一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

文字の大きさ
26 / 84

25話 真・亜人移住計画

しおりを挟む
 強大な力を持つ者で構成された家族すら悩ませる問題が存在する。その事実は亜人達やオーシンの興味を引いた。自然とその場に沈黙が訪れる。その問題の内容を一字一句聞き逃すまいとした皆の思いが場に緊張感を生み出したためだ。

 朋広は正和を見る。正和は仕方ないといった感じで無言で頷いた。朋広は覚悟を決めたのか、大きく一度息を吐きながらしがみついている華音の頭に右手を置き、短く

「食料問題です」

 本当に一言だけそう言った。

 は? え? 数秒間の沈黙の後、返ってきた反応はこの二文字のどちらかだった。細かい内訳を述べれば、は? の反応がオーシンとダラン。え? の反応がキエル、ルミナ、ヒラリエだ。

「ええと......それは食料の備蓄がない、という事でよろしいのでしょうか?」

 キエルが確認する。

「そうですね。他にも細かい問題はいくつかあるにはあるんですが、今のままだとこの問題が発生するのが早いかな、と」

 朋広が答える。
 
「......あれだけ強いのに貧乏にゃのかにゃ?」
「わ、私と母がお世話になっておりますが、この世の物とは思えない程美味しい料理の数々を食べ、王ですら使った事もないのではないかと思える高級な道具をお持ちの方々なのです。人族の一般的階層のように貧困に苦しんでいるとはとても思えません」
「そう言われれば確かに水はすごく美味しかったにゃも......食べ物もすごいにゃ?」
「......それはもう」
「儂も思わず震えて泣いたのぅ」
「......ゴクリにゃ」
「そ、そんなに美味しいの?」
「幸依さんという方の腕前がすごくてですね。そうそう、お酒も飲めば今までのお酒が泥水の如く感じます」
「何!? 酒もか!」
 
 オーシンが全身で溜めをつくってまで肯定し、シロッコまで完全同意した事でヒラリエは喉を鳴らし、ルミナとダランも関心を示した。食料の備蓄がないという点を話したはずなのに、一家がどんな食事をしているか解き明かす場になってしまった。

「父さん、華音、ちょっといいかな?」

 正和が家族にだけ聞こえるように声をかけて近寄ってくる。華音も朋広から離れ三人で家族会議だ。

「食事の話が出たついでにって言うのもなんだけど、どうせなら彼等に士気を高めて貰う為、母さんが持たせてくれたお弁当を振る舞うのはどうかな?」
「お兄ちゃんそれいいよ! 賛成!」
「何も出来ずに死地に送り出すよりましだよな......父さんも賛成だ」

 食事をしながら事情を説明するという、正和の提案は歓声を持って迎え入れられた。食料難なのに私達にまで、という声も当然あったが、最後の晩餐になるかもしれない食事は美味しいものが食べてみたい、という欲求と正和達の厚意もあり、食事会が開催される運びとなった。幸依の用意したお弁当は五人分だったが、まさか現地でメンバーがほぼ倍の九人になっているとは幸依も想像していないだろう。用意されたメニューは、おにぎりにサンドイッチ、鶏の唐揚げにサラダ、お茶という定番メニューではあったが、

「さすが母さん。……これ絶対五人分の量じゃないよね」
「ダメになる事はないからたくさん作っちゃったのかなー」
「て、天然がいい方向に働いたって事でひとつ......」

 余裕で全員に行き渡る量があった。それらをテーブルに広げながらサラダと唐揚げにはマヨネーズを使っても美味しいです、など説明を加える。正和はヒラリエは猫人なので猫舌かもしれないと、お茶は熱いので冷たい水の方が良いかと聞いたりして気を使っていた。

「に、肉うみゃー! 肉うみゃー!」
「こ、これは......初めてみる食べ物もありますがとても美味しい......」
「そうでしょう、そうでしょう。私と母がご馳走になった時も驚きと感動の連続でしたよ!」
「このマヨネーズ......サラダにこんなに合うなんて。是非とも作り方を教わりたいわ......」
「唐揚げにもとっても合うにゃ! 肉うみゃー! 水もうみゃー!」
「パンも恐ろしいほど高品質な上に美味い。このおにぎりという食べ物も儂の好みだ。お、中に......焼き魚か!」
「さ、さかにゃもあるにゃ!? アタイも食べるにゃ! し、幸せにゃあ」
「ほっほ。皆幸依さんの料理に魅せられたようじゃな」
「オーシン様が言っておられた意味が今ならわかります。確かにこのレベルの食事ができる方々が貧困とは思えません」

 キエルが納得したように言う。そこで朋広達が現在拠点を構えている場所での生活の問題点などを説明していく。これらを作る為の食材や生活用品が不足している事、用意する為の場所なども造成中であるがまだ手が回っていない事。

 最終的に自分達の生活水準をもっとあげたいのだが、色々始めたばかりであちこち手をつける余裕がない事も説明した。説明途中で食事も終了し、皆朋広の説明を聞いていた。

「は、はにゃしを聞いただけだけど、生活水準があがるというのはとてもステキにゃ未来に思えるにゃん」
「ふーむ。実現させるための道筋は見えているが、時間、人の手、物資が不足なのか」
「そうですね......次はこれをやろうと予定を立てると予定外の別の案件が舞い込んできたり、という感じです」
「す、すみません。私が母を連れて駆け込んでしまったばかりに......」
「あ、いや! オーシンさんを責めている気は全然ないので!」

 うなだれるオーシンに朋広がフォローをいれる。話を聞きながらずっと考え事をしていたキエルは、その様子をみて笑顔を見せた。

「ふ、ふふふ。......やはりこれはアリア様のお導きだったのです」
「キエル......?」
「ルミナ。......私は貴方達にも決断を強いますよ」

 キエルはルミナの返事も聞かずにその場に立ち上がる。目の前のテーブルの上はすでに片付けられていて何もない。

「朋広様、見ていただきたい物がございます」

 キエルはテーブルの上に自分のアイテムボックスの中身を次々に出して並べていく。その中には食材や布地、細工品などがあった。 

「ルミナ、ヒラリエ、ダラン? 何をぼーっとしているのですか。貴方達の持っている品も出すのです。全部ですよ」

 キエルの有無を言わさぬ態度に、指名された者達は困惑しながらも言われた通りにする。テーブルの上にはさらに果実などの食材や、武器や防具なども加わる。

「あ、パパ、お肉も野菜もあるよ」
「布地もあるな。細工品や武器はパパにはよくわからないけど」

 華音と朋広の会話を聞きながら今度は正和が思案を始める。その様子をみながらシロッコが誰にも聞こえないように呟いた。

「ほっほ。彼等は世界復旧の鍵。キエルという亜人は諦めぬ心と本質を見抜く目は持っておったようじゃな。これで亜人の運命、大きく変わるやも知れぬ」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

最強スライムはぺットであって従魔ではない。ご主人様に仇なす奴は万死に値する。

棚から現ナマ
ファンタジー
スーはペットとして飼われているレベル2のスライムだ。この世界のスライムはレベル2までしか存在しない。それなのにスーは偶然にもワイバーンを食べてレベルアップをしてしまう。スーはこの世界で唯一のレベル2を超えた存在となり、スライムではあり得ない能力を身に付けてしまう。体力や攻撃力は勿論、知能も高くなった。だから自我やプライドも出てきたのだが、自分がペットだということを嫌がるどころか誇りとしている。なんならご主人様LOVEが加速してしまった。そんなスーを飼っているティナは、ひょんなことから王立魔法学園に入学することになってしまう。『違いますっ。私は学園に入学するために来たんじゃありません。下働きとして働くために来たんです!』『はぁ? 俺が従魔だってぇ、馬鹿にするなっ! 俺はご主人様に愛されているペットなんだっ。そこいらの野良と一緒にするんじゃねぇ!』最高レベルのテイマーだと勘違いされてしまうティナと、自分の持てる全ての能力をもって、大好きなご主人様のために頑張る最強スライムスーの物語。他サイトにも投稿しています。

処理中です...