を検討したいと思います。 叔父上も一戦直後で申し訳ありませんが参加していただけますか?」
「もちろんだ。 部屋に装備を置いたらすぐに行く」
「はい。 お待ちしています」
離れていくオルウェン達を見ながらオルドゥークは呟く。
「何とか間に合ったか。 兄上...... 見守っていてくれよ」
一方オルドゥーク参戦の報はキョウレイ陣営にももたらされていた。
「キョウレイ様! 意気込んで参戦しておきながらこの体たらく。 まことに謝罪の言葉がございません!」
「頭をあげられよ。 我等も背後からの奇襲など想定しておりませんでした。 そちらに非はありませぬ。 ここは反抗勢力が一ヵ所に集まった好機ととらえ、是非共に殲滅しようではありませんか」
「お、おお。 なんと懐の深い...... お任せください! この次は必ずオルウェンどもの首を持って参上いたしますぞ」
南門を包囲するため布陣したものの、オルドゥークとオルウェンに挟撃され敗走した領主はその場を後にする。
「......あの者が役に立つとは思えません。 いっそ斬って見せしめにした方が良かったのではないですか?」
と、ミークが言う。
「ミークよ。 お前は余を覇王ではなく暴君にするつもりか?」
「い、いえ。 そんなつもりは毛頭ありません!」
「今まで周囲の者をこちらにつかせる動きをしてきたというのに、このタイミングで領主を斬ったりなどしたら他の領主どもが途端に反発し寝返るだろう。
そうなれば一転、周囲全部が敵になるのは我が方ぞ」
「あ......」
「だがここで不問にすれば次は汚名を返上しようと奮戦するであろう。 どうせ命を落とすなら敵の手にかかってくれた方がこちらとしては都合が良いとは思わぬか?」
キョウレイの考えにミークは恐縮し、
「私が浅はかでした! その様なお考えがあったとは!」
と答えた。
「良い。 それにな」
キョウレイは続ける。
「余もショウホも増援が来るなどとは考えていなかったのは事実。 これは結果的に裏をかかれた訳だ」
「はい。 援軍に来るならもっと早いタイミングで来ていたでしょう。 ここまで来なかったという事は本城の陥落する意味を理解できていないか己の領地にしか拘らないと考えておりました」
「戦いに予想外な事は起こるものよ。 それ故に...... 面白い」
キョウレイは口の端をつりあげた。
「とは言えこちらの痛手は全くない。 多少向こうに兵が増えたとしても焼け石に水だ」
「はい。 むしろその分備蓄の食糧の減りがはやくなったとも考えられましょう」
「うむ。 各陣営には警戒を促しつつしばらく様子を見るようにと通達せよ」
「はっ」
「ミークはオルウェンに合流した者の詳細を調べておけ」
「はっ」
「その者の立場や性格によっては利用する事が出来るかもしれんからな」
ショウホとミークが退室し、キョウレイが一人になる。
「......戦いは打てる手を多く打ち、策を以て用意周到に立ち回った方が勝つ」
そして一旦間を開けた後
「そういう意味では今の余をこえる者はおらぬ」
と、自信に満ちた笑顔を見せた。
その日のうちにミークがキョウレイに命じられた仕事を達成して報告にくる。
「オルウェンの叔父のオルドゥークだと?」
「はっ。 間違いありません」
「そうか。 叔父か」
ショウホが言う。
「血縁者となれば調略は難しいかもしれません。 どんな人物かキョウレイ様はご存知なのですか?」
キョウレイは記憶を辿りながら答える。
「余の中では覇気のなかった男、程度であったな。 オルウェンの父、あやつの兄が死んだ時も跡目に名乗りをあげる訳でもなく若造の後見人に落ち着いておったわ」
それ以降名を聞く事もなく関心を持たなかったとキョウレイは言った。
「では特に取り柄のない凡庸な人物という事ですか」
「さすがに本城がおちれば自分の領地が無くなるも同然、位の理解はできたようだがな」
「そうですね。 親族への情を考えたのかもしれませんが今頃来ても無意味な事には違いありません」
「うむ。 たかが数百の兵を増やしたところで事態の好転はあるまい。 所詮は歴史に埋もれる程度の男よ」
「対して、現在オルドゥークの領地はほぼ空と見ていいでしょうが......」
ショウホの言葉でミークが名乗りをあげる。
「! 私に兵をお預けくださればすぐにでも!」
「構わぬ。 本城がおちればどうとでもなる」
「......はっ」
「......なるほど。 故に堅城のオルリア城で決戦の覚悟を決めたのかもしれんな」
「悪あがきとも見てとれますね」
「確かにな」
オルドゥークの分析からキョウレイ陣営の方針は変わらず様子見に落ち着く事になった。
(......あのお方は私の命を望まれた。 私も覚悟を決めねばならぬ。 そうなる前にやらねば未来はないのだ......)
オルドゥークは目を覚ます。 全身は汗でびっしょりだ。
「あの時の夢か。 あれ以来この夢ばかり見る」
大きく息を吐く。 良い睡眠が取れているという訳ではないようだ。
「誰か!」
「はっ!」
オルドゥークは自分の部下を呼び何事かを言いつけた。
その日の午後。
キョウレイは若干うんざりした気持ちでイスに座っていた。
方針を伝えてから両軍の動きが落ち着いたので、その合間をぬってキョウレイの覚えを良くしようと各地の軍を率いてきた領主達が挨拶攻勢に出ていたからである。
その流れが一段落し、キョウレイはぼやく。
「やれやれだな。 戦の仕方を知っているかどうかも怪しい者までおった。 あれではリーダーの資質が疑われる」
「......戦らしい戦はすでになく、私腹を肥やす者ばかりが増えました。 それだけに我が方の動きは衝撃を与えたのでしょう」
「ふん。 欲望だけは人並み以上か。 まぁ、それ故に扱いも容易くはあるか」
「まことに。 大望のためにはこのような茶番も耐えていただくしかなく......」
「分かっておる。 面白味はないが仕方あるまい」
そこへ新たな伝令がやってくる。
「失礼いたします」
「......噂をすれば、だな。 今度は誰が面会希望と言うのだ?」
キョウレイは自嘲気味に伝令の手間を省いて聞いた。
「はっ! それが...... その者はオルドゥークの使いだと申しておりまして......」
「何? オルドゥークだと?」
思いもよらぬ来客にキョウレイも驚くが、表情を引き締め伝令に告げる。
「......会ってみよう。 すぐにここへ」
「はっ!」
キョウレイはショウホと視線を交わす。
ショウホも無言で頷いた。
「オルウェンの使者ではなくオルドゥークの使者とはな......」
程なくしてその使者がやってくる。
使者は一礼し、片膝をついて口上を述べた。
「お目通りを許可していただき感謝致します!」
「うむ。 で、敵軍の使者が余に何用か?」
キョウレイは威圧的に対応する。
「は! 我が主オルドゥークからキョウレイ様へと宛てた密書を持って参りました」
密書はキョウレイの部下に差し出され、部下からキョウレイへと手渡された。
キョウレイはその場でそれに目を通す。
「......降伏だと?」
キョウレイの目が険しくなる。 ショウホとミークは目を見開いた。
ショウホはその手紙を渡されミークも覗きこむ。
「これは...... 謀反を起こして帰順を望むと書いてあるではありませんか!」
ミークが叫ぶ。
「使者殿。 使者殿はこの内容をご存知であったのか?」
キョウレイは問いかける。
「......は。 我が主より聞かされ、そしてこの場所へと使わされました」
「......オルドゥーク殿は事の重大さを分かっている上でのご決断か?」
主殺しは重罪である。 キョウレイはその風評を避ける為キドウを利用して盟主と領主の立場を逆転し、正規軍対反乱軍の構図を確立させてから行動に及んだ。
「は。 悩まれた末後世へ家名を残すべきである。 と判断されました」
だがオルウェンとオルドゥークは君と臣でありながら甥と叔父でもある。 親族を手にかけて成り上がるなどその後オルドゥークもどうなるかなどわからない。 とても家名など残せる状況ではなくなるだろうとキョウレイは考える。
「我等は中央の命を受けて、国に対し反乱を企てたオルウェン、カーク、タッカーらの討伐を行っておる」
「は。 存じあげております」
「ならばそのオルウェンの叔父であるオルドゥーク殿は当然討伐の対象になるとは思わぬか?」
使者は緊張した面持ちで答えた。
「オルドゥーク様には最初から反抗する気などありませんでした。
しかし、オルウェン達にそれを説いても誰一人賛同するものは出ないでしょう」
オルドゥークの意思はともかく、オルウェン達が降伏しないという意見に反対する者はキョウレイ陣営の中にもいない。
「故にオルウェンに与せず、今オルリア城へ入城したのは、時期をみて行動を起こしオルウェン達の身柄と共にオルリア城をキョウレイ様へ献上するためにございます」
「......なるほど」
「どうかその手柄をもって末席に加えさせていただく事、お許しくださいませ!」
使者の息が荒く、身体はわずかに震えている事にミークは違和感を覚えた。
「使者殿。 正直に言えばこの手紙には謀叛についていつどうやって行うかなどの説明が一切なかったので色々疑ってしまった。 許されよ」
キョウレイは使者を労う。
「主が言うには記載して敵に渡った時の事を用心したためでございます。 臨機応変に動くため日時や方法はお伝えできませんが、行動の始めにキョウレイ様が信頼できる者を報告に来させるとの事」
「? そちらに余が信頼できる者がおりましたかな? そなたがまた来てくれるという事であろうか」
だが使者はそれに首を振った。 震えもおさまる様子がなく結構な汗をかいている。
「それはキョウレイ様がお選びください。 今夜南門の見張りに立つのはオルドゥーク様の兵。 キョウレイ様の選んだ者が手形を持って近づけば城内へと手引きする手筈になっております」
使者は懐から短刀を取り出し、抜いて自らの首筋にあてた。
「そして手形とは私めの首! 陣中を我が血で汚す事許されよ! キョウレイ様の勝利を願っております! ごめん!!」
「な! 待て!」
キョウレイの制止は間に合わなかったが、使者の短刀は首をきらずに空中を回転して地面に落ちる。
「何か嫌な予感がしていましたが、まさか自決する気だったとは」
使者の挙動に違和感を持っていたミークが咄嗟に自分の得物『鞭』で短刀を弾いたためだ。
「お願いします! 死なせてください! 私は死なねばならないのです!!」
使者は地面にふせて慟哭した。
だがその視線はずっと自身の開かれた両手へ注がれたままだ。
「もう私は...... 後へは退けない。 退いてはいけないんだわ」
そして顔をあげ、遠い空のその先へと視線を送り続ける。
ミストの足元にはセイディンが何も言わずに寄り添っていた。
~オルリア城~
オルリア城の士気はオルウェンの叔父、オルドゥークを迎えた事で高まっている。
「叔父上。 来ていただけないかと思っていましたが、こんな時によくぞ来てくれました」
「馬鹿を言うな。 軍の編成に手間取ってしまったが、ここの重要性位は分かっている。 それでなくともお前は我が兄の子。 私にとっても息子同然だ。 駆けつけぬ訳がない」
だが...... と続けてオルドゥークは辺りを見回した。 将はもとよりどの兵士にも疲労の色が隠せていない。
「状況は思っていたより悪かったようだな」
「はい。 すぐに今後の作戦を検討したいと思います。 叔父上も一戦直後で申し訳ありませんが参加していただけますか?」
「もちろんだ。 部屋に装備を置いたらすぐに行く」
「はい。 お待ちしています」
離れていくオルウェン達を見ながらオルドゥークは呟く。
「何とか間に合ったか。 兄上...... 見守っていてくれよ」
一方オルドゥーク参戦の報はキョウレイ陣営にももたらされていた。
「キョウレイ様! 意気込んで参戦しておきながらこの体たらく。 まことに謝罪の言葉がございません!」
「頭をあげられよ。 我等も背後からの奇襲など想定しておりませんでした。 そちらに非はありませぬ。 ここは反抗勢力が一ヵ所に集まった好機ととらえ、是非共に殲滅しようではありませんか」
「お、おお。 なんと懐の深い...... お任せください! この次は必ずオルウェンどもの首を持って参上いたしますぞ」
南門を包囲するため布陣したものの、オルドゥークとオルウェンに挟撃され敗走した領主はその場を後にする。
「......あの者が役に立つとは思えません。 いっそ斬って見せしめにした方が良かったのではないですか?」
と、ミークが言う。
「ミークよ。 お前は余を覇王ではなく暴君にするつもりか?」
「い、いえ。 そんなつもりは毛頭ありません!」
「今まで周囲の者をこちらにつかせる動きをしてきたというのに、このタイミングで領主を斬ったりなどしたら他の領主どもが途端に反発し寝返るだろう。
そうなれば一転、周囲全部が敵になるのは我が方ぞ」
「あ......」
「だがここで不問にすれば次は汚名を返上しようと奮戦するであろう。 どうせ命を落とすなら敵の手にかかってくれた方がこちらとしては都合が良いとは思わぬか?」
キョウレイの考えにミークは恐縮し、
「私が浅はかでした! その様なお考えがあったとは!」
と答えた。
「良い。 それにな」
キョウレイは続ける。
「余もショウホも増援が来るなどとは考えていなかったのは事実。 これは結果的に裏をかかれた訳だ」
「はい。 援軍に来るならもっと早いタイミングで来ていたでしょう。 ここまで来なかったという事は本城の陥落する意味を理解できていないか己の領地にしか拘らないと考えておりました」
「戦いに予想外な事は起こるものよ。 それ故に...... 面白い」
キョウレイは口の端をつりあげた。
「とは言えこちらの痛手は全くない。 多少向こうに兵が増えたとしても焼け石に水だ」
「はい。 むしろその分備蓄の食糧の減りがはやくなったとも考えられましょう」
「うむ。 各陣営には警戒を促しつつしばらく様子を見るようにと通達せよ」
「はっ」
「ミークはオルウェンに合流した者の詳細を調べておけ」
「はっ」
「その者の立場や性格によっては利用する事が出来るかもしれんからな」
ショウホとミークが退室し、キョウレイが一人になる。
「......戦いは打てる手を多く打ち、策を以て用意周到に立ち回った方が勝つ」
そして一旦間を開けた後
「そういう意味では今の余をこえる者はおらぬ」
と、自信に満ちた笑顔を見せた。
その日のうちにミークがキョウレイに命じられた仕事を達成して報告にくる。
「オルウェンの叔父のオルドゥークだと?」
「はっ。 間違いありません」
「そうか。 叔父か」
ショウホが言う。
「血縁者となれば調略は難しいかもしれません。 どんな人物かキョウレイ様はご存知なのですか?」
キョウレイは記憶を辿りながら答える。
「余の中では覇気のなかった男、程度であったな。 オルウェンの父、あやつの兄が死んだ時も跡目に名乗りをあげる訳でもなく若造の後見人に落ち着いておったわ」
それ以降名を聞く事もなく関心を持たなかったとキョウレイは言った。
「では特に取り柄のない凡庸な人物という事ですか」
「さすがに本城がおちれば自分の領地が無くなるも同然、位の理解はできたようだがな」
「そうですね。 親族への情を考えたのかもしれませんが今頃来ても無意味な事には違いありません」
「うむ。 たかが数百の兵を増やしたところで事態の好転はあるまい。 所詮は歴史に埋もれる程度の男よ」
「対して、現在オルドゥークの領地はほぼ空と見ていいでしょうが......」
ショウホの言葉でミークが名乗りをあげる。
「! 私に兵をお預けくださればすぐにでも!」
「構わぬ。 本城がおちればどうとでもなる」
「......はっ」
「......なるほど。 故に堅城のオルリア城で決戦の覚悟を決めたのかもしれんな」
「悪あがきとも見てとれますね」
「確かにな」
オルドゥークの分析からキョウレイ陣営の方針は変わらず様子見に落ち着く事になった。
(......あのお方は私の命を望まれた。 私も覚悟を決めねばならぬ。 そうなる前にやらねば未来はないのだ......)
オルドゥークは目を覚ます。 全身は汗でびっしょりだ。
「あの時の夢か。 あれ以来この夢ばかり見る」
大きく息を吐く。 良い睡眠が取れているという訳ではないようだ。
「誰か!」
「はっ!」
オルドゥークは自分の部下を呼び何事かを言いつけた。
その日の午後。
キョウレイは若干うんざりした気持ちでイスに座っていた。
方針を伝えてから両軍の動きが落ち着いたので、その合間をぬってキョウレイの覚えを良くしようと各地の軍を率いてきた領主達が挨拶攻勢に出ていたからである。
その流れが一段落し、キョウレイはぼやく。
「やれやれだな。 戦の仕方を知っているかどうかも怪しい者までおった。 あれではリーダーの資質が疑われる」
「......戦らしい戦はすでになく、私腹を肥やす者ばかりが増えました。 それだけに我が方の動きは衝撃を与えたのでしょう」
「ふん。 欲望だけは人並み以上か。 まぁ、それ故に扱いも容易くはあるか」
「まことに。 大望のためにはこのような茶番も耐えていただくしかなく......」
「分かっておる。 面白味はないが仕方あるまい」
そこへ新たな伝令がやってくる。
「失礼いたします」
「......噂をすれば、だな。 今度は誰が面会希望と言うのだ?」
キョウレイは自嘲気味に伝令の手間を省いて聞いた。
「はっ! それが...... その者はオルドゥークの使いだと申しておりまして......」
「何? オルドゥークだと?」
思いもよらぬ来客にキョウレイも驚くが、表情を引き締め伝令に告げる。
「......会ってみよう。 すぐにここへ」
「はっ!」
キョウレイはショウホと視線を交わす。
ショウホも無言で頷いた。
「オルウェンの使者ではなくオルドゥークの使者とはな......」
程なくしてその使者がやってくる。
使者は一礼し、片膝をついて口上を述べた。
「お目通りを許可していただき感謝致します!」
「うむ。 で、敵軍の使者が余に何用か?」
キョウレイは威圧的に対応する。
「は! 我が主オルドゥークからキョウレイ様へと宛てた密書を持って参りました」
密書はキョウレイの部下に差し出され、部下からキョウレイへと手渡された。
キョウレイはその場でそれに目を通す。
「......降伏だと?」
キョウレイの目が険しくなる。 ショウホとミークは目を見開いた。
ショウホはその手紙を渡されミークも覗きこむ。
「これは...... 謀反を起こして帰順を望むと書いてあるではありませんか!」
ミークが叫ぶ。
「使者殿。 使者殿はこの内容をご存知であったのか?」
キョウレイは問いかける。
「......は。 我が主より聞かされ、そしてこの場所へと使わされました」
「......オルドゥーク殿は事の重大さを分かっている上でのご決断か?」
主殺しは重罪である。 キョウレイはその風評を避ける為キドウを利用して盟主と領主の立場を逆転し、正規軍対反乱軍の構図を確立させてから行動に及んだ。
「は。 悩まれた末後世へ家名を残すべきである。 と判断されました」
だがオルウェンとオルドゥークは君と臣でありながら甥と叔父でもある。 親族を手にかけて成り上がるなどその後オルドゥークもどうなるかなどわからない。 とても家名など残せる状況ではなくなるだろうとキョウレイは考える。
「我等は中央の命を受けて、国に対し反乱を企てたオルウェン、カーク、タッカーらの討伐を行っておる」
「は。 存じあげております」
「ならばそのオルウェンの叔父であるオルドゥーク殿は当然討伐の対象になるとは思わぬか?」
使者は緊張した面持ちで答えた。
「オルドゥーク様には最初から反抗する気などありませんでした。
しかし、オルウェン達にそれを説いても誰一人賛同するものは出ないでしょう」
オルドゥークの意思はともかく、オルウェン達が降伏しないという意見に反対する者はキョウレイ陣営の中にもいない。
「故にオルウェンに与せず、今オルリア城へ入城したのは、時期をみて行動を起こしオルウェン達の身柄と共にオルリア城をキョウレイ様へ献上するためにございます」
「......なるほど」
「どうかその手柄をもって末席に加えさせていただく事、お許しくださいませ!」
使者の息が荒く、身体はわずかに震えている事にミークは違和感を覚えた。
「使者殿。 正直に言えばこの手紙には謀叛についていつどうやって行うかなどの説明が一切なかったので色々疑ってしまった。 許されよ」
キョウレイは使者を労う。
「主が言うには記載して敵に渡った時の事を用心したためでございます。 臨機応変に動くため日時や方法はお伝えできませんが、行動の始めにキョウレイ様が信頼できる者を報告に来させるとの事」
「? そちらに余が信頼できる者がおりましたかな? そなたがまた来てくれるという事であろうか」
だが使者はそれに首を振った。 震えもおさまる様子がなく結構な汗をかいている。
「それはキョウレイ様がお選びください。 今夜南門の見張りに立つのはオルドゥーク様の兵。 キョウレイ様の選んだ者が手形を持って近づけば城内へと手引きする手筈になっております」
使者は懐から短刀を取り出し、抜いて自らの首筋にあてた。
「そして手形とは私めの首! 陣中を我が血で汚す事許されよ! キョウレイ様の勝利を願っております! ごめん!!」
「な! 待て!」
キョウレイの制止は間に合わなかったが、使者の短刀は首をきらずに空中を回転して地面に落ちる。
「何か嫌な予感がしていましたが、まさか自決する気だったとは」
使者の挙動に違和感を持っていたミークが咄嗟に自分の得物『鞭』で短刀を弾いたためだ。
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