一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

文字の大きさ
84 / 84

83話 朋広、リン達のねぐらを訪ね ミスト、遂に動く

しおりを挟む
 領主の兵を騙す事に成功し一旦撤退させたリン達。次の備えを考えている時にアズマドが客人を連れて訪ねてきた。朋広である。

「これはまた随分と人が増えましたねぇ」
「住居の件で何か相談があると聞きましたが」

 アズマドは以前と違う人の多さに驚く。朋広は周囲の規模から増築の依頼だろうと予想した。

「あなたが。実は増築を依頼したかったのですが……」
「そうでしょうね」

 リンが対応すると朋広はやはりと納得する。

「どんな感じがお望みですか?」

(朋広さんならこれくらいの人数に対してなら余裕なのだろう。焦った様子が見られない)

「兵士が攻めて来ても跳ね返せる位が理想なのですが……」
「え……」
「ええええ!?」

 リンからの想定外すぎる答えにアズマドが驚いてしまった。

「まぁ、無理なのは百も承知してますから巻き込まれないうちに逃げてください」

 朋広は何か事情があるのではないかと尋ね、リンもここで起きた経緯を説明する。

「……という訳なのです。領主の兵士が再び来るまでにここを去っておいた方がいいでしょう」
「分かりました。ここに砦を建設すれば良いのですね」
「「ええええ!?」」

 朋広の返答に今度はリンとアズマドが驚いた。


~開拓村~

《よろしいでしょうか正和様》

 正和はシルベニアから呼び止められ相談を受ける。

「えぇ!? それホント?」
《私もまさかとは思いますが……そのように感じてしまうのです》
「さ、さすがにそれは気のせいじゃないかと思うけど……注意してみておくよ」
《お願いします》

 正和は一人になり首を傾げた。そこへアリマが現れる。

「婿殿、シルベニアは何と?」
「え? 見てたの?」
「妾は空気の読める嫁でありんすから」

 アリマはしなをつくって上目遣いで視線を送った。どうやら邪魔をしなかった事を褒めてほしい様子だ。

「読める嫁……ダジャレだねぇ」
「!? 空気の読めない婿殿じゃ! で、シルベニアは何の相談だったのかや?」

 ぷくっとふくれるアリマに正和は言う。

「気のせいだとは思うんだけどね……」


~境界線(結界)~

 王国の魔道兵団長ライミーネはその光景を前に立ち尽くしていた。

「な……なによアレは……」

 彼女は頭をブンブンと振り否定する。

「いや、それが扉なのは分かるからね?」

 誰に説明する訳でもなく自分の発言に突っ込み、指差し確認を始めた。

「こっちから向こうへの道。あの部分が結界、そしてその下部に扉、と」

  何度見しても景色は変わらない。となれば次の疑問を抱く。

(あれ……やっぱり通れちゃったりするのかしら?)

 しかしそうなると嘘だと思っていた報告が真実味を増す事になってくる。ライミーネは慎重に扉に近付く。

 完全にひらけた場所にある訳ではないが完全に隠される様にある訳でもない。

「ここから侵攻しようというにはもうちょっと他の手が打てるような気がするんだけど……」

 とにかくライミーネはこの得体のしれない扉を調べる事にした。だが心中には不安と共に一抹の希望もあった。それはオーシンがここから亜人領内へ向かい無事に生存している可能性だ。

「……さすがにそれは楽観的すぎるかしらね」


~王国・首都~

 キドウはため息をついた。

「あの王女様にも困ったものだな」

 そのまま息子のキトウを見る。

「まさかお前以上の放蕩ぶりになるとは……」
「ではいっそ消えてもらえばいかがですか父上?」
「バカな事を言うな」

 これは当然忠誠心から出た言葉ではない。王と王女に民の怨嗟を引き受けて貰って簒奪を企んでいるからだ。王は半ば傀儡となり、王女自らが堕落した生活を始めた事によりこれを好機と時には支援までして好きにさせていた。

「しかしよりにもよって次は南の島に専用のリゾート地が欲しいなどと言ってくるとはな」
「それは……。私ですらそのような大それた願いはいたしませぬぞ」

 キドウもさすがにこれは資金、人材面で無理があると諌めたのだがミストは平然と言い放つ。

「足りない資金は私の持つ品々を売りに出す事で賄いましょう。人手? 王都には捕らえた罪人が溢れているではありませんか」

 これの意味する所は人には金をかけず罪人をただでこき使えという事。王女には服だの装飾品だの美術品だの宝石だのを購入する資金を与えて来たが、これらを手放して資金を調達し罪人を労力として建設を行うとミストは言った訳である。

 王女が言ったこの条件、実はキドウに都合の良い部分が含まれていた。なぜ都に罪人が溢れたのか。それは当のキドウらが自らの栄華の為に都合の悪い人間を次々と罪人に仕立てあげて捕らえてきた為だ。状況を詳細に調べあげれば国に忠節を尽くしていた無実の人物もたくさん出てくるだろう。

 だがキドウの権限でこれらを処刑してしまえば世間の批判と恨みの矛先が自分に向くのは確実で、彼等の世話にかかる費用もばかにはならず頭の痛い問題となっていた。

(いわば奴隷としてこき使い過労で死ぬならそれに任せればいい。都からいなくなるのだから維持費も必要なくなるという訳か)

 王女がこの計画を実行に移せばキドウにとって都合の悪い人間は全て島流しに出来る上、扱いによっては手を下さずとも勝手に死んでくれる。関係者の憎悪は王女に向かい簒奪の時に有利になるだろう。王家の人間に消えてもらうのはその時だ。

 ミストが己の希望を叶えたいというわがままだけで自分の懸念をこれだけ払拭してくれるのならばむしろ渡りに船とさえ思えた。


~王都・ショウランの家~

「あら、『キリコ』ちゃんじゃない。また猫を探しにきたのね? ご覧の通り中に居るわよ。入って入ってー」

 ショウランはキリコを迎え入れ慎重に家の扉を閉めた。部屋の中にあるテーブルの上にはセイディンが、囲むイスのひとつにはフードを深めに被るローブ姿の男が座っており、キリコが近付くとイスから離れ姿勢を正そうとするのを彼女が手で制する。そのままキリコとショウランがイスに座りセイディンが口を開く。

「どうだったミスト?」

 キリコに変装しているミストは返事をする。

「ええ。キドウは申し出を了承しましたわ」
「やりましたね! 彼等も喜ぶ事でしょう」

 フードの男が喜ぶ。

「そうですねオルウェン様。まずはショウラン様の計画通りになりました」
「はい。ですがまだ油断はできません」

 ミストの下にはキョウレイに敗れ落ち延びたオルウェン、そして知恵者ショウランが集っていた。さらにこの場にはいないが、カークにタッカー、キョウレイに処刑されかかった危機を機転で脱したオルウェンの叔父、オルドゥークも参加しキドウから権力を奪回する機会を狙っていたのである。

 セイディンはショウランの家に通いつめるうちに彼女が情報に通じているだけではなく、それを活かしきる事が出来る人物だと気付く。

 その話を聞かされたミストは猫を探す振りをして飼い主のキリコとして訪ねるようになり親交を深め、時期を見計らいセイディンと共に素性を明かして味方に引き入れる事に成功した。

 ミストを頼り落ち延びてきた三人には密偵となってもらい、城で動きのとれない彼女にかわり動いてもらっていたのである。そう、ミストはこの計画をキドウに疑われず承認させる為、今までわがままに振る舞い大切に思う住人にまで負担をかけてきたのだ。

「よくお一人でキドウ達と渡り合ってこられましたね。誇らしく思います」

 その言葉にミストは涙が出そうになる。だがそれを気丈に堪えると首を振り、

「セイディンさんや皆様がいてくれたおかげです。それにまだ悲願を達成した訳ではありませんから」

 ミストのその様子をオルウェンはただ美しいと感じた。その思いに応え、役立ちたいとも。

「はい。その為ならば私も命を惜しみません。いかようにもお使いください!」
「ありがとうございます。しかし命は大切にしてくださいね」
「は、はっ!」
「では次の段階について話し合いましょう。状況はまだ予断を許しませぬゆえ」

 ショウランも良い主を見つけたのだろう。その瞳は輝いていた。


~開拓村~

 ニースに思わぬ形で召喚されてしまった日本人青年の佐藤司。召喚された事自体に関しては問題ないと言い、村にも馴染んだ彼であったがひとつだけおかしな事があった。

「アイテム収納!」

 今日も皆の前でシロッコから貰ったアイテムボックスを使用する─。

 皆とは違いアイテムが収納される様子はなかった。

「……あはは。やっぱりダメみたいです。才能ないんですかね、ボク……」
「いや、これには才能など関係ないはずなんじゃが……なぜじゃろう」

 落ち込む司に正和とシルベニアが声をかける。

「な、何か原因はあると思いますからそれが分かれば大丈夫ですよ、きっと」
《そうです。私も貴方も村では新参。まずはこの世界に慣れていけば変化も出るでしょう》
「! う、うん、そうだね。優しいね君は。ありがとう」

 司は赤くなり……蕩けそうな笑顔を見せた。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

ritu
2018.08.11 ritu

忙しくてチェックしてなかった。猫と幼女の組合せ展開に、期待している。同時展開の数が多くなっているが、どうまとめるか楽しみです。暑いのですが体調管理と共に、執筆活動してくださいね。

2018.08.14 シャア・乙ナブル

いつも感想をありがとうございます。 私の体調まで心配していただき恐縮です。 ストーリーは頭の中ではまとまっていますので引き続き楽しんでいただけたらと思います。 感想がいくつもつくようになれば体調より更新速度を優先するかもしれません。笑

解除
ぬこむーん
2018.07.22 ぬこむーん

面白い。今後に期待します。

2018.07.23 シャア・乙ナブル

ぬこむーん様、ありがとうございます。 面白いと思っていただけたのなら報われます。 今後はさらに物語の舞台が拡大、登場人物も増え彼らの関係も複雑化していきますのでご期待ください。

・・私に書ききれるのかという不安はありますが頑張りますので気長なお付き合いをお願いします。

解除
ritu
2018.06.30 ritu

いつの間にか、進んでいる。無理はしないでね。

2018.07.17 シャア・乙ナブル

かなり遅筆にはなっていますが細々と書き続けておりますよ(笑)
しかし今回のファンタジー大賞募集に応募するには更新文字が足りていないためしばらく
書きためておこうか悩んでいます。 また息子さんの復活が先延ばしに・・(汗)

解除

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。