一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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13話 得たものは

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 異世界に来てから三日目。朝、家族で今日の予定を話している時に正和がこれが欲しいんだけどと言いながら学校で使うノートを渡してきた。いや、欲しいものが学校で使うノートじゃない事ぐらいわかりますからね? そりゃノートがあれば色々便利だと思うけど。正和の示すページを見てみるとそこには『普通の』『はんぺん』『ようかん』『せんべい』『さいころ』『しちこぶ』『はんます』と書かれていて、横には何か数字が書いてあった。

「はんぺんに......こんぶか? なんだ正和、おでんでも食べたくなったのか? さいころなら俺が木材で作れるだろうから、おでんは幸依の担当だな。しかしデザートに和菓子を希望とは随分嗜好が渋くなったな」
「おお、儂も食べてみたいですなぁ」

 爺様も同意する。俺は笑いながら幸依にノートを手渡した。

「あらあら、はんぺんなんてあったかしら? おせんべいなら確かあったわよ」
「お兄ちゃんずるいよ! 華音だってハンバーグとかケーキとか食べたい!」

 幸依は自分のアイテムボックスからせんべいを出し、どうせならお茶もいれましょうと用意しようとした。うむうむ、気が利く妻だ。だが、そこに割って入ったのはおでんと和菓子を食べたいと言った正和本人だった。

「うん。そこまでしてもらって本当に悪いんだけど、それ父さんに頼みたい事だから」
「お? なんだ正和、俺の手料理がいいのか? 変な事言う奴だなぁ」
「うん。説明するタイミング逃して本当にごめん。それ『煉瓦(レンガ)』の種類だから」

 ......変な事を言っていたのは俺の方だった! 正和の話の内容は、今の状態での生活だと煉瓦は必ず必要になるから材料になる粘土を探してくるので、煉瓦のサイズを統一する為の木製の枠を俺に用意して欲しいって事だった。あの数字は煉瓦のサイズだったんだな。正和はそれとこれも......と言いながらノートのページをめくった。次のページにはお世辞にも上手いとは言えない、何かのイラストが描いてある。

「えーと......やや丸みがあって、横向きに全体的に入ってる段差みたいなのがあって、サイズは人の上半身くらい? 十メートルの高さから落ちても無傷なのに胸当てとかいらないだろ?」
「うん、絵が下手でほんっっっとうにごめんね! 
丸みないから! それ母さんに必要になると思って描いた洗濯板のつもりだから!」

 ああ!? 正和にダメージが入ってしまった。俺のばか! ......確かに人力で洗濯を行うのはかなり大変なので、洗濯板+スーパーパワーなら大幅な時間短縮と負担の軽減が見込める。俺はなぜ気が付かなかったのだろう。正和は昨日俺の手伝いをしながら現状を観察し、必要な物を考えていたという。やだかっこいい。幸依は息子の気遣いに感激して涙目になっていた。すごいな。わが息子とは言え、とても十五才とは思えない。......いや、本当に十五才の知識か?
 
「よくこんな事知ってるな。まさかネットとか使えたのか?」

 そんな事はないはずだ。携帯電話の充電もすでに切れて持ち運びできるオブジェと化してるし......。そこまで考えて気が付いた。もうこれ常に持ち歩いてなくていいじゃないか! 習慣って恐ろしい。

「うーん。なんというか、なんとなくわかるというかなんとなくわかったというかなんとなく」

 正和は俺の中でじゅもくクンが誕生した時と同じ反応を示す。これは言いたくない訳じゃなくてどう伝えたらいいかわからないのだろう。

「ほう? ......ほうほう」

 突然爺様がホーホー言い出した。

「どうした爺様? 梟の真似なんかして。鼠でも食べたくなった?」
「違うわい。正和君の状態に心当たりがあったんじゃ」
「ほほう?」
「キャハハ! パパも鼠食べる?」
「うふふ」

 華音に揚げ足をとられて幸依に笑われた。仮にこれが「うふふん」だったら「うふふん禁止!」と反撃できたのに。

「まぁ、結論から言うと、正和君も力に覚醒してきておる」
「え! お兄ちゃんも?」
「そうじゃのう。現段階で判断するなら、朋広殿が神の持つ創造の力に近く、幸依さんが魔力で正和君は知恵、知識に近いかの?」
「お、おじいちゃん! 華音、華音は?」

 自分だけ置いていかれたくないのだろう。華音の目に必死さが宿っている。

「華音ちゃんからは破壊……じゃない! 軍神……そう! 軍神の資質を感じるのじゃ。上手く覚醒すれば万能属性じゃよ?」

 爺様いま破壊神って言いかけただろ。全力でごまかしに走っているなあれは。なぜか華音はごまかされているが。
 
「ただ正和君の力は極まれば儂を超える可能性を秘めておる」

 爺様から貰った力なのに、ただの人間が爺様を超える? 爺様の説明によると、例えれば正和は図書館の中にいるようなもので、自分が意識を向けた事柄に関係した本を探しに行き、うまく見つけられれば自分の知らない知識でも得る事が出来るのだそうだ。ただし探しに行くという事は、意識が自分の内部に向いているため、当然その間のこちらからの干渉には鈍くなる。ぼーっとしているように見えたり、話を聞いていないように思えたりしたのはそのためだ。

 爺様を超える可能性については正和が元の世界とこちらの世界、二つの世界に関わった事が関係していた。閲覧できる図書館が二館あるので蔵書量が違うという訳だ。ただ、こちらの世界ではまだ経験も浅いので、これから蔵書が増えていく事になるだろうとの事。だが『所詮』知識とも言えるので取捨選択を間違えたり活用、応用ができなければ無用の長物ともなり得る。

「じゃが興味深いの。皆個人単独というよりも、お互いが支えあった方が効果が出るような力の発現をしておるとは」
「それが俺達家族の絆だよ、爺様」

 俺は適当に言って胸を張ってみた。

「じゃろうの。儂もこれでよいと思う」
「粘土探し協力してね。神様」
「もちろんじゃよ正和君」
「あ、ちなみに白子は淡水魚じゃ無理みたいだよ。海に生息する魚ばかりだった」
「な、なんじゃとう!? 海じゃ! 庭の中に海をつくるのじゃああぁぁ!」

 忙しくも楽しい日々の中、洞口家の生活向上計画が順調に進もうとしていた。だが家族はまだ知らない。遅々としながらも確実にこちらに向かってくるものの存在を。
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