一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

文字の大きさ
19 / 84

18話 邂逅

しおりを挟む
 亜人を追って森から出てきたのは巨大な黒い蟻だった。正和が断言した亜人と思われる人影は三人。蟻から逃げようとしている行動と推測できる。

「僕の知ってるゲームとか物語の知識で考えると、逃げているのは外見からエルフ、ドワーフ、獣人といった亜人種の特徴と一致するよ」
「じゃあお兄ちゃん、あの蟻の方こそ実は亜人の可能性は?」
「......さすがにそれはない」
「だよねー、ごめん」
「いけない! 向こうはこっちに逃げてきてるけど、たぶん結界の位置を知らない。これじゃ逆に追い詰められる!」
「○にゃ! ※□◇#△にゃ!」

 亜人達との距離が近付き、向こうのやりとりが聞こえる。なぜか語尾のにゃっていう部分だけは理解できるが、やはり言語は違うのだろう。さらに森から二匹の蟻が出てくる。

「これは亜人の方々、大ピンチなんじゃないのか?」
「わざと開けた場所に誘いこんでるのじゃなければそうなると思う。せめて結界がある事だけでも伝えよう」

 正和は立ち上がり、結界へ向けてジャンプ体当たりを敢行した。正和にダメージはないが、勢いが相殺するまで空中で停止している様に見える。それはさっきの華音タックルで確認していた。

 普通に見れば異様な光景な訳で、亜人も人間をみて狼狽えたが、正和の行動で結界がある事を理解し、結界を背に蟻と対峙する態勢をとる。結界の向こうの未知なる驚異より目の前の脅威を優先する判断ができるという事は、まだ冷静に対処していると言える。
 
「この後はどうするんじゃ? 正和君」
「父さん、皆に強化した手頃な角材を渡して! じいちゃんは言語の統制と皆を向こう側への移動を。オーシンさんはペンダントを華音に貸してください。説明は後でしますので」

 シロッコの問いに対して、突然の正和の指揮官ぶりに皆驚いたが、緊急事態なのと見捨てる判断を出来ないのは一緒なので指示通り動き始める。正和が震えながらも助けようとしている姿に気付き、皆、何も言わずに従った。オーシンは何もない空間から角材を取り出す朋広の様子を見て驚いていた。

「よし、準備オーケーじゃ」
「華音は父さんと蟻を無視して森の方に進んで、他の亜人の反応が近くにあったらそのままそっちへ! 向こう側のサポートは僕とじいちゃんでやるから。オーシンさんは......」
「戦いは私の領分です。今までの恩、武芸指南役の力量でお返ししますぞ!」

 オーシンは剣を抜き笑顔で言った。
 
「有難うございます。彼等の攻撃、蟻にはあまり効いてない気がします。追い払えればそれで構いませんので」

 亜人側はドワーフと獣人が前衛なのか、二人で一匹の足止めを行いながら戦い、エルフが後からたまに炎の魔法と思われるもので攻撃しているがどれも効果はないようだ。後からの二匹が合流すればたちまち劣勢になるだろう。

「まずいにゃまずいにゃ! さらに二匹来てるにゃよ! あいつらが合流したら結界が壁になって完全に袋のねず......猫人にゃ!」

 蟻の前足による攻撃を避けながら猫耳猫尻尾の少女が叫ぶ。
 
「このまま儂等まで犠牲になればあやつが犠牲になった意味がなくなる! ここは儂が食い止める。お前達はここを何とか突破しろ! ぬぅぅん!」

 小柄だががっしりとした体格のドワーフが気合いと共に身長程もある大斧を振るう! 刃先は蟻の頭に命中し、ガキンと金属音を立てるものの蟻はまるで意に介さない。

「ぐうっ! やはり硬い!」
「物理的な攻撃も、魔法による攻撃も、私達亜人の攻撃がおよそ奴等には通じない。なんで、なんでこんな奴等が!」

 後から援護していたエルフの女が憎々しく叫ぶ。

「一族に伝わる伝承とは言え、私達の崇める神を魔族に討たれ、共に戦った人族には見下され、挙げ句最後は人族の前でこの仕打ち? 冗談じゃないわよ! ......え?」
 
 エルフの女が下を向き顔を上げるまでのほんの一瞬。目の前の場所には見知らぬ一団がいた。

「うわー、本物の蟻だよー」
「やっぱり映画の撮影とかじゃないんだろうなぁ」
「本当に自力で結界を越えられるとか、私の苦労とかアイテムの存在はいったい......」
「まぁ、色々言えない事情があるんじゃよ」
「すみません。見過ごす訳にはいかないので加勢します」

 生きるか死ぬかの状況であるのに、なぜかのんびりした会話が行われているが、エルフの女の耳には確かに『結界を越えて』とか『加勢する』、という言葉が聞こえた。約千年の時を経て......人と亜人は再び邂逅したのである。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処理中です...