闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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未だ幼さを残す美しい青年が一生懸命に給仕をしている。

「眞一さん、アメリカンとカフェオレお願いします。」

「あいよ。」

この青年の名前は春陽はるひ、けど本名ではない。
3ヶ月前に俺が助けて名前を付けた。




「さみぃ~。ジョンお前はいいよなぁ毛皮着てるんだから。」

もう春だと言うのに未だ未だ寒い、今年の開花は当分先か?
どんなに寒くてもどんなに暑くても犬の散歩には行かなきゃならん、犬は可愛いが散歩が面倒で仕方ないが散歩をしなければ多分俺は動かない。なので、これはジョンにとっても俺にとっても大事な散歩。

「ワンワン!!」

「おっ!?どうした?引っ張んな!おいどうしたんだ!?」

ジョンが急に浜辺に向かって走り出した。いつもはのんびり散歩しているのにこんな急に走り出したのは初めてだ。浜辺に着くとそこに少年?いや青年が倒れていた。

「おい!どうした?大丈夫か?」

全身びしょ濡れでうつ伏せになっている彼を抱き起こすと頭から血をながしていた。

「えっ!?大丈夫か?」

目を覚まし俺の服を掴み、

「僕から奪わないで・・・。」

「えっ?」

それだけ言うと気を失ってしまった。
頭から血を流しているって事は頭を強く打っている可能性がある。救急車を呼び、ジョンに家に帰る様に言う。ジョンはとても賢いので一人で帰れるので心配ない、寧ろ今は彼の方か心配だ。

本当は動かさない方がいいのは分かっているが、下半身が未だ海の中にあり体が冷えている。彼を抱えて通りまで出る、近くのバス停は風避けには丁度いい。

彼は春だとはいえ未だ未だ寒いのにも関わらず上着を着ていなかった。着ている服は濡れていたので脱がし、俺のコートを着させ抱き抱えて温めるが、海で冷えた体は冷たい!あっという間に俺の体温が奪われた。俺も死にかけた所に救急車が到着。2人共九死に一生を得た。

処置を受けている間に弟の駿二しゅんじが着替えを持って来てくれた。

「兄さん!ジョンは一人で帰って来るし、急に病院に着替えを持って来いって心配したじゃん。っで何があったの?」

「おーすまんすまん。ジョンが浜辺で男の子を拾ってな、その子が頭から血を流してたから病院に来た訳。彼がずぶ濡れだったもんで俺も濡れたんだよ。」

「その子は?」

「今検査している。俺は着替えて来るよ。」

トイレで着替えるのはいいが、濡れて上手く脱げない・・・。
何とか脱ぎ着替える、下着まで入っているとは出来た弟だ。

駿二の元に戻って暫くすると医師が現れた。
先生の話では頭に怪我をしていたが大した怪我ではなく、手足に擦り傷があったが多分流された時に出来た物で、他に大きな怪我はなく心配はない。ただ、衰弱しているので暫くは目を覚まさないだろうとの事。

それを聞いた駿二は店の準備の為帰ったが俺は心配なので付いている事にした。


ベットで眠る彼を見るとやはり綺麗な青年だ。ただ、やつれているのが心配になるふっくらとしたら更に綺麗になるだろうなっと思いながら小1時間位眺めていると目を覚ました。

「・・・んぅ・・・ここは?」

「お早う。」

「!?」

「悪ぃ。驚かしちまったか?ここは病院だ。海で頭から血を流していて倒れていたから救急車を呼んだ、今看護婦を呼ぶな。」

「・・・すいません。」

直ぐに先生と看護婦さんが来た。

「お目覚めですか?私は医師の岩倉と申します。頭を打っていたみたいですが、何所か痛い所が有ったり気持ち悪かったりしませんか?」

「・・・いえ。大丈夫です。」

「そうですか、それは良かった。身元を示す物を何もお持ちではなかったので、お名前とご家族に連絡しますので連絡先を教えて頂けますか?」

「・・・名前・・・」

「「「・・・・」」」

「ご自分の名前解りませんか?」

「自分の名前・・・。」

自分の名前が解らないのか?まさか!

「‟博賢”」

「ひろたかさん?」

「違う。・・・多分自分のではないと思います。」

「・・・ご自分の名前は解らない?他は何か覚えていますか?」

「・・・他?すいません。解りません。」

「大丈夫ですよ。頭を打っているのでその影響で記憶が失われているかもしれません。暫く入院して詳しく検査しましょう。今日はゆっくり休んでください。」

「・・・はい。」

病室を出た先生を追いかけて話を聞く。

「先生。彼の記憶は戻るんですか?」

「判りません。記憶喪失について未だ原因は解っていないです、ですので治療法が全くないのが現状です。一時的で直ぐに治る場合もあるし、一生思い出せない場合もあります。我々医師には何も出来ないのです。」

「では、検査をして異常がない場合今後彼はどうなるんですか?」

「先程話した通り怪我は大した事はありませんでした、脳を更に詳しく調べ異常がなければ退院になり、警察に話し暫くは保護施設での生活になると思います。」

「そんなぁ・・・。先生!彼をうちで保護する事は可能ですか?」

「可能ですが、彼は見ず知らずの他人ですよね?宜しいのですか?」

「はい。彼を助けたのは俺です。俺が面倒を看ます。」

勢いで決めてしまったが、彼をこのまま放って置くことは出来なかった。
駿二に怒られるだろうなぁ。


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