一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

文字の大きさ
21 / 84

20話 顕現するのは軍神か破壊神か

しおりを挟む
 華音と朋広は正和達が対峙した三匹の蟻を無視して森の中に突入していた。華音はオーシンから借りたペンダントを左手に持ち、右手には朋広が強化した角材を持っている。ペンダントはずっと正和達がいる方向を示したままだ。

「華音、正和は何だって?」
「森に入ったら最初に音がして木が倒れた辺りを目指せって言ってたよ」
「あっちには爺様もいるからなんとかなると思うけど、こっちはパパと華音だけで平気かな? あ、華音はパパが護るから心配いらないぞ」
「相手が大きなゴキブリだったら逃げ回ってたかもねー。蟻ならまだ耐えられるから大丈夫」
「そ、そうか。華音は戦うのは怖くないのか?」

 娘に頼られたかった朋広だが、そうならずに少し悲しげに聴く。

「ちょっとはね。でも軍神として華音が皆を護るんだから、いざとなったら戦うよ」

 朋広は割りきって考えている娘の成長に驚くと同時に、娘が破壊神になってしまう不安を抱えながら後を追う。実は朋広は華音の後を追うのに余裕がなくなってきていた。草原はともかく、森に入ってからは直線的に進めるとは限らない。

 華音は数日前には強化された身体能力を制御できずにベイマツに突っ込み、その様子から華音タックルと命名された不名誉な技も持っている。現在の華音は障害物が障害物としての意味をなしていない程、向上した身体能力を使いこなしていた。

「あっ!」

 華音が正和の指定した場所に着いた時ペンダントの反応に変化が起きた。正和のいる場所の亜人に反応していたため後方を示していたペンダントが、円軌道を描きながらも前方と後方を指すときに数秒間停止する状態になったのだ。

「お兄ちゃんの予想通りだ。パパ、急ぐよー。ついてこれなかったら置いていくから」

 華音は更に速度をあげた。すぐに前方に同じ方向に移動している蟻の後ろ姿を捉える。華音はそのまま横を走り抜け、追い抜き様に蟻達の状況を把握した。

「二匹かぁ。前の一匹が亜人さんを運んで移動中と」

 蟻達は突然横を走り抜けた存在に気付き、停止して警戒態勢を

「遅いよー」

 すでに華音は亜人を運んでいた蟻の正面に立ち、亜人を挟んで固定していた大顎を両手で掴んで力任せに開いていた。持っていた角材は右手側の地面に突き立て、ペンダントはすでにズボンのポケットの中である。大顎の拘束から気絶していると思われる、丈の長い服を着たキツネの顔をした亜人を解放すると、そのまま蟻を持ち上げ、サッカーのスローインの要領でもう一匹の蟻に投げつけた。投げつけられた蟻は避ける事が出来ずに二匹まとまって後方の樹木に激突する。
 
「ゴール! 次は......」

 華音は突き立てた角材を引き抜き、もんどり打って倒れている二匹の蟻に追撃をかけた。

「ホームラン!」

 二匹の蟻を、それを受け止めた樹木ごと持っている角材で振り抜いた。蟻達はものすごい勢いで森の中から空に向かって発射され、蟻達を受け止めた樹木も同じく、ものすごい勢いで森の中で縦回転を行い地面に落ちた。

「はい、ゲームセット」

 地面に落下した樹木をアイテムボックスに収納して華音が宣言すると、それに合わせたかのように森の中に静けさが戻ってくる。まぁ、大暴れしたのが華音だけなのだからそうなるのは当然な演出な訳だが、もし観客がいれば魅了された者はいたかもしれない。しかし残念ながら、現場にいたただ一人の観客は魅了されなかったようだ。

「やっぱり破壊神じゃねぇかぁ!」

 かぁ かぁ かぁ
森の中に年頃の娘を持つ父親の複雑な心境がこだました。

「じゃあパパ、亜人さん連れて皆の所に戻ろう。 運ぶのお願いするけど、女の人みたいだから変なトコ触っちゃだめだよ?」

 華音はペンダントで他に亜人の反応がない事を確認して朋広に言う。
 
「する訳ないだろ! そんな事したらママに殺される。 華音はどうするんだ?」
「一足先にこの事をお兄ちゃんに伝えてくるよ。なんでも、もし私達が亜人さんと遭遇できて、助ける事ができたとしたら隠しルートが開放される位重要な事だって言ってたから」
「隠しルート? また変な言い回ししてるなぁ」
「それじゃあ華音はパパに危険になりそうなものがあったら排除しながら戻るねー。なにしろ破壊神みたいですからー」
「う゛。......よ、よろしくお願いします」

 娘に笑顔で嫌味を言われた父親はただ頭を下げる事しかできなかった。そして破壊神華音は戻る途中で正和、シロッコ、オーシンと交戦したものの撤退してきた三匹の蟻と遭遇し、もれなく『強制的に』空の旅に招待した。

 戦闘においては正和と同じく経験がないにも関わらず、傷を負うどころか蟻に攻撃をかすらせる事すらなく、瞬殺に近い形で合計五匹の蟻に勝利した事になる。一匹の蟻相手に無傷とはいえ、服がボロボロになった正和とは対照的で、華音が身体能力に特化して覚醒してきたという事実を裏付けるには十分な材料であった。......果たして、顕現するのは軍神か破壊神か。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...