上 下
20 / 84

19話 初戦闘 対蟻戦

しおりを挟む
「なんにゃ!?」
「うおっ!?」

 猫人とドワーフの横を疾風の如く何かが駆け抜けた。駆け抜けていった何者かの背中は、亜人二人が対峙している蟻どころか、迫りくる二匹の蟻をも簡単にかわして森の方へと進んで行く。華音と朋広の二人だ。猫人とドワーフが戦っていた蟻も突然現れた乱入者に戸惑ったのか動きをとめる。猫人とドワーフも間合いを取り......後から声をかけられた。
 
「せめて追い払えるまで加勢します」
「にゃ!? 君はさっきの!」
「お前さんどうやってここに!」

 亜人側に少なからず動揺が走った。そこに蟻が突進してくる。間近で見ると軽自動車位の大きさがある。

「わわっ!」
 
 正和は咄嗟(とっさ)に角材を構えて目を瞑った。

「木の棒だと!? 武器ですらないではないか!」
「あいつの突進を正面から受けるのは無理にゃ! 腰も引けてるにゃよ!」

 ドワーフと猫人が突進を避ける為さがりながら叫ぶ。後続の蟻二匹も合流した。正和はさがったドワーフと猫人の近くまで跳ね飛ばされ地面を転がるも、蟻と正和の間にオーシンとシロッコが割って入り、蟻の追撃はなかった。
 
「平気かの? 正和君」
「正和殿、戦闘になったら相手の攻撃に対して決して目を瞑ってはいけません。相手の中心を見て、そのまま全体を見るイメージです」
「お、おい、あれの突進をまともに受けて無事な訳ないだろうが!」
「そうにゃ! 早く回復してあげるにゃ!」
「いえ、平気です、すみません。咄嗟の事で体が硬直してしまいました」
「な!?」
「にゃ!?」

 正和がその場に立ち上がる。言葉通り全くダメージがないのだろう。汚れただけで平然としていた。亜人の二人は信じられないものを見たような顔をしている。

「すみません、自己紹介は後で。今の蟻は僕が相手をしますから、オーシンさんとじいちゃんは左右の蟻を頼めますか?」
「お任せください」
「了解じゃよ」
 
 二人はそれぞれの蟻に向かって歩き出す。

「お、おいあんたら! あれを一人で相手するのは無理だって!」
「まずはさっきのお返し......をっ!」
「にゃ! にゃにゃ!?」

 正和の居た場所の地面が抉れた。その瞬間、離れた場所の蟻が地面に突っ伏す格好になる。

「さっきぶつかられて思ったけど、やっぱりすごい硬さだ」

 正和が呟く。
 
「なんだ!? なにが起きた!」
「も、持ってる棒で叩いただけに見えたけど......速すぎたにゃ!」
「彼等はなんなの......?」

 驚くドワーフと猫人にエルフも合流する。オーシンの方は蟻の攻撃の常に先手を取り......というか、蟻がしようとする行動を事前に潰すかのように動いている。場を完全に支配しているとでも言えばいいのか、蟻がイラついているのが伝わってくる。シロッコに至ってはシロッコが前に歩を進めれば、そのぶん蟻が退がっていく。こちらはもはや戦いではなく勝負にすらなっていない。
 
「な、なんの冗談よこれは......」
「わ、儂等は助かるのか......?」
「奴等を圧倒!? こ、こんにゃ事があるにゃんて」

 早くもこの場の大勢がほぼ決まりつつある中で、亜人から見て正和だけがちぐはぐな戦い方をしていた。蟻を圧倒しているのだから強者である事は間違いないのだろうが、攻撃できるところで攻撃しなかったり、予測できて回避できそうな蟻の攻撃をまともに受けたりと強さと戦闘技術のバランスがかけ離れすぎているのだ。特に防御に関してはそれが顕著だった。

「彼自身は悪夢のように頑丈だけど、あの持ってる棒も随分頑丈だにゃ?」
「実は儂もそこが気になっていた。材質が普通の木なら最初の突進を食らった時か、その後に一撃放った時に折れておる」
「私はあの剣士以外の魔力量が気になって仕方ないんだけど。なんで魔法がろくに使えないはずの人族が、結界を越えてきただけじゃなく、私達を軽く凌駕するような魔力量を保持してる訳?」
「でも彼等がきてくれてアタイ達助かりそうにゃよ? ......でも、もしもっと早くきてくれてたら彼女も助かったかもしれにゃかったにゃん......」
「人族に助けられたと言うのは正直複雑な思いがない訳じゃないけど、それで彼等を責めるのは話が違うと思うわ」

 亜人の三人にも人族が優勢なのを確認して、会話ができる位の余裕がうまれたようだった。さらにシロッコと対峙していた蟻は逃亡を開始し、オーシン相手の蟻もオーシンへの攻撃は全て捌かれ、一方的に攻撃を加えられるだけの展開になっている。

「あの剣士の攻撃も見事だが、蟻を倒すには至っておらん。やはりあの外殻が脅威なのだ」

 だが、その蟻も相手が倒せないと判断したのかじりじりと後退を始めた。

「これで蟻は残り一匹。だが他の二人は何故援護に行かない? 仲が悪いのか? 蟻が出現するまで儂等がそうだったみたいに」

 ドワーフが疑問を口にする。

「それもないとは言い切れないわね。伝承によれば人族は単一種族だったはずだから、そこまで仲違いするものかは疑問だけど。でも彼、服はボロボロになっても体は無傷みたいだから、仲間内で敵の奪い合いはしないとかなんじゃない?」

 エルフも考えを述べる。

「二人とも生産職と支援職だからわからにゃいのも無理にゃいにゃ。アタイは純粋に近接職だからわかるのにゃども」
 
 猫人の少女が胸を張って言う。

「へぇ、是非そのご高説を賜りたいものね」
「うむ、儂等を納得させられる理由があるなら知りたいものだ」
「でも知ったら後悔すると思うにゃよ」
「勿体ぶってないでさっさと教えなさいな」

 猫人の少女は今度は頭の猫耳をぺたーとふせて震えながら言う。感情表現が豊かな少女なのだろう。

「とても信じられにゃいと思うけど、たくさんの同胞の仇のあの蟻を相手にして人族の彼は......」

 少女はいったん言葉をとめる。

「彼はなによ?」
「彼はなんだ?」

 他の二人が答えを急かす。

「戦い方をまにゃんでいる最中だと思うのにゃ」
しおりを挟む

処理中です...