一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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82話 リン、知恵を働かせ ニース、サプライズを企みやらかす

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 ここはリン達のねぐら。 リン達は皆で朝食を摂っていたが、すでに完全に居着いているエイメイが口を開いた。

「......またかい。 いい加減にしてほしいねぇ。 なんだってんだい全く」

 これは別に毎朝同じメニューが出てきてそれに文句を言っている訳ではない。

「先日からでヤンスね」
「こちらをこそこそ監視する行為は美しいとは言えません」
「へぇ。 お前達も気付いてたのかい」
「そりゃあんだけ素人な動きをされてれば気付かない方が変ですぜ」
「ははっ。 随分と言うようになったじゃないか。 お前達も最初はあんなもんだったんだけどね」
「へへへ。 連日姉御達にしごかれた結果でさぁ」

 そう。 先日からこのねぐらを遠巻きに監視する集団が現れたのだ。 にも関わらずリンやエイメイが静観しているのはリッチマンが言ったこの素人さの部分にある。 余りにも杜撰なやり方をしているのでかえって目的を絞るのが難しく、様子を見る事にしていたのだ。

「で、どうするんだいリン。 いつまでも放っておくのかい? あれを」

 エイメイは問う。 静かに食事をしていたリンだったが、

「......そうですね。 なら逆に相手の動向を探ってみましょうか。 ベントとプレゼンターで頼みます」
「なるほど。 二人の経験にもさせるって訳か。 お前達、素人相手にばれるんじゃないよ?」
「この辺りは庭も同然でヤンスから」
「美しくつとめあげてみせましょう」
「しくじったら姉御の仕置きだなぁ?」
「よ、余計な重圧はいらないでヤンスよ兄貴!」


 同じ頃、開拓村の面々も大食堂に集まり朝食を食べ終わっていた。 皆が解散していく中ニースが正和の所へとやってくる。 シルベニアは巨体なため宿屋の裏手で食事をしていたので、ニースもそれに付き合い外での食事が日課になっていた。

《正和、ちょっとこっちへ来てくれない?》

 正和はニースに呼ばれて宿屋の裏手へとやってくる。 アリマも呼ばれてはいないが当然のようについてきていた。

《おはようございます正和様、アリマ様》

 シルベニアと二人が挨拶を交わす。

「それでニース、どうしたんだい?」
《実は母じゃの時みたいに大規模召喚をやってみようと思ってるんだけど》
「え? なんでまた?」
《大量に物資があれば皆助かるでしょ?》
「それはそうだけど......」

 向こうの物資が大量に忽然と姿を消したら大問題になったりしないかな。 
 と、正和は向こうの世界に気を使う。

《皆をびっくりさせたいんだよね》
「おお! それは面白そうじゃ」

 アリマは乗り気だ。 ニースは品物を選んで召喚する事が出来るようになったのかと正和は問う。 しかしその問いにはあっさりと出来ないと返答された。

「つまり何が出てくるかも含めてのサプライズなんだね」

 無料ガチャが十連ガチャになったようなものだろうか。 ......ただ正和には懸念材料もあった。

 実はシルベニア救出以後ニースは地球の物を召喚していない。 ニースは自分に近い気配を感じてそれを召喚しようとし、魔力不足から地球にある別の何かを引っ張ってきていたようなのだ。

 だが今回はそういった標識や篝火のようなものはない。 
 しかしながら、それでも今いる世界より進んだ文明の物資が入手できるかもしれない機会は捨てがたいものがあった。

「楽観的に考えて...... やってみてもいいかもしれないかな?」
「妾はなんだかドキドキしてきたのじゃ」
《大丈夫なのですか?》

 シルベニアが不安そうに聞く。

「まぁ、じいちゃんとアリマさんは神だし、僕の家族もいれば大抵の事は何とかなる気がするしね」
《そうだよ母じゃ!》
《......まぁ確かにこれだけの方々がいて出来ぬ事があるとすれば、この世界にてそれを行えるものはおらぬでしょう》

 シルベニアも見守る事に決めたようだ。
 そして夕食時にサプライズ披露を行う事になった。


 一方リン達の方では謎の集団についての情報が以外な形でもたらされていた。

「ベントが捕まった!?」

 リッチマンが驚きの声をあげる。

「凄腕の奴がいたとでも言うのかい? とてもそんな感じはしてなかったけどね......」

 エイメイも首を傾げた。

「それでベントは無事なのですか?」

 リンが問う。

「はい、それは大丈夫です。 ......それとベントは自分から向こうに接触したのです。 私に姉御達に報告に行くように言ってから」
「自分から? 解せないね。 指示を無視してまで?」
「それが...... 兄貴」
「ん? 俺か? なんだ」
「あいつらの中に私達の村の者がいたんです」
「なんだと!?」

 リッチマンは驚く。

「見ない顔もありましたが、昔見た顔があったのは事実です」
「なるほど。 それで事情を聞けると判断した訳ですね」
「それもありますが......」

 プレゼンターはリンとエイメイの顔を真剣な顔で見る。

「オイラ達が今平穏に暮らせているのは姉御達のおかげでヤンス。 その恩人をオイラ達の村の者が持ち込もうとしているごたごたに巻き込む訳にはいかないでヤンしょ?」

 と、ベントの言葉をそのまま伝えた。
だがエイメイはそれに不満を持ったようだ。

「あのバカが!」
「「ひっ!」」

 リッチマンとプレゼンターが身を縮ませる。

「あいつもお前らもアタシにとっては身内なんだ! そんな遠慮は必要ないんだよ!」

 エイメイははっきり言いきった。

「「あ、姉御......」」

 二人は感激している。

「ア、アタシだけじゃない。 リンだって同じ気持ちさ」

 エイメイは少し赤くした顔をぷいっと横に背けた。

「もしベントに何かあれば私も冷静でいられるか自信がありませんが、こうなればこちらから堂々と迎えに行く事にしましょうか」

 リンは静かな怒りを滲ませながら小屋を出ようとする。 エイメイも続く。

「よし! 行くよお前達!」
「へいっ!」
「分かりました!」

 手荒い歓迎を予想していた面々だが、ベントの説得が功を奏したのか荒事は起きず、むしろ一団の代表と話し合いの場を持つことになった。

「皆が村を捨てて出てきただぁ?」

 一団の代表は語る。 北東で起きた権力者同士の抗争を発端として、勢力を拡大するのに賄賂が有効と学んだ領主がそれを捻出するため近隣の町や村から強引な徴収を行ったと。

 そしてそれは人々の大きな負担となり、払えない者や逃げだそうとした者は容赦なく罰せられた。 

 領主の出世に利用される賄賂の為だけに死人も出る状況に我慢できなくなった者達が、その賄賂となる財宝の輸送中にそれを奪う計画を立てて実行。

 領主側は実行犯が関わっている村を突き止め、見せしめとしてその村を丸ごと焼き払った。 さらに財宝を取り戻すべく兵隊を動かし追跡を行おうとしている。

 その情報を事前に掴んだ一団の代表らは住民を説得し住み慣れた村を捨ててここまで流浪してきたというのだ。 その数は近隣の村の者を合わせて五十人程。

「戦えない者達がよくそんな無茶をやったもんだよ」
「しかし大人しく従っても結局は死を待つだけでした!」
「いや、行動を起こした事は評価するけどね? だからってどこまでも放浪できる訳でもないだろう? もっとちゃんとした計画を立てないと」

 エイメイの言葉に代表の男は黙りこむ。

「それで結局ここを狙って監視していたという訳ですか?」
「あ、いや...... 通過するにもあなた方が山賊や盗賊ならこちらが危険ですので。 住まわせてもらうにしても開拓されている規模が不明でしたから......」

 村を捨てる危険をおかしてまで奪った財宝を山賊や盗賊に命ごと奪われては本末転倒だ。
 警戒されたのはこの場所が隠れて住む事に適した場所だからだろう。 リンにしても追われる立場だったのでそれはよく分かる。

「隠れて住むには事情がある。 という訳ですか。 まぁ、警戒されるのは仕方ありません。 しかしこの地は現状で五十人もの人間を受け入れる事は到底無理です」

 一人二人ならともかくいきなり十倍の人間が増えてはとても自給自足が追い付かない。

「確かにその通りさ。 けどさリン」
「ええ」

 リンにはエイメイが言いたい事が分かった。
この付近にあるのは王国兵が駐屯している砦とエイメイの故郷カソー村。

 この一団は王都に送られる賄賂を強奪しているので王国からは追われる関係だ。
 なので砦側には向かえない。 かといってこんな人数がカソー村に流入すれば間違いなく問題が発生する事は容易に想像できた。

 エイメイはそれは避けたいと考えているのだろう。 助力は出来ずに受け入れ先も紹介できないとなると体よく他に向かわせるしかない。

 あてのない放浪を続けさせる事を告げるのはリンにとっては心が痛む。 だが沈黙の空気を破ったのは全く別の者だった。

「た、大変だ!」

 一団の誰かなのだろう。 息を切らせてやってきた男は自分達の代表に向かってこう告げた。

「領主の兵と思われる一団が近くまできている! このままでは見つかるのも時間の問題だ!」

 それを聞いてエイメイも慌てる。 状況によっては自分達や村まで巻き込まれる可能性があるからだ。

「じょ、冗談じゃないよ! リン、どうするんだい?」

 私欲を貪る者に追われる身となったリンにしてみれば彼らは似たような境遇であり、できれば手助けしたい気持ちはある。 

 しかし現状を優先し滞在させられないからと追い返せば、領主とやらの兵にことごとく捕まってしまうだろう。 それは後味が悪い。

「リッチマン、ベント、プレゼンターの三人は領主兵の進行方向に大型の獣用の罠を設置。 ......いえ、魔物対策と称してそれよりも大型でも構いません。 ですがあくまで捕獲用の物をお願いします。 できますか?」

 その提案でエイメイが狙いを察する。

「脅かして追い払おうって魂胆かい! 面白いかもしれないね。 三人とも、すぐに準備できるんだろうね? いや、やるんだよ!」

 エイメイに重圧をかけられ三人が飛び出していく。

「失敗するかもしれませんが、私達に出来る事はこれくらいです。 あとはあなた方の運次第でしょう」

 一団の代表は深く頭を下げて感謝を述べる。

「とんでもない! あなた様方こそまさに忠義の士。 我らに出来る事は言って下さい!」
「ありがとうございます。 さて、苦し紛れの三文芝居が通用してくれればいいのですが......」

 リン達は領主兵に対抗するため動き始めた。


~開拓村~

「あ...... あ......」
「そんな......」
「な、何をしたんじゃ?」

 ビッグサプライズが発動した村では全員があまりの出来事に硬直し時間までもが停止していた。

「ま、正和? ニースのビッグサプライズって言うのはこれで間違いないのかな? いや、本当に驚きなんだが......」

 朋広が声を絞り出す。

「き、聞いてない。 聞いてないんだけどこんなのは」

 正和も完全に予想の斜め上をいかれた表情だ。 ニースも青ざめて固まっているように見えた。

「お兄ちゃんとニース、これは完全にやらかしたって感じだよねー」
「あらあら。 お料理追加が必要かしら?」
「私は洞口華音です。 お兄ちゃんはどなたですか?」

 剛胆なのか深く考えていないだけなのか華音が質問攻勢にでる。

「え? 僕は佐藤司(さとうつかさ)ですけど...... ここは天国ですか?」

 原因不明ながらニースが召喚したその青年(日本人)は困惑しながらそう答えた。


~追記~
※本日より新作『箱を狩る少女 ~アイテムボックスは人を喰らう~』の公開を開始します。

 こちらの方の応援も是非よろしくお願いいたします。
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