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第一章
2話 国境基地での出会い
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灰色の要塞――
それが、ユナが初めて見た第七国境守備大隊の基地だった。
瓦礫と泥に囲まれた広場、黒ずんだ鉄門、荒く削られた砦の壁。
温かみなど微塵もない、戦いにのみ存在する場所。
「新入りが来たってさー。」
「また死人が増えるかもな。」
兵士たちのざわめきが耳に入る。
亡命者の出であるユナへの視線は、どこか冷たかった。
だが、彼女は顔を伏せず、黙々と歩き続けた。
訓練場に出た時だった。
空気の緊張を破るように、軽やかな声が飛んできた。
「おーい、そこの金髪ちゃん!」
驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
ふわりと風に揺れる金色の髪。
すっと通った鼻筋に、明るい蒼い瞳。
華やかだが、どこか親しみやすい笑みをたたえている。
「君が新入りの少尉さんでしょ?あたし、リサ・シュトラール!よろしくね!」
まぶしいくらいに屈託のない笑顔。
年齢はユナとそう変わらないだろうか――いや、少し幼く見えるか。
だが、そこには不思議な気品と強さがあった。
「……ユナ・ヴァイスベルク、少尉です。」
ユナは戸惑いながらも答えた。
こんなに無防備に話しかけられたのは、久しぶりだった。
士官学校でも、彼女は周囲から一線を引かれていたからだ。
リサは気にした様子もなく、ひょいと近づいてきた。
「今から訓練場で射撃練習だけど、一緒にどう?うちの小隊のルールなんだ。まずは弾を撃って、汗かいて、んで腹を割る!」
「……了解、です。」
あまりにも自然に誘われて、断る理由がなかった。
それに――
どこか、心が温かくなるのを感じた。
午後。
射撃訓練場に設置された木製ターゲットに向かって、銃撃音が響き渡る。
リサは驚異的な正確さで次々と的を撃ち抜いていた。
軽やかに、しかし迷いなく。
「すごい……」
ユナは思わず感嘆の声を漏らした。
すると、リサはにっと笑って振り返った。
「でしょ?あたしの特技、ちゃんと見ててね!」
冗談めかして言うが、その瞳は真剣だった。
彼女はふざけているのではない。
生き延びるために、必要な技術を磨いてきたのだ。
ユナもまた、銃を構えた。
かつて父に教わった基礎に、士官学校で学んだ技術を重ねる。
引き金を引く。
鋭い音とともに、弾丸がターゲットの中心に刺さった。
「うわっ、すごっ……新入り、やるじゃん!」
リサは目を丸くして叫んだ。
褒められて、思わずユナは小さく微笑んだ。
心の中の硬い氷が、わずかに溶けた気がした。
その夜。
粗末な食堂で、ユナとリサは並んで食事を取っていた。
「基地のご飯、ひどいでしょ?」
リサがパンをかじりながら笑った。
ユナも小さく頷く。
塩気の強い肉と、乾いたパン。
生きるためだけの食事。
「ま、文句言ったらバチ当たるか。生きてるだけマシだもんね。」
「……そう、ですね。」
リサはユナの目をじっと見た。
何かを察しているようだった。
だが、何も聞こうとはしない。
ただ、そっと一言だけ。
「大丈夫だよ、ユナ。あたしたち、強いから。」
胸の奥に、熱いものが込み上げた。
ユナは黙って頷いた。
(私は、一人じゃない……)
ほんのわずかだが、そう思えた。
それが、ユナが初めて見た第七国境守備大隊の基地だった。
瓦礫と泥に囲まれた広場、黒ずんだ鉄門、荒く削られた砦の壁。
温かみなど微塵もない、戦いにのみ存在する場所。
「新入りが来たってさー。」
「また死人が増えるかもな。」
兵士たちのざわめきが耳に入る。
亡命者の出であるユナへの視線は、どこか冷たかった。
だが、彼女は顔を伏せず、黙々と歩き続けた。
訓練場に出た時だった。
空気の緊張を破るように、軽やかな声が飛んできた。
「おーい、そこの金髪ちゃん!」
驚いて振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
ふわりと風に揺れる金色の髪。
すっと通った鼻筋に、明るい蒼い瞳。
華やかだが、どこか親しみやすい笑みをたたえている。
「君が新入りの少尉さんでしょ?あたし、リサ・シュトラール!よろしくね!」
まぶしいくらいに屈託のない笑顔。
年齢はユナとそう変わらないだろうか――いや、少し幼く見えるか。
だが、そこには不思議な気品と強さがあった。
「……ユナ・ヴァイスベルク、少尉です。」
ユナは戸惑いながらも答えた。
こんなに無防備に話しかけられたのは、久しぶりだった。
士官学校でも、彼女は周囲から一線を引かれていたからだ。
リサは気にした様子もなく、ひょいと近づいてきた。
「今から訓練場で射撃練習だけど、一緒にどう?うちの小隊のルールなんだ。まずは弾を撃って、汗かいて、んで腹を割る!」
「……了解、です。」
あまりにも自然に誘われて、断る理由がなかった。
それに――
どこか、心が温かくなるのを感じた。
午後。
射撃訓練場に設置された木製ターゲットに向かって、銃撃音が響き渡る。
リサは驚異的な正確さで次々と的を撃ち抜いていた。
軽やかに、しかし迷いなく。
「すごい……」
ユナは思わず感嘆の声を漏らした。
すると、リサはにっと笑って振り返った。
「でしょ?あたしの特技、ちゃんと見ててね!」
冗談めかして言うが、その瞳は真剣だった。
彼女はふざけているのではない。
生き延びるために、必要な技術を磨いてきたのだ。
ユナもまた、銃を構えた。
かつて父に教わった基礎に、士官学校で学んだ技術を重ねる。
引き金を引く。
鋭い音とともに、弾丸がターゲットの中心に刺さった。
「うわっ、すごっ……新入り、やるじゃん!」
リサは目を丸くして叫んだ。
褒められて、思わずユナは小さく微笑んだ。
心の中の硬い氷が、わずかに溶けた気がした。
その夜。
粗末な食堂で、ユナとリサは並んで食事を取っていた。
「基地のご飯、ひどいでしょ?」
リサがパンをかじりながら笑った。
ユナも小さく頷く。
塩気の強い肉と、乾いたパン。
生きるためだけの食事。
「ま、文句言ったらバチ当たるか。生きてるだけマシだもんね。」
「……そう、ですね。」
リサはユナの目をじっと見た。
何かを察しているようだった。
だが、何も聞こうとはしない。
ただ、そっと一言だけ。
「大丈夫だよ、ユナ。あたしたち、強いから。」
胸の奥に、熱いものが込み上げた。
ユナは黙って頷いた。
(私は、一人じゃない……)
ほんのわずかだが、そう思えた。
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