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B1 巣窟盤 Part1
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彼は人間が嫌いだった。
采漢紳。
彼はモンスターでありながら、その容姿は人間によく似ていた。
希少価値が高いという理由で昔からハンターに狙われた。
その度に力の差を思い知らせてやっていたが、くだらない連中は後を絶たない。
人間にはろくな奴がいない。
そんなろくでもない者たちから姿を隠すため、いつからか彼は鎧を纏うようになった。
他人からは顔を覗き込むことすら難しい、赤い鎧。
その鎧は、並の者なら立つことさえままならないほどの重さだったが、彼の機動力はそんな重量など、ものともしない。
彼が心を許せるのは、一部のモンスター達のみ。
彼らはハンター達を懲らしめる一方で、悪事をはたらくモンスター達を成敗していた。
好き勝手暴れるモンスター達を叩き潰すのは気分が良い。
采漢紳は特に実力が高かった。
単に格闘センスが高いだけではなく、仲間の能力を把握し、的確に配置することができる。
役立たずに思える者にも、何かしら意味を与えることができる彼を尊敬する者は多かった。
本人は望んでいなかったが、リーダー的存在を任されていたのは自然なことだった。
村や町を襲うモンスターを追い払ってくれる。
人間からはありがたく思われることもあった。
だが、人間のためではない。
人間のためにしてやっているのではない。
結果的に人助けになってしまっていることは、彼にとっての不満だった。
敬われる反面、恐れられ、敬遠されることもある。
しかし、彼は気にも留めない。
文句がある奴は、人間だろうとモンスターだろうと、どちらが上なのか思い知らせてやればいい。
もっとも、彼の強さが名とともに知れ渡っていくにつれ、立ち向かってくる者は次第に減少していたのだが。
だからこそ、奴が喧嘩を売ってきたことは、腹立たしく思えた。
**********
その日も仲間のモンスター達は村に出向いていた。
采漢紳を除いて。
人間には心優しい者も多いと何度も聞かされ、誘われることもあったが彼の心は動かない。
平和な時間を過ごしているのだろうと思っていたその時、騒がしく彼らは帰ってきた。
ただ事ではないとすぐに分かった。
「大変だ!
みんなが攫われた!」
「何!?」
彼にそのことを報告したのは、采漢紳と同じく、人に姿形がよく似たモンスター、シンセだった。
采漢紳と同様にハンターに狙われることもあったが、彼とは異なり、人間全員を敵視しているわけではなかった。
「ホントだよ!
もう俺達しかいないんだよ!」
ヨーも慌てている。
彼はまだ幼いモンスター。
小さな羊のような姿で、采漢紳に憧れていた。
彼は人間の言葉を話すことができる。
モンスターは人間の言葉を理解できる者がほとんどだが(人間の言葉を話すことができる者は珍しい)、人間でモンスターの言葉を理解し、話すことができる者は少ない。
仲間が人間とコミュニケーションをとる際は、彼が間に入っていた。
「誰がそんなことを?」
「水硝だ」
「水硝?」
「忘れたのか?」
「お前とは違って、俺はつまらない奴のことは忘れるようにしてるんだよ」
シンセは水硝との戦いを話した。
水硝は、かつて采漢紳が倒した鬼のモンスター。
凶暴なだけでなく、悪知恵がはたらくというので多少警戒したが、大した腕ではなかった。
「そんな奴もいたかもな。
で、そいつに攫われたのか」
「ああ。私達の仲間も村の人も大勢が。
奴は仲間を取り返したければ、自分達のところまで来いと言っている。
一度負けた君への復讐なのだ。
行くぞ!」
「それはいいが…。
ウプシロン、お前は何を乗せているんだ?」
ウプシロンは真っ白なペガサス。
大人しい性格で、話をすることはほとんどない。
正義感が強く、他人を憎むことを知らない、純粋な心の持ち主だった。
彼の背中には人間の子どもが乗っていた。
ウプシロンがここまで運んで来たのだろう。
少年は背中から降りると、采漢紳に頭を下げた。
「俺は針趣 糸詠。
采漢紳、お願い!
俺の弟も連れていかれちゃったんだ。
俺と一緒に戦って!」
「誰が人間なんかと!」
糸詠には彼の言葉が分からなかったが、怒っているのは伝わってきた。
「お前達!
俺が人間を嫌っていることは知っているだろう!」
「それは知っているが…」
「なら、これは何だ!
嫌がらせか何かか?
第一、なぜ俺がこいつとともに戦う必要がある?
戦うなら俺達だけで十分。
人間など、居ても足手まといだ!」
「それが、水硝は戦いにこの子を参加させることを条件にしてきた。
人間嫌いの君を動揺させるためだろう」
「采漢紳が強いことはみんな知ってる!
だから、お願いします!」
糸詠はもう一度頭を下げる。
「くっ…」
采漢紳は少しの間考えていたが、意を決した。
「…一刻も早く、みんなを助けるぞ」
ヨーが糸詠に近寄って励ます。
「"頑張って敵を倒しましょう"だってさ」
「お前、俺が言った通りに伝えろ」
**********
<山林>
「こんなところに通路が…」
指定された場所に向かうと、草木に隠れて地下に繋がる通路が見えた。
5人でそこを下っていく。
やがて、薄暗い部屋に出ると背後で扉が閉まった。
「!?」
「ようこそ!
我がアジト、巣窟盤へ!」
水硝の声がする。
「采漢紳、わざわざ俺に会いに来てくれたのか!
久々の再会、嬉しいぞ!」
「お前など少しも覚えてはいない。
仲間は無事なんだろうな?」
「ああ。今のところはな」
「俺にも言葉が分かる…。
何で?」
糸詠は驚いた。
「凄いだろ?
ここは俺が見つけたダンジョンさ。
ここでは人間もモンスターの言葉を理解できるし、モンスターの力はコントロールされる。
いくら喧嘩が強いお前らでも、力任せに俺を倒すことはできないってわけだ。
お前達にはここのルールに従って、俺とゲームで戦ってもらう」
「ゲームだと?」
「この塔は地下に向かって伸びている。
階はB1~B5までの計5階。
今お前らがいるのがB1。
B5までの全ての階をクリアすればお前らの勝ちだ。
どうだ? 簡単だろ?」
「こんなものがあったとは。
一体何のために…」
「さぁな。
修行用かそれとも罰でも受けさせてたのか。
どれだけ腕のあるモンスターでも、モンスターの力を抑え続ける空間をつくるなんてできねぇ。
多分、催眠系のモンスターの力をダンジョンに染み込ませて作ったんだろうな。
こんだけのものを作るには、相当、労力や時間が必要だったはずだ」
「単純な力では俺達に敵わないとみて、他人が作り上げたものに頼ったか。
その時点で負けを認めてるようなものだろ」
「何とでもいいな!
ここは、それはそれは恐ろしいダンジョン。
力に頼らず、頭でクリアを目指す。
俺様にぴったりの場所だろ?」
「早く始めろ!
お前のくだらない挨拶などどうでもいい!」
「じゃあ、ルールを説明してやる」
采漢紳。
彼はモンスターでありながら、その容姿は人間によく似ていた。
希少価値が高いという理由で昔からハンターに狙われた。
その度に力の差を思い知らせてやっていたが、くだらない連中は後を絶たない。
人間にはろくな奴がいない。
そんなろくでもない者たちから姿を隠すため、いつからか彼は鎧を纏うようになった。
他人からは顔を覗き込むことすら難しい、赤い鎧。
その鎧は、並の者なら立つことさえままならないほどの重さだったが、彼の機動力はそんな重量など、ものともしない。
彼が心を許せるのは、一部のモンスター達のみ。
彼らはハンター達を懲らしめる一方で、悪事をはたらくモンスター達を成敗していた。
好き勝手暴れるモンスター達を叩き潰すのは気分が良い。
采漢紳は特に実力が高かった。
単に格闘センスが高いだけではなく、仲間の能力を把握し、的確に配置することができる。
役立たずに思える者にも、何かしら意味を与えることができる彼を尊敬する者は多かった。
本人は望んでいなかったが、リーダー的存在を任されていたのは自然なことだった。
村や町を襲うモンスターを追い払ってくれる。
人間からはありがたく思われることもあった。
だが、人間のためではない。
人間のためにしてやっているのではない。
結果的に人助けになってしまっていることは、彼にとっての不満だった。
敬われる反面、恐れられ、敬遠されることもある。
しかし、彼は気にも留めない。
文句がある奴は、人間だろうとモンスターだろうと、どちらが上なのか思い知らせてやればいい。
もっとも、彼の強さが名とともに知れ渡っていくにつれ、立ち向かってくる者は次第に減少していたのだが。
だからこそ、奴が喧嘩を売ってきたことは、腹立たしく思えた。
**********
その日も仲間のモンスター達は村に出向いていた。
采漢紳を除いて。
人間には心優しい者も多いと何度も聞かされ、誘われることもあったが彼の心は動かない。
平和な時間を過ごしているのだろうと思っていたその時、騒がしく彼らは帰ってきた。
ただ事ではないとすぐに分かった。
「大変だ!
みんなが攫われた!」
「何!?」
彼にそのことを報告したのは、采漢紳と同じく、人に姿形がよく似たモンスター、シンセだった。
采漢紳と同様にハンターに狙われることもあったが、彼とは異なり、人間全員を敵視しているわけではなかった。
「ホントだよ!
もう俺達しかいないんだよ!」
ヨーも慌てている。
彼はまだ幼いモンスター。
小さな羊のような姿で、采漢紳に憧れていた。
彼は人間の言葉を話すことができる。
モンスターは人間の言葉を理解できる者がほとんどだが(人間の言葉を話すことができる者は珍しい)、人間でモンスターの言葉を理解し、話すことができる者は少ない。
仲間が人間とコミュニケーションをとる際は、彼が間に入っていた。
「誰がそんなことを?」
「水硝だ」
「水硝?」
「忘れたのか?」
「お前とは違って、俺はつまらない奴のことは忘れるようにしてるんだよ」
シンセは水硝との戦いを話した。
水硝は、かつて采漢紳が倒した鬼のモンスター。
凶暴なだけでなく、悪知恵がはたらくというので多少警戒したが、大した腕ではなかった。
「そんな奴もいたかもな。
で、そいつに攫われたのか」
「ああ。私達の仲間も村の人も大勢が。
奴は仲間を取り返したければ、自分達のところまで来いと言っている。
一度負けた君への復讐なのだ。
行くぞ!」
「それはいいが…。
ウプシロン、お前は何を乗せているんだ?」
ウプシロンは真っ白なペガサス。
大人しい性格で、話をすることはほとんどない。
正義感が強く、他人を憎むことを知らない、純粋な心の持ち主だった。
彼の背中には人間の子どもが乗っていた。
ウプシロンがここまで運んで来たのだろう。
少年は背中から降りると、采漢紳に頭を下げた。
「俺は針趣 糸詠。
采漢紳、お願い!
俺の弟も連れていかれちゃったんだ。
俺と一緒に戦って!」
「誰が人間なんかと!」
糸詠には彼の言葉が分からなかったが、怒っているのは伝わってきた。
「お前達!
俺が人間を嫌っていることは知っているだろう!」
「それは知っているが…」
「なら、これは何だ!
嫌がらせか何かか?
第一、なぜ俺がこいつとともに戦う必要がある?
戦うなら俺達だけで十分。
人間など、居ても足手まといだ!」
「それが、水硝は戦いにこの子を参加させることを条件にしてきた。
人間嫌いの君を動揺させるためだろう」
「采漢紳が強いことはみんな知ってる!
だから、お願いします!」
糸詠はもう一度頭を下げる。
「くっ…」
采漢紳は少しの間考えていたが、意を決した。
「…一刻も早く、みんなを助けるぞ」
ヨーが糸詠に近寄って励ます。
「"頑張って敵を倒しましょう"だってさ」
「お前、俺が言った通りに伝えろ」
**********
<山林>
「こんなところに通路が…」
指定された場所に向かうと、草木に隠れて地下に繋がる通路が見えた。
5人でそこを下っていく。
やがて、薄暗い部屋に出ると背後で扉が閉まった。
「!?」
「ようこそ!
我がアジト、巣窟盤へ!」
水硝の声がする。
「采漢紳、わざわざ俺に会いに来てくれたのか!
久々の再会、嬉しいぞ!」
「お前など少しも覚えてはいない。
仲間は無事なんだろうな?」
「ああ。今のところはな」
「俺にも言葉が分かる…。
何で?」
糸詠は驚いた。
「凄いだろ?
ここは俺が見つけたダンジョンさ。
ここでは人間もモンスターの言葉を理解できるし、モンスターの力はコントロールされる。
いくら喧嘩が強いお前らでも、力任せに俺を倒すことはできないってわけだ。
お前達にはここのルールに従って、俺とゲームで戦ってもらう」
「ゲームだと?」
「この塔は地下に向かって伸びている。
階はB1~B5までの計5階。
今お前らがいるのがB1。
B5までの全ての階をクリアすればお前らの勝ちだ。
どうだ? 簡単だろ?」
「こんなものがあったとは。
一体何のために…」
「さぁな。
修行用かそれとも罰でも受けさせてたのか。
どれだけ腕のあるモンスターでも、モンスターの力を抑え続ける空間をつくるなんてできねぇ。
多分、催眠系のモンスターの力をダンジョンに染み込ませて作ったんだろうな。
こんだけのものを作るには、相当、労力や時間が必要だったはずだ」
「単純な力では俺達に敵わないとみて、他人が作り上げたものに頼ったか。
その時点で負けを認めてるようなものだろ」
「何とでもいいな!
ここは、それはそれは恐ろしいダンジョン。
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