一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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10話 覚醒の兆し

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 パワーアップとアイテムボックスで光明がみえてきた。俺は幸依に冷蔵庫の中の物をアイテムボックスに移すように指示し、正和には爺様と相談しながら、土地の造成作業を。華音には伐採で残った切り株を手頃な薪にしてもらうように頼んだ。

 冷蔵庫の中の食材が使えるとなれば、次に必要になるのは火と水だと思う。カセットコンロがまだあるとはいえそれに頼りきる訳にもいかない。そのための薪である。用意しておいて損はないだろう。

 火に関してはライターもあればマッチもあるので当面は問題ない。水は調達できる地形ができるまでは防災用品として揃えてあった水を使えばしばらく持つだろう。部屋の中での保管なら使用期限も長くなかったが、アイテムボックスで保管すれば無くなるまで使える。

 その他の防災グッズもこの世界では貴重品になるはずだ。アイテムボックスとの組み合わせは非常に相性がいい。俺も家族がいなければ防災用品など揃えていなかったはずだから、自分の意識の変化をほめておきたい。手の空いた時間に中身を確認しておこう。ただ被災したから防災グッズではなく、異世界に引っ越ししたから防災グッズ、というのはなんだかなぁという思いが拭いきれない。異世界への移動=被災なのかと。

 ともあれ、まずは次に自分がどんな行動をとれるか考えると、

・ガスボンベを節約するためにかまどを作る
・伐採で得た樹木を木材に加工できるか試してみる
・ニースの新しい小屋を作る
・衛生に関する設備をなにか考える

 すぐに思い付く案はこんなところか。すぐに思い付くけどすぐに消去できる案はニースの小屋だな。部屋も増えたし、聖獣らしいから室内で飼うのもしばらくはありだ。小屋は優先しなくていいだろう。かまど作りの案は石材メインで作れそうなので材料集め、作成までの時間はそう必要ないと思うけど、すぐに必要かと言われたら微妙な感じがする。

 衛生に関する設備と言えば、風呂とトイレが思い浮かぶ。上下水道がないので優先したいのはやまやまだが、樹木を加工して木材ができたとして、石と組み合わせてこれらが作れるかな? 粘土があれば簡単な日干しレンガなんかも作れるかもしれないが、仮にあったとしても第一号ができるまでには時間がかかるだろう。もし、作れないなら発想そのものを変えなきゃいけない。

 発想を変える。......作れないなら最初からあるものを使う。......浴槽に関しては水が調達できれば使用はできるかもしれないが、トイレがまずい。水があって流せたとしても流した先が問題になる。あー、となると風呂も同じ理由で使用できない。浴槽を力技で外して裏庭で使う。......論外。家の中で水が使えないってここまで不便なんだな。うわ、洗い物もできないって事じゃないか。手作りで配水管だの給水管だのはさすがに現状じゃ無理だ。やはり最初の結論通り、使えない設備を再確認しただけだった。
 
 いかん、悩みが増えた気がする。優先すべきは火の利用設備より水の利用設備、特に衛生関係って事はわかった。困った俺はどうしたものかと視線をさまよわせた。その視線はある一点でとまる。爺様が増築した三階部分。神殿から切り取ってきたかのような外観が無理やりくっつけられていると言った印象だ。

 あ、爺様に全部用意してもらうってのはどうだろう。人間、自分の手に余る事案が発生すると他人に丸投げするんだな。思考放棄とも言えるか、これ。

 異世界への移住っていうのはこんなに苦労するものなのか。だが、もし俺達以外にも異世界に行った人間がいたとしたら、なんだか大した苦労もせずにやりたい放題してる気がするのは何故だろう。

 ......ないものねだりをして他人を嫉妬しても始まらない。俺はとりあえず樹木を木材に加工できるか試してみる事にした。塀の外に樹木を一本用意して鋸で枝を落としていく。スーパーマン状態のおかげで作業そのものはすこぶる楽だ。

 斧の前例があるのでむしろ鋸に気を使う。後で爺様に鋸も強化してもらおう。俺もそういう事ができれば趣味の日曜大工とあわせて色々応用できるんだけどなぁ。

 鋸も用途にあわせていろんな種類があるのだ。通常、鋸といえば木工用をさし、金属用の鋸は金鋸(かなのこ)と呼ばれる。氷の切断には氷鋸を用いるし、またプラスチック用の鋸もある。特殊なものでは外科手術用の鋸もある。さすがに俺が外科手術をする事はないと思うけど、この鋸一本だけでは不都合が生じる事は否めない。耐久性の強化くらいは望みたいのだ。

「鋸さん、鋸さん? ちょっとびっくりするほど切れ味と耐久性を強化しろー」

 言ってみただけだったのだがそれは起きた。起きてしまった。鋸がぼうっと輝きすぐにおさまった。

「え、なんだ今の」

 俺はまさかと思いつつ枝を一本切り落とそうとした。

「まるで包丁で野菜を切るみたいなんですけどー。なにこれこわい」


 ちょっとじゃないほどびっくりした。俺はすでに鋸を辞めたんじゃなかろうかというスーパーウェポンを手に樹木をたちまち丸太状態にした。

「超絶使えるんだが」

 さっきまでの不満はどこへやら、である。この鋸はあっという間にお気に入りの一品へと昇格した。

「けどいくらスーパーウェポンでもこれを角材にするのは大変だな」

 そこへちょうど正和がやってきたので、子供っぽいとは思いながらも、スーパーウェポンの自慢をしたくなった俺は、誕生のいきさつとこれからの作業予定を話して聞かせた。正和も最初は驚いていたが、話の最後あたりで反応がなくなった。

「正和? おい、正和?」
「......あ、ごめん父さん、何?」
「いや、お前の反応がなくなったからどうしたのかと」
「あー......。......うん、あのね父さん」
「うん? なんだ?」
「この木は多分ベイマツって種類。カナダ、アメリカ合衆国本土にかけての、北米大陸太平洋岸に分布してる。特徴は適度な硬さを有していながら、加工性・耐久性に優れ、木目が美しいなどの点で、住宅用建材として優れた資質を備えている事。アメリカ国内ではもとより、日本でも建材用として需要が高く、北米から大量に輸入しており、ホームセンターでも簡単に入手が可能」
「は?」
「さらに言うなら樹木を木材に加工するためには、切り倒した樹木を半年程放置して水分をとばす必要があるよ」
「へ?」

 専門家だ! 目の前に専門家がいる! やだかっこいい。さしずめ......じゅもくクン? 驚く時は、じゅじゅじゅ! とか言うのだろうか。なんだか俺の中で某芸能人? と朝の人気連続ドラマのヒロインを足して二で割ったようなキャラが誕生してしまった。

「な、なるほどそうなのか。えらく詳しいけどそれもゲームから得た知識なのか?」
「違うけどなんとなくわかるというかなんとなくわかったというかなんとなく」

 なんだか自分でもわかってないような返事が返ってきた。

「とにかく説明助かった。じゃあこれは収納しておくか。角材にしたかったけど残念だ」

 俺は言いながら丸太状態のベイマツをアイテムボックスに収納し......固まった。

「父さん? どうしたの父さん?」

 思わずビクッとした俺に正和が言う。
 
「あー、すまない、ちょっとな。ところでちょっと見てもらいたいものがあるんだが......」
「なに?」
「こいつを......どう思う?」

 俺は収納したばかりの丸太......だったはずの、今は『角材』となったそれを正和の前に取り出した。
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